いまだ出会ったことのない疾患…Kounis症候群。
まだ報告されてから30年ほどしか経っていませんが、だいぶ認知度も上がってきたこともあり、報告が増えているそうです。
今回はKounis症候群について簡単にreviewしたいと思います。
Fassio F et al. Kounis syndrome: A concise review with focus on management.
Eur J Intern Med. 2016 May;30:7-10.
PMID: 26795552.
定義/疫学など
・Kounis症候群は、アレルギー反応により生じる急性冠症候群と定義されている
◦アレルギー反応とACSが同時発症する
・1991年にKonisらによってアレルギー性狭心症症候群(allergic angina syndrome)として報告されたのが初めての報告
・Kounis症候群の原因として以下が報告されている
◦薬剤
◦虫刺症
◦食物
◦環境曝露
◦基礎疾患
◦皮膚prick test後
・正確な病態生理学的メカニズムは(少なくとも全貌は)明らかではない
・成人例の報告が多いが、小児でも報告されている
◦amoxicillin/claculanic acidや虫刺症に続発
◦ST上昇と心筋逸脱酵素上昇が認められた
診断/病型分類
・診断は初期には臨床的に行われる
・アナフィラキシー治療を行うも持続するショックや心原性肺水腫などが出現する場合にはKounis症候群が疑われる
・あらゆる心電図変化が出うるため注意を要する
・Kounis症候群は3つの病型に分類されている
◦Type I…冠動脈疾患なし(冠動脈攣縮)
‣リスク因子がない/冠動脈狭窄がない患者に発症する胸痛
‣アレルギーで誘発された冠動脈攣縮による
‣病態生理:血管内皮障害±微小血管の狭心症と考えられている
◦Type II:冠動脈疾患を伴う(プラーク破綻によるAMI)
‣急性アレルギー反応がプラークの破綻と関連している
◦Type III:既存の冠動脈疾患+薬剤溶出性ステント血栓症
‣very late stent thrombosisを呈する場合にはKounis症候群の一症状の可能性がある
病態生理
・アレルギー反応の中心的役割を果たしているのは肥満細胞
◦肥満細胞がIgE-bound antigen cross-linking, C3a/C5aなどにより活性化される
→炎症メディエーターの放出/アラキドン酸由来メディエーター産生増加/サイトカインやケモカイン産生遺伝子発現の増加
→組織浮腫/炎症/白血球動員/気管支攣縮/粘液分泌などの症状が出現する
※炎症メディエーター…histamine, tryptase, chymase, heparinなど
※アラキドン酸由来メディエーター…prostaglandin D2, leukotrienes B4/C4, platelet activating factor
※サイトカイン…TNF-alfa, IL-3, IL-4, IL-5, IL-6, IL-8, IL-10, IL-13, GMCSF
・Kounis症候群は心筋および冠動脈やプラークの肥満細胞により大量に放出される炎症誘発性メディエーターにより引き起こされている
◦刺激の多くが肥満細胞の脱顆粒(主にIgEを介したアレルギー反応)を誘発するため、いかなるアレルギー反応も冠攣縮またはプラーク破綻を促進する可能性がある
・心臓組織には肥満細胞が豊富に存在する
・Kounis症候群発症機序は多岐に渡る
◦肥満細胞活性化により放出された炎症メディエーターが冠動脈を攣縮させる
‣活性化した肥満細胞はプラーク内に侵入しさらなる冠動脈平滑筋収縮に寄与している可能性
‣心臓病患者の冠動脈プラークは健康な患者に比較して200倍の肥満細胞を含む
◦肥満細胞が脱顆粒することにより炎症メディエーターであるhistamineなどが放出される
→血行力学的ストレス増加/血管攣縮誘発によりプラークの破綻が促進される
マネジメント
・Kounis症候群は心筋への再灌流だけでなくアレルギー反応への治療も同時に行わなければならない複雑な疾患である
アナフィラキシーへの対応
・Kounis症候群では、アレルギー反応への治療を行うことが有益とされている
◦掻痒感や蕁麻疹などの皮膚症状に対して使用するH1/H2 blockerを投与する
◦ただし、抗ヒスタミン薬のbolus投与により低血圧を誘発し冠動脈血流が低下することがあるため緩徐に投与すること
・ステロイドは二相性反応予防のために使用されることがある
・アナフィラキシーでは輸液が重要だが、Kounis症候群においては過剰輸液により肺水腫のリスクになるため注意を要する
◦駆出率/血行動態などに応じて輸液を調整すること
・酸素投与はACSに対しては有害である可能性があるためルーチン投与はさける
◦SpO2<90%や呼吸困難を訴える場合に投与すること
ACSへの対応
・Kounis症候群に関連するACSは、type Iまたはtype II MIのいずれかに該当する
・type II MIの原因となる心筋への酸素需要供給の不均衡が最も多い機序となる
◦低血圧/気管支攣縮/血管攣縮による酸素飽和度低下/頻脈による需要の増加などが根本原因
・Kounis症候群 type IIでは炎症性メディエーターにより冠動脈プラークが破綻し、type I MIを発症することがある
・ニトログリセリンは最もよく使われる薬剤
◦アレルギー誘発性血管攣縮を無効にできる可能性がある
◦冠動脈拡張作用と、側副血行路を経由した虚血心筋への血流増加作用がある
・Ca拮抗薬(ジルチアゼム/ベラパミル)も血管拡張作用があり、Kounis症候群type Iに対して使用可能
・Kounis症候群type IIに対しては通常のACSと同様に治療を行う
◦迅速にaspirin 160-325mg投与(→DAPTへ)
・β-blockerはKounis症候群に対しては禁忌
◦冠動脈攣縮を誘発する可能性がある
・β-blockerで治療中または虚血性心疾患既往がある場合にはglucagon投与を選択する
◦アドレナリンにより血管攣縮が起きえるため
・オピオイドは大量の肥満細胞の脱顆粒を誘発する可能性があるため、Kounis症候群に対しては慎重投与
・肥満細胞安定化剤として以下の薬剤投与は考慮される
◦cromoglycate(cromolyn)
◦flavonoids quercetin
・ヘパリンは冠動脈内での再血栓化を防ぐ目的で投与される
・続いて、好酸球と肥満細胞の病理学的所見がないか確認することもある
まとめ
・Kounis症候群はアレルギー反応により生じた急性冠症候群が特徴で、両者が同時発症する症候群
・肥満細胞とそれにより放出されたメディエーターが原因として重要
・Kounis症候群は3つの病型に分類される
◦Type I…既存の冠動脈疾患がない
◦Type II…冠動脈疾患がある
◦Type III…冠動脈疾患+DES血栓症
・胸痛が出現、アナフィラキシーショックを離脱できない場合、心原性肺水腫などを呈する場合にはKounis症候群を疑い介入すること
・治療はアレルギーへの対応と心筋への再灌流が中心になる