下部消化管出血のマネジメントについてのガイドラインです。
European Society of Gastrointestinal Endoscopyより発表されていたので
新しい気持ちで読んでみました。
良い復習になりました。当院での対応は大体標準的なんだと確認できました!
Triantafyllou K, et al. Diagnosis and management of acute lower gastrointestinal bleeding: European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Guideline.
Endoscopy. 2021 Jun 1. doi: 10.1055/a-1496-8969.
PMID: 34062566.
今回は各推奨と初期対応のアルゴリズムだけまとめています。
細かい背景やエビデンスは本文をご参照ください!
初期評価
●recommendation➀(Strong recommendation, low quality evidence)
・急性下部消化管出血の患者の初期評価には以下を含めよ
◦出血を促進するような既存症や薬剤の有無の聴取
◦血行動態
◦身体所見(直腸診を含む)
◦血液検査
・リスクスコアは使用可能であるが、医師の判断に代わるものではない
●recommendation②(Weak recommendation, low quality evidence)
・急性LGIBの有害な転帰を予測し入院の必要性を決定するために、単一のリスクスコアを単独で使用すべきではないと提案する
●recommendation③(Strong recommendation, moderate quality evidence)
・活動性出血がなく、有害な臨床的特徴がない患者の場合には、Oakland score≦8であれば患者を帰宅させるかどうかの指標とすることができる
軽症かどうか(特に外来評価可能かどうか)の判断にはOakland scoreを使います。
このスコアが8点以下であれば基本的には軽症と考え、外来での評価も可能と考えられます。
ただし、スコアリングと医師の臨床的判断を比較した研究はないので、自分の第6感(やバイタルサインや背景など)が危険だ!と訴える場合には無理せず入院での評価に切り替えるのが吉と思います。
輸血戦略
●recommendation④(Strong recommendation, low quality evidence)
・血行動態が安定している心血管疾患の既往がないLGIB患者に対しては赤血球輸血制限戦略(Hb≦7g/dL)を推奨する
◦輸血後の目標Hbは7-9g/dLが望ましい
●recommendation⑤(Strong recommendation, low quality evidence)
・血行動態が安定しているが心血管疾患の既往がある場合にはHb≦8g/dLであれば赤血球輸血を行うことを推奨する
◦輸血後の目標Hbは10g/dL以上
これは有名な基準でありご存知の方も多いと思います。
これは血行動態が安定している場合についての言及であることに注意が必要です。
不安定な場合にこの閾値を守ろうとすることは有害です。
高齢者や心血管疾患既往がある場合には高めのHb設定がよいとされます。
検査と止血方法
●recommendation⑥(Strong recommendation, very low-quality evidence)
・急性LGIBで血行動態が安定している患者に対しては、治療手段ともなることから大腸内視鏡検査をfirst choiceとすることを推奨する
これは普段の診療と同じです。
当院でも安定している場合には、大腸内視鏡を依頼します。
活動性出血がある場合や血行動態が不安定な場合には、
大腸内視鏡よりもCTAの方が出血源特定がしやすくはなります。
(その後、明らかなextravasationがあればTAEへ急ぐような流れになる)
●recommendation⑦(Strong recommendation, low quality evidence)
・大腸内視鏡検査のタイミングについては、入院後のいつかのタイミングで実施することを推奨する
このへんは普段の診療とは異なる概念かと思います。
そもそも言葉の定義が海外と日本で異なります。
上記のように多くの研究で定義されています。
多くの場合には入院後即座に、少なくとも翌日には内視鏡になっているように思いますが、これは当院の消化器内科が頑張ってくれているだけなのでしょうか。
日本の他の病院でもそうだと思うけど。
"緊急内視鏡"は総死亡率/手術必要率/輸血必要率/病院滞在日数を少なくすると報告している複数のmetaanalysisがありますが、臨床的予後に有意差はないとする研究も複数あります。
患者の状態と消化器内科のマンパワーなどにより決めていけばよいのでしょう。
●recommendation⑧(Strong recommendation, low quality evidence)
・急性LGIBに対する前処置なしの大腸内視鏡は推奨しない
●recommendation⑨(Strong recommendation, low quality evidence)
・血便を呈する血行動態不安定な患者では、CTAにて明らかな出血源が特定されていない限り、上部消化管内視鏡を行うことが推奨される
これはその通りです。
血便+血行動態不安定な患者の最大15%が上部消化管由来の出血との報告もあります。
特に門脈圧亢進症/消化性潰瘍既往、抗血小板薬内服なんかが揃うと
「これは上部なんじゃないかな」とセンサーが働きます。。
不安定な場合には即座のCTAを行い、明らかな出血源が下部にない限り、上部消化管からの検索が推奨されます。
●recommendation⑩(Strong recommendation, moderate quality evidence)
・前処置として大量(4-6L)のPEGによる腸管洗浄を提案する
・経口摂取できない場合には経鼻胃管や制吐剤の投与も考慮される
より少量のPEG(2L程度)での研究もあるそうですが、これでもある程度許容されるようです。
前処置の有害事象発生率は9%で、低血圧や嘔吐があります。
●recommendation⑪(Weak recommendation, moderate quality evidence)
●recommendation⑫(Strong recommendation, low quality evidence)
・出血性血管拡張症に対してアルゴンプラズマ凝固法を推奨する
●recommendation⑬(Strong recommendation, low quality evidence)
・ポリペク後の遅発性出血に対する治療法として機械的治療をや熱凝固療法の使用を推奨する
●recommendation⑭(Weak recommendation, low quality evidence)
・止血が不十分/失敗に終わり出血が持続している場合には、止血剤の局所投与を提案する
●recommendation⑮(Strong recommendation, low quality evidence)
下部消化管出血に対するCTAの感度は79-95%/特異度95-100%とされています。
特に血行動態不安定な場合には陽性になりやすいとされます。
憩室出血の研究では、内視鏡検査に先立ってCTAを行うことでCTAを省略した場合に比較して診断率が高いとされています(35.7% vs 20.6%)。
なお、CTAで造影剤の血管外漏出が認められた場合にはIVRの対象となります。
●recommendation⑯(Strong recommendation, low quality evidence)
・生命を脅かす可能性のある急性LGIBに対してはTAEを用いることを推奨する
◦特に、CTAにおけるextravasationを伴う血行動態不安定な患者や、内視鏡的介入が適応でないまたは効果的な治療ができない場合、持続的な出血がある患者においては考慮されるべし
・血行動態が不安定な場合には60分以内に血管塞栓術を行うこと
TAEは出血部位への動脈血流を減少させ、1mm未満の動脈出血をも確実に選択的に塞栓することが可能です。
systematic reviewによれば、憩室出血の40-100%の症例でTAEによる即時止血が達成され、再出血率は0-50%であったことが報告されています。
腸管虚血リスクは1-4%とされています。
60分以内というのは当地域においてはなかなかハードルが高いです。
●recommendation⑰(Strong recommendation, low quality evidence)
ただし、緊急開腹術が適応になる病態もあり、大動脈腸管瘻やメッケル憩室からの出血の場合には考慮されます。
抗血栓薬への対応
ワルファリン
●recommendation⑱(Weak recommendation, low quality evidence)
・軽症の場合(Oakland score≦8)にはワルファリンを中断しないことを提案する
●recommendation⑲(Strong recommendation, low quality evidence)
・血行動態が不安定な場合にはビタミンKと4-PCC静注(またはFFP)の投与を推奨する
●recommendation⑳(Strong recommendation, moderate quality evidence)
・急性LGIB治療後には抗凝固療法を再開することを推奨する
●recommendation㉑(Weak recommendation, low quality evidence)
・血栓症リスクが低い患者では、ワルファリン中断後、最短で7日目から抗凝固薬を再開することを提案する
●recommendation㉒(Strong recommendation, very low quality evidence)
・血栓症リスクが高い患者ではヘパリンブリッジングによる抗凝固療法の早期再開、できれば72時間以内の再開が推奨される
軽症の場合にはワルファリン投与継続も可能ですが、重症の場合には中止することが標準的です。
再開することをあまりに遅らせることで、たとえ再出血は予防できたとしても総死亡率は増やしてしまうという報告があるので病態に合わせてなるべく早期に再開することが望ましいとされます。
DOAC
●recommendation㉓(Weak recommendation, low quality evidence)
・軽症の場合(Oakland score≦8)にはDOACを中断しないことを提案する
●recommendation㉔(Strong recommendation, low quality evidence)
・重症の急性LGIBの場合にはDOACを一時的に中止することを推奨する
●recommendation㉕(Weak recommendation, low quality evidence)
・持続的な出血±血行動態不安定な場合には抗凝固薬のリバースを提案する
◦dabigatran…idarucizumab
◦Xa阻害薬…andexanet, 4-PCC
●recommendation㉖(Weak recommendation, low quality evidence)
・重症の急性LGIB治療後は7日目から可能な限り早く再開することを提案する
推奨は大体ワルファリンとかわりません。
血行動態不安定な場合にはリバースを考えますが、
特にdabigatranにはidarucizumabが用意されています。
プリズバインドは当院にもありますが使ったことはありません。
抗血小板薬
●recommendation㉗(Strong recommendation, low quality evidence)
・抗血小板薬を内服しているLGIB患者に対するルーチンの血小板輸血は推奨しない
血小板輸血により再出血率は変わらず、死亡率は増えます。
●recommendation㉘(Strong recommendation, low quality evidence)
●recommendation㉙(Strong recommendation, moderate quality evidence)
・投与を中止した場合にはできれば5日以内に再開すべきであり、止血が達成された場合にはそれよりも早期に再開すべきである
●recommendation㉚(Strong recommendation, low quality evidence)
・循環器内科の判断なしにDAPTをルーチンに中止することは推奨しない
・アスピリンは継続することが推奨されるが、P2Y12受容体拮抗薬は出血の重症度や虚血リスクに応じて継続または一時中止を考慮できる
◦中止した場合、P2Y12受容体拮抗薬が必要であれば5日以内に再開すること
入院中にも抗血小板療法を継続することは、短期間でもアスピリンを中止できないような心血管リスクが高い患者の多くで適切であるとの考え方が主流みたいです。
どうしても一時的な中断が必要な場合(重度の出血が続く場合)には5日以内に抗血小板療法を再開すべきという目標でよさそうです。
トラネキサム酸
●recommendation㉛(Strong recommendation, high quality evidence)
・急性LGIBに対してトラネキサム酸を投与することを推奨しない
HALT-IT trialの結果を受けての推奨です。
あくまで補助的なものなので内視鏡やIVRなどにはかないません。
まとめ
アルゴリズムを引用してまとめとしたいと思います。
British Society of Gastroenterologyのガイドラインはこちらです。
アルゴリズム自体はこっちの方がわかりやすいかも!