キシロカインなどの局所麻酔薬はよく使うと思いますが、
結構すぐに中毒域に達してしまうため注意が必要です。
どの科に進む人でも遭遇しますので、予防や対応は常識として知っておいてください!
局所麻酔薬の極量は?
局所麻酔薬 | 最大投与量(単剤) |
最大投与量 (エピネフリン併用) |
---|---|---|
ブピバカイン / レボブピバカイン | 2 mg/kg | 3 mg/kg |
リドカイン | 5 mg/kg | 7 mg/kg |
メピバカイン | 5 mg/kg | 7 mg/kg |
プリロカイン | 6 mg/kg | 8 mg/kg |
ロピバカイン | 3 mg/kg | 3 mg/kg |
エピネフリン含有の局所麻酔を使用することで多少は極量を増やすことができますが、思っていたよりも少ないと思われるのではないでしょうか?
頭部外傷で受診する高齢者は多いですが、極量を計算してみましょう。
以下の計算機で算出することができます。
たとえば、40kgの高齢者であれば1%キシロカインは18mlしか使用できないことになります。
リスク因子
LASTを発症するリスク因子として以下の3点を考慮する必要があります。
こうしたリスク因子を有する場合には減量しておいた方が無難です。
①薬理学的要因
重要な薬理学的要因として、CC比が挙げられます。
CC比は、致命的な心血管崩壊を引き起こす薬物用量と痙攣を引き起こす薬物用量との比です。
・CC比が高い:心毒性が現れる前に中枢神経症状が先行する(多少安全域が広い可能性)
・CC比が低い:低濃度で心毒性が現れやすい
たとえば、ブピバカインはCC比が低いため、CNS症状から心血管崩壊への進行が速いことで知られます。
ブピバカインに比較して、レボブピバカイン、ロピバカイン、リドカインはこの順にCC比が高まることが知られています。
②患者要因
局所麻酔薬への感受性や代謝の問題を考えなければなりません。
最も感受性が高い集団は乳児や高齢者といった極端に低い/高い年代、およびミトコンドリア機能不全(例:カルニチン欠乏症患者)を有する人々が該当します。
また、臓器機能障害(腎不全、肝硬変、心不全など)もLASTと関連するリスク因子です。
③薬剤投与要因
血管豊富な組織への局所麻酔(各種ブロック注射など)や、エピネフリンの併用なしで局所麻酔薬を使用する場合には、血管内への直接注射が起こりやすく、LAST発症の可能性が高まります。
どんな症状が出るのか?
約25%の患者が注入後1分以内に症状を呈します。
22%が1–5分以内、10%が6–10分以内、20%が11–30分以内に症状を呈すると報告があります。
だいたい30分以内には症状が出始めるんですね。
(60分経過してから初期症状が出現することもありますが)
初期症状として、
金属味、口周囲の異常感覚、視覚・聴覚の変化、めまい、構音障害、味覚異常、筋のピクつき、興奮、幻覚、精神状態の変化が起きます。
ここから中枢神経毒性(けいれん)や心血管毒性(不整脈、低血圧、心停止)が起きてきます。
症状を呈する患者のほぼ半数が中枢神経毒性および心血管毒性の両方を呈し、
約10%は心血管毒性のみとされます。
一般的な徴候・症状 | 中枢神経系の徴候・症状 | 心血管・呼吸器の徴候・症状 |
---|---|---|
吐き気・嘔吐 | かすみ目 | 血圧の極端な変動(低血圧・高血圧) |
耳鳴り | 呂律が回らない言葉 | 徐脈および頻脈 |
金属味 | けいれん | 房室ブロックおよび脚ブロック |
口周囲のしびれ | 昏睡 | 悪性不整脈 |
震え | 精神状態の変化(興奮から無反応までの範囲) | 急性呼吸不全(精神状態の変化に起因) |
脱力・めまい | 心停止 |
マネジメント
まずはLAST発症を認知することが重要です。
疑われた段階で、局所麻酔薬による処置を中断しましょう。
ABCDアプローチはいつも通りですが、LASTに特徴的なマネジメントとして
①アドレナリンの使用方法
②脂肪製剤の使用(Lipid emulsion)
があります。
①アドレナリンの使用方法
動物実験に基づいており、議論がある分野です。
アドレナリンをいつも通り1mg bolusすることで、他の悪性リズムへの進展・不整脈の持続・難治性不整脈への進展といったリスクが高まる可能性が指摘されています。
そのため、1mcg/kg以下の投与量にしておくのがよいとされています。
(50kgの患者なら、アドレナリン1mg/mlを生食19mlに溶いて1ml静注)
②脂肪製剤の使用(Lipid emulsion)
20%脂肪製剤を使用します。
病棟で経静脈栄養をされている患者さんに使用されている、アレです。
(イントラリポス20%など)
LASTに関連するけいれんまたは重篤な心毒性(血行動態に影響する不整脈、低血圧、心停止)の患者に投与すべきとされています。
これは心停止の蘇生中にも使用することができます。
以下のような機序があるようです。
・局所麻酔薬を標的組織から除去し、他の部位へ輸送して解毒する役割を果たす
・ナトリウムチャネル機能を改善し、心筋細胞内カルシウムの増加による強心作用を強化する可能性がある
・ミトコンドリアの代謝と脂肪酸の処理を改善する
脂肪製剤注入の方法を示しておきます。もしものときに使えるようにしてください。
・適応:けいれん、悪性不整脈、低血圧、心停止
・投与量および投与方法
・体重>70kg:100mlを2-3分かけて点滴静注、15-20分かけて200-250mlを持続投与
・体重<70kg:1.5ml/kgを2-3分かけて静注、0.25ml/kg/minで持続静注
※ガイドラインによっては全患者に1.5ml/kgボーラスを推奨している
・注意事項
・心停止中にも投与可能
・重篤な毒性が持続する場合、ボーラス投与は2回まで繰り返し可能で、持続注入の速度を2倍にすることも可
・重篤な徴候が著しく改善した場合には注入速度を0.025ml/kg/分に減らすことができる
・不安定性が再発した場合、追加静注をするか、注入を0.25 mL/kg/分に増やす
(Am J Emerg Med . 2022 Sep:59:42-48.)