前回に引き続き、「妊娠初期の救急疾患」についてのreview②です。
Emerg Med Pract. 2019 Jan 1;21(Suppl 1):1-2.
Points & Pearls: First trimester pregnancy emergencies: recognition and management
今回は第2弾!
鑑別疾患や必要な検査について見ていきましょう!
鑑別疾患
・妊娠可能な女性または妊娠第1期妊婦の腹痛/性器出血をみたら…
◦流産、異所性妊娠は必ず想起すべき
◦膣や子宮頸部の裂創などの外傷
◦卵巣捻転
‣特に、妊娠第1期は黄体の影響で起きやすい
‣生殖医療で卵巣刺激をしている患者も卵巣サイズが大きくなるため要注意
◦妊娠と関連のない腹痛について(特に虫垂炎)も考慮すること
女性の腹部症状と言ったら…まずは異所性妊娠破裂から除外していくのは鉄板です!
1にも2にも異所性妊娠です!とくにバイタル不安定ならなおさらです。
妊娠反応検査と超音波が必須です!
ただ、激烈な腹痛はしばしば多量の腹腔内出血によりショックであっても頻脈にならないことがあります!
これをparadoxical bradycardiaと言います。
個人的には経験症例はだいたいparadoxical bradycardiaを呈していたように思います。騙されないように…。
流産の分類は、学生時代に勉強以来、勉強していなかったように思います。これを機に勉強します。
分類
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特徴
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産科的内子宮口
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子宮内容物
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切迫流産
Threatened abortion
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腹痛、性器出血
妊娠≺20週
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closed
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あり
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妊娠≺11週…90%が流産
妊娠11-20週…50%が流産
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進行流産
Inevitable abortion
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腹痛、性器出血
妊娠≺20週
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open
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あり
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不全流産
Incomplete abortion
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腹痛、性器出血
妊娠≺20週
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open
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なし(some)
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完全流産
Complete abortion
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腹痛、性器出血
妊娠≺20週
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open
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なし
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hCGや出血量から異所性妊娠と鑑別を要する
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Missed abortion
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妊娠≺20週で、胎児死亡から4週間経過
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closed
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あり
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感染流産
Septic abortion
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流産時の子宮感染
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open
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あり
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子宮の圧痛や開いた子宮口からの帯下がありえる
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妊娠20週未満で、産科的内子宮口が開いているか閉じているか、子宮内容物があるかどうかが鑑別ポイントになりますが、日本のERでは妊婦のクスコ診や経腟超音波はやることはあまりなさそうです。知識として持っておけばよいでしょう。
前回も触れましたが、妊婦の虫垂炎も見逃してはなりません。
検査
妊娠検査
・生殖可能年齢の女性が腹痛や性器出血で受診したら…
→必ず妊娠検査を行うこと!
◦尿検査では、hCG濃度が20-50mIU/mLになる、受精後6-8週で検出される
脊髄反射で検査は提出必須です!
流産や異所性妊娠に対する診断的検査
・一般的に、IUPが確認できれば異所性妊娠は除外でよい
◦一般集団では異所性妊娠の危険性は3000-40000人に1人程度しかいないため
◦ただ、生殖補助医療をされている場合はその可能性は100人に1人になるため注意
専門科で「IUP」と診断された場合であっても、生殖補助医療の病歴がある場合には救急医としてはheterotopic pregnancyの可能性はいつも頭の片隅に入れておくべきです。
・安定な患者
◦β-hCG定量検査と経膣超音波検査を実施すべき
・IUPなし+β-hCG>discriminatory zone
◦異所性妊娠とは診断できない!非生存妊娠の可能性もあり!
◦β-hCGを経時的に測定することで鑑別の助けになる(が除外は不能)
‣生存可能なIUPであれば48時間で2倍になることがある(最低でも53%は増加)
‣といっても、異所性妊娠でも48時間でβ-hCG増加が30%、β-hCG低下が20%
生存可能なIUPでは、β-hCGが経時的にぐんっと上昇することが多いことを利用した鑑別方法です。でも、異所性妊娠もあまのじゃくに変化するみたいです。
正直、この辺は専門科にお任せしたほうがよいです。早めの産婦人科フォローをお願いしましょう。
特に、日本の救急外来では血中hCGなんてあまりとらないような気がします。
うちではあんまとりません。
ちなみに、discriminatory zoneとは??な状態でしたので調べてみました。
「超音波で胎嚢が検出可能となる血中hCGレベル」のことみたいです。
一般的に、正常妊娠では1500程度がcutoffとなるみたいですが、
ACOGでは最低3500を推奨しているようです。
普段使わない検査はあまりよくわかりません( ;∀;)
嘔吐している患者に対する検査
妊娠悪阻なのか、嘔吐による合併症はないかの検索です。
・疑った場合には、必ず培養検査まで実施すること
◦尿検査陰性であることは尿路感染を除外するのに十分な陰性的中率を持たない
◦抗菌薬感受性を得られるというメリットあり
・ただし、UTIを疑わない場合の尿培養検査は支持されない
後日フォローする身にしてみたら培養結果があった方がいいに決まってますよね。
妊婦の発熱のときには要チェックです。
虫垂炎を疑う場合
・超音波がfirst choice
◦でも、妊婦に対しては感度18%(MRIは100%)
◦特異度はいずれも97-99%と高い
・MRIは診断に最も有用
◦meta-analysisでは感度94%/特異度97%
→できる環境ならば妊婦の腹痛に対してはこちらがfirst choiceでよい
・MRIについては胎児に影響がないことは140万人の妊婦に対するretrospective studyからわかっている
⇔gadolinium造影は死産、新生児死亡、新生児皮膚疾患などと関連あり
◦造影剤は使用しないこと!
・CT…MRIが使えず、超音波では除外できないときに使用
◦虫垂炎検索のためであれば胎児の限界線量を超えることはない
◦妊婦が腹膜炎になると早産率4倍になる…
→必要なときにはCTも考慮
虫垂炎を疑う場合には、基本的には超音波検査がfirst choiceではありますが感度が低すぎます。相当慣れていないと難しいです。
施設によっては超音波で確定診断→手術になるかもしれませんが、いろんな病院の同期に聞いてみると、主流はしっかり他覚的所見を得てから手術になることが大多数のようです。
妊婦って腹膜炎になりやすいですし、腹膜炎になると早産リスクですし。
なるべく感度と特異度の高い検査で診断を詰めたいものです。
腹膜炎になっていてショック!みたいな場合には、胎児への影響うんぬんを議論している暇はありません。即座に同意を得て、CTへ進むべきでしょう。
ちなみに、妊娠中の放射線被曝についてもまとめられています。
妊娠中の放射線被曝
・CTなど使用の際には、胎児への電離放射線のリスクを考慮しておかなければならない
◦救急医は原則的に妊婦への放射線被曝を避けさせるべき
・以下の状況では、胎児への放射線被ばくリスクが低く、無視できるほど
◦頭頚部の検査(CT含む)
◦股関節以外の四肢のレントゲン、CTなど
◦胸部レントゲン写真
・ERにおける1回の評価で胎児の催奇形性リスク閾値を超えることはまずない
◦ただし、妊婦の子供の悪性腫瘍発生率は理論的に増加する
↔絶対的なリスクは比較的小さい
◦致し方ない状況では腹部骨盤部CTも文書でリスクについて合意を得るべき
‣できる限り別の画像評価を考えたい
・ヨード造影剤は胎盤を通過するが胎児への危険性はないとされる
◦動物実験でも安全性は証明されている
◦ただし、limited dataのため注意
◦ACOGは「どうしても必要な場合のみ」に限り推奨
・一方で、gadolinium造影剤はできる限り避けること
自分の子供では…と考えるとできるだけ被曝はさせたくありません。
一応、CDCによればヒトにおける催奇形作用の実質的な閾値として0.1~0.2Gy(100-200mGy)が提案されてはいますが、避けるに越したことはありません。
一方で、被曝の影響を恐れるあまり、大きな見逃しをしてしまうということも救急医としてはいただけません。
少し乱暴ではありますが、命にかかわるような緊急の場面では、「ERにおける評価で胎児催奇形性リスク閾値を超えることはまずない」と覚えておいてよいでしょう。
でも、原則は被曝させないことです!
今回は、ここまで!次回はついに実践的なmanagement編です!