りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

RCT:くも膜下出血に対する「超早期トラネキサム酸投与」は臨床的予後を改善させるか?

出血へのトラネキサム酸投与はよく議論されている分野です。
 
今回はトラネキサム酸 vs くも膜下出血についてです。
 
 
動脈瘤くも膜下出血は、再出血により臨床的予後や死亡率が悪化することが知られています。
(Stroke. 2018 Feb;49(2):333-340.)
 
その再出血は外科的介入により予防することが可能であるため、なるべく早期の介入が推奨されていますが、再出血の大部分は24時間以内/半数は3時間以内に発生するため、再出血率は依然として高いままです。
(Stroke. 2012 Jun;43(6):1711-37./Cerebrovasc Dis. 2013;35(2):93-112./J Neurol. 2014 Jul;261(7):1425-31.)
 
「再出血」に抗うためになるべく早期の外科的介入とともに、トラネキサム酸(TXAと略)が投与されてきた歴史があります。
1984年、入院全期間中TXA投与を行う「長期間TXA投与」による再出血への効果は遅発性脳虚血のリスクを増加させることにより相殺されてしまい、臨床転帰に有益な効果を示すことが出来なかった
(N Engl J Med. 1984 Aug 16;311(7):432-7./Cochrane Database Syst Rev. 2013 Aug 30;(8):CD001245.)
・2000年、nimodipine治療+normovolemia維持と「TXA長期間投与」の組み合わせにより、遅発性脳虚血のリスクを増加させることなく、再出血リスクを低減させることが示されたが、臨床転帰に有益な効果は示されず
(Neurology. 2000 Jan 11;54(1):77-82.)
・2002年、TXAによる治療期間を最大72時間までに短縮すると(短期間TXA投与)、再出血率を下げ遅発性脳虚血を増加させることはなかったが、それでも臨床的予後への影響は不明瞭であった
(J Neurosurg. 2002 Oct;97(4):771-8.)
 
 
ってことで、ここから本題です。
再出血率を最低限にするために診断直後にTXA投与を行う
「超早期"Ultra-early"TXA投与」
ならどうなんよというのが今回の研究です。

 
Post R, et al; ULTRA Investigators. Ultra-early tranexamic acid after subarachnoid haemorrhage (ULTRA): a randomised controlled trial.
Lancet. 2021 Jan 9;397(10269):112-118.
PMID: 33357465.
 
 
・prospective, randomised, controlled, open-label trial
・オランダの多施設での研究、2013年7月~2019年7月
 
・18歳以上、CTで診断された発症から24時間以内のくも膜下出血が対象となった
・除外は以下
 ◦中脳周囲出血パターン+GCS13-15+発症後の意識消失なし/入院時点での神経学的異常なし
 ◦外傷性くも膜下出血
 ◦DVTやPEの治療中
 ◦凝固障害の病歴
 ◦妊娠
 ◦重度の腎障害
 ◦24時間以内の差し迫った死が見込まれる
 
・患者はCTでSAHを診断された後、ランダムに1:1に以下の各群に割り付けられた
 ◦TXA群:通常治療に加えて早期にTXA投与
  ‣TXA 1g静注に引き続き、8時間毎に1gずつ追加投与
  ‣投与は最大24時間または動脈瘤への根治的治療が終わるまでのいずれかが満たされるまで行われた
 ◦control群:通常治療のみ
 
・primary outcome…6か月時点でのmRS0-3
重篤な有害事象は以下と定義された
 ◦動脈瘤治療前の再出血
 ◦水頭症
 ◦遅発性脳虚血
 ◦動脈瘤治療の合併症…血栓塞栓症、破裂、脳梗塞など
 
 
 
・最終的に955人が対象となった
 ◦480人がTXA群、475人がcontrol群にランダムに割り付けられた
・症状発症からCTまでの時間…中央値93分
・TXA群の14%、control群の15%では動脈瘤は認めなかった
・CTから動脈瘤治療までの時間…中央値14時間
・症状出現からTXA投与までの時間…中央値185分

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・primary outcome
 ◦TXA群:control群=60% vs 64%(OR 0·87, 95% CI 0·67–1·13)
 ◦治療施設調整後…aOR 0·86, 95% CI 0·66-1·12
 ◦as-treated and per-protocol解析でも両群間に有意差なし

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・ランダム化~動脈瘤治療までの再出血率
 ◦TXA群:control群=10% vs 14%(OR 0·71, 95% CI 0·48–1·04)
・遅発性脳虚血
 ◦TXA群:control群=23% vs 22%(OR 1·01, 95% CI 0·74–1·37)
・血管内治療中の血栓性イベント
 ◦TXA群:control群=11% vs 13%(OR 0·81, 95% CI 0·48–1·38)

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・Limitation
 ◦TXA治療はマスクされていなかった
 ◦非動脈瘤性SAHが含まれていた
 
 
くも膜下出血に対する「超早期TXA投与」でさえも臨床的予後を改善させることはできませんでした。
再出血率に関しても変わらず、遅発性脳虚血を増やすこともありませんでした。
 
言うても、くも膜下出血に関しては外科的な介入に勝るものはなく、薬物治療なんて補助の補助に過ぎないのでもっとNが必要かな~と思います。
さらに、再出血の半数は3時間以内に発症するため、今回の研究でさえ再出血を防ぐには遅すぎた可能性もあります。
 
 
当院ではSAHの根本的治療はできません。
なので高次医療機関まで雪道だと15-20分ほどかけて搬送しなければなりません。
線路を1つ越えて、凸凹の雪道を越えていくので搬送中に再出血しないかどうか心配でなりません。なるべくゆっくり運転してもらいますけど。
 
この現状を考えると、くも膜下出血と診断したら搬送までの間に入れておきたいかな~と思います。