久しぶりの投稿になってしまいました。
現在、青森県弘前市は人口比あたりの新型コロナウイルス感染症患者が日本イチの地域になっており、だいぶ厳しい状況が続いています。いつかはまた元に戻れると信じてやるしかないっす。
さて、中等症~重症頭部外傷に対するトラネキサム酸(TXA)の効果を検証した研究がありましたので紹介します。
Rowell SE et al. Effect of Out-of-Hospital Tranexamic Acid vs Placebo on 6-Month Functional Neurologic Outcomes in Patients With Moderate or Severe Traumatic Brain Injury.
JAMA. 2020 Sep 8;324(10):961-974.
背景知識の整理(CRASH-2~CRASH-3)
外傷による出血性ショックに対するTXA投与が有効であることはCRASH-2にて示されました。特に、受傷3時間以内であればその効果が大きい可能性があります。
ただし、頭蓋内出血がある場合にはTXAの効果はわかっていませんでした。
そこで、CRASH-3が登場しました。
大まかに結論だけ記載すると以下のように結論付けられました。
・受傷から治療まで3時間以内…NNT 77
・mild-moderate(GCS9-15)…NNT 59
・両側対光反射あり…NNT 58
・GCS3かつ両側対光反射消失以外…NNT 67
※secondary outcomeではあることに注意
CRASH-3の詳細は以下をご参照ください!
appleqq.hatenablog.com
比較的軽症な頭部外傷に対してはTXAの効果がありそうです。
なお、消化管出血に対するTXAの効果は以下に詳述しています。
appleqq.hatenablog.com
その他、脳出血/鼻出血/産後出血などへのTXAについては以下にまとめています。
appleqq.hatenablog.com
さてさて、中等症~重症頭部外傷に対してTXAは有効なのでしょうか?
それともあまり効果がない薬剤となってしまうのでしょうか…。
研究の概要
「中等症~重症頭部外傷に対するTXAの早期投与は6か月後の予後を改善させるか?」
を検討しました。
・
アメリカとカナダにおける
多施設共同院外二重盲検化ランダム化試験
・対象となった患者は以下のようになります。
◦inclusion…15歳以上、中等症~重症(GCS3-12)の鈍的/穿通性頭部外傷、最低でも片側性の対光反射あり、SBP≧90mmHg、受傷から2時間以内
◦exclusion…対光反射なし、受傷から2時間以上経過(受傷時間不明も含む)、SBP<90mmHg、CPRされた、TBS>20%の熱傷、囚人、妊婦
・当初、以下の2群の介入群が存在しました
◦Bolus Maintenance群…院外TXA 1g bolus→院内TXA 1g 8hr持続投与
◦
Bolus Only群…院外TXA 2g bolus→院内
placebo 8hr持続投与
→当初、これらの群と
placebo群でそれぞれ比較される予定であったようですが、TXAの効果の検出力を大きくするためにTXA群として統合されています。
※TXA2g bolus投与はしたことがないですが、院外や軍隊での使用時に利便性が高いと考えられているようです。へぇ~。
・最終的に966人が対象となりました
※約10%がランダム化後に除外されています
◦平均GCS 8
◦受傷から薬剤投与まで平均40-43分
◦緊急での非盲検化は3%で発症し、そのうち53%がTXA投与を受けた
◦bolus投与は93-95%で行われたが、持続投与が行われたのは69-77%しかなかった
◦全死亡率16%(そのうち87%が頭部外傷による)
◦6か月間フォローアップできたのは819人(84.8%)
・primary outcome…6か月後の良好な神経学的予後
◦
TXA群 vs placebo群= 65% vs 62%(absolute difference -3.5%, P=0.16)
※神経学的予後にはGlasgow Outcome Scale Extended>4を使用しています。
中等症~重症頭部外傷に対するTXA投与は6か月後の神経学的予後を有意に改善させることはできませんでした。
・28日死亡率、Disability Rating Scale score、頭蓋内出血の増悪に関しては有意差はありませんでした。
・けいれんや
血栓イベントに関しても有意差はありませんでした。
この研究の特徴はなんといっても、
「受傷から治療までの時間が非常にはやいこと」
だと思います。
平均40分程度でTXA投与がされていますが、ER settingではこうはいかないと思います。
しかしながら、Limitaionが多すぎます。
・TXA投与のプロトコルが2種類ある(統合された)
・TXAのbolus投与は93-95%で行われたが、持続投与が行われたのは69-77%しかなく、プロトコルが遵守されていない
・フォローアップできなかった人数が多く、各群でばらばら
・初診時のCTで頭蓋内出血を認めた患者は58%に過ぎなかった
(TXAの効果が薄まった可能性がある)
これから頭部外傷に対してTXA投与をどうすればよいでしょうか?
今回の研究では有意な差は出なかったとは言え、3.5%も予後を改善しています。
そして、TXA投与による合併症はほとんどありませんでした。
であれば、やはり頭部外傷に対してはまだTXA投与をする姿勢で良いのではないかと思います。保存治療でこれだけの介入ができれば万歳なのではないでしょうか。
CRASH-3の結果と照合させると以下のようになりそうです。
あくまでGCSだけで考えれば、
・GCS 3-9 … 効果なし
・GCS 9-12 … 効果ありの可能性
・GCS 13-15 …効果なし
ただ、今回の研究は上記の通りLimitationが多く重大なので、これからの研究を待って判断したいと思います。
現時点では、外傷性頭蓋内出血に対してはTXA投与を継続していくつもりです。