りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

大出血時の抗凝固薬リバース

抗凝固療法がされていない患者を見ない日はありません。

 

ワーファリンやDOACを内服している患者さんに致命的な大出血が起きた場合、それらの薬剤の拮抗を考えなくてはいけません。

 

今回は、抗凝固療法のリバースについて考えていきましょう。

 

緊急を要する大出血の定義と注意点

抗凝固薬のリバースと一口にいっても問題は、

「いつ」「どの薬剤で」

リバースを行うのかというところだと思います。

 

致命的な大出血を定義しておきます。

・頭蓋内/脊髄腔内/眼内/後腹膜/関節内/心膜腔/筋肉内などの重要臓器や部位への症候性出血で、
 コンパートメント症候群の発症を伴うもの
・Hb≥2.0g/dL減少した出血、または2単位(日本だと4単位)以上のRBC輸血を要する出血

 

上記のような出血があるような場合には致命的な大出血として

抗凝固療法のリバースを考えます。

 

主に対象となるのは頭蓋内出血と大量輸血を要する出血性ショックです。

 

抗凝固薬使用中の患者に上記のような大出血があることが判明した場合には、
検査結果を待つことなく抗凝固薬リバースを考えるべきです。

 

※今回は主に抗凝固療法のリバースについての記載にとどまりますが、

出血性ショックの対応は止血術といった根本的な処置に取って代わるものではないことを忘れないようにしなければなりません。

 

ここまでで、「いつ」リバースを考えればよいかはわかりました。

 

ここからは、「どの薬剤」を使うかを見ていきましょう。

 

 

リバース戦略 overview

薬剤
拮抗戦略➀
拮抗戦略②
ワルファリン
PCC+Vit.K
FFP+Vit.K
ダビガトラン
Idarucizumab
PCC
ダビガトラン以外のDOAC
andexanet-α
PCC
未分画ヘパリン
プロタミン
 
低分子ヘパリン/アルガトロバン
なし
 

 

(Surg Clin North Am. 2022 Feb;102(1):53-63.) 
 
薬剤
投与量
禁忌
重大な副作用
薬理学的作用
Vit.K
(ケイツー)
10mgを20分かけてdiv
・使用後2週間の
 抗凝固作用↓
作用発現:1-2時間後
ピーク:4-6時間
PCC
(ケイセントラ)
投与方法は別記
HIT
DIC, MI, PEには注意
・頭痛
血栓イベントの増加
半減期は4-60時間
※VII因子…4時間
※II因子…60時間
10-15ml/kg
抗IgA抗体など保有
・hypervolemia
・輸血後呼吸不全
さまざま
andexanet-α
(オンデキサ)
投与方法は別記
血栓イベントの増加
半減期:4-7時間
Idarucizumab
(プリズバインド)
5gを10-20分でdiv
血栓イベントの増加
半減期:9-10.8時間
rFVIIa
90mcg/kg
血栓イベントの増加
半減期:2.5時間
FXIII
1050-1400IU
250IU/min
血栓イベントの増加
半減期:6-8日間

※ケイセントラ、オンデキサの投与方法は添付文書を確認してください。

 

リバース戦略 各論

ワルファリン内服中

PCC(ケイセントラ)+Vit.Kが推奨
 
PCCを投与することで、PT-INRは3-15分程度で短縮し、6-12時間持続します。
 
効果発現がとても早いのは助かりますね。
 
特殊な例ですが、制御不能な鼻咽頭出血(リバロキサバン20mg内服中)の心停止患者にケイセントラ急速静注を行い、5分でROSCしたという症例報告も見つけました。
(Am J Emerg Med . 2023 Feb 14;S0735-6757(23)00084-0.)
 
へぇ~。。。
 
 
ヘパリンを含有しているとのことでHIT既往がある場合には禁忌となっています。
 
これまでの研究通り、基本的にはPPCとVit.Kは併用します。
PCCによる欠乏凝固因子の補充効果は持続的ではないため、
抗凝固が是正された状態維持のためにVit.Kの投与が推奨されます。
 
 
危機的/重症出血時のワルファリンリバースプロトコルは以下の通り
・まずは抗凝固薬の中止
・ビタミンK(ケイツー) 10mgを10分以上かけて投与
・4F-PCC(ケイセントラ)を投与する
 ◦INR2-<4…25IU/kg(max2500IU)
 ◦INR4-6…35IU/kg(max3500IU)
 ◦INR>6…50IU/kg(max5000IU)
・PCCが入手困難であればFFP10-20ml/kg
 
 
止血効果としてはINR<1.3となれば有効性があるとみなされます。
ケイセントラ投与から30分後にINRを確認して効果を確認します。
 
 
原則はPT-INRに合わせてケイセントラの投与量調整を行います。
 
しかし、致命的な大出血の場合には、結果がわかるまでに30分近くかかる凝固検査を待っている余裕はありません。
 
施設により基準を作っておくべきだとされていますが、
INRが不明の場合には4-PCCを25IU/kg(max3000IU)または2000単位投与
→INR判明後に調整することは妥当
と考えられています。
 
 
致命的な大出血があるけどPT-INR<2.0の場合にはどうしましょう。
 
PT-INR<2.0(中央値1.8)の非外傷性/外傷性頭蓋内出血134人を対象とした後ろ向き観察研究で、PCC 15U/kg投与が行われました。
95%がPT-INR≦1.5, 85%でPT-INR≦1.3を達成できたとの結果であり、
INR<2.0の場合にはPCC 15IU/kg投与は妥当ではないかと思われます。
 
 
 
歴史を紐解くと、PCCが検討されるより前はFFPが使用されていました。
 
もちろん出血性ショックの際には併用することにはなりますが、
ワルファリン拮抗目的でFFP vs 4-PCCを検討した複数のRCTにおいて、
PCCはFFPよりもINRの補正が早く、止血率増加/有害事象減少が報告されました。
(2週間以内の血栓イベント発生率は3-4%程度で同等でした)
 
2016年のSR&MAでは、
PCCを投与した患者はFFPと比較して全死因死亡率が低下することが示されました。
 
そんな背景からPCC > FFPとなりました。
実際、PCCはFFPよりも効果自体が高いですし、血液型の適合や解凍/容量負荷などの懸念がないのは大きなメリットだと思います。
 
どうしてもPCCが入手できない環境であればFFPは代用として考えておくくらいの位置づけになりました。
 
 
一応、Vit.K(ケイツー)にも触れておきます。
 
効果発現までに1-2時間程度かかり、INR正常化までに12-14時間、
最大効果発現までに24-48時間かかるとか言われています。
 
大出血の際には、Vit.Kを単独で投与することには意味がありませんので、
必ずPCC(またはFFP)との併用を考えましょう。
 
投与の注意点は以下の2点です。
・1-3例/10000例の割合でアナフィラキシー様症状を呈する
 →投与は静注ではなく、10-30分かけて点滴静注すること
・1度投与すると2週間ほど効果が持続するため血栓イベントに注意
 
 

ダビガトラン内服中

特異的拮抗薬のidarucizumab(プリズバインド)を投与

 

イダルシズマブ(プリズバインド)はダビガトランの特異的拮抗薬です。

親和性が非常に高く、ダビガトランの抗凝固作用を迅速かつ完全に拮抗できます。

 

数秒~数分で作用発現し、効果は24時間持続します。

 

REVERSE-AD試験は、

制御不能な大出血やそれによる緊急処置を控える患者503人を対象に、

イダルシズマブの効果を検討した多施設前向きコホート研究です。

 

イダルシズマブ投与2.5時間時点で直接トロンビン時間は100%改善し、

臨床的な止血効果も得られました。

 

死亡率や血栓イベント発生率は低めで、

30日死亡率…13%、血栓イベント…5日時点:1%/ 30日時点:5% でした。
 
対照群の設定がない、臨床的止血の定義が不明瞭などのlimitationはありますが、
イダルシズマブの地位を確立した試験です。

 

この薬剤自体はダビガトランと結合を起こすだけで凝固カスケードに影響を与えないため、血栓イベントは比較的少ないんでしょうね。

※基礎にある凝固異常がモロに出てしまう可能性はあるということ

 

ダビガトラン以外のDOAC内服中

andexanet-α(オンデキサ)を第一選択薬と考える

 

あまり効き馴染みのない薬剤かもしれません。

日本では2022年に承認されたオンデキサという新しい薬剤です。

 

Xa阻害薬と結合して、その活性を中和します。

効果発現は2-5分、半減期は6時間程度とされています。

 

新薬ゆえにまだその有効性はよくわかっていない部分もあります。

 

2015年に101人の健康なボランティアを対象に初めて評価されました。

抗Xa活性の80%程度を拮抗することができたと報告されています。

 
その後、時代を経てANNEXA-4試験が行われます。
大出血を発症したXa阻害薬使用患者352人を対象とした多施設共同前向きコホート研究です。
andexanet-α投与から12時間時点で82%に有効な止血を認めました。
30日以内の血栓塞栓イベントは10%と、イダルシズマブなんかに比較すると高めです。
 
この試験も例によって、対照群の設定がない、途中で複数回のプロトコル修正、登録患者数が少ないなどのlimitationがあります。
よって、その有効性/有害性の解釈が難しいです。
 
上記試験後は主にPCCとの比較を目的とした小規模な試験(SR&MA含む)が複数行われています。
おおよその傾向として効果は同等、合併症も同等、治療費はandexanet-αで高い
というような結果になっています。
 
ちなみに、PCCを使うとすればワルファリンのときとは使用量が異なります。
投与量は50IU/kgで1回投与量の上限はなし、とされています。
500IUで大体6-7万くらいなので、私なら治療に60-70万弱かかることになります。
 
その他、ciraparantagという薬剤もありますが、データが少なく研究段階です。

 

 

DOAC常用者に対する補助的な治療

トラネキサム酸

消化管出血への有効性はなさそうですが、

それ以外の急性出血に対しては概ねルーチンに投与を考えてよいと思います。

出血性ショックに対して投与されるトラネキサム酸による血栓イベントについては、

無視できるほど小さいと考えてよさそうです。

 

トラネキサム酸は過去にまとめているのでご参照ください。

appleqq.hatenablog.com

 

活性炭

DOAC内服から2時間以内に活性炭を投与することで、DOAC濃度を最大50%低下させます。

6時間経過してしまうと最大25%程度に効果が減弱してしまいます。

 

DOAC内服から2-4時間以内であれば活性炭50g~を投与を考慮します。

 
血液透析
DOACを循環血液中から直接除去する方法として検討されていたことがあります。
 
理論的にはダビガトランには有効性がありますが、
有効性に限界があり、透析導入までに時間がかかるのでやることはないでしょう。
 
 

まとめ

薬剤
拮抗戦略➀
拮抗戦略②
ワルファリン
PCC+Vit.K
FFP+Vit.K
ダビガトラン
Idarucizumab
PCC
ダビガトラン以外のDOAC
andexanet-α
PCC
未分画ヘパリン
プロタミン
 
低分子ヘパリン/アルガトロバン
なし
 
・ワーファリン内服中…PCC(ケイセントラ)+ケイツー、必要に応じてFFP追加
・ダビガトラン(プラザキサ)内服…イダルシズマブ(プリズバインド)投与
・それ以外のDOAC…andexanet-α(オンデキサ)投与
・DOAC内服から2時間以内なら活性炭投与せよ
トランサミンは適応があれば併用を考慮
 

参考文献

Crit Care Res Pract. 2018 Jul 4;2018:4907164.
Emerg Med Pract . 2019 Aug;21(8):1-28.
Curr Opin Crit Care . 2020 Apr;26(2):122-128.
Braz J Anesthesiol . 2021 Jul-Aug;71(4):429-442.
Surg Clin North Am. 2022 Feb;102(1):53-63.
Swiss Med Wkly . 2023 Feb 20;153:40036.