りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

CLINICAL PROBLEM-SOLVING:担癌患者の呼吸困難

 

今回は、NEJMのCLINICAL PROBLEM-SOLVINGより、

重要ポイントだけを抽出してお伝えします。

 

f:id:AppleQQ:20190121221352p:plain

2019 Jan 3;380(1):81-87.

 

当院救急科では、毎週クイズ形式でこれをネタに勉強しています。

自分の思考回路を整理するのにとても有効だと思います(^.^)

以下の症例のそれぞれの段落毎に鑑別を考えたりすると面白いです。

 

 

症例

 

71歳女性。局所再発と遠隔転移がある乳がん放射線治療歴がある。

先週から自覚している進行性の労作時呼吸困難で受診。活動性は急激に低下しており、歯磨き程度の軽度の労作でも息切れが生じる。立ち上がると頭部不快感を自覚するが、失神/頭痛/視覚異常/胸痛/動悸/咳嗽/発熱/悪心/嘔吐/下腿浮腫なし。

 

☆Learning Point☆①

担癌患者の呼吸困難の原因は以下も考慮
 ◦化学療法による合併症
  ‣肺臓炎
  ‣免疫不全→ウイルス性/細菌性/ニューモシスチス肺炎など
  ‣貧血→頻脈、呼吸困難
 ◦放射性肺臓炎
 ◦癌性リンパ管症
 ◦肺塞栓
 ◦悪性胸水
 ◦肺転移

 

患者は右小葉性乳頭腺癌と15年前に診断。右乳がん腫瘍摘出術と全乳房放射線療法、シクロフォスファミド、メトトレキセート、フルオロウラシルによる補助療法を施行、続けてアナストロゾールを5年間投与。1年前に右乳房皮膚と右腋窩リンパ節に再発性乳頭腺癌が判明、骨シンチ、CT、超音波検査では転移性腫瘍や心室異常は認めなかった。シクロフォスファミド、ドキソルビシン、パクリタキセルによる化学療法を実施し、右乳房とリンパ節切除を実施。しかし、乳房にはがん残存があり、特に脈管内と皮膚リンパ組織に見られ、6か所の切除腋窩リンパ節すべてに遠隔転移を認めた。続けて、シスプラチン+右胸壁放射線照射を併用、CTによる心筋被曝減量処置も実施。放射線療法は受診1カ月前まで実施され、来院時にはカペシタビンによる治療を開始したところであった。

 

☆Learning Point☆

・化学療法薬剤など腫瘍に対して使う薬剤で心毒性のあるものを覚えておく
 ◦アントラサイクリン系…心筋症
  ‣用量依存性…250mg/m3を超えると特に多くなるがそれ以下でも発症可能性あり
  ‣投与1年以内に発症することが多いが10年以上経過後にも発症はありえる
 ◦シクロフォスファミド…出血性心筋炎
 ◦カペシタビン…冠動脈攣縮、左室機能異常(まれ)
・そのほか、特徴的な副作用を呈するのは以下の薬剤や放射線
 ◦シスプラチン/メトトレキセート/パクリタキセルなど…肺臓炎
 ◦胸壁への放射線照射…肺臓炎や心臓晩期合併症が生じうる
  ‣弁膜症、心膜炎、動脈硬化による冠動脈疾患、刺激伝導系の異常、拘束性心筋症

 

患者は発熱しておらず、HR100, BP121/81, RR15, SpO2 92%(2LN)。

頸静脈は胸骨切痕の上、9cmまで拡張。聴診で心音整、吸気で増強する胸骨左縁で最強の3/6の汎収縮期雑音聴取。

 

血液検査 Cre0.82, NT-pro-BNP 5841, TnT0.09, WBC6420, Ht30%, Hb10.8, Plt69000.

胸部レントゲン わずかな心拡大あり、浸潤影や胸水、すりガラス影などなし

心電図 洞調律、低電位、不完全右脚ブロック、V2-3で陰性T波

 

造影CTで、左心室前壁に5-6cmの低吸収性腫瘤を認め、右室流出路を妨害している。右室/左室比≧1。肺塞栓や肺炎、肺臓炎の所見なし。7カ月前の画像ではなかった多発性低吸収性結節が両肺で認められた。

 

超音波では、EF50%、血栓のように見える等エコー腫瘤が右室に存在する。

 

心臓MRIでは、5cm*5cmほどの腫瘤が右室内にあり、肺動脈弁までの右室流出路をかん全に巻き込んでいる。ガドリニウム造影にて異質性(heterogenous)造影効果を認めた。

f:id:AppleQQ:20190121225213p:plain

 

☆Learning Point☆

・心腔内腫瘤の質的診断は心臓MRIにて行う
 ◦造影MRIであれば腫瘍と血栓の鑑別の補助になる
  ‣腫瘍であれば内部に壊死組織が認められうる(異質性=heterogenous

 

 

 

診断:放射線関連肉腫

 

☆Learning Point☆

原発性心臓腫瘍
 ◦極めてまれで、心臓全腫瘍の0.02%
 ◦75%は良性で、粘液腫または繊維弾性腫
  ‣粘液腫の多くは左房由来で、心房内中隔に接している
 ◦肉腫は心臓悪性腫瘍の95%を占め、リンパ腫、中皮腫と続く
  ‣血管肉腫は右心系由来の傾向があり、そのほかは左心系由来
  ⇒右心系の非血栓性心臓腫瘍は悪性腫瘍の懸念が増大する
 ◦放射線関連肉腫は全肉腫の5%未満
  ‣放射線被ばく歴があり、放射線照射域か近接域から発生
  ‣乳がんに対する放射線療法が放射線関連肉腫の促進因子
  ‣予後不良
   …1年死亡率は非切除で90%、切除実施でも35%と高率、生存中央値15カ月
・がんの心臓転移は9%ほど
 ◦乳がんでは多く、15.5%
 ◦転移巣の約2/3は心膜

 

 

個人的には、心臓腫瘍がありそう…というところまでは詰められそうですが、「血栓 vs 腫瘍」で悩んでしまうと思います。

こんな時には心臓MRIの出番なんですね!