妊娠第2-3期のEmergencyについてまとめておきます。
医学は進歩しているのになかなか妊産婦死亡率は変化がないそうです。
Emergencyの発症を早期に確知して、適切な対応をとれるように準備しておきたいものです。
※こちらはEmergency medicine reports 2020年12月号のまとめになります。
- 切迫早産(preterm labor, premature labor)
- 絨毛膜羊膜炎(Chorioamnionitis)
- 分娩前異常性器出血(Antepartum Hemorrhage)
- 常位胎盤早期剥離(Placental Abruption)
- 前置胎盤(Placenta Previa)
- 前置血管(Vasa Previa)
- 癒着胎盤(Placenta accreta)
- 高血圧性疾患
- まとめ
切迫早産(preterm labor, premature labor)
疫学/病態生理
・在胎週数37週前に発症する、子宮頸部の変化を伴う定期的な子宮収縮と定義される
・米国では、全出生のうち12%が切迫早産を経験し、早産児の半数は切迫早産が先行
・切迫早産は胎児死亡/合併症の主要な原因となっており、新生児死亡のうち約70%を占める
切迫早産のリスク因子
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・年齢≺18歳または>40歳 ・社会的経済的貧困
・早産の既往 ・生殖器系の手術歴
・自然流産の既往 ・多胎妊娠 ・子宮の解剖学的異常
・コカインやたばこの使用 ・アフリカ系アメリカ人
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・子宮内感染/血管異常/子宮過膨張/母体-胎児の耐性低下/頸管無力症/内分泌障害はすべて切迫早産の刺激因子となる
診断
・切迫早産の患者を正確に特定することは、胎児の転帰を改善し、早産に進展しないであろう患者の不必要な入院や治療を避けることができるため重要である
・切迫早産は、妊娠後半期に数時間持続する子宮収縮/腹部や骨盤部の症状を訴える場合には考慮されるべし
◦帯下の性状の変化/性器出血/骨盤部圧迫感/背部痛/羊水漏出などを訴えることもある
・子宮収縮については、子宮頸管が開いているか閉じているかによって疼痛を感じることもあれば感じないこともある
◦子宮収縮の頻度/持続時間/強度に注意すること
・経膣超音波は胎児の体重/羊水量/胎盤の位置/子宮頸管の長さを特定するためにしばしば行われる
◦子宮頸管が30mmを超えている場合には早産は起こりにくいとされる
・非侵襲的胎児子宮モニタリングは切迫早産と前駆陣痛(Braxton-Hicks contractions)を区別するために必要な基準になる
・産婦人科医による胎児性フィブロネクチン測定や腹壁誘導が実施されることもある
※胎児性フィブロネクチンの増加は早産と関連
※electrohysterogram(腹壁誘導)…胎児の心臓で発生する電位変化を腹壁上より誘導する方法
・切迫早産の鑑別診断は以下
◦常位胎盤早期剥離
◦尿路感染症
◦卵巣嚢腫/捻転
◦急性虫垂炎
◦子宮内胎児死亡
マネジメント
・切迫早産が疑われた場合には産婦人科医へコンサルトすること
・妊娠34週以降の切迫早産では、そのまま出産に移行することが一般的
◦切迫早産と診断された患者の10%未満が7日以内に出産
◦30%が自然に改善してしまう
・切迫早産の管理目標は以下
◦切迫早産の刺激因子となるものの特定
‣胎児と母体にとって致命的な原因…敗血症など
◦禁忌がない限り妊娠を継続させること
・切迫早産患者の25%が上記に失敗する
子宮収縮抑制剤
・子宮収縮抑制剤…硫酸マグネシウムやβ-agonistsなど
・これらは最大48時間以内で有効であり、産婦人科医が必要と判断した場合にのみ投与される
・硫酸マグネシウム…細胞内Caに拮抗し、子宮の弛緩を可能にする
◦副作用…神経学的異常/呼吸抑制/低血圧/不整脈
‣心臓モニタリングと母体の腱反射(高Mg血症で腱反射低下)をモニタリング
‣毒性が生じた際にはグルコン酸Ca 1g静注によりリバースすることができる
・β-agonists(terbutalineなど)…Caに結合する酵素を活性化し、平滑筋弛緩作用を持つ
◦副作用…低血圧/不整脈/頻脈による心筋虚血/肺水腫など
◦胎盤も通過するため、胎児頻拍や脳室内出血を引き起こす可能性もある
・子宮収縮抑制剤を単独で使用したときに新生児予後を改善させたという報告はない
子宮収縮抑制剤使用の絶対禁忌
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・在胎週数<34週 ・活動性の性器出血
・胎児機能不全 ・絨毛膜羊膜炎
・子癇前症/子癇 ・DIC ・母体の状態が不安定
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ステロイド
・数日内に出産リスクがある+在胎週数24-34週の妊婦に対しての使用が推奨される
◦早期破水や多胎妊娠を含む
切迫早産に使用される薬剤のまとめです。
薬剤
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用量
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副作用
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4-6gを30分かけて点滴静注
→2-4g/hrで持続静注
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・神経学的異常(腱反射低下)
・テタニー
・呼吸抑制
・低血圧
・不整脈
・心停止
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Terbutaline
(β-agonist)
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・2.5-5mgを2-4時間毎内服
・0.25-0.5mgを2-4時間毎皮下注
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・胎児:頻脈関連脳室内出血
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Betamethasone
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12mgを24時間毎筋注2回
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・子宮収縮抑制剤を併用すると母体肺水腫を発症しうる
・PPROMの場合には新生児/母体感染症を増やす可能性がある
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Dexamethasone
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6mgを12時間毎筋注3回
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上記と同様
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早期前期破水(Preterm Premature Rupture of Membranes:PPROM)
疫学/病態生理
・前期破水(PROM)は、分娩開始の少なくとも1時間以上前に胎児膜が破綻することと定義される
◦いかなる在胎週数であってもよい
・早期前期破水(PPROM)は在胎週数37週未満で発症する前期破水のこと
◦全ての早産児の約1/3に発症するイベント
・PPROMの多くの患者は、数日以内に自然に分娩が始まる
◦少数が数週間~数か月にわたって分娩が起こらずにいる
・妊婦の10%がPROM、3%がPPROMを発症する
PROM/PPROMのリスク因子
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・結合組織病 ・PPROMや早産の既往
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・PROM/PPROMでは絨毛膜羊膜炎などの子宮内感染症発症のリスクが増大する
◦胎児感染(肺炎や髄膜炎など)の原因となりうる
◦PPROM症例の最大20%が新生児敗血症の原因となる
・PPROMの非感染性合併症は臍帯脱出/胎児機能不全/常位胎盤早期剥離がある
診断
・PROMの患者は羊水の噴出/持続的漏出を経験することが一般的
◦尿失禁や生理的帯下の増加と誤診される可能性がある
・無菌的に膣鏡検を行い分泌液採取、胎児や臍帯の脱出の有無を検索する
・破綻していない羊膜を破綻させる可能性や感染を防止のため子宮頸部の指診は避ける
・腟分泌物の検査で羊水と帯下の鑑別をする
◦スライド上でシダ状結晶形成…羊水
◦分泌物のpH>7であればPROMの診断となる
‣ニトラジン紙でアルカリ性を示す…羊水
‣帯下のpHは3.8-4.5、羊水のpHは7.1-7.3
‣偽陽…血液/精液/アルカリ性消毒薬/特定の潤滑剤/trichomonas/細菌性膣炎の存在
‣偽陰性…持続的な羊水漏出により残存羊水が非常に少ない場合
・超音波検査はPPROMが疑われる場合には実施され、羊水量/胎児体重/病状の把握がされる
マネジメント
・PPROMが疑われる場合には産婦人科へのコンサルトを要する
・基本的には入院管理がされる
・臍帯脱出/胎児徐脈(羊水減少による臍帯脱出により引き起こされる)/絨毛膜羊膜炎があれば緊急での分娩適応
・子宮収縮抑制剤やステロイド使用は、母体/胎児感染リスク増大と関連する可能性があり議論が残る分野
・広域抗菌薬予防的投与により新生児敗血症を減らし、妊娠継続ができうる
◦しかし、敗血症を引き起こすグラム陰性菌/ampicillin耐性菌の増加に関連している
◦最適な抗菌薬レジメンは決まっていない
絨毛膜羊膜炎(Chorioamnionitis)
疫学/病態生理
・絨毛膜羊膜炎は、絨毛膜/羊膜/胎盤の急性炎症を指し、多くはPROMに起因した頸管や膣由来の多細菌群による上行性感染である
◦Mycoplasmasが最も一般的な起因菌
・まれだが、血行性機序による絨毛膜羊膜炎がある
・感染に対する炎症反応によりprostaglandinが放出され、頸管が成熟/羊膜損傷、分娩へと至る
・胎児敗血症の原因となるだけではなく、新生児の脳性麻痺やその他の神経障害の発症にも関連する
・早産の40-70%、正期産の5%ほどに合併しうる
絨毛膜羊膜炎のリスク因子
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・母体年齢が若い ・社会的経済的貧困 ・複数回の膣検査
・喫煙 ・GBSのコロニー形成 ・硬膜外麻酔
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診断
・95-100%の症例で発熱を呈する
・子宮の圧痛や化膿性帯下も症状となる
・胎児モニタリングで頻脈/胎児心拍数基線細変動の減少を示しうる
・血液検査で白血球上昇/好中球上昇などの所見は、臨床的な疑いを持つきっかけになりうる
・疑われる場合には血液培養に加え、Escherichia coliやgonorrheaなどを想定した頸管培養やchlamydia/mycoplasma/GBSなどを想定した膣培養をとっておくこと
・診断確定のために羊水穿刺をして羊水培養を行う場合もある
マネジメント
・絨毛膜羊膜炎に対する広域抗菌薬の早期投与は母体/新生児の合併症を減らす
◦母体合併症…敗血症/子宮内膜炎/骨盤膿瘍/分娩後出血/帝王切開を要することなど
・一般的なレジメンは以下
◦ampicillin 6時間毎+ gentamicin 8-24時間毎静注
◦penicillin allergyでは、vancomycinが代替抗菌薬
分娩前異常性器出血(Antepartum Hemorrhage)
・妊娠後期に発症する標準的な身体的変化により、出血を呈する患者の血行動態評価が難しくなることがある
◦妊娠第3期には心拍数10-20bpm増加
◦血圧は妊娠第2期で最低になるが、妊娠第3期で上昇
◦妊娠全期間を通じて総血液量/血漿量/赤血球量が増加
・適切な晶質液投与による蘇生と、血液製剤の早期投与が重要であることは、妊婦以外の出血性ショックの対応と変わらない
・妊娠初期と同様に、妊娠第3期のRh陰性女性ではRh陽性胎児を妊娠している場合に、同種免疫リスクがある
⇒第2子以降の妊娠で重大な胎児合併症につながる可能性がある
・妊娠28週のRh陰性女性は分娩後3日以内に抗D免疫グロブリンが予防的投与される
・Rh陰性妊娠後期の出血エピソード(や腹部外傷など)では、抗Dグロブリン投与を考慮する必要がある
・同種免疫を予防するのに抗D免疫グロブリン投与が必要か疑問がある場合(母体の外傷や重度の性器出血など)には、Kleihauer-Betke testを行ってもよい
常位胎盤早期剥離(Placental Abruption)
疫学/病態生理
・妊娠24-26週での発症が多く報告されているが、それ以降は分娩までに発症率が徐々に低下する
・米国では常位胎盤早期剥離が全妊娠の0.4-1.0%に発症する
・胎児との酸素交換/栄養供給が減り、低出生体重/未熟児につながる可能性がある
常位胎盤早期剥離のリスク因子
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・母体高血圧 ・高齢出産
・タバコ/コカイン/アルコール
・PROM/PPROM ・常位胎盤早期剥離既往
・羊水過多症 ・絨毛膜羊膜炎 ・鈍的外傷
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・常位胎盤早期剥離は、外傷を負った妊婦では鈍的臓器損傷に次いで多くみられる病態
◦自動車事故、転倒、DVが原因であることが多い
診断
・常位胎盤早期剥離では、性器出血/下腹部痛/子宮収縮を訴えるのが典型的
◦性器出血量が重症度とは関連せず、30%の症例でしか性器出血は起きない
・多くの症例が分娩前に発症する
・超音波は初期評価の第一選択として推奨されているが、感度24%とイマイチ
◦特異度は高い…92-94%
・母体外傷においては、胎児心拍数モニタリングは必須
・必要に応じてCTを選択すること…感度100%
マネジメント
・母体出血と胎児ジストレスへ突然発展しうることから、血液製剤は疑いの段階から取り寄せておくこと
・妊娠36週未満の安定している患者では、経過観察が適切な場合がある
・不安定な患者では緊急帝王切開を要する
・外傷後かつ胎児心拍の異常がある場合には蘇生を開始すること
◦酸素投与、輸液投与、母体の体位変換など
◦胎児心拍の異常が続く場合には緊急帝切が推奨
・母体合併症…敗血症/羊水塞栓症/VTE/AKI/DIC/出血/子宮摘出術の必要性/死亡など
・胎児合併症…子宮内胎児発育遅延/早産(常位胎盤早期剥離の最大60%)/子宮内胎児死亡
・常位胎盤早期剥離は周産期死亡の10%を占め、全胎児死亡の35%を占める
◦常位胎盤早期剥離関連周産期死亡の半数は早産に起因
前置胎盤(Placenta Previa)
疫学/病態生理
・妊娠第3期の性器出血のうち、20%を占める
・多くの症例では、妊娠経過中に子宮が高位に移動することで自然と改善してしまう
前置胎盤のリスク因子
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・高齢出産 ・慢性高血圧 ・タバコ/コカイン
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・前置胎盤は以下の要因のため増加傾向にある
◦帝王切開率の上昇
◦生殖補助医療の使用の増加
◦高齢出産率の増加
診断
・前置胎盤患者では、無痛性の鮮血性性器出血を来すことが典型的
・子宮収縮は20%ほどの患者で訴える
・クスコ使用や指診は禁忌であり、基本的には手術室の準備が整ってからされる
◦検査による胎盤裂傷の懸念があり、それによる大量出血のリスクがあるため
・経膣超音波は安全に施行でき、経腹超音波よりも推奨される
マネジメント
・常位胎盤早期剥離とほぼ同様の対応を行う
◦緊急の産婦人科コンサルト
◦胎児モニタリング
◦必要に応じて輸血を実施
◦緊急輸血や手術ができる施設へ転送する
・妊娠37週以上かつ子宮収縮があるまたは持続性出血がある場合には緊急帝王切開を行うことが標準的
・妊娠37週未満で安定している場合には経過観察することが適切であることがある
・母体合併症…出血/DIC/緊急子宮摘出術の必要性
・胎児合併症…早産/子宮内胎児発育遅延/呼吸窮迫症候群/胎児/新生児死亡
前置血管(Vasa Previa)
・胎児血管の1つが内子宮口を横断し、子宮頸部と胎児との間に挟まっている状態
・胎児娩出前に血管が内子宮口から娩出されることで、血管が破裂して胎児失血の原因となる
・前置血管はまれ(全妊娠の2%未満)である
◦多胎妊娠にはやや多くみられる
・胎児死亡率は50%ほど
・妊娠第2期のルーチン超音波検査などで偶発的に発見されうる
・急性性器出血を伴う妊婦や胎児ジストレスがみられる場合には疑うこと
・原則的には緊急帝王切開を要する
癒着胎盤(Placenta accreta)
・胎盤が子宮壁に異常に癒着または侵入している状態
・分娩時に胎盤が脱落しないことで母体出血を引き起こし、妊産婦死亡率は最大7%にも及ぶ
・癒着胎盤は2000妊娠に1例の割合で発症
癒着胎盤のリスク因子
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・超音波は癒着胎盤の診断に正確性が高い
・患者は専門施設において、在胎週数35-36週に分娩を計画する必要がある
高血圧性疾患
・全妊娠の5%で高血圧を呈する
・米国では、母体死亡の約20%が妊娠関連高血圧症を原因に発生している
・慢性高血圧…2回以上の時点でSBP>140mmHgまたはDBP>90mmHgを呈する場合に定義される
◦妊娠に先行し、妊娠中にも継続し、早産や死産の原因になる
・妊娠自体が高血圧性疾患(妊娠高血圧/子癇前症/子癇など)を誘発しうる
◦これも慢性高血圧と同様に、母体/新生児の予後を悪化させることが知られている
・妊娠高血圧の病態生理はわかっていないことが多い
◦異常な胎盤形成や免疫学的因子などが関与しているとされる
・子宮動脈血管抵抗上昇+血管収縮が起きやすくなる
→子宮内胎児発育不全/子宮内胎児死亡が引き起こされる
妊娠高血圧(Gestational hypertension)
・妊娠20週以降に発症し、分娩12週以内に改善する
・SBP>140mmHgまたはDBP>90mmHg+蛋白尿や浮腫なし
妊娠高血圧のリスク因子
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・高齢出産/年齢<20歳 ・初産 ・多胎妊娠
・妊娠高血圧の家族歴 ・肥満 ・脂質異常症 ・糖尿病の既往
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・一般的には無症状
・まれな合併症として肝細胞壊死/AKI/微小血管障害性溶血性貧血/血小板減少症など
子癇前症(Preeclampsia)
・SBP>140mmHgまたはDBP>90mmHg+蛋白尿や浮腫あり
・近年、蛋白尿の有無にかかわらず、臓器障害(肝不全/腎不全/血液機能不全)の徴候を含有するように拡大されている
※ 血小板減少症/腎不全/肝機能障害/肺水腫/神経学的異常(頭痛や視覚異常など)が認められば子癇前症と診断してよい
・妊娠に関連する浮腫とは異なり、子癇前症による浮腫は手と顔面を含む全身性で、1日中持続することが特徴
・子癇前症では頭痛/視覚障害/上腹部または右季肋部痛を発症することがある
・子癇前症の5-10%にHELLP症候群を発症する
◦HELLP症候群…Hemolysis/elevated liver enzymes/low platelet countからなる
◦胎盤の還流が悪化し、胎児/母体合併症や死亡率を増大させる状態
子癇
・子癇前症+痙攣や意識障害を伴った状態
・痙攣を発症した妊婦では、その他の妊娠関連痙攣の原因を検索しなければならない
・米国では3350妊娠に1例の割合で子癇が報告されている
・子癇発症により母体死亡率は最大14%、胎児死亡率は約1%ほどになる
・最大で1/3ほどの症例において、子癇による痙攣は分娩後に発症し、産後28日まで報告されている
診断
・妊娠20週を超えた妊婦かつSBP>140mmHgまたはDBP>90mmHgである場合には子癇前症を常に考えること
・患者は頭痛/腹痛/浮腫などの非特異的な症状を訴えうる
・高血圧を呈するすべての妊婦に尿検査を実施すること
◦もし尿蛋白陽性であれば、そうでないと診断されるまで常に子癇前症を考えること
・貧血/血小板減少症/肝腎機能障害を評価するために血液検査も実施すること
・HELLP症候群が疑われる場合にはLDHが溶血の特定に有用である可能性がある
・痙攣を呈した妊婦にはpoint-of-care glucose testを行うこと
・子癇を呈する妊婦には頭部CTでは、頭蓋内出血/皮質梗塞/脳浮腫が認められうる
マネジメント
・妊娠高血圧を偶然発見した場合には、血圧/尿蛋白検査/母体体重増加などがないかモニタリングするために外来を紹介すること
・非重症高血圧(気道疾患や徐脈がなければ)に対しては、labetalol 100mg1日2回内服が推奨
◦hydralazine, nifedipine, methyldopaも妊婦への安全性がある
・ACOGでは、子癇前症のリスクがある患者には妊娠16週から出産までaspirin81mg内服を開始することを推奨
・妊娠高血圧や子癇前症では、血圧>140/99mmHgが持続または臓器障害(肝腎血液機能)がある場合には入院を要する
・妊娠高血圧/子癇前症/子癇の根治治療は分娩しかない
・重度の臓器障害がない子癇前症では、ベッド上安静は血圧を下げるのに有効性があるとは示されていない
・痙攣を発症した場合、硫酸マグネシウムを最優先させること
◦硫酸マグネシウム6g点滴静注に引き続き、2g/hr持続静注
‣呼吸抑制と腱反射低下に注意
‣これらの副作用が出たら、グルコン酸Ca1gを静注する
◦phenytoin, diazepam, nimodipineより有効性が示されている
・降圧目標は<160/105mmHgにすること
◦胎盤還流が悪化するためDBP<90mmHgには下げない
◦一般的には硫酸Mg投与単独で達成されうる
◦重度の高血圧の場合にはhydralazineやlabetalolの経静脈投与も考慮
・利尿薬や高浸透圧物質の投与は、胎盤還流を悪化させるため避けるべき
使用薬剤を以下にまとめておきます。
薬剤
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用量
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注意点
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6gを15-20分で点滴静注
→引き続き2g/hr持続投与
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・けいれんを伴う子癇の第一選択
・呼吸抑制や神経学的異常、低血圧に注意
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diazepam | 40mgを静注 |
・けいれんを伴う子癇の第二選択
・過鎮静に注意
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phenytoin
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50mg/minの速度で1250mg点滴投与 |
・けいれんを伴う子癇の第二選択
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hydralazine
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・5-10mg 15-20分毎静注
・目標DBP90-100mmHg
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・反射性頻脈や体液貯留の原因となりうる |
labetalol
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・20mg静注
→40mg静注
→80mg静注を10分毎に投与
・合計220mgを越えないこと
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・喘息には禁忌 |
まとめ
・切迫早産はcommonであり、早産に発展しうる病態であり、世界的に新生児死亡の主要な原因である
・妊娠後半期の、数時間持続する子宮収縮/腹部や骨盤部の症状を訴える場合には切迫早産を考慮する
・切迫早産に対する子宮収縮抑制剤やステロイドの役割を理解しておく
・PROM/PPROMでは絨毛膜羊膜炎などの感染性合併症と、臍帯脱出/胎児機能不全/常位胎盤早期剥離などの非感染性合併症がある
・PROMでは羊水の持続的漏出があるが、尿失禁や生理的帯下の増加と誤診される可能性がある
・PROMにおいて臍帯脱出/胎児徐脈/絨毛膜羊膜炎などがあれば緊急分娩の適応となる
・PROMに対する広域抗菌薬予防的投与は新生児感染症を減少させる
・絨毛膜羊膜炎は発熱を呈する妊婦では常に想起しておき、新生児/母体の予後を改善させるためには早急な抗菌薬投与が重要
・妊娠後期の妊婦の性器出血/下腹部痛では常位胎盤早期剥離を疑うが、性器出血がない症例も見られることに注意する
・腹部外傷の妊婦では常位胎盤早期剥離の存在を疑い、胎児心拍モニタリングを行う
・Rh陰性女性がRh陽性胎児を妊娠している場合には同種免疫リスクがあり、将来の妊娠において重大な胎児合併症につながる可能性がある
・Rh陰性妊婦の妊娠後期の出血性エピソードや腹部外傷などでは抗D免疫グロブリン投与を考慮する必要がある
・妊婦の高血圧を偶然発見することがあるが、重大な事象としてとらえて対応する
◦母体死亡の20%は高血圧に由来する
・妊娠20週を超え、SBP>140mmHgまたはDBP>90mmHgを呈する場合には子癇前症を常に考える
・子癇前症の症状は非特異的で頭痛や腹痛、浮腫などを呈する
・高血圧を呈する全ての妊婦に尿検査を実施し、尿蛋白陽性であればそうでないと判断されるまで子癇前症を考える
◦蛋白尿が陰性であっても臓器障害があれば子癇前症と診断してよい
・血圧>140/99mmHgが持続または臓器障害(肝腎血液機能)がある場合には入院を要する
・痙攣を発症した場合(子癇)には硫酸マグネシウム投与を優先させる