りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

肺塞栓(BMJ. 2020;370:m2177.)

BMJより肺塞栓症のレビューが出ましたので紹介します!

 

killer chest painですが、意外と診断が難しいことがあります。

これを機に、診断~治療までおさらいしましょう。

 

Duffett L, Castellucci LA, Forgie MA.

Pulmonary embolism: update on management and controversies. 

BMJ. 2020;370:m2177.

 

※ Venous thromboembolism(VTE)

…DVT(deep venous thrombosis)とPE(pulmonary embolism)を含む概念

以下、略語を使用します。

 

 

疫学

 
肺塞栓症の年間発症率は1人/1000人程度
 ◦心血管疾患のうち3番目に多く、人口の5%が生涯に罹患する
 ◦加齢とともに発症率は上昇する
  ‣40-49歳…1.4人/1000人、80歳以上…11.3人/1000人
・画像診断の感度が向上したことから、過去10年間での入院率は2倍以上になった
 ◦一方で、致死率は変わりがないか減少傾向である
・VTEと診断された患者の3か月死亡率は最大17%
 ◦最近の大規模RCTによれば3か月死亡率はおおむね2%程度と報告
 ◦直接的な死因ではなく、併存症が原因になっていることもある
再発性VTEは多く、約30%に発症する
 ◦最大で年間30人/1000人ほどの発症率
人種間での差も指摘されている
 ◦白人やアフリカ系アメリカ人では多く、アジア系は少ない
性差も指摘されている
 ◦男性の方が女性よりもわずかに発症率が高い
 ◦45歳未満/80歳以上の女性はその年代の男性よりも発症率が高い
  ‣estrogenや妊娠、高齢化などが関与しているよう
 ◦死亡率でみると、15-55歳/80歳以上の女性は男性より高い
・VTEのうち50%は手術や入院など一過性リスク因子(Transient risk factors)に関連
 ◦悪性腫瘍関連が20%、その他はリスクが軽微または全くない患者群
 

リスク因子

Strong risk(OR>10)
Moderate risk(OR 2-9)
Weak risk(OR<2)
・臀部/下肢骨折
・臀部/下肢関節置換
・主要な全身手術
・重大な外傷
・脊髄損傷
・膝関節鏡手術
・CVC挿入
心不全/呼吸不全
・ホルモン補充療法
・悪性腫瘍
・麻痺合併した脳卒中
・産後
・VTE既往
・3日以上の臥床
・座位固定(旅行や飛行機)
・高齢
・腹腔鏡手術
・肥満
・妊娠
・静脈瘤

 

診断方法

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慣れた人であればこの図は見慣れたフローチャートだと思います。

肺塞栓症の診断はあまり以前から変化はなく、以下のようになります。

➀事前確率を見積もる(Clinical Prediction Rule:CPRを使用)

②それに応じたD-dimerや画像検査を選択する

 

事前確率の見積もりをせず出されたD-dimerに何の価値もありません。

 

以下、それぞれについての詳述があります。

 

Clinical probability scores

肺塞栓症の事前確率を推定するために使用する
 ◦無駄な検査を回避でき、結果の解釈に不可欠なものとなっている
・Clinical probability scoresとして頻用されているのは、
 ”Geneva rule””Wells rule”の2つ
 ◦いずれも55000人以上を対象に検討されており、信頼性/正確性が証明されている
・Wells ruleのうち3項目を使用した"YEARS rule"も評価が進んでいる
 ◦3465人に対する観察研究では、
 「3項目陰性+D-dimer<1000ng/ml」
 または「1項目以上陽性+D-dimer≺500ng/ml」であれば安全にPEを除外できた
 ◦除外されて治療されなかった患者の0.61%が3か月のフォローアップでVTEと診断
"PERC rule"(pulmonary embolism rule-out criteria)も有用
 ◦PEの事前確率が15%未満と判断された1916人に対するcrossover cluster RCTでは、3か月後のVTE発症率は標準的対応と比較して非劣性であることが示された
 ◦ただし、事前確率が15%を超えるようなhigh-risk群には使用しないこと
 
Wells' Criteria for Pulmonary Embolism
 
Geneva Score (Revised) for Pulmonary Embolism
 
YEARS Algorithm for Pulmonary Embolism (PE)
 
PERC Rule for Pulmonary Embolism
 
本reviewではCPRについてはだいぶさらっと解説されています。
もっと知りたい場合には、上記サイトから調べるとより深い情報をGetできます。
 

D-dimer

事前確率が低い、かつD-dimerが低値である場合にはVTEを安全に除外できる
 →D-dimerは使い方によっては有用なツールである
VTEが疑われないような患者に対するスクリーニングツールとして使用しない
D-dimerを提出する前に事前確率を評価すること
 ◦D-dimerは感度が高いが、特異度が高い検査ではない
 ◦事前確率とともに使用することで特異度も改善させられる
事前確率に応じてD-dimer値を解釈できうる
 ◦2017人に対する観察研究
 ◦事前確率に応じたD-dimerのcutoff値が設定され、D-dimerまたは画像検査を実施
  ‣肺塞栓の事前確率が低い場合…D-dimer<1000ng/ml
  ‣肺塞栓の事前確率が中等度の場合…D-dimer≺500mg/ml
  ‣肺塞栓の事前確率が高い場合…画像検査実施
  ※事前確率の推定にはWells ruleを使用
 ◦上記により、それ以上の検査を必要とせず安全にPEを除外可能であった
  ‣1か月後のVTE発症率は0%であった
  ‣上記使用により、単一のD-dimer≺500ng/mlを用いた戦略と比較して画像検査を17.6%減少させられた
age-adjusted D-dimerも同様に使い勝手が良い
 ◦3346人に対する観察研究
  ‣50歳以下:D-dimer≺500mcg/L
  ‣50歳以上:D-dimer≺年齢×10mcg/L
 ◦上記D-dimer値未満 かつ
 Wells:unlikelyまたはrevised Geneva:non-highに対しては画像検査を実行せず
 ◦画像検査をせずに除外可能な患者を6%→30%に増加させた
 ◦D-dimer>500ng/Lかつage-adjusterd D-dimer cutoff未満の患者の3か月VTE発症率は0.3%
 
CPRを使用して事前確率が低い場合には、D-dimer陰性であればPE除外ができます。
 
D-dimer陰性をどう判断するかについては、上記より3通りあります。
➀単一のD-dimer値を用いる(500-1000ng/ml)
②事前確率に応じてD-dimer値のcutoffを設定
③age-adjusted D-dimer
いずれもよさそうですね。より大事なことは事前確率の推定です。
 

画像検査

CTPA(computed tomography pulmonary angiography)Planar ventilation-perfusion lung scans(V/Q scan)はその有用性が証明されている検査である
 ◦事前確率とD-dimerの組み合わせによりその適応と結果を正確に解釈すべし
・CTPAで異常が指摘されなかった場合、3か月VTE発症率は1.2%/NPV98.8%
・V/Q scanとD-dimer/超音波/CPRを組み合わせて使用すると、3か月VTE発症率は0.1%/NPV99.5%
・CTPAとV/Q scanの比較
 ◦CTPAは5%多くのPEを発見することができた
 ◦V/Q scan algorithm(Fig2のoptionB)はCTPA(Fig2のoptionA)と比較して、
3か月VTE発症率が有意に高いわけではなかった
  ‣0.4%(CTPA) vs 1.0%(difference −0.6%, −1.6% to 0.3%)
 …もしかしたらV/Q scanにより「見逃された」PEは臨床的意義が乏しいのかも
・原則的には、現代ではCTPAが最もcommonな診断に必要な画像検査となっている
 

妊婦に対する診断

・妊婦や褥婦はVTEイベントが増加する
・妊娠中のPE診断は難しい
 ◦そもそも息切れや下腿浮腫があり、D-dimerも上昇している
 
以下、妊婦に対する研究を3つ紹介します。
サンプルサイズが小さいこと、リスクがより低い患者を選択したバイアスの可能性が含まれることなどのlimitationが指摘されています。
 
➀441人の妊婦に対し、modified Geneva score+D-dimerを使用した研究
 ◦以下のようにアプローチ
  ‣low-intermediate risk+D-dimer<500ng/L…除外
  ‣それ以外の場合には下肢のcompression ultrasonography実施
   →これが陰性であればCTPA実施
 ◦上記アプローチは安全であった…VTEは0%
 ◦PEが除外された未治療の患者の3か月follow-upでは画像検査を10%しか回避できず
  ‣D-dimer検査を受けた患者の87%が陽性となり、妊娠後期ではその可能性が高い
 
②510人の妊婦に対し、YEARS score+D-dimerを使用した研究
 ◦以下のようにアプローチ
  ‣YEARS scoreを満たさない場合…D-dimer<1000ng/ml
  ‣YEARS scoreを1項目以上満たす…D-dimer≺500ng/ml
  ‣DVTの徴候がある場合にはcompression ultrasonography実施
 ◦このアプローチにより39%が画像診断を避けることができた
 ◦3か月VTE発症率は0.21%で許容可能レベルであった
 
③➀の研究にYEARS algorithmを適応した事後解析においても同様の結果であった
 ◦21%が画像診断なしに除外でき、フォローアップでVTE発症なし
 
 
・妊娠中であっても、PEが疑われる場合の画像診断については非妊娠患者と変わらない
 ◦V/Q scanとCTPAが妊婦にとっても安全な選択肢
 ◦胎児への放射線被曝はいずれの検査でも許容範囲を下回っている
 
事前確率が高い場合には、空振りを恐れずにCTPAに行かなければなりません。
 
compression ultrasonographyはDVTの症状を呈している際には考慮
 ◦DVTがないからといって胸部画像の必要性を除外できるわけではない
 ◦近位DVTがあればPEの診断が推定されることになる
 

VTE既往がある場合

VTE既往がある患者では、生涯再発リスクは高くなる
 ◦抗凝固療法によりその発症率を80-85%程度低下させられる
 
・VTE既往がある場合には、CPRでも事前確率が高い分類がされるため、さらなる画像検査を要することが多い
 
この患者群(VTE既往がある患者)でも、
・事前確率が低い+D-dimer陰性であればPE除外に有効
・事前確率が中等度~高い患者群ではCTPA実施が推奨されることになります。
以下に2つ研究を紹介します。
 
➀1721人の観察研究のsubgroup解析
 ◦VTE既往+臨床的にPE疑いの患者306人
 →事前確率+D-dimerを使用して安全に除外可能であった
 ◦3か月VTE発症率0%
 ◦画像検査せずに除外できたのは16%にとどまった
  ‣VTE既往がない患者では33%
 
②516人の観察研究…抗凝固薬投与を受けておらず、臨床的に再発性VTE疑い患者
 ◦Wells rule≦4+D-dimer陰性でPE除外、そのほかはCTPA実施
 ◦PEは33%に認められた
 ◦除外された患者の3か月VTE発症率は2.8%だった
 ◦17%しか画像診断を避けることができなかった
 
画像診断が難しくなるのもこの患者群の特徴です。
 
初回診断時から6-12か月ほどは残存血栓が残りうるため、過剰診断を防ぐべく画像診断は前回のものと慎重に比較すること
 ◦baselineの画像が完全に改善している割合は50-84%ほど
 ◦新規のPE vs 残存血栓の鑑別は難しく、放射線科医の中でも一致率は低い
post-thrombotic syndrome、postpulmonary embolism syndromeなどの慢性合併症による症状とVTE再発との鑑別は診断上の課題
 

マネジメント

確定診断後のリスク評価

治療方針決定のために、ここでもリスク評価が必要です。
主にバイタルサインとCPRを使用します。
肺塞栓ではCPRがたくさん出てきてややこしいですね。。。
 
・PEは突然死から無症状で偶然見つかるパターンまでさまざまな現れ方をする疾患
予後予測因子として以下が重要
 ◦血行動態不安定…15分以上にわたりSBP≺90mmHg
  ‣5%ほどの症例でしか見られない
  ‣短期死亡率は15%を超える
・残りの95%に関しては、予後リスク推定目的でのCPRが提案されている
 ◦PESI(Pulmonary Embolism Severity Index)sPESI(simplified-PESI)が最もエビデンスがあり研究されている
  ‣いずれもPEの30日死亡率が低いか高いかを鑑別可能
 
Pulmonary Embolism Severity Index (PESI)
 
Simplified PESI (Pulmonary Embolism Severity Index)
 
・biomarkerも研究されている
 ◦cTnが陽性になると、PESI/sPESIでlow-riskであっても30日死亡率のオッズは5倍!
  ‣odds ratio 4.79, 1.11 to 20.68
 ◦超音波/CTPAで心不全の徴候予後不良因子
 ◦cTn陽性+右心不全徴候=intermediate riskとして血栓溶解療法候補としてRCT実施
 →cotrol群では5%が7日以内に血行動態破綻に陥り、その多くが最終的に血栓溶解療法を要した
 

血栓溶解療法

PEのうち5%は血行動態不安定(SBP<90mmHg)…早期死亡率が最も高い患者群
 ◦この患者群への血栓溶解療法は最も効果が高い
 ◦主要な出血イベント発症リスクは10%以上
15分以上にわたりSBP≺90mmHgかつ出血リスクが高くなければ即座に血栓溶解療法を開始することを推奨
 ◦一方で、質の良いエビデンスはない
 ◦ICOPERによれば90日死亡率に関して予後改善効果なし
 ※血栓溶解療法を受けた患者は全体の32%に過ぎず、選択バイアスが存在する可能性
 
・18RCTを含むsystematic review
 ◦血行動態安定または不安定なPEに対する血栓溶解療法の評価
 ◦死亡率低下…odds ratio 0.51, 0.29 to 0.89; P=0.02
  ‣バイアスのリスクが高い研究を除外すると、この効果はなかった
  ‣odds ratio 0.66, 0.42 to 1.06; P=0.08
 
血行動態安定+high riskな特徴を持つPEに対する血栓溶解療法
 ◦PEITHO trial…CTPA/超音波で右室不全またはcTn上昇しているPEに対する血栓溶解療法+UFH投与 vs UFH投与のみを比較したRCT
  ‣7日以内の死亡/血行動態破綻複合アウトカムを改善
   …odds ratio 0.44, 0.23 to 0.87; P=0.02
  ‣主要な出血イベントを増やした…odds ratio 5.55, 2.3 to 13.39; P<0.001
 ◦PEITHOの3年間追跡調査では、血栓溶解療法が呼吸困難/右室機能障害/全死亡率に及ぼす影響は認められなかった
 
血行動態不安定であれば血栓溶解療法に踏み切りますが、
心不全徴候やcTn上昇などだけならルーチンでの血栓溶解療法の推奨はありません。
 

Catheter directed thrombolysis(CDT)

 
・肺動脈内に直接血栓溶解薬を流す方法
 ◦これにより出血リスクが低くなる可能性がある
  ‣全身投与に比較して投与量は1/3で済む
CDTの役割は不明瞭であり、ルーチンでの使用は推奨されない
 ◦経験の豊富な施設/血行動態安定+出血リスクが高い+遅延なく治療可能な場合のみ
 
・血行動態破綻がない患者59人でのRCT
 ◦CDTは24時間時点での右心機能を有意に改善させた
コホートレジストリ―の研究ではPE再発率や死亡率には効果がなかった
・主要な出血イベント発症リスクは全身血栓溶解療法と同様であると報告されている
・PEに対する再灌流療法を比較したRCTのnetwork meta-analysis
 ◦全身血栓溶解療法(標準投与量)、全身血栓溶解療法(低用量)、CDTでの比較
 ◦いずれの方法でも死亡率に有意差なし
 ◦いずれの方法でも出血イベントは増えた
  ‣特に全身血栓溶解療法(標準投与量)
 
CDTに関しては高品質なエビデンスはありません。
15分以上にわたりSBP<90mmHgで血行動態が不安定になっているPE患者に対しては、その高い短期死亡率を考慮すると、全身血栓溶解療法を開始することは推奨されます。
CDTに関しては適応を個別化すべきであり、出血リスクが高い場合や施設が慣れている場合にのみ考慮されることになりそうです。
 

外科的血栓除去術

血行動態不安定かつ血栓溶解療法禁忌患者に考慮される
・周術期死亡率は4-59%と報告によってさまざま
 ◦高齢、術前心停止、術前血栓溶解療法実施は予後悪化因子
・ECMOの単独使用または手術までのつなぎとしての使用も効果が報告されている
 ◦持続的な抗凝固療法と消耗性凝固障害により出血リスクが高い

 

IVC filter

近位DVT/PE+抗凝固薬禁忌に適応としてガイドラインは概ね一致
 ◦抗凝固療法の失敗/DVT残存のあるmassive PE/重症心肺疾患/血栓溶解療法前の使用/high risk患者への予防的使用などに適応が拡大しているがエビデンスはない
 
PREPIC study(Prévention du Risque d’Embolie Pulmonaire par Interruption Cave)
 ◦近位DVTを伴うhigh-riskな患者400人に対し、標準的な抗凝固療法に加えてIVC filterを留置することで予後を変えるか検討したRCT
 ◦primary outcome…12日以内にPEと診断された割合は低下
  ‣odds ratio 0.22, 0.05 to 0.90
 ◦死亡率には有意差なし
  ‣odds ratio 0.99, 0.29 to 3.42
・長期のフォローアップでも上記と同様の結果が示されている
 ◦PEを減少させられるが、DVTを増やし、死亡率を減少させない
PREPIC-2…high risk PE患者399人に対してIVC filterの効果を検討
 ◦標準的な抗凝固療法に加えてIVC filterを加えることはno benefit
 ◦3か月でのPE再発率に有意差なし
  ‣relative risk 2.00, 0.51 to 7.89; P=0.50
・IVC filter留置は標準的な抗凝固療法をできない近位DVTまたはPEに限定すべき
 ◦制御不能な活動性出血や致命的出血のリスクが高い
 ◦抗凝固療法を中断を要する緊急手術など
 ◦これらの患者では主要な出血イベントの再発なく抗凝固療法を再開できるようになったら即座にIVC filterを抜去すること
 

抗凝固薬のチョイス

・抗凝固療法はPE治療の主軸を占める治療で、3つの段階に分けられる
 ◦initial phase…0-7日間
 ◦long term therapy…1週間-3か月
 ◦extended therapy…3か月以降
 
phaseに応じた治療方法の推奨は以下のようになります。
 
phase
治療方法
initial
0~7日目
• Apixaban 10mg 1日2回7日間
• Rivaroxaban 15mg 1日2回21日間
• LMWH/fondaparinux 最低5日間+INR≧2で2日間
long term
1週間~3か月
• Apixaban 5mg 1日2回
• Dabigatran 150mg 1日2回
• Edoxaban 60mg/日
• Rivaroxaban 20mg/日
• Warfarin INR 2-3
extended
3か月以上
• Apixaban 5mg 1日2回 or 2.5mg 1日2回
• Dabigatran 150mg 1日2回
• Edoxaban 60mg/日
• Rivaroxaban 20mg/日 or 10mg/日
• Warfarin INR 2-3
• Acetylsalicylic acid 81-100 mg/日
※抗凝固薬使用ができないとき
※LMWHはdabigatran/edoxabanを開始する5-10日前より使用
※edoxaban…腎機能による用量調整をすること
 ◦CCr 30-50ml/min or 体重≺60kgでは30mg/日に減量
※extended therapyにおいて、apixabanやrivaroxabanは6か月以降では減量を考慮
 
LMWH非経口投与/UFH静注は入院加療に用いられる
・退院後の安定した患者、PEの診断時から外来治療適応がある場合にはDOACで治療
DOACはVKA/LMWHの組み合わせと比較して、PE後の症候性再発性VTE予防のための第Ⅲ相RCTでは非劣性であると考えられている
 ◦さらに、VKAに比較して主要な出血イベントが少ない/患者ごとに低的な用量調整が不要である利点がある
 ◦各DOAC間での直接比較に関する研究はあまりない
  ‣rivaroxabanとapixabanを比較するRCTが進行中(NCT03266783)
VKAは重度の腎不全/抗リン脂質抗体症候群/低所得者にとっては重要な位置を占める薬剤であることは変わりない
 ◦非経口抗凝固療法と同時に少なくとも5日間使用して、INR2-3を目標に調整
 
上記を導き出されたのは以下にまとめた研究が基になっています。
研究の特徴
dabigatran
apixaban
edoxaban
rivaroxban
sample size
5132
5395
8292
8281
single agent
 (LMWHやUFHの併用なし)
No
Yes
No
Yes
治療期間
6か月
6か月
3-12か月
3/6/12か月
primary outcome(非劣性)
VTE再発/死亡について
HR 1.09 (0.76 to 1.57)
RR 0.84 (0.60 to 1.18)
HR 0.89 (0.70 to 1.13)
HR 0.89 (0.66 to 1.19)
主要な出血
HR 0.73 (0.48 to 1.11)
RR 0.31 (0.17 to 0.55)
HR 0.84 (0.59 to 1.21)
HR 0.54 (0.37 to 0.79)
全出血
HR 0.56 (0.45 to 0.71)
RR 0.44 (0.36 to 0.55)
HR 0.81 (0.71 to 0.94)
HR 0.93 (0.81 to 1.06)
投与方法
1日2回
1日2回
1日1回
1日2回→1日1回
 

入院治療か外来治療か

・外来か入院かはHestia criteriaの結果に基づいて判断することを推奨
Hestia criteriaはcTnやNTproBNPと組みあわされて検討されたが、Hestia criteria単独のみと比較してどちらのマーカーの利点もなし

 

Hestia criteriaは以下に示す通りで、

1項目も当てはまらなければ外来治療の安全性が高いとされています。

Hestia criteria
・血行動態が不安定
血栓溶解療法や外科的血栓除去術の適応がある
・活動性出血があるか、そのリスクが高い
SpO2>90%を保つために24時間以上の酸素投与が必要
・抗凝固療法実施中に肺塞栓を発症した
24時間以上にわたって経静脈的鎮痛薬が必要
・感染/悪性腫瘍/家族の支援がないなどの入院のほうが良い事情がある
CrCl<30
・肝不全がある
・妊娠中
HIT既往

 

subsegmental pulmonary embolism

・CTPAの使用増加と感度上昇により、より小さな亜区域性肺動脈内の血栓も特定できるようになった
 →これにもかかわらず、PEによる死亡率には変化がない
亜区域性肺動脈内血栓の臨床的意義は不明瞭であり、歴史的なV/Q scanの研究に基づく推奨がされているのが現状
 ◦PIOPED studyでは、17%が亜区域性肺塞栓であり、low probability相当
 ◦これらの患者は両下肢copression ultrasonographyが実施された場合には治療されず
 →安全な戦略であることが示されている
・観察研究とRCTのsystematic review&meta-analysisでは、亜区域性PE検出率はMDCTはSDCTよりすぐれていたが、両群の未治療群の3か月VTE再発率には有意差なし
 ◦亜区域性PEは臨床的意義を持たない可能性を示唆
・別の観察研究とRCTのsystematic review&meta-analysisでは、抗凝固薬で治療された亜区域性PEは未治療群と比較して3か月VTE再発率/全死亡率に有意な差は認めなかった
 
・亜区域性PEの診断は放射線科医間でも一致率が低く、経験豊富な放射線科医による偽陽性化も認められることがより事態を複雑にしている
 
DVTを認めない亜区域性PEでは、抗凝固薬治療を要さない
というのが現時点でのコンセンサスです。
現在、この戦略についての観察研究が進行中です(clinicaltrials. gov NCT01455818)
 

悪性腫瘍関連PE

・悪性腫瘍診断から1年でのVTE発症リスクは7%
 ◦その種類や使用薬剤によっては最大20%ともなりうる
・症候性であろうと偶然見つかったPEでも、悪性腫瘍関連では高い再発率が報告
 ◦VTE患者では主要な出血イベントが多いことも特徴
 →治療は再発リスクや出血リスクに応じて個別化される
LMWHの長期使用が悪性腫瘍関連PE治療において高い地位を占めていた
 →DOACの有用性について検討されてきている
 
DOAC vs LMWHの4つの研究が発表されています。簡単な表にまとめました。
研究の特徴
HOKUSAI VTE Cancer
VS enoxaban
SELECT-D
VS rivaroxaban
ADAM VTE
VS apixaban
CARAVAGGIO
VS apixaban
sample size
1050 
406 
300 
1170
治療期間
12か月
6か月
6か月
6か月
VTE再発率
HR 0.97 (0.70 to 1.36)
非劣性
HR 0.43 (0.19 to 0.99)
HR 0.099 (0.013 to 0.780)
LMWHで有意に多い
HR0.63 (0.37 to 1.07)
非劣性
主要な出血イベント
enoxaban群で多い
特に上部消化管腫瘍で多い
HR 1.83 (0.68 to 4.96)
rivaroxaban群で増加傾向
有意差なし
HR 0.82 (0.40 to 1.69)
有意差なし
注意点
enoxaban群では上部消化管腫瘍が多かった
臨床に関連するminor出血イベントは有意に増加
HR 3.76 (1.63 to 8.69)
 
apixaban群では上部消化管悪性腫瘍が少なかった
原発性/転移性中枢神経腫瘍と白血病を除外
 
 
・以上の研究から、以下の推奨が導かれました。
※この推奨はADAM-VTEやCARAVAGGIOが出る前に出されているが、これらの結果はこの推奨を支持するものであった
 ◦非経口LMWH投与またはrivaroxaban(重篤な腎障害がない場合)で治療を開始
 ◦長期使用薬剤はLMWH/edoxaban/rivaroxabaから選択
  ‣VKAは重篤な腎障害や薬物相互作用で上記が使用できないときに考慮
 ◦治療期間は通常6か月間
  ‣extended treatmentは悪性腫瘍の状態や治療に応じて個別に考える

 

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phaseによって選択すべき薬剤は以下のような推奨があります。
phase
治療方法
initial
0~7日目
• LMWH/fondaparinux 最低5日間
• Apixaban 10mg 1日2回7日間
• Rivaroxaban 15mg 1日2回21日間
long term
1週間~3か月
• LMWH
• Apixaban 5mg 1日2回
• Edoxaban 60mg/日
• Rivaroxaban 20mg/日
• Warfarin INR 2-3
extended
3か月以上
• LMWH
• Apixaban 5mg 1日2回
• Edoxaban 60mg/日
• Rivaroxaban 20mg/日
• Warfarin INR 2-3
 
・抗凝固薬への禁忌事項がない場合には、出血イベントの既往/併存症/悪性腫瘍の種類に基づいて出血リスクが評価される
DOAC使用の際には薬物相互作用も考慮すべき事項
 ◦特に抗がん剤との相互作用については薬剤師に相談すべき
・6か月以降の治療として低用量 vs 標準用量apixabanのRCTが進行中(NCT03692065)
 

妊婦のPE

・DOACやfondaparinuxは胎盤を通過するため、妊婦には使用できない
妊娠中には、胎盤を通過しないUFHやLMWHが最も安全な選択肢
 ◦1日1回、自分で皮下注も可能なLMWHが治療の主流となっている
出産予定日の1カ月以上前に発症したVTEでは、出産の24時間前にLMWHを投与する予定分娩を推奨
 ◦24時間以上前に中止すると必要に応じて硬膜外麻酔などを安全に使用可能
分娩後出血がない場合には、分娩後6時間からLMWHを再開し、産後6週まで継続する
出産予定日から1カ月以内に発症したVTEでも予定分娩を推奨
 ◦治療の長期中断を避けるため、陣発するまでUFH投与することも推奨
出産予定日から2週間以内に発症したVTEでは、IVC filterを考慮
母乳育児をする患者には、UFH/LMWH/VKA/fondaparinux/danaparoidが選択肢になる
 ◦DOACは母乳分泌されるため母乳育児を考えている場合には禁忌
 ◦母乳育児をしない場合や、母乳育児終了後に長期抗凝固療法を考慮される場合にはDOACも選択肢になる
・次回以降の出産時における分娩前後のLMWH予防的投与は推奨される

 

抗凝固療法の継続期間

肺塞栓症診断時のリスク因子の有無によって治療期間は異なる
 ◦VTE再発リスクによって対応を変える
  ‣1年再発率<5% or 5年再発率<15%…抗凝固薬治療終了
  ‣手術などのmajorな一過性リスク因子
  …1年再発率<1%と考えられるため3か月での抗凝固薬中止を考慮
  ‣ホルモン療法などのminor(weak)な一過性リスク因子
  …5年再発率15%であり、extended treatmentは出血イベントのリスクとの勘案
 
以下、リスク因子を再掲します。
strong riskであれば3か月、weak~intermediate riskなら出血リスクと相談してということになるみたいです。
Strong risk(OR>10)
Moderate risk(OR 2-9)
Weak risk(OR<2)
・臀部/下肢骨折
・臀部/下肢関節置換
・主要な全身手術
・重大な外傷
・脊髄損傷
・膝関節鏡手術
・CVC挿入
心不全/呼吸不全
・ホルモン補充療法
・悪性腫瘍
・麻痺合併した脳卒中
・産後
・VTE既往
・3日以上の臥床
・座位固定(旅行や飛行機)
・高齢
・腹腔鏡手術
・肥満
・妊娠
・静脈瘤
 
リスク因子を持たない患者…再発性VTEのリスクがあり、extended treatmentを推奨
・VTE発症後の再発リスクについて評価したsystematic review&meta-analysis
 ‣7515人が対象となり、全例3か月の抗凝固療法を完遂
 ‣抗凝固療法を中止後、最初の1年でVTE再発10.3例/100人/年、PE再発3.3例/100人/年
 ‣VTE再発患者の死亡率は3.8%
 
抗凝固療法中止後
VTE再発(%(95% CI))
PE再発(%(95% CI))
1年
10.3(8.6 to 12.1)
3.3(2.4 to 4.2)
2年
16.0(13.3 to 18.8)
5.2(3.7 to 6.7)
5年
25.2(21.3 to 29.3)
8.0(4.0 to 11.6)
10年
36.1(27.8 to 45.0)
11.2(5.9 to 18.4)
・1-2年程度抗凝固療法を延長するintermediate duration therapyも提案されているが、抗凝固療法終了後のVTE発症を減らすことはできない
 
リスク因子が特定できない場合のVTE再発について、リスク層別化が必要
 ◦男性/高齢/遺伝性血栓症/肥満/持続的D-dimer陽性/血栓残存による肺動脈閉塞が再発リスクとされている
・大規模前向き試験により検討されているCPR…Men Continue and HERDOO-2
 ◦男性…low-riskとhigh-riskに分類することができなかった
  ‣年間VTE再発率は13.9%であり、抗凝固療法は継続
 ◦女性…リスク層別化可能であった
  ‣HERDOO 0-1であれば抗凝固療法は中止された
  ‣HERDOO≧2では年間VTE再発リスクが14.1%であり、抗凝固療法は継続
HERDOOは以下の4因子からなるスコア
➀下肢の色素沈着/下腿浮腫/発赤
②D-dimer>250μg/L
③obesity (BMI>30)
④older age(≥65years)
 
HERDOO2 Rule for Discontinuing Anticoagulation in Unprovoked VTE
 
・経口抗凝固療法は内服中のみVTE再発を減少させられる
 ◦出血イベントとのバランスをとらなければならない
 ◦出血リスク…年齢>75歳/出血性疾患既往/慢性肝腎疾患/脳卒中既往/抗血小板薬やNSAIDs使用
・出血関連による致死率はVKAよりDOACで低い
 
EINSTEIN CHOICE…VTEへの抗凝固療法を6-12か月行った患者に対して、extended treatmentとしてrivaroxaban 20mgとrivaroxaban 10mgをaspirin 100mgと比較したRCT
 ◦異なる用量のrivaroxaban同士を比較することはできなかった
 ◦primary outcome…再発/致命的VTE発症率はaspirinと比較してrivaroxaban群で低い
  ‣rivaroxaban 20mg vs aspirin 100mg…hazard ratio 0.34 (0.20 to 0.59)
  ‣rivaroxaban 10mg vs aspirin 100mg…0.26 (0.14 to 0.47)
 ◦出血イベントに関しては有意な差はなし
  ‣rivaroxaban 20mg vs aspirin 100mg…hazard ratio 2.01 (0.50 to 8.04)
  ‣rivaroxaban 10mg vs aspirin 100mg…1.64 (0.39 to 6.84)
 ◦Limitation…extended therapyの有効性が不明瞭である、リスク因子のあるVTEが多く、参加者の60%を占めていた。rivaroxabanの用量による優位性は不明。
 
AMPLIFY EXT…12か月間のapixaban 5mg1日2回/2.5mg1日2回はplaceboと比較してVTE再発/全死亡率へ影響を与えるか検討したRCT
 ◦参加者は6-12か月間の抗凝固療法を終えた後に無作為化され、12か月間の上記薬剤投与を受けた
 ◦apixaban投与はplaceboに比較して再発性VTE/全死亡が有意に少なかった 
  ‣apixaban 5mg versus placebo…hazard ratio 0.36 (0.25 to 0.53)
  ‣apixaban 2.5mg versus placebo…0.33 (0.22 to 0.48)
 ◦主要な出血イベント発症率は各apixaban投与量で同等
  ‣apixaban 5mg versus placebo…hazard ratio 0.25 (0.03 to 2.24)
  ‣apixaban 2.5mg versus placebo…0.49 (0.09 to 2.64)
 ◦参加者の90%以上がリスク因子不明のVTEであり、出血イベントと増やすことなくapixaban投与によるVTE再発を減少させることが示された
 ◦apixaban同士の比較をするにはパワー不足であった
 
・リスク因子のないPEに対する、full dose vs reduced dose DOACによるextended therapyについての研究…RENOVE (NCT03285438)が進行中
 
・長期抗凝固療法について、出血リスクとVTE再発リスクを毎年再評価することが推奨
悪性腫瘍関連PEでは、悪性腫瘍は永続的な危険因子であり、活動性腫瘍(転移)や化学療法中ではextended therapyの必要性がある
 
以下のフローチャートに沿って、治療期間を決定します。

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Provoked…リスク因子が非手術関連(抑制、妊娠、ホルモン療法など)であればextended therapyを考慮してもよい
Unprovoked…リスク評価はMen continue and HERDOO2により行う
 ◦low…HERDOO 0-1点の女性
 ◦high…全ての男性およびHERDOO≥2の女性
・出血リスクはHAS-BLED scoreで評価
 ◦low…0-2点
 ◦high…3点以上
HAS-BLED Score for Major Bleeding Risk
 

肺塞栓症の長期合併症

Post-pulmonary embolism syndrome

患者の50%はPE後の長期的後遺症を訴える
Post-pulmonary embolism syndrome…治療後も血栓や自覚症状が残存する患者
 ◦心機能/肺動脈血流動態/肺胞でのガス交換機能などの低下と呼吸困難/運動耐容能低下/ADLやQOL低下などが組み合わさっておきる症候群
・肺塞栓後症候群では、QOLに影響を及ぼすような重大な症状と客観的所見の不一致さがみられることがある
 
・最終形態として、急性PEに対して6カ月間治療しても約3%で慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)を発症する
 ◦リスク因子…診断の遅れ/大きな血栓/再発性症候性PE/ベースラインの肺高血圧または右室機能不全/血栓溶解の失敗など
 ◦CTEPHの診断…平均肺動脈圧>25mmHg+肺動脈内血栓による閉塞
 ◦両側肺動脈内膜剥離術はCTEPHの根治治療
 ◦VTE再発リスクのため多くの患者が生涯抗凝固療法を要する
・慢性肺動脈内血栓はあるが肺高血圧症を呈さない患者群もいる
 ◦残存血栓による肺動脈閉塞とCTEPH発症のリスク、そして肺動脈内血栓はないが機能的症状がある患者との予後がいかに異なるかはまだ不明瞭な分野
 
ELOPE(Prospective Evaluation of Long-term Outcomes After Pulmonary Embolism)
 ◦肺塞栓症の患者100人を無作為に選択し
 ◦1か月後/12か月後に心肺機能測定のための運動をさせた
 ◦12か月後には50%の患者が運動耐容能の低下があった
  ‣予測因子として年齢/BMI/喫煙歴が関連
 ◦残存肺動脈内血栓の有無は運動制限や肺機能検査/心臓超音波による心機能検査の結果と関連なし
・残存血栓と運動耐容能に関連がないことは、血栓溶解療法を受けたPE患者を対象とした長期追跡調査の結果とも一致
 
・PE後は呼吸困難や機能的制限のある患者では3-6か月ごとにフォローしておくことが推奨される
 ◦V/Q scanと心臓超音波
・心臓超音波検査でのスクリーニングでCTEPH発症予測をするためのCPRの観察研究が進行中(NCT02555137)
 

心理的影響とQOL

・PEの診断は患者に多大な心理学的な影響を及ぼす
 ◦life changing and forever changedと感じる
・ELOPE studyでは、PE患者を追跡し一般的なQOLとPE特異的なQOLの点数を調査した
 ◦1年間の追跡調査で改善を認めた
・悪性腫瘍関連VTEでもQOL scoreが低下することが知られている
 

ガイドラインのまとめ

診断:D-dimerの使用
ASH/ESC:事前確率が低い場合にはage-adjusted D-dimerなど使用してPE除外を推奨
(ASH:strong recommendation; ESC:class IIa)
診断:画像
ASH:事前確率が低い場合にはCTPAよりもV/Q scanが被曝の面から推奨される
V/Q scanが使用できない場合にはCTPA使用を考慮する
診断:妊婦
ESC:PEのworkupにD-dimerを使用しないことを推奨、画像はV/Q scanでもCTPAでもよい
ASH:D-dimerについては推奨なし、画像はV/Q scan>CTPA
亜区域性PE
CHEST/ESC:亜区域性PEの臨床的重要性は不明瞭
CHEST:low-riskには両側下肢静脈エコーを行うことを推奨、high-riskには抗凝固療法を推奨
抗凝固療法の選択
CHEST/ESC:DOAC>VKA
ESC:抗リン脂質抗体症候群に対してはDOACを推奨しない
悪性腫瘍関連PEの治療
CHEST/ESC:最初の6か月間はLMWH>VKAを推奨
ESC:消化器腫瘍ではない場合には、edoxaban/rivaroxababを推奨
上記ガイドラインでは、3-6か月以降の治療についての推奨が異なる
 ◦CHEST:出血リスクが高くない場合→strong recommendation
         出血リスクが高い場合にはweak/conditional recommendation
 ◦ESC:出血リスクへの言及はなくclass IIa
妊婦PEに対する治療
ASH/ESC:LMWHによる治療についての推奨が異なる
 ◦ASH:conditional recommendation
 ◦ESC:class I
ASH:LMWH1日1-2回を推奨、DOACは避ける
ASH/ESC:血行動態不安定であれば血栓溶解療法を考慮
血栓溶解療法
CHEST/ESC:血行動態不安定なPE(15分以上SBP<90mmHg)に対する血栓溶解療法についての推奨が異なる
 ◦CHEST:grade 2
 ◦ESC:class I
CHEST/ESC:intermediate or low-risk PEに対するルーチンでの血栓溶解療法は推奨しない
治療期間
CHEST/ESC:一過性/可逆性の危険因子を有するPE/VTEの初回エピソードに関しては3か月の治療期間を推奨
CHEST/ESC:初回PEでもリスク因子が特定できない場合にはextened therapyを推奨
CHEST:出血リスクが高い初回VTEでリスク因子が特定できない場合には3か月間の治療を推奨
ESC:抗リン脂質抗体症候群以外の永続的なリスク因子がある初回PEに対してはextended therapyを推奨
ESC:minor(weak)な一過性/可逆性のリスク因子を有する初回PEではextended therapyを推奨
ESC:extended therapyでは、悪性腫瘍がない場合、apixaban2.5mg1日2回/rivaroxaban10mg1日1回を推奨
 

まとめ

・画像診断の進歩によりPE検出率が増加してきている
・VTEの再発は多く約30%の症例で経験される
・リスク因子はさまざまだが、その中でもstrong~weakに分類されている
Strong risk(OR>10)
Moderate risk(OR 2-9)
Weak risk(OR<2)
・臀部/下肢骨折
・臀部/下肢関節置換
・主要な全身手術
・重大な外傷
・脊髄損傷
・膝関節鏡手術
・CVC挿入
心不全/呼吸不全
・ホルモン補充療法
・悪性腫瘍
・麻痺合併した脳卒中
・産後
・VTE既往
・3日以上の臥床
・座位固定(旅行や飛行機)
・高齢
・腹腔鏡手術
・肥満
・妊娠
・静脈瘤
・肺塞栓の診断にはCPRを使って事前確率を推定すること
・D-dimerは推定された事前確率とともに使用すること。事前確率が低いかつD-dimer陰性ならVTEを安全に除外できる
・D-dimerはVTEが疑われないような患者に対するスクリーニングツールとして使用してはならない
・D-dimerは単一のcutoff値だけでなく、事前確率に応じたcutoff値、年齢に応じたcutoff値も使用可能
・妊婦であってもYEARS scoreなどのCPRとD-dimerにより検索を進めること
・妊娠中であっても、PEが疑われる場合の画像診断については非妊娠患者と変わらない
・VTE既往がある場合にもCPR+D-dimerで診断可能だが、事前確率は高くなるため画像検査を要することが多くなる
・診断から6-12カ月はしばしば残存血栓が認められるため、再発性VTEとの鑑別は難しいことがある

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・PEと確定診断した際は、治療方針決定のためPESI/sPESIを評価すること
・Hestia criteriaを評価し、全て満たさない場合には安全に外来治療可能
・亜区域性PE検出率は上昇しているが、現時点では抗凝固療法を要さないというコンセンサスがある
・抗凝固薬はPE治療の主軸を占めており、phaseにより使用薬剤を検討する
・入院治療であればUFH/LMWH、外来治療であればDOACが良い選択肢
・重度の腎不全/抗リン脂質抗体症候群/低所得者などではVKAを考慮する
・悪性腫瘍診断から1年で7-20%がVTEと診断される
・悪性腫瘍関連PEでは以下の治療方針が推奨される
 ◦非経口LMWH投与またはrivaroxaban(重篤な腎障害がない場合)で治療を開始
 ◦長期使用薬剤はLMWH/edoxaban/rivaroxabaから選択
  ‣VKAは重篤な腎障害や薬物相互作用で上記が使用できないときに考慮
 ◦治療期間は通常6か月間
  ‣extended treatmentは悪性腫瘍の状態や治療に応じて個別に考える
・妊婦にはDOAC使用ができない。LMWHによる治療が主流となっている
・VTE発症が出産予定日とどのくらい離れているかで治療方針が変わる
・15分以上にわたりSBP<90mmHgである血行動態不安定なPEであれば血栓溶解療法を開始すること
・リスクが低~中等度の場合にはルーチンでの血栓溶解療法の推奨はない
・血行動態不安定かつ血栓溶解療法禁忌患者では外科的血栓除去術を考慮する
・IVC filterの適応は広がっているがエビデンスは乏しい。推奨は近位DVT/PE+抗凝固薬禁忌のみに適応
・抗凝固療法の期間はリスク因子の有無により異なる
・リスク因子がある場合の抗凝固薬治療期間は、そのリスク因子の強弱により決定される
・リスク因子がない場合の抗凝固薬治療期間は、Men Continue and HERDOO-2のCPRにより決定する
・悪性腫瘍関連PEの抗凝固療法は通常6か月間だが、活動性腫瘍(転移)や化学療法中ではextended therapyを考慮

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・PE発症した患者の50%はPost-pulmonary embolism syndromeに悩まされる
・CTEPHはその最たる合併症であり、生涯抗凝固薬療法を要する