みなさんの施設では軽症の憩室炎をどのようにマネジメントしていますか?
当院では軽症のいわゆる単純性憩室炎では抗菌薬投与で外来フォローしています。
治療失敗はそれほど多くない印象です。
憩室症は80歳以上の2/3以上に発症し、そのうち20%ほどが憩室炎になります。
基本的に急性憩室炎は入院適応となる疾患であり、国際的に入院率が上昇しているようです。高齢化の煽りもあるのでしょうか。
ご存知の通り、急性憩室炎に対しては抗菌薬投与が管理の基本です。
ただマネジメントの推奨は、複雑性憩室炎に関してはエビデンスが集積されてきていますが、合併症のない急性憩室炎への抗菌薬投与についてはlow-level evidenceに基づいた対応となっています。
過去10年ほどで、非複雑性憩室炎に対する外来マネジメントを支持する報告が出てきています。
さらに、抗菌薬投与の必要性についても疑問視されています。
これまでの研究では抗生剤なしとの非劣性は示されていますが、placeboとの対照試験ではありませんでした。
(Br J Surg. 2012 Apr;99(4):540./Br J Surg. 2017 Jan;104(1):52-61.)
Jaung R et al. Antibiotics Do Not Reduce Length of Hospital Stay for Uncomplicated Diverticulitis in a Pragmatic Double-Blind Randomized Trial.
Clin Gastroenterol Hepatol. 2020 Mar 30:S1542-3565(20)30426-2.
PMID: 32240832.
Clin Gastroenterol Hepatol. 2020 Mar 30:S1542-3565(20)30426-2.
PMID: 32240832.
STAND (Selective Treatment with Antibiotics for Non-complicated Diverticulitis) studyは、ニュージーランドとオーストラリアで行われた多施設プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験で、標準的な抗菌薬治療とplaceboが比較されました。
・対象は4つの病院から異なる期間(2015年12月~2019年5月まで)に集積され、Hinchey 1aの非複雑性急性憩室炎(穿孔や膿瘍形成なし、腹膜炎なし)を満たす患者
※Emergency medicine reportsより抜粋
・以下の患者は除外された
◦SIRSに2項目以上該当する
◦言語または認知症の影響で同意が得られなかった
◦抗菌薬に対するアレルギー反応の既往
◦ラクトースアレルギー
◦受診前に5日以上のステロイド使用をした
◦受診6か月以内に免疫調整座位や生物学的製剤を使用した
◦1週間以上にわたりNSAIDs常用歴あり
◦今回の憩室炎に対して抗菌薬静注1回以上、内服2回以上受けた
◦妊娠中
◦CTで複雑性憩室炎の所見を認めた
・459人がスクリーニングされ、279人が除外、最終的に180人が抗菌薬群またはプラセボ群にランダムに割り付けられた
◦各群には抗菌薬静注/経口またはplaceboが割り当てられた
・退院基準は、抗菌薬内服可能+経口摂取可能+経口鎮痛薬のみで鎮痛可能+安全に日常生活遂行可能
・primary outcome…退院までの入院時間
◦入院時間に有意差なし(P=0.15)
◦抗菌薬群40.0時間 (95% CI, 24.4–57.6) vs プラセボ群45.8時間(95% CI, 26.5–60.2)
・secondary outcomeも有意な差はなし(外科的介入の有無など含む)
◦プラセボ群のうち1名が症状増悪、CT見直しで複雑性と再分類されている
個人的にはこの研究を受けても、現時点ではこれまで通りの抗菌薬投与を行う方針にはしたいと思います。こんな軽症なら入院させないかもしれないし。
ただ、患者によっては抗菌薬を投与しなくてもよい選択肢がある可能性があることは新たに分かったことで今後の研究次第では軽症憩室炎に抗菌薬投与を行わない時代も来るかも。