前回に引き続き、「妊娠初期の救急疾患」についてのreview③です。
やっとManagement編です!
Emerg Med Pract. 2019 Jan 1;21(Suppl 1):1-2.
Points & Pearls: First trimester pregnancy emergencies: recognition and management
輸血
・Rh(D)陰性の女性で感作されていない場合に限り、分娩後72時間以内の抗D免疫グロブリン投与が考慮される
・妊娠第1期の性器出血において、Rh(D)陰性患者に対する抗D免疫グロブリン投与の有益性は証明されていない
◦妊娠12週以前に妊娠喪失した患者に対する抗D免疫グロブリン投与は議論の余地がある
→妊娠初期では(特に少量の出血であれば)抗D免疫グロブリン投与を差し控えるのが良いだろう
→大量出血や妊娠12週以降では投与を考慮
日本人はおよそ200人に1人がRh(D)陰性です。これは特に女性の場合には問題になることがあります。
もしも、父親がRh(D)陽性の場合、頻度からいうと大抵胎児もRh(D)陽性になるようです。
母親のRh(D)陰性の血液中に、胎児の(もしくは輸血された)Rh(D)陽性血液が流入すると、およそ4-8週間ほどの時間をかけて抗Rh(D)抗体ができるようになります。
ひとたび抗体ができてしまうとどうなるでしょう?
次回妊娠の際に母体血液が胎児に流入し、胎児貧血/死亡につながることが知られています。
そういう理由から分娩時の出血では抗D免疫グロブリンを投与して、抗体産生をさせないようにします。
とりあえず妊娠第1期の出血に対して抗D免疫グロブリンは不要と考えてよさそうです。
流産
・胎児心拍が確認できる場合…まだ妊娠継続できる可能性あり
◦切迫流産+胎児心拍確認できた場合、3.4%が完全流産した
◦別の研究では、重度の出血をきたした場合には11-18%ほどの流産率
→胎児心拍が確認でき、少量の出血であれば妊娠を継続できる可能性が高い
・安静が流産予防に効果があるというデータはまだエビデンスがない
・不全流産になってしまい、残存物がある場合には除去
◦習慣性流産の場合には、その残存物を病理検査へまわすこと
・もしも非生存妊娠(nonviable pregnancy)と判断した場合
◦どのように対応するか(経過観察、薬物による対応、外科的対応)は有意性なし
‣一般的には、50-80%の不全流産患者では7-10日程度で完全流産となる。
・ERで流産と診断された際に、多くの患者は説明が不十分であったと感じている
→それを避けるためのガイドラインもある
流産を疑った場合に最も知りたいことは、妊娠が継続できるかどうかです。
おおよそのリスクは以下の2つが大きく関与するようです。
①胎児心拍の有無
②出血量
胎児心拍があり、出血もspot程度なら流産になる可能性は低そうですし、
胎児心拍もエコーではっきりせず、重度の出血(通常の月経と同量かそれ以上)であれば残念ながら流産になる可能性は高いと考えらえます。
妊娠第1期ではできることは限られていますので、エビデンスは乏しいといいつつもひたすら安静にさせるくらいしか方法がないのが現状なのでしょう。
異所性妊娠
・バイタル不安定かつ異所性妊娠疑いであればすぐに産婦人科コール、ただちに蘇生
・安定+超音波検査でIUP診断を受けていない妊娠中の患者
→β-hCG検査と超音波検査の再検が必要になるため、48時間後に再受診してもらう
※安定とは…正常なバイタルサイン、異所性妊娠破裂の超音波所見なし、フォローアップ可能と考えられる患者
・バイタル安定した異所性妊娠患者…治療選択肢はいろいろ
◦methotrexate筋注で管理を行うことが一般的
‣初期β-hCG>500の場合には、単回投与では失敗に終わる可能性が高い(OR5.45)
‣胎児心拍があることも治療失敗の予測因子(OR9.1)
‣さらに禁忌がないことが必要で、この治療はなかなかハードル高い
◦または、卵管切除/摘出術を行う
・とはいえ、最近は経過観察することももしかしたらよいのでは、、、というデータも出てきている
◦methotrexate筋注 vs placeboで、同等のoutcomeであった
‣inclusion:血行動態安定、初期β-hCG<2000、治療開始前48時間でβ-hCG低下、経膣超音波で卵管妊娠が確認できる、サイズ≺5cm、挙児希望あり
◦β-hCG<1500であればmethotrexate vs placeboで効果同等(RCT)
異所性妊娠の最重要ポイントは、破裂を疑ったら即手術!です。
バイタル不安定、超音波で腹水、妊反陽性なら即コンサルトです!
安定している異所性妊娠については正直産婦人科のDr.に対応を考えてもらうことになると思います。methotrexate使ったりするんですね~。卵管切除症例しか見たことありませんでした。
NVP
・NVPに対する投薬としてfirst lineは以下の薬物(class A recommendation)
◦pyridoxine(Vitamine B6) 10-25mg 1日3-4回 ± doxylamine 12.5mg 1日3-4回
◦非薬物的対応として以下も推奨
‣リストバンドによるP6指圧(手関節掌側中央から3横指下にある経穴、腱と腱との間)
‣生姜(カプセルになったものを250mg 1日4回)
※doxylamine…鎮静作用のある抗ヒスタミン薬
・入院を要する重度のNVPに対するP6指圧リストバンドはプラセボと比較して効果あり
◦嘔気、嘔吐、ケトン尿、入院滞在期間を減少させた
◦https://exploreim.ucla.edu/self-care/acupressure-point-p6/には自分でできる方法も載っている
‣P6を4-5秒指圧するだけでよい
・NVPに対しては、いろいろなtrialがされている
◦軽度のNVP…pyridoxine and gingerが効果的/中等症のNVP…pyridoxine and doxylamineが効果的(2016 systematic review)
◦軽症~中等症のNVPでは、生姜がpyridoxineやplaceboに比較して有効(2017 RCT)
◦doxylamine10mg + pyridoxine10mgはplaceboに比較して有効(2016 RCT)
・もしもpyridoxine(±doxylamine)に効果がなければ、段階的に治療を強化する
◦そのほかの有効な薬物は認められなかった(2015, Cochrane review)
◦ERで輸液を要する場合にはmetoclopramide10mgはreasonableで、胎児奇形リスクなし
◦ondansetronは胎児心奇形リスク軽度あり、なるべくほかの方法を考慮(2016, systematic review)
・症状が重度の場合には輸液を要する
◦生理食塩水 vs D5NS(5% dextrose in 0.9% saline)で、3000mlを24時間で持続投与
→outcomeはほぼ同等であったが、8時間/16時間時点での嘔気はD5NS群で軽度だった
(1時間/24時間時点では変わらず)
◦さらに、ACOGはWernicke脳症予防のためにチアミン投与を推奨
NVPに対してはfirst choiceはpyridoxineと鎮静性抗ヒスタミン薬(ア〇ラックスPとか)を処方してあげればよいでしょう。生姜や指圧が効果があるのは驚きでした!
救急外来のsettingでは、糖含有液にビタミンB1混ぜてmetoclopramideも点滴してあげればよさそうです。それでもだめそうだったり、妊娠悪阻の定義に当てはまるようであれば入院を考慮しましょう。
無症候性細菌尿
・2005 IDSA guidelineを受けて、無症候性細菌尿は治療すべきとされている
‣胎児死亡率は変わらず
◦標準的な7日間治療に比較してより短期間での治療は効果が薄い可能性あり
・妊婦のUTI(無症候性細菌尿~膀胱炎)に対する薬剤
◦特定の薬剤を推奨する根拠なし(2011 Cochrane review)
⇒Local antibiotic resistance patternと照らし合わせて考えよ
◦一般的にはamoxicillin 875mg 1日2回 or cephalexin 500mg 1日4回がfirst line
‣nitrofurantoinは日本では入手できない
◦ST合剤などは安全ではあるが、基本的に上記薬剤が使用できない際のオプション
・妊婦の腎盂腎炎
◦ceftriaxone 1g IV がfirst choice
◦外来:ceftriaxone筋注2日間+cephalexin経口投与 vs 入院:ceftriaxone静注
→外来治療を受けた57人のうち6人が入院し、そのうち1人は敗血症性ショックとなった
⇒現時点では、外来治療を指示するエビデンスには乏しい=原則入院
女性に対する尿検査はいつでも大きな意味を持つような気がします。
・妊娠可能年齢であれば妊娠反応検査
・妊娠初期であればケトン尿
・妊娠後期なら蛋白尿(子癇など)
さらに、妊婦では細菌尿や亜硝酸塩に注目です。
無症候性と判断しても腎盂腎炎への進展予防のため治療が必要になります。
妊婦の腎盂腎炎も基本的には入院と覚えておきましょう。
虫垂炎
・現時点では妊婦に対しては抗菌薬による保存的治療はそれを支持するデータなし
⇒全患者が外科的手術のために入院
◦虫垂炎の妊婦を抗菌薬のみで保存的治療を行った小規模なtrialあるが…
‣25%が治療失敗、胎児には影響なし
◦妊婦は非妊婦に比較して合併症の頻度が明らかに高い
やっぱり妊婦はリスキーです。
現代は虫垂炎は保存的治療することがhot topicsとなっていますが、妊婦は大体のtrialで除外項目に入っていてまだ安全性が確立されていません。原則手術になります。
今回のreviewは以上です。結構ボリューミーになってしまいました。
妊婦の対応は難しいです。。。
今後も継続的に学んでいきたいと思います。