りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

繰り返す溶連菌による咽頭炎

先日、以下のような若い女性が当科を来院されました。

「ひと月のうちに溶連菌(GAS)に2回感染して治療しました。今日も同じ症状なんですけど、溶連菌検査してもらえませんか?たぶん溶連菌です。」

患者の求めに応じて溶連菌迅速検査を実施すると、予想通り陽性!

 

溶連菌感染ってこんなに繰り返すの⁉

 

結局、あまり重症感もないので少し対症療法で経過を見ましょうということにしました。でもそんなに繰り返すのはなんだかおかしい…。

 

この方に抗菌薬を投与すべきかすごく悩んだのでuptodateで調べてみました。

 

 

 

 

溶連菌感染を繰り返す場合にすること/考えること

・GAS治療を終えた後にも症状が持続/再発する場合…GAS検査を繰り返し施行する
 ◦慢性GAS carrierはありえる
 ◦ただし、ウイルス性咽頭炎を疑う場合には検査をしないことを推奨
  ‣咽頭痛に加えて、咳嗽、結膜炎、鼻炎などがある場合
 
 
今回の症例では、通常のGAS治療を終えたにもかかわらず、症状が再燃しました。
咽頭痛と高熱のみで、ウイルス性咽頭炎を疑う所見はありませんでした。
なのでGAS迅速検査を行いました。
(患者に求められたからともいえますが…)
 
 
もしも治療後にもGAS陽性の結果が出た場合…以下の可能性を考慮する
 ②治療後に新たに感染した(再発性感染)
  ‣周囲の環境で流行がある場合には疑う
  ‣同じserotypeによる感染では症状は初回に比較して軽度になる
(Milder symptoms occur in recurrent episodes of streptococcal infection)
 ③治療失敗
  ‣初期抗菌薬がmacrolide or clindamycinの場合には多くなるかも
  ‣penicillinよりは cephalosporinを使用したほうが治療失敗が少ないかも
(Cochrane Database Syst Rev. 2016 Jul 4;7:CD010502.)
 ④慢性GAS carrerが他の原因菌に感染した
 ⑤扁桃周囲膿瘍などの化膿性合併症
 
 
さて、どうでしょうか。
アドヒアランス不良…なさそう。
当院職員でありますし、毎回しっかり内服されていたようです。ちなみに、2回ともamoxicillin1日4回投与で治療されていました。
②治療後新たに感染した…なくはないけどなさそう。
子どもや職場含め周囲での爆発的な流行はなさそうです。
地域的には溶連菌は流行していますが。
③治療失敗…可能性あり。
④慢性 GAS carrerが他の原因菌に感染した…可能性あり。話を聞いたときは直感的にこれかもしれないと思いました。
扁桃周囲膿瘍などの化膿性合併症…なさそう。
 
 

繰り返す溶連菌感染症の治療

10日間の抗菌薬投与を行う
 
 
これは当然です。
 
 
・初期治療が失敗した場合には、通常はpenicillin G注射で治療する
 ‣21-28日間の抗菌活性がある
 ‣アレルギーの場合や投与できない場合には患者の状態に合わせて抗菌薬選択する
 
 
これは救急外来ではやりづらいのでパス。入院させるほどでもありませんし。
 
 
・もしくは、初期治療で選択した抗菌薬よりも、β-lactamaseに対する安定性が高い抗菌薬を選択
 ◦penicillin→amoxicillin-clavulanate or first-generation cephalosporin
 ◦first-generation cephalosporin→later-generation cephalosporin
 
 
これはreasonable。
amoxicillin-clavulanateかfirst-generation cephalosporinは使いやすい。
 
 
uptodateが上記を推奨しているのは、以下のようなtrialの結果からのようです。
・cephalosporin vs penicillinでの1300人の成人小児GAS咽頭炎治療のmetaanalysis
 ◦46% vs 25%, OR 0.55, 95%CI 0.30-0.99
(Cochrane Database Syst Rev. 2016 Sep 11;9:CD004406.)
・Staphylococcus aureus, Haemophilus influenza, Moraxella catarrhalisなどの常在菌 
 →penicillinを不活化するβラクタマーゼを産生する
 →penicillin活性が低下する
 …このような理由からβラクタマーゼ阻害薬の方がGASへの効果が高いことがある
(Clin Otolaryngol Allied Sci. 1998 Apr;23(2):181-5./Clin Infect Dis. 1995 Jul;21(1):171-6./Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2007 Oct;71(10):1501-8.)
 
 
 
・頻繁に咽頭炎を繰り返す軽症~中等症の患者では治療を数日遅らせることは代替可能なアプローチとされる
 ◦免疫機能が発達し、よりGAS根絶率が上昇する
 ◦さらに、数日の遅れが急性リウマチ熱発症率を増加させることはない
※重症患者では化膿性合併症を引き起こす可能性があるためやらないこと
(Pediatr Infect Dis J. 1987 Jul;6(7):635-43./Arch Pediatr Adolesc Med. 1999 Jun;153(6):565-70./Pediatr Infect Dis J. 1991 Feb;10(2):126-30./Am J Med. 1954 Dec;17(6):749-56./J Clin Invest. 1953 Jul;32(7):630-2.)
 
 
治療を遅らせることはオッケーみたいです。
今回の症例ではひとまず対症療法を実施しましたが、大きな間違いではなかったことがわかりほっとしました。
 
 
・頻回に重症GAS咽頭炎を繰り返す患者では扁桃摘出術を考慮する
 
 
最終手段になるので今回はあまり勧めたくありませんし、患者さんも希望していませんでした。
 
 
最後に、以下に示す推奨もありました。
咽頭炎を繰り返す患者ではそのエピソード間にGAS培養を採取するとよい
 ◦active infection vs chronic carriageの鑑別に有用
  ‣症状ないのにGAS陽性…carrier

 

 

実際の患者さんにもやってみようと思います。

 

 

ということで、今回の溶連菌感染症を繰り返す患者には以下のようにアプローチしてみたいと思います!

①本症例は「治療失敗」または「GAS carrerが他の微生物に感染した」のいずれかの可能性が高い

②症状が重症ではないため、治療を数日間遅らせる

(対症療法で経過観察としているため、呼び戻す)

amoxicillin-clavulanateを10日間投与する

④投与終了後、症状がなければ再度咽頭迅速検査/培養など実施して、GAS carrerか否か判定する

 

溶連菌って奥が深い!

 

 

 

過去記事も見てください!

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