抗凝固療法がされていない患者を見ない日はありません。
ワーファリンやDOACを内服している患者さんに致命的な大出血が起きた場合、それらの薬剤の拮抗を考えなくてはいけません。
今回は、抗凝固療法のリバースについて考えていきましょう。
緊急を要する大出血の定義と注意点
抗凝固薬のリバースと一口にいっても問題は、
「いつ」「どの薬剤で」
リバースを行うのかというところだと思います。
致命的な大出血を定義しておきます。
・頭蓋内/脊髄腔内/眼内/後腹膜/関節内/心膜腔/筋肉内などの重要臓器や部位への症候性出血で、
コンパートメント症候群の発症を伴うもの
・Hb≥2.0g/dL減少した出血、または2単位(日本だと4単位)以上のRBC輸血を要する出血
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上記のような出血があるような場合には致命的な大出血として
抗凝固療法のリバースを考えます。
主に対象となるのは頭蓋内出血と大量輸血を要する出血性ショックです。
※今回は主に抗凝固療法のリバースについての記載にとどまりますが、
出血性ショックの対応は止血術といった根本的な処置に取って代わるものではないことを忘れないようにしなければなりません。
ここまでで、「いつ」リバースを考えればよいかはわかりました。
ここからは、「どの薬剤」を使うかを見ていきましょう。
リバース戦略 overview
薬剤
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拮抗戦略➀
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拮抗戦略②
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ワルファリン
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PCC+Vit.K
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FFP+Vit.K
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ダビガトラン
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Idarucizumab
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PCC
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ダビガトラン以外のDOAC
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andexanet-α
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PCC
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未分画ヘパリン
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プロタミン
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低分子ヘパリン/アルガトロバン
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なし
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薬剤 |
投与量
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禁忌
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重大な副作用
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薬理学的作用
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Vit.K
(ケイツー)
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10mgを20分かけてdiv
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アナフィラキシーの既往
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・使用後2週間の
抗凝固作用↓
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作用発現:1-2時間後
ピーク:4-6時間
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PCC
(ケイセントラ)
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投与方法は別記
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アナフィラキシーの既往
HIT
DIC, MI, PEには注意
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・頭痛
・血栓イベントの増加
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半減期は4-60時間
※VII因子…4時間
※II因子…60時間
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10-15ml/kg
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抗IgA抗体など保有者
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・hypervolemia
・心不全
・輸血後呼吸不全
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さまざま
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andexanet-α
(オンデキサ)
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投与方法は別記
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アナフィラキシーの既往
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血栓イベントの増加
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半減期:4-7時間
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Idarucizumab
(プリズバインド)
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5gを10-20分でdiv
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アナフィラキシーの既往
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血栓イベントの増加
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半減期:9-10.8時間
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rFVIIa
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90mcg/kg
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アナフィラキシーの既往
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血栓イベントの増加
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半減期:2.5時間
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FXIII
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1050-1400IU
250IU/min
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アナフィラキシーの既往
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血栓イベントの増加
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半減期:6-8日間
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※ケイセントラ、オンデキサの投与方法は添付文書を確認してください。
リバース戦略 各論
ワルファリン内服中
・まずは抗凝固薬の中止
・ビタミンK(ケイツー) 10mgを10分以上かけて投与
・4F-PCC(ケイセントラ)を投与する
◦INR2-<4…25IU/kg(max2500IU)
◦INR4-6…35IU/kg(max3500IU)
◦INR>6…50IU/kg(max5000IU)
・PCCが入手困難であればFFP10-20ml/kg
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ダビガトラン内服中
特異的拮抗薬のidarucizumab(プリズバインド)を投与
イダルシズマブ(プリズバインド)はダビガトランの特異的拮抗薬です。
親和性が非常に高く、ダビガトランの抗凝固作用を迅速かつ完全に拮抗できます。
数秒~数分で作用発現し、効果は24時間持続します。
REVERSE-AD試験は、
制御不能な大出血やそれによる緊急処置を控える患者503人を対象に、
イダルシズマブの効果を検討した多施設前向きコホート研究です。
イダルシズマブ投与2.5時間時点で直接トロンビン時間は100%改善し、
臨床的な止血効果も得られました。
死亡率や血栓イベント発生率は低めで、
この薬剤自体はダビガトランと結合を起こすだけで凝固カスケードに影響を与えないため、血栓イベントは比較的少ないんでしょうね。
※基礎にある凝固異常がモロに出てしまう可能性はあるということ
ダビガトラン以外のDOAC内服中
andexanet-α(オンデキサ)を第一選択薬と考える
あまり効き馴染みのない薬剤かもしれません。
日本では2022年に承認されたオンデキサという新しい薬剤です。
Xa阻害薬と結合して、その活性を中和します。
効果発現は2-5分、半減期は6時間程度とされています。
新薬ゆえにまだその有効性はよくわかっていない部分もあります。
2015年に101人の健康なボランティアを対象に初めて評価されました。
抗Xa活性の80%程度を拮抗することができたと報告されています。
DOAC常用者に対する補助的な治療
トラネキサム酸
消化管出血への有効性はなさそうですが、
それ以外の急性出血に対しては概ねルーチンに投与を考えてよいと思います。
出血性ショックに対して投与されるトラネキサム酸による血栓イベントについては、
無視できるほど小さいと考えてよさそうです。
トラネキサム酸は過去にまとめているのでご参照ください。
活性炭
DOAC内服から2時間以内に活性炭を投与することで、DOAC濃度を最大50%低下させます。
6時間経過してしまうと最大25%程度に効果が減弱してしまいます。
DOAC内服から2-4時間以内であれば活性炭50g~を投与を考慮します。
血液透析
まとめ
薬剤
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拮抗戦略➀
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拮抗戦略②
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ワルファリン
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PCC+Vit.K
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FFP+Vit.K
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ダビガトラン
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Idarucizumab
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PCC
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ダビガトラン以外のDOAC
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andexanet-α
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PCC
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未分画ヘパリン
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プロタミン
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低分子ヘパリン/アルガトロバン
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なし
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