けいれんについてERの現場で考えておくべきことをまとめてみます!
今回はこちらの論文です!
( Semin Neurol. 2019 Feb;39(1):73-81.)
ERの教科書的なことがまとまっていてわかりやすかったです。
いちばんびっくりしたことは、「痙攣重積発作における13kg以下の小児に対するbenzodiazepineの至適投与量については明確なデータがない」ということでした。。。
けいれんを止める際の薬剤投与について重要な約束事は、「十分量を単回投与すべし(少量に分割して複数回投与は推奨されていない)」であることから比較的多めな量を選択するようにはしていましたが、みなさんの使い方はいかがでしょう?
また、抗けいれん薬の副作用については感染症を疑う際の無顆粒球症以外にはあまり考えることがなかったのでなるほど!でした。トピラマートの尿管結石…処方されている人は要注意です。
今回は簡単な症例提示と、それに関連して救急外来において留意すべきことについてまとめていくことにします。
症例① 初発けいれん
・22歳女性、既往歴は特になし
・会議中に急に話をしなくなった
→数秒間眼球上転して同僚の問いかけに反応しなくなり、直後に間代性痙攣発症
→2分後に痙攣は徐々に治まった
・自分の名前を言うことができたが場所についてはわからず、イベントについてもおぼえていないと話すため同僚により救急要請された
けいれん発作に対する病院前対応
・ABCを評価せよ
・新たな外傷発症を防ぐために患者は床に寝かせる
◦できれば誤嚥予防のために仰臥位ではなく側臥位にしておく
・患者の口には何にも入れないこと
◦もし閉塞があればサクション実施
◦低酸素血症などあればバッグマスク換気も考慮
◦SpO2 92%以上を目指して酸素投与せよ
・体温、心拍数、呼吸数、血圧、血糖値をチェックせよ
‣2歳以上…25%ブドウ糖液2ml/kg投与
‣2歳以下…12.5%ブドウ糖液4ml/kg投与
・救急隊到着時にはけいれんの多くは治まっているが、持続している場合には痙攣重積として対応
けいれん発作が起きるとびびってしまいますが、いつでもABCアプローチです。
SpO2を94%前後に保つほうがよいのはほぼいかなる疾患でも現在のトレンドですね。
けいれんを見たら心停止と低血糖をまず第一に除外すべきです。
救急外来における評価(けいれんが止まっている場合)
・けいれんが止まっている場合には原因検索を行う
・初回けいれん…本当にけいれんとして適切か確かめる
‣全身性けいれんの場合には舌咬傷や尿失禁がみられうる
◦めまい、嘔気、気分不良が前駆症状としてあり、baselineへの復帰が迅速な場合には失神の可能性あり
‣失神でも痙攣をおこしたり、舌咬傷や失禁がみられうる
◦片頭痛の前駆症状とseizure auraが判別がつきにくいこともある
‣前駆症状だけで終わる片頭痛のこともある
◦psycogenic nonepileptic seizure…頭部を左右に振る、四肢の動きが同期していない、顔をゆがませる、骨盤を突き出す、閉眼しているなどの特徴あり
‣EEGモニタリングが必須で、基本的に除外診断
・急性症候性発作の可能性を考える
◦アルコール離脱…最終飲酒から6-48時間後
◦電解質異常
◦アンフェタミン、コカイン
・原因がはっきりしない場合にはEEGと画像検査をせよ
◦CT…頭蓋内出血などの緊急治療が必要な疾患を検索
◦MRI…新規発症けいれん患者の23%で異常信号あり
◦EEG…できれば12時間以内に実施が望ましい
‣時間経過とともに異常がとらえづらくなる
(2年以内の痙攣再発率は21-45%)
◦上記のような状況下ではERでのAED開始も考慮(特に外来フォローとする場合)
因子
|
痙攣再発リスク
|
95% CI
|
脳損傷既往
|
RR 2.55
|
1.44-4.51
|
EEG所見異常
|
RR 2.84
|
1.67-4.82
|
CTやMRIでのepileptogenic lesion
|
RR1.87
|
1.24-1.83
|
nocturnnal seizure
|
RR 2.1
|
1.0-4.3
|
・けいれんが止まっていない場合や意識障害遷延の場合には痙攣重積を考慮
真のけいれんであったか(特に失神との鑑別)がまずは鑑別診断の最初の分岐点です。
それでけいれんでよさそうであれば急性症候性発作の可能性がないか探っていきます。
てんかんでよさそうであれば、AED投与の適応があるか判断します。通常は2回の痙攣をみてからですが、脳損傷既往/EEG異常所見/nocturnal seizureの場合には初回からの投与も考慮されます。
症例② てんかん既往がある場合
・発熱と咳を発症
→acetaminophenとibuprofenを投与するも解熱せず
→左腕が痙攣しはじめ、顔面が左方向に偏位した後に全身性痙攣が出現
→痙攣が5分間持続したため、父親がdiazepam直腸内投与し救急要請した
初期対応で考えるべきこと
・患者のABCの評価をしつつ、痙攣を止めることが目標になる
・痙攣を目撃した家族はその痙攣が普段と同じ性状か異なるものか判断できることがあるため聴取
◦典型例かつ3-5分以内に自然頓挫し普段通りの意識状態に改善する場合…特に救急外来での評価は要さない
◦痙攣が3-5分以内に治まらない場合…痙攣重積に進展するのを防ぐためにAED投与を行う
‣3分以内に痙攣が治まらなければ抗痙攣薬を投与せよ
・原則的に5分以上持続する痙攣の場合には自然に止まらないことが多い
・seizure clusterが起きている場合にはさらなる発作を防ぐ目的でAED投与も考慮
抗痙攣薬(AED)の選択
・benzodiazepineが基本となるAED
◦直腸内投与はしばしば家族でも可能な投与経路となる(特に小児の場合)
◦鼻腔内/頬粘膜への投与も可能
◦seizure cluster予防に関しては経口投与でもよい
けいれんを止めた後の対応
・救急外来でAED使用した場合や意識状態がbaselineに戻らない場合には適切な評価を要する
・病歴聴取
◦AEDの飲み忘れや飲むタイミングを逸したなどないか
◦感染症や発熱はなかったか
◦嘔吐や下痢はなかったか(薬剤の吸収が低下)
◦薬剤の投与量が変更になったり新規薬剤が追加になっていないか
◦睡眠不足やストレスはなかったか
・血液検査
◦血算、生化学、代謝異常など
‣異常があることはまれではあるが…
・頭部CT
◦急性期に異常がみられることはほとんどない
◦以下の場合には頭部CT撮影が考慮される
‣普段と異なるけいれんの性状であった場合
‣痙攣中に頭部外傷を受傷した場合
‣痙攣後の神経学的異常がある場合
‣免疫不全
‣抗凝固薬/抗血小板薬内服
‣既知の頭蓋内病変
・けいれんが起きた患者に対してはAED濃度を測定しておくこと
◦ただし、結果が出るには数時間~数日かかりうる
‣ERにおいてはマネジメントを変えるものではないが主治医にとっては非常に重要な情報のため必ず検査すべし
症例③ けいれん重積発作
・45歳女性、右前頭葉髄膜腫によるfocal epilepsy既往がある患者
・強直間代性痙攣が3分持続したため夫が救急要請
・10分後に救急車が到着した際、痙攣は持続
→lorazepam 4mg IV
・その後も痙攣が持続したため2回目のlorazepam投与を実施
→救急外来到着時には痙攣は頓挫
・患者は話すことができず、指示に従うことができず、左片麻痺があった
→fosphenytoin 20mg/kg IV
→投与開始後に再度痙攣再発
病院前対応
・痙攣重積の定義
◦けいれんが5分間以上持続または痙攣頓挫後にbaselineに戻らずにけいれん再発
・痙攣重積と判断した時もABCは常に意識せよ
◦気道閉塞の原因があれば除去し、呼吸の異常があればBMVを実施
・体温、心拍数、呼吸数、血圧、血糖値を測定しておく
・できるだけ早いbenzodiazepine投与を行う
◦ルート確保ができればlorazepam 4mg(成人)or 0.1mg/kg(小児)静注
◦ルート確保できなければmidazolam 10mg(成人や40kg以上の小児)or 5mg(13kg以上の小児)筋注
‣13kg以下の小児に関しては適切な投与量のデータなし
◦上記薬剤にアレルギーがあったり使用不能な場合にはdiazepam 5-10mg IVもよい
‣lorazepamよりは効果が劣ることが報告されている
(Curr Opin Pediatr. 2014 Dec;26(6):668-74./N Engl J Med. 2012 Feb 16;366(7):591-600./Epilepsia. 2015 Feb;56(2):254-62./N Engl J Med. 2001 Aug 30;345(9):631-7.)
13kg以下の小児へのbenzodiazepine至適投与量は実はデータなしなんですね。
これまで0.15-0.3mg/kgで投与していました。これからも同様に投与するとは思いますが今後の展開を見ていきたいところです。
ルートがとれないこともよくあるためミダゾラム筋注は覚えておいた方がよい投与方法です。ちなみに、興奮する患者を鎮静する目的でもミダゾラム5mg筋注は抗精神病薬投与に比較して効果が高いことが報告されています。
まだ当院にはlorazepam静注薬は採用されていません。
救急外来での対応
・特にbenzodiazepine投与後はABC評価が重要になる
・救急外来で行なうべき検査は以下の通り
◦vital signの確認
◦血糖値
◦血液検査(血算、生化学、中毒スクリーニング、AED濃度)
◦EKG
・対応後5分以内…benzodiazepine投与を行う
◦lorazepam IV
◦midazoram IM
◦diazepam IV
→投与後も痙攣持続していれば2回目の投与を行う
・対応後20分以内…AED投与を行う
◦fosphenytoin (20 mg/kg, 最大1500 mg)
◦valproic acid (40 mg/kg, 最大3000 mg)
◦levetiracetam (60 mg/kg, 最大4500 mg)
◦phenobarbital (15 mg/kg)
※Lacosamide (5 mg/kg, or 400 mg)も効果がありとの報告あり
…現在、NCSEに対するlacosamideとfosphenytoinの治療効果についてのprospective studyが進行中
◦1時間以内にthird-line therapyを開始すること
◦もしも呼吸状態が悪くなければ2回目のAED投与も可能
→これらでもだめなら気管挿管して、midazolam/ propofol/ pentobarbital持続投与を行う
症例④ 急性症候性発作とその予防
・78歳男性、心房細動でワルファリン内服中
・歩道でつまずいて転倒、頭部打撲した
◦特に意識消失はなかった
◦頭痛と右上肢の疼痛を自覚していた
・ER受診、CTで1cmほどの厚さの左硬膜下血腫を認めた
◦痙攣予防目的でlevetiracetam 750mg 1日2回投与が行われた
・数日後にERフォロー、血腫増大はなかった
◦けいれんのエピソードはなく脳波でも異常は認められなかった
→levetiracetamを7日間で中止し痙攣なく生活をできた
頭蓋内出血がある患者に対する予防的AED投与
・頭蓋内出血によりけいれんが起こりうる
→AEDによる治療を行ない、その原因が除去されるまで治療を継続すべき
以下、そのエビデンスについてみていくことにします。
急性硬膜下血腫
・受傷後7日間での痙攣発症率は15-36%とされる
◦levetiracetam 750mg 1日2回が最も使用頻度が高い
◦phenytoin vs placebo 7日間
◦phenytoin群で有意に痙攣発症率が低かった
‣14.2% vs 3.6%
‣それぞれの群には急性硬膜下血腫は35%/42%含まれていたが、subgroup解析はされていない
(N Engl J Med. 1990 Aug 23;323(8):497-502.)
・急性硬膜下血腫患者に対するphenytoin vs levetiracetam予防的投与のretrospective study
◦痙攣発症率に有意差なし
◦耐用性が高くモニタリング不要のためlevetiracetamはbetter choiceかも
(Neurocrit Care. 2014 Oct;21(2):228-37.)
やるならlevetiracetamは投与しやすい選択肢です。
くも膜下出血
・急性症候性発作は6-26%に発症
・痙攣が起きるか、脳波異常がある場合にはAED投与すべき
・SAHに対してしばしばAED予防的投与が行われるが痙攣リスクを低下させるわけではないという報告あり
(Stroke. 2016 Jul;47(7):1754-60.)
(J Neurosurg. 1983 May;58(5):672-7./J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1992 Sep;55(9):753-7.)
脳出血
・急性症候性発作は7-17%
・発症早期のけいれん抑制目的での予防的AED投与については有効性は示されていない
(Epilepsy Res. 2011 Aug;95(3):227-31.)
予防的AED投与のまとめ
・外傷性硬膜下血腫の予防は推奨としてもよいかもしれない
・SAHや脳出血に対してはあまり推奨されない
当院には脳外科がありませんが、時に手術適応になりづらい外傷性硬膜下血腫の患者さんは当科で保存的にみることもあります。これを参考に分厚い硬膜下血腫では予防的AEDも考慮してみてもよさそうです。
症例⑤ AEDの副作用
・35歳女性、左側腹部痛のためER受診
・2日前から頻尿、排尿時痛を自覚し血尿にも気づいていた
・CTで左尿管に尿管結石を認め、輸液と疼痛コントロール目的で入院となった
・入院時点の薬歴聴取にて側頭葉てんかんのためtopiramateを数年間内服していることが発覚した
この時点でピンときますか?
自分でtopiramateを処方した経験はないため、私はあまりピンときませんでした。。。
AEDの中枢神経系への作用
・めまい、複視、運動失調、視力障害、傾眠傾向などが中枢神経系の副作用
・中枢神経系副作用は、投与後20分~1時間の間に起きるのが典型的
◦薬物血中濃度のpeak時間と一致する(peak dose effectという)
・peak dose effectは新規にAEDを開始したか、用量を増量した時によくみられる
◦これ以外の状況でも見られることはある
・ERで疑った場合には、症状改善まで被疑薬を中止し、低用量から再開する
◦低用量でも副作用が起こるようであれば別のAEDへの変更が必要になる
TopiramateとZonisamide使用による尿管結石
・topiramate使用は尿管結石リスクを2-4倍に増加させる
◦尿pH上昇、尿中へのクエン酸排泄減少/NaやCa、シュウ酸分泌増加などの作用あり
◦尿管結石リスクとは関連がないとする報告もあるが…。
・Zonisamideも尿管結石リスクを上昇させることが知られている
・topiramateやzonisamide内服中の患者に尿管結石を認めた場合には異なるAEDに変更すべし
◦どうしてもコントロールつかない場合のみ継続を考慮
AED使用と重症薬疹
・SJS/TENは重症薬疹であり、皮膚や粘膜への水泡形成を特徴とした致死的疾患
◦多くはlamotrigineで報告されている
‣やや頻度は落ちるがphenytoin, carbamazepine, phenobarbitalでも報告あり
‣さらに頻度は落ちるがvalproic acidでも起きうる
・重症薬疹が見られた場合には即座に薬剤を中止しなければならない
・重症薬疹は致死的であるためしばしばいかなる皮疹ができても薬剤を中止する措置をとることがあるが…
carbamazepine、oxcarbazepine使用による低Na血症
・低Na血症の症状は非特異的であるため、carbamazepineやoxcarbazepine使用者では疑いの閾値を下げること
・carbamazepine内服中の28%、oxcarbamazepine内服中の48%に低Na血症(<134mEq/L)発症
◦carbamazepineの7%、oxcarbamazepineの22%で重度の低Na血症(<128mEq/L)を呈した
◦症状があったのは、Na<134mEq/Lの35%、Na<128mEq/Lの72%
◦それぞれの薬剤の血中濃度増加と低Na血症の関連性が認められた
・けいれんコントロール良好な場合には投与量を減量することを考慮
valproic acidに関連した高アンモニア血症
・高アンモニア血症の症状も非特異的
◦嘔吐、食欲低下、運動失調、意識障害、痙攣の増加など
◦未治療の場合には脳浮腫により昏睡、死に至る
・高アンモニア血症に対する治療はvalproic acidの中止が最も有効
◦levocartineやlactuloseも補助療法として効果的と報告あり
AED内服中の患者に対しては、不調が副作用によるものの可能性があるため今後はより注意してみていきたいと思います。