病歴/身体所見
・17歳女性
・1週間前から持続する上腹部および右下腹部痛のためER受診
・症状発症当時、近医にて制酸剤を処方されたが効果がなかったためERを受診するように促された
・バイタルサインは異常なし
・右下腹部に圧痛を認めたが、反跳痛や筋性防御はなかった
検査
・血液検査…CRP1.3mg/dL, AST34U/L
・腹部超音波…門脈と上腸間膜静脈に血栓、虫垂腫大を認めた
膵レベルにおける上腸間膜静脈内血栓
肝臓内門脈本幹部(矢頭)に血栓
虫垂腫大と周囲の血流増加
・造影CTで確定診断となった
A, B)拡張した上腸間膜静脈(矢頭)と門脈(矢印)。*は上腸間膜静脈の血栓性枝を示す
C)虫垂が1.1cmに腫大し周囲脂肪式濃度上昇を認める
診断
門脈炎/急性虫垂炎
・2週間の抗菌薬投与、3か月の経口抗凝固療法が行われた
・CTでは虫垂炎を認め、保存的加療から4か月後に切除術を行った
◦門脈系への静脈灌流がある腹部/骨盤部臓器の感染症による
◦虫垂炎や憩室炎由来が多い
(Clin Infect Dis. 1995 Nov;21(5):1114-20.)
・臨床症状は敗血症に類似し、菌血症を呈することが多い
◦血液培養陽性率は44-88%…腸内細菌属が多い
(Am J Surg. 1996 Nov;172(5):449-52; discussion 452-3. /Clin Infect Dis. 1995 Nov;21(5):1114-20.)
・画像診断の進歩により早期診断ができてきているが、死亡率は50%とされる
◦抗菌薬投与がされないと死亡率100%
(Am J Surg. 1996 Nov;172(5):449-52; discussion 452-3. /Am J Gastroenterol. 1996 Jun;91(6):1251-3.)
・診断と治療の遅れにより、腸管虚血や肝膿瘍形成などの致命的な合併症を発症することがある
・長期的合併症として門脈圧亢進症がある
(Clin Infect Dis. 1995 Nov;21(5):1114-20.)
・治療はとにかく早期の抗菌薬投与
・外科的介入は抗菌薬投与後即時に行われることもあれば、疾患によっては経過をみてから考慮されることもある
・抗凝固療法については議論が残る分野
◦腸管虚血リスクを下げるという考えが強まってきている
(Scand J Infect Dis. 2010 Dec;42(11-12):804-11./Am J Surg. 1996 Nov;172(5):449-52; discussion 452-3./Clin Infect Dis. 1995 Nov;21(5):1114-20.)
血栓症というと動脈系に目が行きがちですが、ちゃんと静脈系にも注目していかなければいけませんね。
まとめ
・門脈炎は、腹腔内感染症より続発する門脈腸間膜静脈系の化膿性血栓症であり、虫垂炎や憩室炎で多くみられる
・敗血症に類似した症状を呈し、菌血症も40-80%程度に認める
・治療はとにかく早期の抗菌薬投与
・抗凝固療法については議論が残るが、現在は推進の流れ