りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

妊娠初期のemergency(First-Trimester-Emergencies)①

今回は、「妊娠初期の救急疾患」についてのreviewです。

毎回ほぼ欠かさず読んでいる雑誌、Emergency Medicine  Practiceからです。

 

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2019 Jan 1;21(Suppl 1):1-2.

Points & Pearls: First trimester pregnancy emergencies: recognition and management

 

何度かにわけて投稿しようと思います。

その第1弾です!

 

 

 

みんな苦手な妊婦さんの対応

 

妊婦さんの救急対応って苦手なんですよね。。。

だって、相手は一人じゃなくて胎児もいるし。

 

実際、このarticleでも紹介されていますが、

「妊婦の救急対応について自信があるか」救急レジデントに調査すると、、、

56%しか自信あると答えられませんでした。

選択肢の問題を解かせてみてもその正答率は58%だったそうです。

学校のテストなら、ギリギリ落第です。

 

ということで、頑張って読み進めてみました。

 

どのような疾患が問題になるか?

 

妊娠第1期の問題として救急外来で問題になるcommonな疾患は以下の項目です。

  1. 性器出血と流産(妊婦の7-27%)
  2. 悪心/嘔吐(85%)/妊娠悪阻(3%)
  3. 異所性妊娠(2%)
  4. 非妊娠的問題(腎盂腎炎や虫垂炎など)
 

疫学、病因、病態生理など

流産(miscarriage)

・IUP(intrauterine pregnancy)の喪失を指す
・妊婦の7-27%で認められる
 ◦リスクは加齢とともに上昇
  ‣20-30歳…9-17%
  ‣35歳…20%
  ‣40歳…40%
・性器出血は全妊娠期間で最大25%で認められる
 ◦妊娠5-8週で最多
疼痛を伴う重度の性器出血の場合には流産リスク高い…OR3.0
 ◦極軽度の出血であれば流産リスクにはならない…OR1.1(95%CI 0.9-1.3)
※重度の性器出血…通常の月経で、出血量が多い日と同等かそれ以上の出血のこと
・妊娠第1期に流産リスクにさらされた場合、母体および胎児の有害事象発症リスクが2倍になる
 ◦早産、低出生体重、分娩前出血など
 
完全に流産してしまう可能性が高いのは、
疼痛を伴う+重度の性器出血がある場合なんですね。
逆に、軽度の性器出血であればそれほどリスクにはならないようです。
 
心配する妊婦さんへの説明に使えそうですね!
 
 

異所性妊娠

救急外来においては、女性の腹痛と言ったらまず鑑別にでるような横綱です。

 

・全妊娠の最大2%で生じる。そのうちの98%が卵管内。
・リスクファクターは以下が重要
 ◦卵管炎の既往
 ◦STIの既往
 ◦PIDの既往
 ◦異所性妊娠の既往
 ◦喫煙…すればするほどリスクが増える
  ‣20本/日の場合、OR 4
 IUD…これ自体は避妊が目的だが、これがあるときに妊娠すると半数が異所性妊娠
β-hCGは異所性妊娠ではIUPに比較して低め
 ◦合胞体栄養細胞の成長が子宮での着床に比較して遅いことが原因
 ◦腹痛or性器出血+β-hCG≺1500mIU/mLの場合には異所性妊娠の可能性が通常の2倍
heterotopic pregnancyに注意
 ◦IUP+異所性妊娠の状態
 ◦通常は4000-30000人に1人程度しか発症しない
 ◦生殖補助医療を受けている患者では100人に1人の確率!
 
血清β-hCGを救急外来で採取することはあまりありませんでしたが、後述するようにできれば採っておいた方が後に鑑別の一助となることがあるようです。
heterotopic pregnancyは以前の施設の同僚が経験していましたが、「生殖補助医療」がキーワードになります!このときには特に注意が必要です。
 

 

嘔気/嘔吐/妊娠悪阻

・大多数の患者が妊娠中に嘔気/嘔吐を自覚する
(nausea and vomiting of pregnancy:NVP
・妊娠悪阻にまで発展するのは3%程度
・国際的な定義はないが、一般的には以下のように考えられている
 ◦体重減少>妊娠前体重の5%+嘔気/嘔吐/ケトーシスの持続
 
これはめっちゃ多いです。
インフルエンザの時期にあたってしまうと外来で点滴するのも感染させてしまっては困るし、出来るだけ場所を分けて輸液してもらうようにしています。

 

 

無症候性細菌尿と尿路感染 

・妊娠7週ごろから水腎症が起こりうる
 ◦子宮自体による圧迫
 ◦ホルモンの変化
・妊婦は上記のように水腎症になりうるため、細菌尿そのものが尿路感染リスクとなる
 →抗菌薬治療の対象
 ◦無症候性細菌尿の妊婦248人に対するprospective cohort study
  ‣抗菌薬投与 vs placebo … 尿路感染発症は0.6% vs 2.4%

 

妊婦さんの場合には無症候性細菌尿も治療対象です!

 

 

虫垂炎

・妊婦は同年齢の非妊婦と比較すると虫垂炎になりづらい
 ◦ただし、腹膜炎を呈する可能性はより高い…OR1.3; 95%CI 1.2-1.4
 →これに伴い、敗血症/ショック、腸閉塞、入院期間増加、そのほかの有害事象が増える

 

虫垂炎はいつでもだれでもどんなときにも(!)疑っておかなければなりません。

CT撮ったらどんな主訴でも必ずチェックしておくと見落としがだいぶ減ります。普段から気を付けていないと、いつかやられます!

 

妊婦や小児は腹膜炎を呈することが多くなります

見逃す=予後悪化に直結するため、いつでもアンテナを張っておきたい疾患です。

 

 

 

今回はひとまずここまで!次回をお楽しみに!