救急外来に来る患者さんの多くは、疼痛や苦痛を抱えています。
それをなるべく迅速かつ十分に除去することは最優先事項と言っても過言ではありません。
評価に夢中になるあまり、患者さんの疼痛をほったらかしにしていませんか?
鎮痛手段は複数ありますか?
自信をもって対応できるように勉強しておきます。
生理学的なところ
・痛みの感覚は複雑な生化学的プロセスから生じる
・効果的な介入は、
疼痛の根底にあるメカニズムに目を向けるべし
・疼痛感覚は、組織に存在する侵害受容体と呼ばれる神経線維から始まる
→これらの線維が熱/
機械的/化学刺激を電気信号に変換
→末梢神経、脊髄を介して脳に伝搬される
・侵害受容体は全身のあらゆる部位(皮膚、硬膜、動脈壁、歯、関節面、頭蓋円蓋など)に認められる
◦C polymodal receptorsとAδ polymodal receptorsが存在
◦
C polymodal receptorsは侵害受容体の80%を占め、熱/
機械的/科学的刺激に反応
‣遅延性のうずくような疼痛感覚と関連
◦
Aδ polymodal receptorsは熱/
機械的刺激により活性化する
‣より迅速かつ鋭い疼痛感覚と関連
・組織刺激は様々な化学物質を放出させるシグナルとなる
◦leukotrienes, bradykinins, serotonin, histamine, thromboxanes
‣
これらはC-type nociceptorsを活性化させる
◦prostaglandinsは直接的に受容体を活性化することはない
‣神経終末の感受性を高める局所メディエーターとなり、血管拡張作用により疼痛や浮腫の原因となる
・この経路の阻害は、いくつかの手段により生理学的に達成される
◦より強いシグナルによる競合的阻害(主にAb fibersによる)
‣Aδ/C線維からの弱いシグナルが排除される
‣損傷部位をこすることで疼痛が軽減する
◦内因性化学物質(endorphins, enkephalins, dynorphins)がopioid受容体を活性化して鎮痛作用を呈する
・体性痛は
機械的/熱/化学的刺激により直接的に活性化される
・内臓痛は虚血/拡張/攣縮/化学刺激により始まる
この辺はさらっといきましょう(笑)
疼痛スケール
・ERでの鎮痛がうまくいくかどうかはその重症度評価能力に依存する
◦VASは主に研究者によりよく使用される
◦NRSは0-10で疼痛を表してもらうシンプルなもの
◦急性疼痛に対してはこれらは比較的良い尺度となるが、慢性疼痛に関しては疑問視
・小児の疼痛評価は、言語的な壁(発達状況)と不安/疼痛の区別がつきづらいことからchallenging
◦言葉を話せる子供であれば、Wong-Baker FACES®の疼痛スケールがつかいやすい
◦言葉が話せない子供では、CHEOPS/FLACCが検証されている
・重症/挿管管理中もまたコミュニケーションがとれないため評価困難
◦バイタルサインの変化(頻脈や高血圧など)…しばしば不快と関連するが信頼性低い
◦CPOT…生理学的特徴から疼痛感覚を推定するスケール
‣血圧、脈拍数、呼吸回数、酸素化
・
認知症では、
PAINAD scaleがつかわれる
◦呼吸の快適さ、発声、表情、ボディランゲージ、精神的安定といった他覚的評価
以下にpain scaleをまとめておきます。専門に合わせて使用してください。
Tools to Assess Pain and its Interference in Functional Capacities
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疼痛へのマネジメント
治療に関しては中枢に作用するものを選択するのではなく、まずはより損傷部位に直接的に作用するものを選んでいくのがよいです。
鎮痛薬全身投与をする前に局所麻酔や神経ブロックなど可能か考えてみましょう。
疼痛が強い場合にはその限りではなく、鎮痛薬全身投与と併用が良いと思います。
非薬物的治療
疼痛マネジメントにおいて意外と重要で無視してはいけません。
骨折や脱臼に対する固定や整復などは、特に移動や画像評価時の疼痛刺激を減らす効果があります。
どうしてよいかわからなければ長軸方向に引っ張ってあげるだけでだいぶやわらぎます。
何をしてよいかわからなかったら上級医を呼びながら引っ張ってあげましょう。
ホラ、さっきまで叫んでた患者が静かになったでしょ?
不安と恐怖は、小児だけではなく成人でも疼痛を増幅させることが知られています。
よく説明し安心させる、家族の支援、気晴らしなどにより緩和させることが重要です。
非侵害刺激(創周囲に加える圧力など)は侵害刺激シグナルと競合してこの効果が低下するとされています。包帯で巻いてあげてもいいと思います。
挙上やアイシングは浮腫を減らします。
ERにおける非薬物的介入についてのsystematic reviewがありますが、
疼痛を軽減する効果があったことが報告されています。
様々な方法が含まれており、以下のような感じです。
‣身体的介入…理学療法、整骨療法、機械的支持など
‣直接的介入…温熱/氷冷、鍼治療、、経皮的電気刺激、深呼吸、超音波
‣間接的介入…音楽療法、アロマセラピー、催眠、誘導イメージ法
‣教育的介入
‣心理社会的介入…認知行動療法、暗示、家族の支援
ここには、鍼治療とモルヒネでは実は鍼治療の方が鎮痛に効果的であったという非盲検化ランダム化試験も含まれています。スゲー。
NSAIDs
末梢では、COX isoforms 1/2を阻害してprostaglandinやthromboxaneの産生を抑え、鎮痛効果が出るといわれています。
COX-1とCOX-2についてまとめておきます。この辺は
医学生の方が詳しいかも。
・COX-1…全身組織に発現しており、保護的プロセスに関連している
◦胃保護、血小板凝集、止血、腎血行動態保持など
・COX-2…主に脳、骨、腎に発現しており全身には少ない
◦炎症によりupregulationが起きる
ご存知の通り、NSAIDsには非選択的/選択的の2種類があります。
・非選択的NSAIDs (ibuprofen, dicrofenacなど)…COX-1+COX-2を阻害する
‣prostaglandin産生を低下させる
‣血小板凝集を阻害する
‣胃炎や消化性潰瘍の原因となる
‣腎血流を低下させる
‣肝毒性となる
‣高血圧を引き起こす
⇒可能な限り短期間の使用にとどめ、急性疼痛に対して使用すること
・選択的NSAIDs(celecoxib)…COX-2を選択的に阻害
‣これまでの非選択的NSAIDsと同様の効果を持つ
‣消化管出血/腎不全/気管支攣縮リスクを減らす
NSAIDsには天井効果があり、投与量を増やしすぎても効果がありません。
添付文書を守った投与量を心がけましょう。
NSAIDsの消化管への影響
・消化管合併症を考えるのであればcelecoxib>ibuprofen
・最短7日間のNSAIDs使用で消化性潰瘍発生
prostaglandin合成を阻害→胃粘膜保護作用がなくなり、消化性潰瘍リスクがあります。
ACG 2009 guidelineでは以下がNSAIDs関連消化管合併症のリスクとされています。
◦消化性潰瘍既往
◦年齢>65歳
◦高用量NSAIDs投与
◦抗凝固薬/ステロイド/そのほかのNSAIDs(低用量aspirin)との併用
なるべく低用量/短期間での使用にとどめ、高齢者や消化性潰瘍既往・特定の薬剤を使っている患者には使わないようにしましょう。
(Ann Rheum Dis. 2004 Jul;63(7):759-66.)
2004年のmetanalysis(COX-2阻害薬は含まれていない)。
◦indomethacin>neproxen>ibupurofenの順に消化管合併症が少なかった。
◦indomethacinの場合には最短で7日間で合併症出現
◦
最大リスク…indomethacin:14日、それ以外のNSAID:50日
最短7日間使用しただけで消化性潰瘍のリスクとなります。
それ以上使用する場合には、
PPIを併用したり他の薬剤へスイッチ可能か考えます。
心血管系リスクが高くてCOX-2阻害薬を使用しづらい状況だけどどうしてもNSAIDsを使いたいのであれば、ibuprofenは比較的消化器合併症が少ないとされています。
(Arthritis Rheum. 2010 Jun;62(6):1592-601.)
腎臓への影響
・高齢者、CKD、脱水症、ACE-I内服中患者ではNSAIDs投与要注意
NSAIDs使用により輸入細動脈拡張が妨げられ、糸球体濾過量や腎血流圧が低下します。これが原因となり、腎障害/腎不全につながることとなります。
特に高齢者、CKD、循環血液量減少、ACE-I内服などがあるとリスク増大です。
NSAIDsの中で腎臓への負担が最も少ないのはibuprofenであるという報告もありますが、やっぱりあまり使いたくないですね。
(Clin J Am Soc Nephrol . 2021 Jun;16(6):898-907.)
心臓への影響
・冠動脈疾患や心血管疾患リスクが高い患者はNSAIDsを避けるべき。
・最短7日間でAMI発症のリスクになる。
・投与するなら最小限、できるだけ短期間にとどめること。
NSAIDs(特に高用量)が心臓に悪影響を及ぼすことには
エビデンスがあります。
主にCOX-2を阻害し、心保護prostagrandins(PGI2:血管拡張作用)が抑制されることに起因しています。
だから、無敵と思われたCOX-2阻害薬は消化管合併症を減らしますが、心血管リスクは増大させるがあることも指摘されています。
ただし、PRECISION trialではcelecoxibはnaproxenやibuprofenと比較すると心血管イベントを増大させることと関連はなかったとも報告されています。
(BMJ. 2017 May 9;357:j1909.)
2017年のmetaanalysisで、NSAIDsとAMIリスクの評価をしています。
◦AMIリスク上昇はNSAIDs投与から第1週目より上昇
◦リスクが最大となるのは、高用量投与、最初の1か月間
◦
celecoxibはその他のNSAIDと比較してAMIリスクは同等
‣celecoxib…OR 1.24
‣ibuprofen…OR 1.48
‣diclofenac…OR 1.50
‣naproxen…OR 1.53
心血管リスクが上昇するのも最短7日間なんですね。恐ろしや。
呼吸器への影響
・アスピリン増悪呼吸器疾患(AERD)には注意して使用する
あまり多くはありませんが、
気管支攣縮と肺への好酸球浸潤などが報告されています。
特に
アスピリン増悪呼吸器疾患が基礎にある場合には要注意です。
慢性副鼻腔炎や鼻茸があると言われたという患者への投与は危険かもしれません。
血液への影響
・出血を助長する可能性がある
NSAIDsにはCOX-1阻害による血小板凝集作用の減弱作用があります。
すでに血小板機能異常がある場合には使用を控えておいた方がよいでしょう。
これは有名かもしれませんが、ワルファリンとの併用でINRが延長することがあります。
ワルファリン使用者では使わないほうが賢明です。
骨への影響
・短期間であれば骨治癒への影響を考えなくてもよさそう
prostaglandins(特にPGE2、PGF2a)は骨形成を刺激していますが、
NSAIDsはprostaglandin阻害をすることで骨治癒を遅延させているのではないかと指摘されています。
(Arthritis Rheum. 2005 Jun 15;53(3):364-7.)
9995人の橈骨遠位端骨折に対するretrospective review。
‣NSAIDs使用により偽関節率が増大…RR3.7, 95% CI 2.4-5.6
ただし、この傾向はopioid投与によっても認められています。
結局のところ、上記を支持する大規模なprospective randomized trialはありません。
専門家によっては骨折に対してNSAIDs処方を避けることもあるようですが、
特に短期間使用であればreasonableな治療選択肢となることは間違いないでしょう。
NSAIDsの安全性
NSAIDsの副作用を気にするあまり米国ではopioid処方が増えているそうです。
どっちかといえばopioidの影響を考えたほうがよいのではないかと思いますが。
基本的にはopioidと比較するとNSAIDsは安全なのではないかという考え方が現在は主流です。
(Arch Intern Med. 2010 Dec 13;170(22):1968-76.)
・12840人の高齢(平均80歳)、関節炎患者へのretrospective study
◦NSAIDs、選択的COX-2阻害薬、opioidの安全性を比較
◦opioidはその他と比較して以下の特徴があった
‣骨折率増加…HR4.47
‣入院率増加…HR1.68
‣全死亡率増加…HR1.87
◦COX-2阻害薬とopioidは心血管合併症増加…HR1.77/HR1.28
◦COX-2阻害薬は消化管合併症低下…HR0.60
消化管リスクをとるか、心血管リスクをとるか選択を迫られたときには以下を参照です
・消化管リスクが高いときにはCOX-2阻害薬。
・心血管リスクが高いときにはCOX-2阻害薬を避け、ほかのNSAIDs使用。
・両方ともリスクが高ければNSAIDs使用を使用しない。
※消化管リスクについては以下で推測します
局所へのNSAIDs使用
・筋骨格系疼痛に対して鎮痛効果良好
(Cochrane Database Syst Rev. 2017 May 12;5:CD008609.)
topical NSAIDsは2017年のCochrane review(200study、30000人)で評価されています
◦筋骨格系疼痛に対して良好な鎮痛効果を認めています
◦全身性合併症や
重篤な局所合併症はありませんでした
◦diclofenacが最も優秀で、NNT1.8
◦ketoprofen gelは2番目で、NNT2.5
◦diclofenac plaster preparation(貼付薬的なもの?)…NNT3.2
◦ibuprofen gel…NNT3.9
◦局所と経口投与とで鎮痛効果に有意差はありませんでした
ジクロフェナクゲルとか効果が高そうですね。
acetaminophenはいろいろな市販薬に含まれています。
それゆえ中毒も多いです。
最もよく使っている鎮痛薬と言っても過言ではないと思いますが、
実はどのようなメカニズムで効果が出ているのかは完全に解明されてはいません。
◦cyclooxygenase isoformの阻害が大きな役割を果たしているようではある
◦PGE2産生を低下させることで解熱効果がでる
◦末梢での抗炎症作用は最小限であるためその他の薬剤とは分類が異なる
◦pro-clotting thromboxanesを阻害しないため血小板凝集を妨げない
◦内因性cannabinoid系にも作用して抗侵害受容体効果がある
acetaminophenは単剤としても他剤との併用でも効果的な鎮痛薬です。
市販薬でも組み合わせて販売されていますね。
特にNSAIDsと併用することで相乗効果があることが報告されています。
(急性腰痛症に対しては相乗効果なしとなっています)
acetaminophenはあまり効かないと言われることがありますがとんでもない!
体重に合わせて投与すればちゃんと効きますよ!
鎮痛目的で使用する場合には、しっかり15mg/kgで使用してください。
急性四肢疼痛に対するRCTでは、IV acetaminophenはIV morphinと比較して同等~優れた効果が報告されています。
投与方法については、経口投与に対する静注投与の優位性を証明できた研究はありません。
静注薬は経口薬に比較して高価です。
アセリオはたった100mlで300円します。
カロナールは同量で20円くらいです。値段的にはラムネみたいなもんです。
内服が出来ない患者ではreasonableですが基本的には内服薬で十分です。
費用対効果がよいので(あまり気にするほどのものでもありませんが…)。
IV acetaminophenは以下の場合に推奨されます。
◦IV opioidと併用
慢性肝疾患がある場合には特に肝毒性があるため注意が必要です。
一般的に妊婦に対するacetaminophenは安全性が高いと考えられていますが、
胎児の発育に影響があるとする研究が増えていることには留意しておきましょう。
Ketamine
・特に低用量ketamineは副作用を増やすことなく十分な鎮痛効果を望める
鎮痛に効果的で、呼吸抑制や低血圧が起きず、気管支拡張作用があります。
この特性から、多忙な環境やモニター監視が万全でない環境では魅力的な選択肢になります。
特に、低用量ketamineは副作用を増やすことなく、十分な鎮痛効果が望める手段です。
0.3-0.5mg/kgで十分に鎮痛効果がでます(挿管のときは1-2mg/kg)。
高齢者では気持ち少なめから投与して漸増させる使い方をした方がよいでしょう。
ketamine0.15mg vs 0.3mgによる30分後/60分後の鎮痛効果は非劣性なんて報告も出てきているので、もしかしたらもっと少量での使用がこれから主流になるかもしれません。
(Acad Emerg Med . 2021 Jun;28(6):647-654.)
嘔気/嘔吐、唾液分泌増加、emergence phenomenaなどの副作用は覚えておきます。
これらは制吐剤、抗唾液分泌剤、benzodiazepineなどで簡単に対応可能です。
悪夢(性的なものを含む)を見るとされているので、特に女性に使用する場合には同性の看護師など立ち合いのもとで投与すると間違いが少ないと思います。
IV pushではなく、短時間での点滴投与にすると副作用を軽減できるとされています。
よって、生食100mlとともに15分で投与(short
infusion)がよいです。
救急外来ではprocedural sedationとして使用されていることが多いです。
(※添付文書上は、麻酔前後の管理が行き届かないことを理由に外来での使用は禁忌とされています)
PAFのcardioversionに際して、骨折や脱臼の整復などに使いやすいんですけど。
このへん改訂してくれないものでしょうか…。
α2-アゴニスト
tizanidine, clonidine, dexmedetomidineなどがあります。
clonidineは降圧薬として使用されていましたが、鎮痛効果を持つことも判明しました。
◦α2受容体刺激により鎮静と鎮痛効果が得られる
◦呼吸抑制は起きない
dexmedetomidineはα2感受性を増大させることが分かってきています。
norepinephrine放出を調整して徐脈や低血圧を発症するため、鎮痛薬としてのERでの使用は限定的になっています。
ICU settingではよく使用されますが、鎮痛効果単独を期待しての投与はされていません。
Lidocaine
LidocaineはNaチャネルblockerであり、局所麻酔薬として使用されてきました。
opioidとの併用または代替として研究されてきています。
2018年のsystematic reviewでは、renal colicや
片頭痛、四肢虚血、全身痛に対してlidocaineが使用された研究を含んでいました。
renal colicや四肢虚血に対する鎮痛効果を認めましたが、heterogenousが高く質が低かったことが指摘されています。
(Ann Emerg Med. 2018 Aug;72(2):135-144.e3.)
どうしてもコン
トロールがつかないときには考慮してもよいかもしれませんが、
ERでのlidocaine全身投与の安全性はまだ確立されておらず、ERでのルーチン使用は勧められていません。
局所麻酔
局所麻酔薬
procaine (Novocain®)はcocaineの代替として1905年に合成されました。
作用時間が長く、アレルギー反応が少ないことからlidocaineにとって代わる存在となっているそうです。
benzocaineは粘膜からの吸収が速く、しばしば耳や
咽頭に使用されます。
tetracaineは粘膜からの吸収がよく、作用時間が長いnovocaineと構造が似ている薬剤ですが、他より高い毒性が指摘されています。
bupivacaineやropivacaineはlidocaineより作用時間が長く、ropivacaineとprilocaineは心臓毒性が減少しているそうですが使用経験はありません。
これらの局所麻酔薬を使用するときには、極量を意識してください。
特に縫合箇所が広範囲になると、気づいたら極量を超えている…なんてことがあります。無尽蔵に使えるものではありません。
ちゃんと極量とそれを超えちゃったときの緊急処置が言えないと…
あ~、縫合セットを上級医に取り上げられちゃいましたね。
もしも極量を超えて使用して心停止した場合には一般的な蘇生処置に加えてlipid rescueを行うことが有効なのではないかとされています。
・脂肪乳剤(イントラリポス20%など)1.5mL/kgを静注→0.25mL/kg/minで持続静注
・循環が不安定なら5分毎に静注を繰り返してよい
表面麻酔
最も簡単で、医療資源を有効活用できる方法とされています。
注射を使用しないため不安を回避できるため特に小児で有効です。
鑑別にも有効で、皮膚の疼痛 vs より深部の筋骨格系の疼痛か判別するのに有用です。
真皮より深い損傷に対しては局所麻酔薬と血管収縮薬を組み合わせて使用されます。
◦LET…4% lidocaine, 0.1% epinephrine, 0.5% tetracaine
◦EMLA…lidocaine+prilocaineで、創傷のない皮膚の麻酔もできます
‣注射や腰椎穿刺の際の麻酔として使用されますが、最大効果が得られるまで60分間ほど要することが弱点です。
lidocaine patch…皮膚侵害受容体のS target sodium channelsを阻害して鎮痛効果が出ます。肋骨骨折や多発骨折などで研究されていますが、効果は定まっていません。
特に、
帯状疱疹に対するパッチやゲルの有効性はあり、NNT 2.80と報告されています。
帯状疱疹後疼痛でERを受診された患者さんに
キシロカインゼリーを塗ってあげるとしばらくして除痛され、とても感謝されます。
鎮痛薬は全身投与よりも局所投与の有効性を感じる例です。
浸潤麻酔
損傷部位に直接麻酔薬を注入する方法です。
神経終末を直接的に麻酔できますが、組織の歪みを起こす可能性もあるため使いどころは注意です。
vermilion border縫合のときにこれをやってしまうと仕上がりが悲惨になることがあるので適応には注意が必要です。
血腫ブロック(hematoma block)という方法もあります。
骨折によりできた血腫内に麻酔薬を注射します。血腫を吸引しておくとこの手技が容易になります。血腫周囲の感覚神経(特に骨膜周囲)に拡散して効果を発揮します。
整復において、propofolによる鎮静と同程度に効果的で、時間短縮が得られます。
神経ブロック
末梢神経/神経叢の周囲に麻酔をすることで、それに沿った特異的な部位を麻酔できます。
全身麻酔による合併症を避けることができます。
多くはERにおいて施行可能で容易で成功率も高く、Cochrane reviewでは超音波ガイド下での手技が推奨されています。
神経ブロックは以下で取り扱いました。
個別に対応すべき特殊な状況
頭痛
metoclopramide
片頭痛の治療法についてのmetaanalysisによれば、
metoclopramide 10mg IVはNNT4!
基本的にはmetoclopramideは、有名なsmatriptanよりも鎮痛効果と再燃予防効果に優れています。
頭痛へのfirst choiceはアセリオや
ロキソニンでもトリプタンではありません。
なお、metoclopramideは急速静注で
錐体外路症状が出やすくなります。
特に若年者は出やすい傾向にあります。
生食50-100mlに混ぜて15分間で投与することで有意に副作用を減らしますので、
基本的には静注は避けたほうがよいです。
(Emerg Med J. 2018 May;35(5):325-331./Am J Emerg Med . 2009 May;27(4):475-80.)
sumatriptan
Sumatriptan皮下注は病初期に使用されると非常に効果的(NNT 4)。
頭痛が始まったらソッコー使用します!
ただ、副作用も多い(NNH 4)ことが指摘されています。
胸痛、動悸、息切れ、紅潮、頭痛増悪などがあります。
処方して飲めば楽になるけどまた翌日には痛くなるひといません?
24時間以内の頭痛再燃率が高く、66%と報告されています。
magnesium
どうしても困ったら使ってみてもいいかもしれません。
(Cephalalgia. 2002 Jun;22(5):345-53./Headache. 2001 Feb;41(2):171-7.)
・magnesium(1g 15分かけて静注)は
placeboと比較して有効性あり
◦30分時点での反応性…100% vs 6.7%
◦30分時点での疼痛消失率…90% vs 0%
◦24時間後の再発率はmagnesium群で0%
(J Emerg Med. 2015 Jan;48(1):69-76.)
・dexamethasone 8mg+metoclopramide 10mg vs magnesium 1gでの二重盲検化RCT
◦magnesium群では20分/60分/120分時点では疼痛は有意に改善
(Am J Emerg Med. 2021 Jan;39:28-33.)
◦magnesium vs prochlorperazine vs metoclopramide
◦非劣性分析の結果、magnesiumはその他2剤に比較して非劣性であった
◦ただし、患者の半数は鎮痛薬を内服してきていた
→逆に日常診療に使いやすいかも!
片頭痛患者は事前に鎮痛薬を内服してきたりもします。
そういった患者さんに対して使ってみるといいのかな?と思います。
投与方法は、硫酸Mg 20mEq/20mL+生食50mLを20分以上かけて投与します。
Haloperidol and Droperidol
droperidolはprochlorperazineと同等の効果で、akathisia発症率も類似しています。
ただし、2001年の
FDA勧告によりhaloperodolにとってかわられた存在です。
haloperidolはmetoclopramideは同等の効果があるとされています。
※5 mg IV haloperidol vs 10 mg IV metoclopramide
でも、restlessnessは多くなります(43% vs 10%)
神経ブロック
様々な部位の頭痛に対して迅速な効果があり、場合によってはその効果が数週~数か月にわたって持続することがあります。
大後頭神経(greater occipital nerve:GON)が最大のターゲットです。
頭痛に対して効果的であり、大きな合併症もないので禁忌がない限りやってあげるとよいです。
(Headache. 2018 Oct;58(9):1427-1434.)
IV metoclopramideでも持続する中等度~重度の頭痛への両側GONブロック(0.5%bupivacaine3ml)では、31%が30分以内に疼痛改善が得られました。
(J Am Board Fam Med. 2018 Mar-Apr;31(2):211-218.)
大規模なretrospective datebase review。
片頭痛患者の82%が30%以上の改善、58%が50%以上の改善を認めました。
なので、強い頭痛の場合には是非やってあげましょう!
すぐに効果がでて、しかも頭痛予防効果もあるのでとてもやりがいがあります。
刺す位置は外後頭隆起から2cm外側+2cm尾側です。
よくわからなければ頭蓋骨よりの後頭部をぐりぐりと押して痛いところに注射してあげればいいです。
後頭骨に当たるまで針を挿入して
キシロカイン2-3ml投与します。
推奨される頭痛治療
・第一選択薬はmetoclopramide
◦効果が高く、安全性も高いことが証明されている
・NSAIDsやacetaminophenも有効
・sumatriptan、haloperidol、droperodolはprochlorperazine やmetoclopramideと同等の効果があるが副作用が多くなる
◦第一選択となる薬剤に反応がない場合には考慮する
・奥の手としてmagnesiumは覚えておいてもよい
・大後頭神経ブロックは除痛・予防に効果的
renal colic(腎疝痛)
NSAIDs
NSAIDs vs opioidのcochrane reviewでは両者とも効果的でしたが、
NSAIDsの方がより鎮痛効果が高かったことが証明されています。
さらにNSAIDsの方が4時間以内の薬剤追加が少なく済みます。
NSAIDs間で特に効果に有意差はありません。
NSAIDsはprostaglandin合成を阻害して腎血流を低下させる効果がありますが、
どうもこれが効果的なのではないかとされています。
acetaminophen
morphineと同等の効果があるといくつかのRCTで報告されています。
それでいて合併症が少ないのでお勧めです。
個人的には一刻も早く十分に鎮痛してあげたいため、
NSAIDs座薬/筋注などを使いつつ、
嘔吐しているならルート確保をしてアセリオなどを併用しています。
magnesium
(Am J Emerg Med . 2021 Aug;46:188-192.)
薬剤投与から20分後の鎮痛効果に有意差はなく、副作用もそう多くありません。
ここでもmagnesiumは奥の手になるかもしれませんね。
そこまで痛ければopioid使用でもよいとは思いますけど。
desmopressin
抗利尿作用による
腎盂圧低下による効果の可能性が指摘されていますが、
cochrane reviewなどからdesmopressinの日常的な使用を支持する
エビデンスはまだありません。
α-blocker
tamsulosinなどのα-blockerを腎
疝痛に対してルーチンに処方する時代もありました。
この有用性については議論が残っている分野です。
研究によって疼痛持続期間が減少したり、効果のほどを示せなかったりでまだ答えはありません。
推奨される腎疝痛への対応
・NSAIDsを第一選択薬として使用することを推奨する
・NSAIDsの効果が乏しい場合にはacetaminophenを併用
・それでも効果がなければopioidをレスキューとして使用する
妊婦などの薬剤への副作用が気になる場合には、
芍薬甘草湯も一定の効果があるので試してみてください。
腰痛
2017年にACPは腰痛マネジメントに関する
ガイドラインを発表しています。
温熱療法、マッサージ、鍼灸、spinal manipulation(リハ的なこと?)などの非薬物的治療を強く支持しています。
また、薬物治療が必要な場合にはNSAIDsや筋弛緩薬を使用することが強く推奨されています。
opioid使用はこれらの治療に反応が乏しい場合のみ検討するよう注意されています。
よく使われてはいますが、
急性腰痛に対するacetaminophenはあまり効果がありません。
NSAIDsとの併用でもその効果を増大させるわけではないため出番は少ないです。
(Acad Emerg Med . 2020 Mar;27(3):229-235.)
benzodiazepines/ Muscle relaxants
海外では、急性腰痛症に対してNSAIDsとBenzodiazepines/Muscle Relaxantsを併用して処方することがcommon practiceとなっているそうです。
個人的にはあまり出したことはありません。
最近のsystematic review(31研究6505人)では、
非
ベンゾジアゼピン系筋弛緩薬には2週間以内の腰痛軽減効果がわずかにあったと報告されているため使ってみるのも手かもしれません。
(
BMJ . 2021 Jul 7;374:n1446.)
ベンゾ系は有害性の方が強くなるので推奨されません。
ん~、個人的には出しません。急性期に効果なさそうですし。
整形外科にまず評価してもらって必要なら追加処方してもらう、くらいのスタンスで良いと思っています。
trigger point injection
筋筋膜性疼痛に対する治療オプションです。
※筋筋膜性疼痛症候群…腰部の局所圧痛を伴う原因不明の腰痛症
(Am J Emerg Med. 2019 Oct;37(10):1927-1931.)
・trigger pointがある急性腰痛症に対するERにおける小規模prospective randomized trial
◦trigger point injection vs NSAIDs IV
◦NSAIDsよりもtrigger point injectionの方が有効性が高かった
いろいろ鎮痛薬を使って治療してみたけどどうしても動けない急性腰痛症の患者、かつ圧痛がある場合にやってみると意外と効果てきめんなことがあります。
実臨床では、Gabapentinやpregabalinがよく使用されています。
4つの国際的
ガイドラインで、
神経障害性疼痛に対する第1選択薬としてgabapentinが推奨されています。特に以下の患者では有効性が高いです。
◦術後患者
一方、ERにおけるgabapentin単剤(300-1200mg)での研究はほとんどありません。
初回から通常用量を出すと副作用が出た場合に二度と使ってくれなくなるので、
出すならば(これじゃ効かないだろうというくらいの)低用量から出すのが個人的にはオススメです。
その後の専門医の診療で漸増していってもらった方がよいです。
まとめ
・ERでは鎮痛手段の手数を持っておいた方がよい。
鎮痛薬のクラス
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投与経路
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商品名:使用量
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メモ
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NSAIDs
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経口
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ロキソプロフェン:60mg ブルフェン:200-400mg ジクロフェナク:25mg セレコキシブ:100-400mg |
・セレコキシブは外傷とそれ以外では投与量が異なる ・消化器合併症はセレコキシブが少ない ・心血管合併症はセレコキシブで多い ・腎障害はブルフェンで少ないかも |
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経直腸
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・経口より効果発現は早い
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筋注
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カピステン筋注:50mg
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・臀部に筋注
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静注 |
ロピオン静注:50mg
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・術後と癌以外では査定されるかも
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経皮
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ジクロフェナクゲル
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◦じくじくしているところには使わない
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acetaminophen
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経口
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・体重に合わせて十分量使うこと
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静注
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アセリオ:15mg/kg
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・体重に合わせて十分量使うこと
・鎮痛効果自体は内服と同等
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非opioid
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静注/筋注
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ソセゴン:15-30mg
レペタン:0.2mg
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・ソセゴンには血圧上昇/心拍数上昇作用があり
◦心疾患には使いづらい
・非opioidのため麻薬箋書かなくてよい
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tramadol
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経口
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トラマール:25-100mg
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・ERで初回投与なら25mgから開始(出番なし)
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筋注
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トラマール:100-150mg
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・高齢者では控えめに
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ketamine
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静注
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ケタラール:0.3-0.5mg/kg
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・添付文書では、外来診療では使用禁忌
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fentanyl
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静注
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・鎮痛効果は最強
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局所麻酔
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皮下注
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塩酸プロカイン1%(50mg/5mL)
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・極量:7mg/kg
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皮下注
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・極量:4.5mg/kg
・添付文書には1回200mgを超えないことと記載あり
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・疼痛の評価を他覚的に行うこと
◦通常はVASやNRSで表現してもらって治療効果判定にも使用
◦重症/挿管患者ではCPOT
◦高齢認知症で評価困難なら、呼吸の快適さ/発声/表情/しぐさ/精神的安定があるかなどから総合的に評価
・非薬物的治療はバカにならない!全例に行うこと
◦骨折や脱臼で疼痛が強ければ長軸方向に引っ張ってみる
◦不安と恐怖はER受診患者はみんな持っている
‣よく説明して安心させる、家族の協力、気晴らしなど
◦包帯やシーネでの固定、挙上やアイシングを考慮
・NSAIDsは様々な臓器障害を引き起こす可能性があるので、急性期短期間の使用にとどめ長期間漫然使用はしないこと
・NSAIDsと臓器障害との関連
◦消化器合併症を考えるのであればcelecoxibが最も安全性が高い
‣最短7日間の使用で消化性潰瘍発症リスク
‣特に消化性潰瘍既往/高齢/高用量NSAIDs/抗凝固薬やステロイド投与中はリスク高い
◦高齢/CKD/脱水/ACE-I内服中では腎障害発生リスクが高い
‣もし選ぶならibuprofenかも
◦冠動脈疾患や心血管リスクが高い患者では心臓関連イベント増加
‣特にCOX-2阻害薬はリスク増大
‣最短7日間の使用でAMI発症リスク
◦慢性副鼻腔炎や鼻茸を指摘されている患者には呼吸器症状出現リスクあり
◦血小板凝集抑制やワルファリン内服中のINR延長の原因となる
◦骨癒合遅延のウワサもあるが少なくとも短期間使用では考えなくてよい
・NSAIDsを使おうとしたときに合併症との兼ね合いで考えること
◦消化管リスクが高いときにはCOX-2阻害薬
◦心血管リスクが高いときにはCOX-2阻害薬を避け、ほかのNSAIDsを使用
◦いずれも高リスクならNSAIDsを使用しない
・筋骨格系疼痛に対してはジクロフェナクゲルなども考慮
・acetaminofenは使いやすい鎮痛薬
◦15mg/kgをしっかり使おう。ハンパな量では鎮痛効果はでない
◦他の鎮痛薬と併用可能
◦内服でも点滴でも効果は同等
◦肝疾患や妊婦では少し合併症を気にしておく
・低用量ketamine0.15-1.5mg/kgは十分な鎮痛効果がある
◦呼吸抑制や低血圧が起きない、気管支拡張作用あり
◦静注より15分程度かけて点滴静注する方が副作用を軽減できる
◦一応、日本の添付文書では外来患者への使用は禁忌とされている
・dexmedetomidineなどのα-アゴニストは機序不明だが鎮痛効果もある
◦ただし、単独での使用はあまりしない
・筋骨格系疼痛では局所麻酔薬をうまく使おう
◦ただし極量とlipid rescueについては覚えておくこと
◦第一選択薬はmetoclopramide
‣効果が高く、安全性も高いことが証明されている
◦NSAIDsやacetaminophenも有効
◦sumatriptan、haloperidol、droperodolはmetoclopramideと同等の効果があるが副作用が多い
‣第一選択となる薬剤に反応がない場合には考慮する
◦奥の手としてmagnesiumは覚えておいてもよい
◦大後頭神経ブロックは除痛・予防に効果的
◦NSAIDsを第一選択薬として使用することを推奨する
◦NSAIDsの効果が乏しい場合にはacetaminophenを併用
◦それでも効果がなければopioidをレスキューとして使用する
・腰痛診療
◦薬物治療をするのであればNSAIDsや筋弛緩薬を使用することは推奨される
‣ただし、筋弛緩薬は非ベンゾ系(個人的にはERでは処方しない)
◦acetaminophenは効果がなく、他の薬剤との併用も推奨されない
◦trigger point注射は試してもよい
◦初回で標準量を投与すると副作用が前面に出うるのでERでは少量から投与がよい
※本記事は2020年5月に書いた記事を最近の話題も含めて書き直したものです。