症例
・初経前の9歳女児
・2日前からの間欠的右下腹部痛のためER受診
・CT:周囲および内部に複数の卵胞様構造を伴う7cm*7.5cmの造影効果不良の右卵巣を認めた
・CT後に行われた超音波:右卵巣腫大はあるが「卵巣捻転の証拠はない」と判断された
→それ以上の検査や診察は行われずに帰宅
・翌日も症状持続のため別の病院のERを受診
・嘔気あり、嘔吐なし、発熱や悪寒はなし
・腹部のびまん性圧痛(右下腹部に最強点)、筋性防御あり
・血液検査:白血球数は基準値内、好中球増多あり
・超音波:右卵巣8.7cm*1.3cm*6.1cmに腫大し血流低下、少量の腹水あり
小児卵巣捻転のまとめ
・卵巣捻転は、卵巣とそのホルモン機能を温存するためにタイムリーな診断と迅速な外科的介入を要する疾患である
・1-20歳の卵巣捻転は、4.9人/女性10万人とまれ
・小児の卵巣捻転は診断が困難であることから治療が遅れることが少なくない
・症状出現~入院、入院~手術までにかかる時間に差がある
◦症状出現~入院までにかかる時間
‣初経前(中央値9歳):平均28.5時間
‣月経発来後(中央値27歳):平均7時間
◦入院~手術までにかかる時間
‣初経前:平均9.5時間
‣月経発来後:平均4.6時間
本症例も一回帰宅になっているためだいぶ診断、治療まで時間がかかっています。
機能的予後のためにはなるべく早く診断治療に結び付けたいですが、初期診断は非特異的腹痛ということにでもなったのでしょうか…?
・卵巣腫瘍が主要なリスク因子で、卵巣捻転の95%に伴う
・2-13歳の平均卵巣体積は0.7-4.3cm3(※長さ*幅*高さ*0.523で求める)
◦卵巣体積が6.0-8.0cm3を超える場合には捻転を疑うこと
・小児の場合には正常な卵巣体積であっても卵巣捻転を除外できない
◦15歳以下で発症した卵巣捻転の50%が正常卵巣体積であった
本症例では卵巣腫大は明らかでした。
これで卵巣捻転ではないと診断するのは正直○ブなんじゃないかと思いました。
卵巣腫大がないことも半数程度あることは要注意です!
・白血球増多症/放散痛を伴わない下腹部痛/嘔吐が多く認められる
・嘔吐/腹痛の持続時間が短い(6時間)/CRPが高いことは卵巣捻転を予測させる因子との報告もある
・月経発来前後で臨床像が異なる
◦いずれも腹痛が最多の症状
◦初経前では腹部のびまん性疼痛、月経発来後では下腹部に限局した疼痛になる
◦初経前:落ち着きのなさ/発熱/触知可能な骨盤内腫瘤を呈する傾向であった
・好中球/リンパ球比(NLR)は、卵巣捻転の診断や予後判定に有用である可能性
◦他の血液検査所見に比較して、NLR≧2.44は卵巣捻転を最もよく予測する因子であった
‣卵巣捻転→虚血ストレス反応がコルチゾールを増加させることによる?
NLRはあまり注目して観察したことがないパラメータでした。
今度からしっかり見てみようと思います。
・画像検査の第一選択は超音波検査
◦卵巣捻転の検出において感度92%/特異度96%
◦特にwhirl pool signがみられれば確定的
・動脈血流がないことと卵巣腫大があると捻転を示唆
◦ただし、いずれの所見がなかったとしても除外はできない
‣卵巣は卵巣動脈と子宮動脈から血流を得ている
‣間欠的な捻転の可能性もある
・動脈血流および静脈血流の欠如は感度76-94%/特異度99-100%
◦成人のみのデータでは成人に関しては感度70-84%/特異度87-100%
・meta-analysisでは、B-modeが感度92%/特異度96%であり、Dopplerでは感度が低いが特異度が高いことが報告されている
◦両方を組み合わせて検索することで診断能があがる
・卵巣捻転が自然に解除されることもあり(不全捻転)、その場合には画像検査が陰性になることもあるのは注意
診断のgold standardはなんといっても超音波!
でも自然に捻転が解除されることもあり、ERではあったのに肝心の婦人科診察時にはその所見がなくなっているなんてことはザラにあります。
ER医としては苦労しますよね。経験ある先生方も多いかもしれません。
なのでグレーゾーンな場合には腹部外科にまずコンサルトしておいて腹部外科ではない、という強固な(?)支援を得たうえで婦人科にコンサルトするようなこともあります。う~ん、難しい!
診断に時間がかかる要因の一つになりそうです。
・CTでは卵巣のサイズ、ねじれ、卵巣病変、浮腫、腹水、壊死などを検出可能
◦超音波と比較して捻転の識別能は有意差なし
・ACOGの推奨:「卵巣捻転の診断確定をするのに十分な臨床的/画像的基準はない。疑われる場合には卵巣機能や生殖能力維持のために、診断的腹腔鏡によるタイムリーな介入を要する」