りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

retrospective:ケタミン単独による気管挿管の初回成功率は?

救急外来での気管挿管はRSIを選択することが多いと思います。
しかし、場合によっては(特にdifficult airwayが想定される場合には)RSIを選択せずに上気道と声門に十分な局所麻酔を施して非経口鎮静薬を最小限使用して挿管する方法をとることもあります。
 
最近では気道反射と自発呼吸を残すことで、誤嚥と低酸素血症を防げる可能性が考慮されketamine-only approachを提唱する専門家もいます。
(West J Emerg Med. 2019 May;20(3):466-471./West J Emerg Med. 2019 Oct 17;20(6):970-971.)
 
特に、近年はビデオ喉頭鏡が普及しているため(もしかして従来の喉頭鏡を持ったことがない人もいるのでは!?)、従来の喉頭鏡でのアプローチに比較して安全性が増してきている可能性があるため、ケタミン単独による鎮静鎮痛で気管挿管ができるかもしれない!という期待が高まっています。
 
 
ケタミン単独での気管挿管(ketamine-only approach)について後ろ向きに検討した研究がありましたので紹介します。
 
Driver BE, et al. Success and Complications of the Ketamine-Only Intubation Method in the Emergency Department.
J Emerg Med. 2021 Mar;60(3):265-272.
PMID: 33308912.
 
 
・学術病院の国際的ネットワークから集積された挿管の登録簿であるNational Emergency Airway Registry (NEAR)のデータ分析を後ろ向きに行った
 
・2016年1月1日~2018年12月31日までのレジストリ登録のうち、RSI(RSI群)/筋弛緩薬を使用せず鎮静剤としてketamine単独使用(ketamine-only群)/局所麻酔単独または鎮静剤と併用(局所麻酔群)して気管挿管を行なった14歳以上の患者が対象となった
 
・最終的に対象となったのは12511例で、ketamine-only群102例、局所麻酔群80例、RSI群12329例であった
 ◦ketamine-only群…ketamine使用の中央値1.3mg/kg
 ◦局所麻酔群の43%はketamineを使用
 ◦ketamine-only群と局所麻酔群では挿管困難が予測されている割合が高かった(それぞれ75%, 90%)

f:id:AppleQQ:20210504124344p:plain

 
 
primary outcome…初回成功率
 ◦ketamine-only群…61%, 局所麻酔群…85%, RSI群…90%
 
1つ以上の合併症なしに初回挿管ができた割合も同様
 ◦ketamine-only群55%, 局所麻酔群…78%, RSI群…83%
 
気道確保困難と判断された患者における初回挿管成功率
 ◦ketamine-only群53%, 局所麻酔群…83%, RSI群…84%

f:id:AppleQQ:20210504124359p:plain

 
 
この結果より、現時点ではRSIによる全身麻酔にリスクがあるようなdifficult airwayが予想される状態であってもケタミン単独による気管挿管は推奨されないだろうと思います。
 
一方で完全に今後この手法がなし、というわけでもないとは思います。
サンプルサイズが小さい、ketamine-only approachがそもそも医師に浸透していない、局所麻酔群で鎮静薬投与を受けた患者の半数程度がketamineを使用していた、ketamine-only approachを行なった症例はそれ以外のアプローチが出来なかった可能性があり単純比較は難しい、年次の低い研修医も含まれていたことなどのlimitationがあります。
 
しばらくはketamine-only approachを行うことはありませんが、これからの研究を注目していきたいです。