りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

トラネキサム酸 超topics!これまでのまとめ

救急分野でトラネキサム酸はとてもホットなtopicsです。

 

当院救急外来でも使わない日はないというくらいオーダーがでています( ̄▽ ̄)

 

最近は当ブログでも紹介しましたが、CRASH-3も出ましたよね!

使わない手はない…!という感じでしょうか。

 

外傷以外についてもここでまとめてレビューしておきましょう!

外傷、脳出血、産後出血、上部消化管出血、鼻出血、喀血に対するトラネキサム酸投与は果たして有効なんでしょうか?

 

めんどくさい人はまとめだけ読んでみてください。

それぞれの研究の概要を知りたい人は全文読むと歴史がわかります♪

 

 

脳出血

トラネキサム酸では90日後の機能的予後を改善することはできない。
早期死亡率低下や7日時点での血腫増大抑制効果はありそう。
発症3時間未満であれば効果は大きいのではないか…。
 
( Lancet. 2018 May 26;391(10135):2107-2115.)TICH-2
randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel group, phase 3 trialです。
対象は脳出血発症から8時間以内に受診した患者です。
除外されたのは、抗凝固薬や血栓溶解薬による二次性出血、外傷による出血、構造的な異常が判明している患者、トラネキサム酸の禁忌に該当する患者、脳卒中後遺症(mRS>4)、予後3か月未満と考えられる患者、GCS<5などでした。
 
介入群にはトラネキサム酸1g+生理食塩水100ml10分間で投与に引き続き、トラネキサム酸1g+生理食塩水250ml8時間以上かけて点滴静注を実施しました。
対象群では同量の生理食塩水を投与しています。
 
primary outcomeは90日時点でのmRSでしたが、aOR 0.88; 95% CI 0.76-1.03と有意な差はありませんでした。
subgroup解析ではありますが、SBP170未満ではそれ以上に比較してmRSが改善したと報告されています。
 
secondary outcommeで有意差がみられたのは以下の項目でした。
2日目の時点で血腫拡大…25% vs 29%(aOR 0.80;95% CI 0.66-0.98)
24時間後の血腫容積の増加…3.72mL vs 4.92mL(補正後平均差-1.37; 95% CI -2.71 - -0.04)
7日以内の死亡…9% vs 11%(OR 0.73;95%CI 0.53-0.99) 
90日以内の死亡や血栓性イベントの増加は認めませんでした。
 
primary outcomeは残念ながら統計学的に有意な差は認めませんでした。
対象をもっと絞ったり(重症であったり、血腫容積がもっと大きいであったり)、発症3時間未満したりすればもっと有意な結果が得られるのではないでしょうか。
 
3時間未満での研究が待ち遠しいです。
 

外傷

輸血を要するpenetrating injuryやバイタル不安定な出血性外傷に対するトラネキサム酸投与は死亡率改善させる可能性が高い。

 

(Arch Surg. 2012 Feb;147(2):113-9.)MATTERs
Afganistanで行われたsingle center, retrospective, observational studyです。
アフガニスタンだけあって戦闘関連外傷に基づいた研究です。
 
最低1単位のRBC輸血を受けた患者(戦闘関連外傷)へのTXA投与群 vs TXA非投与群での比較をしています。さらに、massive transfusion(RBC≧10単位)の患者でも同様に評価をしています。
 
primary outcomeは24時間死亡率、48時間死亡率、30日死亡率でした。
24時間死亡率には有意差はありませんでしたが、48時間死亡率(11.3% vs 18.9%(p=0.004), NNT13)および30日死亡率(17.4% vs 23.9%(p=0.03), NNT15)は有意に改善しました。massive transfusionを受けた患者においても同様の傾向でした。
 
PEやDVT発症率はTXA投与群で増加していました。ただし、これらによる死亡はありっませんでした。 
 
この研究はlimitationだらけです。
戦闘外傷であり、通常の外傷には当てはまらない可能性があります。ほとんどがpenetrating traumaでした。TXA投与のプロトコールは医師により異なり、そもそもTXA群の方が重症度が高いため、TXAの効果を過小評価している可能性があります。また、VTE発生率が低いためそれが外傷自体に起因するものかTXAによる影響かは判断できません。
 
輸血を要するpenetrating injuryに対するトラネキサム酸投与は死亡率を減少させそうです。
 
 
(Lancet. 2010 Jul 3;376(9734):23-32.)CRASH-2
CRASH-3の前身です。
multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled trialです。実に20211人の成人外傷患者が対象になっています。大量出血やそのリスクがある患者(SBP<90mmHg and/or HR>110bpm)を8時間以内にランダム化してTXA群(2/3が受傷3時間以内に投与)とplacebo群に割り付けました。
 
primary outcomeは4週間以内の全死亡率で、14.5% vs 16.0%(p=0.0035), NNT67という結果でした。特に、SBP<75mmHgの重症患者ではその効果が高かったことがわかりました(RR0.87(95% CI 0.76-0.99))。
 
血栓閉塞イベントに関しては有意差ありませんでした。これも発症率が低すぎてTXAによる影響があるかどうかは判定不能です。
 
バイタルが不安定で重度の出血が見込まれる外傷患者に対するトラネキサム酸投与は全死亡率を減少させ、特に受傷3時間以内のSBP≦75mmHgの患者ではその効果が大きい可能性があります。 
 

外傷性脳損傷(TBI)

 受傷から3時間以内の非重症なTBIに対するトラネキサム酸投与は有効。

 
(Am J Emerg Med. 2014 Dec;32(12):1503-9.)
TBIに対するトラネキサム酸 vs placeboの比較を行ったRCTや、それに準ずるtrialのmeta-analysis, systematic reviewです。
2つのRCTから510人のTBI患者が解析されています。
 
outcomeは死亡率、神経学的予後、血腫増大、合併症発症率でした。
・院内死亡率…10.3% vs 16.1%(RR 0.64; 95% CI 0.41-1.02)
・神経学的予後不良…19.7% vs 24.2%(RR 0.77; 95% CI 0.59-1.02)
・血腫増大…26.7% vs 36.1%(RR 0.76; 95% CI 0.58-0.98)
・TXAによる重大な合併症はなし
 
解析されたのは2つのRCTだけで絶対数不足、そしてCRASH-2から組み込まれた患者は重症TBIも含まれており、真のトラネキサム酸の効果が発揮されにくかったことが予想されます。
 
上記のように統計学的な問題はありますが、少なくとも血腫増大率を減らすことは示された。でも臨床的に大事なoutcomeではあまり有意差が示せなかった残念な研究。
 
( Lancet. 2019 Nov 9;394(10210):1713-1723.)CRASH-3
これは前回紹介しているのでさらっと行きましょう。
 
詳しくは以下のブログをご参照ください↓
 
2012年~2019年、29の国にまたがる175病院でのRandomized, placebo-controlled trialです。
対象は受傷3時間以内で16歳以上のTBIの患者で、以下を満たす患者でした。
・GCS≦12
・頭部CTで頭蓋内出血がある(GCS13-15)
・CTで頭蓋内出血の所見がある
・主要な頭蓋外出血がない
12737人がランダム化され、TXA群6406人、Placebo群6331人と振り分けられました
 
primary outcomeは28日以内の頭部外傷関連死亡であり、
TXA群:18.5% vs Placebo群:19.8%(RR0.94, 95%CI 0.86-1.02) NNT77
GCS3および両側瞳孔対光反射消失を除いた感度分析
 →TXA群:12.5% vs Placebo群:14.0%(RR0.89, 95%CI 0.80-1.00) NNT67

 

 
secondary outcomeは以下の通りでした。
・受傷から24時間以内の頭部外傷関連死…RR0.81, 95%CI 0.69-0.95
・全原因死亡…RR0.96, 95%CI 0.89-1.04
GCS9-15…TXA群:5.8% vs Placebo群:7.5%(RR0.78, 95%CI 0.64-0.95) NNT59
・GCS3-8…TXA群:39.6% vs Placebo群:40.1%(RR0.99, 95%CI 0.91-1.07)NNT200 
両側瞳孔対光反射あり…TXA群:11.5% vs Placebo群:13.2%(RR 0.87, 95%CI 0.77-0.98) NNT58
・片側または両側対光反射消失…TXA群:52.3% vs Placebo群:50.8%(RR1.03, 95%CI 0.94-1.13)
 
TXAの効果が最大限となる患者群は以下のようになりました。
・受傷から治療まで3時間以内…NNT 77
・mild-moderate(GCS9-15)…NNT 59
・両側対光反射あり…NNT 58
・GCS3かつ両側対光反射消失以外…NNT 67
 
安価であり、主要な合併症が認められなかったためTXA使用は妥当ではないでしょうか。
 

鼻出血

トラネキサム酸ガーゼによる圧迫は有効。抗血小板薬内服中であっても有効だが、抗凝固薬については未評価。トラネキサム酸は噴霧でもいいかも。  
(Am J Emerg Med. 2013 Sep;31(9):1389-92.)
鼻出血に対してはボスミンガーゼが使用されることが多いのではないかと思います。
この研究では、なんとトラネキサム酸パッキング(500mg/5ml)群 vs アドレナリン(1/100000)+リドカイン(2%)パッキング群でRCTをしたところ、TXAでのパッキングにより10分以内の止血率と早期帰宅率が上昇しました
 
(Acad Emerg Med. 2018 Mar;25(3):261-266.)
2つのERで実施されたRCTです。
今後は抗血小板薬(aspirin, clopidogrel or both)を内服している鼻出血患者124人にTXA含有コットン(500mg/5ml) vs アドレナリン+リドカイン含有コットンを使って対応した結果を比較した研究です。
 
対象は抗血小板薬内服中で20分間圧迫止血しても止まらない鼻出血患者であり、外傷性/抗凝固薬内服中/先天性凝固障害/先天性血小板障害/INR>1.5/ショック/露出血管からの出血が見える/腎臓病既往の患者は除外されています。
 
primary outcomeは10分間で止血ができた割合です。
10分後の止血率は73% vs 29%, NNT2で、有意にTXA群で止血率がよいという結果でした。
 
抗血小板薬内服中の鼻出血患者でも局所TXAが有効であることがわかりました。
なお、抗凝固薬内服中の患者についてはまだ評価されていません。
 
(Ann Emerg Med. 2019 Jul;74(1):72-78.)
トルコの教育病院にて2018年5月~8月に実施されたsingle-center, prospective, randomized controlled studyです。
対象はER受診時点で活動性出血を認める鼻前方出血(出血点を確認できる症例)で、抗凝固療法(抗血小板治療は含む)/血行動態不安定/外傷性鼻出血/既知の出血性疾患は除外されています。
 
以下の3群にランダムに1:1:1に割り付けしています。
①TXA群(両側鼻腔にTXA500mg/5ml噴霧+鼻翼15分間圧迫)
②生食群(両側鼻腔に生理食塩水5ml噴霧+鼻翼15分間圧迫)
③nasal packing群(2%リドカインを含有したMerocel®を24時間挿入)
 
primary outcomeは15分後の止血率で、TXA群 91.1% vs 生食群 71.1% vs nasal packing群 93.3%でした。3群間には統計学的有意差を認め、TXA群とnasal packing群では有意差を認めませんでした。
 
噴霧するだけでよいのであれば、自分がやられるならこれがいいな~と思います。
でも、鼻出血の重症度については検討されておらず、TXAガーゼとの比較がされていないのが残念なところです。
 

喀血

喀血に対するトラネキサム酸投与は吸入により改善効果があり、全身投与により死亡率改善が見込めるかもしれない。 
(Cochrane Database Syst Rev. 2012 Apr 18;(4):CD008711.)
TXA経口投与(2002年)、経静脈投与(1994年)の2つのRCTのreviewです。
TXA投与群で出血時間が短縮しましたが有意差はでなかったみたいです。
 
(J Emerg Med. 2018 May;54(5):e97-e99.)
ERにおける大量喀血患者14人に対するTXA吸入のcase reports and case seriesです。
投与方法は、TXA250-500mg吸入2-4回/日という使い方をしています。
喀血改善までの時間は数分~72時間未満までさまざまでした。1例では気管支攣縮発作を起こしましたが気管支拡張薬でreverseできています。
 
TXA吸入は根本治療までのつなぎとしてはもしかしたら有効なのかもしれません。
 
(Chest. 2018 Dec;154(6):1379-1384.)
Prospective, double-blind, placebo-controlled randomized controlled trialです。
47人がランダム化され、TXA500mg/5ml吸入1日3回 vs 生食5ml吸入1日3回に割り付けられました。大量喀血(24時間で200ml以上)、血行動態不安定、呼吸不全、妊婦、腎不全、肝不全、INR>2、TXAアレルギーは除外されています。
 
outcomeは入院後5日以内の喀血改善であり96% vs 50%, NNT2という結果でした。
 
喀血に対するTXA吸入で初めてのprospective RCTでしたが、sample size不足は否めません。個人的には喀血に対してTXA吸入は試してみてもいいのではないかと思います。
 
 
Crit Care. 2019 Nov 6;23(1):347.
日本のDPCを使用したretrospective studyです。
血痰により緊急入院となった患者が対象で、control軍とTXA群(入院時点で投与を受けていた)に分類しました。
28539人が同定され、17049人がTXA群、11490人がcontrol群でした。
 
primary outcomeは院内死亡率で11.5% vs 9.9%, 95%CI -3.5~ -1.6%で有意に減少していました。
 
 
喀血患者に対するTXA投与は死亡率改善効果もあるかもしれません。
 

産後出血

産後出血に対するトラネキサム酸投与は発症早期であれば死亡率低下させるかもしれない。 (Lancet. 2017 May 27;389(10084):2105-2116.)WOMAN trialRandomized, double-blind, placebo-controlled trialで、16歳以上の産後出血(PPH)患者20060人がランダム化されました。通常ケアに加えてTXA群ではTXA1gを点滴静注され、30分以上出血持続した、または止血したが24時間以内に再出血した場合にはTXA 1gを再投与されました。 
primary outcomeはPPHによる死亡です。
PPHによる死亡率は、1.5% vs 1.9%(RR0.81; 95%CI 0.65-1.00), NNT 250でした。
また、TXA投与3時間以内の場合のPPHによる死亡率…1.2% vs 1.7%(RR0.69; 95%CI 0.52-0.91), NNT200でした。
血栓性イベントについては有意差ありませんでした。
 
う~ん、効果があるのかないのか…。
 
一応、Pfizerが資金提供していましたが試験への影響はなさそうです。
 
PPHに対するTXAの効果はあるのかないのか判定できません。投与時間が早い場合にはもしかしたら有効かもしれません。
 
(Lancet. 2018 Jan 13;391(10116):125-132.)
急性重症出血患者に対してTXA投与した2つのRCTのmeta-analysisです。
CRASH-2 trialおよびWOMAN trialで組み込まれた患者計40138人が対象です。
 
primary outcomeは出血による死亡からの回避です。
96.6% vs 96.0%(OR 1.20; 95%CI 1.08-1.33), NNT167でした。
血管閉塞イベントについては有意差ありませんでした。
 
ここでわかったことは治療の遅れにより死亡率が増加するということです。
2時間以内ならNNT53、3時間胃内であればNNT67です。
 
 
「3時間経過までは、15分毎に10%ずつ生存への効果が低下し、それ以降は効果なし」
という結果になっているようです。 
 

消化管出血

 上部消化管出血に対するTXAは重症例(大量出血、血行動態不良、輸血を要するなど)には死亡率低下作用があるかも。

(Cochrane Database Syst Rev. 2014 Nov 21;(11):CD006640.)
上部消化管出血へのTXA投与についてのsystematic review and meta-analysisです。
上部消化管出血疑い/内視鏡診断した症例についてのRandomized, parallel-arm, controlled trialを採用しました。なお、血栓塞栓性イベントの既往、CKD、妊婦では除外されています。8つのRCT、1700人が解析されました。
 
primary outcomeは全死亡率でした。
・全死亡率…4.9% vs 8.4%(RR 0.60; 95% CI 0.42-0.87)
・再出血…14.2% vs 17.7%(RR 0.80; 95% CI 0.64-1.00)
血栓塞栓性イベントについては有意差なし
 
これも多くのlimitationがあります。
多くの患者が除外された研究が含まれ(8つのうち5つ)、small trialもありました。
研究によりTXA投与経路もまちまちで、内視鏡治療がされていないような研究も2つ含まれています(この場合にはTXAの効果は認められませんでした、そりゃそうだ)。
 
上部消化管出血に対するTXAは重症例(大量出血、血行動態不良、輸血を要するなど)には死亡率低下作用があるかもしれません。
 
なお現在、HALT-IT trialが進行中です。どうでしょう。。。
 

まとめ

有効な可能性あり
TXA 1g 10分かけて投与
引き続き、1gを8時間かけて投与
外傷
・受傷3時間以内
・大量輸血を要する
有効
TXA 1g 10分かけて投与
引き続き、1gを8時間かけて投与
外傷性頭蓋内出血
有効な可能性あり
TXA 1g 10分かけて投与
引き続き、1gを8時間かけて投与
鼻出血
有効
TXA 500mg含有ガーゼ、噴霧
喀血
有効
TXA 500-1000mg吸入
産後出血
有効な可能性あり
TXA 1g 10分かけて投与
上部消化管出血
有効な可能性あり
不明確
 
 
 以下も参考にしてください。