2017年頃から話題になっていた、
敗血症へのVitamin C投与について
議論が終焉を迎えそうなので記事にしました。
結論としてはさらばビタミンCなんですが、
個人的には奥の手として少し期待はしていた部分がありました。
そもそもなんでビタミンCが出てくるのか?
敗血症患者に対するビタミン投与はよく研究されてきていた分野でした。
大雑把にまとめると、ビタミンCには以下のような効能があるとされます。
・抗酸化作用
・glycocalyxの保持
・カテコラミン合成
・T細胞の機能活性化
なんだか敗血症には効果がありそうですね!
(BMJ Case Rep. 2014 May 23;2014.)
体内でノルアドレナリンを合成するのに、補酵素のような役割を果たしているのがビタミンCであり、生理学的には有効性がありそうに感じていました。
ちょっと脇道に逸れますが、
今回の話題にビタミンB1とステロイドも出てくるので簡単に補足します。
ビタミンB1(チアミン)も敗血症診療で顔を出すことがあります。
敗血症においては20-70%の患者でビタミンB1減少があるという報告があります。
足りなくなっているなら補えばいいのかも…。
こちらは以下のような特徴があります。
・BCAAの代謝
・ATP合成促進
・その他のエネルギー代謝に関与
続いて、よく使われるhydrocortisoneについても、
敗血症患者の30-50%で不足しているというデータもあり、
補充するのが一般的な流れになってきていました。
では、上記3つを一緒に投与したらoutcome良くなるんじゃないの?
と考えて報告をしたのがMarik先生です。
Marik cocktailの登場
2017年にMarik先生が発表した論文です。
(Chest. 2017 Jun;151(6):1229-1238.)
・retrospective study、97人
・敗血症/敗血症性ショック+PCT>2ng/mlの患者群に対するMarik cocktail投与
・Marik cocktailは以下の通り
◦Vitamin C 1.5g 6時間ごと 4日間またはICU退院まで
◦Hydrocortisone 50mg 6時間ごと 7日間またはICU退院まで、3日間かけて漸減
◦Vitamin B1 200mg 12時間ごと 4日間またはICU退院まで
・Marik cocktail群で良好な転帰
・死亡率:40.4% vs 8.5%(NNT3)
単施設の後ろ向き試験で、対象となった患者数も限定的ですが、
なんだかものすごい魅力的なデータです。
Marik cocktailは、
のちにmetabolic resustationとかHAT療法とか呼ばれるようになりますが、
この2017年の論文から議論が始まりました。
当時はめちゃくちゃスゲー!と思って試してみることもありました。
ビタミンC療法はどう評価されていくか?
網羅的ではないと思いますが、簡単に歴史を振り返りつつ
Marik cocktail(metabolic resuscitation, HAT療法)の追試を見ていきたいと思います。
(J Crit Care. 2018 Jul 5;47:211-218.)
・韓国の大学病院ICUでのsingle-center before-after trial, retrospective
・重症肺炎でICU入室となった患者
・割り当てられた患者のbaselineは、metabolic resuscitation群では対象群に比較してRRTや昇圧薬使用の割合が高く、重症度が高かった
・primary outcome…病院死亡率
◦6% vs 14%で、metabolic resuscitation群で有意に死亡率が低い
◦propensity score-matchedすると 39% vs 17%(p=0.04)
・合併症は特になし
Marik先生と同様に単施設での研究ではそれなりに良い結果がでています。
(Crit Care Med. 2019 Jun;47(6):774-783.)
・ICU入室 or 心臓術後患者に対するRCT
・あらゆるタイプのVitamin C使用 vs プラセボ/無治療
・primary outcome…follow-up最大期間における死亡率
◦ICU…28% vs 29% (95% CI 0.74-1.10; p=0.31)
◦心血管手術…こちらも有意差なし
◦心血管手術…術後AF減少、ICU/病院滞在日数短縮。その他のパラメータは有意差なし
RCTでは効果はイマイチで、雲行きが怪しくなっていきます。
少なくともビタミンCのルーチン投与を支持する証拠に乏しいというような流れになりました。
(JAMA. 2019 Oct 1;322(13):1261-1270.)CITRIS-ALI試験
・敗血症およびARDS患者にVitamin Cを投与し、臓器障害スコアや炎症マーカーへの効果を判定する
・Randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trial
・受診から24時間以内の敗血症+ARDS患者167人
◦exclusion…Vitamin Cへのアレルギー、ICを取得する能力がない、18歳未満、英会話不能、ARDS基準を満たしてから48時間以上経過、患者の代理人のサポートがない、妊婦/授乳婦、24時間以上の生命予後がないと考えられる、気管切開などの在宅療法が必要になる、HOT>2L/分、間質性肺炎、びまん性肺胞出血、DKA、腎結石
・介入群…Vitamin C50ml/kg+D5W、placebo群…D5W
・primary outcome
◦96時間時点でのmodified SOFA score…95% CI -1.23 to 1.03; p = 0.86
◦168時間時点でのCRP…95% CI 08.2 to 24.1; p = 0.33
◦168時間時点でのthrombomodulin(血管障害)…95% CI 02.8 to 4.2; p = 0.70
・secondary outcome…28日死亡率
◦Vitamin C: 29.8% (25/84)
◦Placebo: 46.3% (38/82)
◦群間差…16.58% (95% CI 2% – 31.1%), P = 0.03
secondary outcomeではあるけど、28日死亡率低下を認めました。
敗血症+ARDSという死亡率が高い病態においては、死亡率改善効果があるならやっておいた方がよいかもしれない…。
(JAMA . 2020 Feb 4;323(5):423-431. )VITAMINS試験
・Australia, New Zealand, Brazilの10ICU、2018年5月~2019年7月
・敗血症性ショックに対するhydrocortisone vs HAT therapyのmulti-center RCT
・敗血症性ショックに対するHAT療法の最初のRCT
・介入群…Vitamin C 1.5g 6時間毎+Thiamine 200mg 12時間毎+Hydrocortisone 50mg 6時間毎
◦いずれもICU入室中に投与し、Thiamineはショック離脱まで最大10日間、ショック離脱まで最大7日間
・対照群…Hydrocortisone 50mg 6時間毎
・最終的に216人がランダム化された
◦SOFA scoreの2点以上の増加、Lactate>2mmol/L、十分な輸液投与とMAP>65mmHgを保つために少なくとも2時間昇の圧薬持続投与を要する
◦妊娠やDNRなどは除外
◦baselineはほぼ同等だが、介入群の方がAPACHEⅢが低く乳酸値が高かった(4.2 vs 3.3)
◦除外されたのは以下
‣敗血症性ショックから24時間以上経過
‣死が切迫している
‣他の理由から本研究で使用されている薬剤がすでに使われている
・primary outcome…168時間後の生存かつ昇圧薬free
◦介入群とcontrol群で有意差は認めなかった
本質を突くような試験名のVITAMINSでしたが、
HAT療法の有効性を示すことはできませんでした。
一応まだこのころはビタミンCの投与が遅すぎるのではないかという批判もあったように思います(投与までに24時間ほど経過)。
ここから先はもう残念な結果しか報告されなくなります。
(JAMA . 2020 Aug 18;324(7):642-650.)ACTS試験
・多施設共同RCT
・ICU入室しており血管収縮薬を投与している敗血症患者が対象
・介入群にはVitamin C1500mg+hydrocortisone50mg+thiamine100mgが6時間毎に4日間投与された
◦対照群にはプラセボとして生食
・205人が対象となり、無作為に割り付けられた
・primary outcome…72時間後のSOFA scoreの変化に有意差なし
(Intensive Care Med . 2020 Nov;46(11):2015-2025.)ATESS試験
・韓国における多施設共同二重盲検無作為化試験
・ERで敗血症性ショックと診断された成人患者が対象
・介入群にはVitamine C50mg/kg+thiamine200mgをNS50mlに混注して60分かけて12時間毎に48時間投与
・primary outcome…SOFA scoreの変化率には有意差なし
(JAMA . 2021 Feb 23;325(8):742-750.)VICTAS試験
・呼吸/循環不全がある成人敗血症患者を対象にした多施設共同RCT
・介入群にはVitamin C1500mg+hydrocortisone50mg+thiamine100mgが6時間毎に4日間投与された
◦対照群にはプラセボとして生食
・501人が対象となり、無作為に各群に割り付けられた
・primary outcome…30日間での呼吸器/血管収縮薬free日数には有意差なし
(Intensive Care Med . 2022 Jan;48(1):16-24.)
・敗血症または敗血症性ショックに対してVitamin Cを他の薬剤とともに使用した研究を対象にしたSR&MA
・治療群と対照群の比較において長期的な死亡率低下は有意ではなかった
(Crit Care Med . 2022 Mar 1;50(3):e304-e312.)
・重症患者に対するVitamin C投与を行なったRCTを対象にしたSR&MA
・Vitamin C投与による全死亡率低下はなし
残念な結果が並びました。
もうこの頃にはHAT療法をしている施設はもうほとんどなかったのではないでしょうか。。。
自分も2017年~2018年頃は奥の手として使用を検討することもありましたが、
徐々にその魅力は薄れていっていました。
とはいえ、ビタミンCなんて安価で有害性もないから使っといてもいいんじゃない?
(使ってはいなかったけど)
という考えは頭の片隅にはありました。
そして、ついに決定的な試験が出てしまいました。
LOVIT試験~さらば、ビタミンC~
Lamontagne F, et al. Intravenous Vitamin C in Adults with Sepsis in the Intensive Care Unit.
N Engl J Med. 2022 Jun 15. doi: 10.1056/NEJMoa2200644. Epub ahead of print.
PMID: 35704292.
概要は以下の通りです。
・カナダ、フランス、ニュージーランドの35ICUでの多施設共同RCT
・除外:vitamin C療法の禁忌、すでに投与されている、48時間以内の死亡や積極的治療が中止される見込みがある患者
・それぞれの群に1:1に無作為化に割り付けられた
◦Vitamin C群:Vit C 50mg/kgをNSまたはD5W50mlに混注して投与
‣6時間毎に30-60分かけて96時間投与された
◦対照群:プラセボとしてNSまたはD5W50mlを上記のように投与
※グルココルチコイドやチアミンの投与などは治療チームの裁量で行われた
・872人が対象となった
◦両群で患者のbaselineは同様であった
・primary outcome…28日死亡または持続的な臓器機能障害(血管収縮薬使用, 侵襲的人工呼吸器管理, RRT)
◦ビタミンC群:44.5% vs 対照群:38.5%(RR 1.21, 95% CI 1.04-1.40)
ICUで血管収縮薬投与を受けている成人敗血症患者では、
ビタミンC投与を受けた患者はプラセボと比較して28日死亡または持続的な臓器機能障害の発生リスクが高くなることが示されました。
これまでの試験ではプラセボと比較してoutcomeに有意差はないという結果が並んでいましたが、今回は有害性が報告されてしまいました。
この敗血症へのビタミンC論争の終わりを感じました。
しばらくこの分野の研究に目を通すこともなさそうです。
まとめ
小規模な試験で偶然生じたであろう良好な結果が、
多くの試験で多くの研究費用をかけて否定されることとなりました。
ん~、なんかさみしい。。。
自分の中ではLOVIT試験を以て、
敗血症へのビタミンC論争に概ねピリオドを打ちたいと思いました。