りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

mini review:急性アルコール中毒(どのくらいで帰せる?輸液は有益?)

またアルコール絡みで搬入する患者が増えてきました。

 

先日当直に入ったときに研修医から質問されました。

・どのくらいで帰せるくらいによくなりますか?

・輸液してみたんですけどあまりよくなりません…?

 

確かにコモンだけど意外と知られていない分野なのかも。

めんどくさい存在だし、落ち着いて調べてみたこともないよねぇ。

 

少し基礎知識を入れておきましょう!

 

 

アルコール濃度と症状の関連

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(Emerg Med Clin North Am . 2010 Aug;28(3):683-705.)

 

上記を逸脱するようであれば、他の原因がないか検索したほうがよいですね。

血中濃度と症状の関連も不確かだという報告もありますが。

 

 

生理的なアルコールクリアランス

・大体のエタノールリアランスは20mg/dL/hr程度で、アルコール常飲歴があるとその速度は速い
 
(Forensic Sci Int . 1984 Jul;25(3):159-66.)
・患者ごとに減少速度は異なる
・非飲酒者…12±4mg/dL/hr
・社交的飲酒者(エタノール摂取量が6オンス以上30オンス未満)…15±4mg/dL/hr
アルコール依存症…30±9mg/dL/hr
 
(J Emerg Med . Sep-Oct 1991;9(5):307-11.)
・ERでの急性エタノール中毒
・血中エタノール濃度平均299mg/dL
・クリアランス20.43mg/dL/hr
 
(Am J Emerg Med . 1995 May;13(3):276-80.)
・ERでの前向き研究
・臨床的にエタノール中毒が疑われ血清エタノール濃度が測定された24人
・初期エタノール濃度:58-447mg/dL
 ・酩酊の程度とエタノール濃度の相関は乏しかった
エタノールリアランスは19.6mg/dL/hr
 

臨床症状改善までの時間

・帰れるくらいまでに改善するのには3時間~6時間程度かかる
・3時間も起きてこなければ別の原因が潜んでいないか検索
 
(Am J Emerg Med. 1992 Jul;10(4):271-3.)
・臨床症状改善までに要する時間は平均3.2時間
7時間以内に改善しない患者が20%おり、11時間要した患者は4%いた
 
(Am J Emerg Med. 2018 Jul;36(7):1209-1214)
・6つのERのデータから抽出された急性エタノール中毒18664人
ERへの滞在時間中央値348分(43-1658分)
・滞在時間増加は非経口鎮静薬の使用、血液検査、夕方の時間帯(18時~24時)
 

エタノールの利尿効果

・酔うと排尿が亢進する
・でも慢性使用者では逆に抗利尿効果があるから水分過多になっているかも
 
(Emerg Med Clin North Am. 2010 Aug;28(3):683-705.)
エタノールには利尿作用がある
 ・内因性抗利尿ホルモン分泌を抑制することによる
エタノール50g+水250mlを摂取すると600-1000mlの利尿がある
※これは血中エタノール濃度が上昇しているとき(エタノール中毒)のみに起きる反応
 
(Emerg Med Clin North Am. 2010 Aug;28(3):683-705.)
・慢性的なアルコール使用がある場合には輸液の効果は限定的かも
(嘔吐や水分食事摂取量低下があれば別)
血中アルコール濃度が比較的安定している場合(常飲者)には、アルコールは抗利尿作用を発揮し水分と電解質の保持がされる
・そのため、水分過剰状態であることがある
 

急性エタノール中毒に輸液は有効か?

・たぶんあまり有効ではない
 ◦輸液によりエタノール濃度が下がるということはない
 ◦ER滞在時間が延長する可能性がある
・締めのラーメンは飲酒後に有効(笑)
※ラーメンでの研究はなさそうでした
 
Eur J Emerg Med . 2012 Dec;19(6):379-83.)
・急性エタノール中毒に対する輸液に有益性が示されてはいないものの、イギリスの調査では73%の救急医が輸液をしていた
 ◦平均1300ml; 500-3000mL
※2012年の研究だけど
 
( J Emerg Med. 1999 Jan-Feb;17(1):1-5.)
・ボランティアへの実験
エタノール投与後に生食1000ml投与してもクリアランスは変わらず
 ・15mg/dL/hr程度
 
(Emerg Med Australas. 2013 Dec;25(6):527-34.)
・急性アルコール中毒でER受診となった144人に対する生食点滴 vs 経過経過観察のRCT
 ◦生食は20mL/kgをbolus投与
・primary outcome…ER滞在時間
 ◦287分 vs 274分, P = 0.89
・呼気アルコール濃度/酔度についても両群で有意差なし
 
(Am J Emerg Med. 2018 Apr;36(4):673-676.)
・日本で行われた単施設retrospective cohort
・106人のER受診急性アルコール中毒患者を対象
 ・42人が輸液なし、64人が輸液実施
・ER退室までの時間に有意差なし
 ・中央値:輸液実施群254分 vs 輸液非実施群189分
 →輸液をしない方が早くERから帰せる可能性がある
 
(Am J Emerg Med. 2018 Nov;36(11):2103.)
・解釈には注意が必要というletterもある(これも日本発)
・ERでの血圧や心拍数について両群に差はあったのか不明
 ・頻脈や低血圧があれば脱水が示唆され輸液された可能性
・GCSで評価したか?-完全な改善があるまで観察されたのかどうか
 
(Am J Emerg Med . 2018 Nov;36(11):2103-2104.)
・…っぱ締めのラーメンやろ論文
・ER到着時の平均呼気アルコール濃度326mg/dLの26人
食事可能な時点でサンドイッチ/果物/クッキーを与え、平均609kcal摂取
・アルコールクリアランスは食後に増加
 ◦食前:21.3±6.9mg/dL/hr
 ◦食後1時間:34.0±9.1mg/dL/hr
 →一時的にクリアランスが63%上昇
 ◦3時間後に食前と同等に戻ってしまった
 
 
最初の研修医の質問に戻ります。

・どのくらいで帰せるくらいによくなりますか?

→だいたい3-6時間くらいはかかるかもしれません。

個人差があるのでもっとかかる可能性もあります。

最初に検索しておいてもいいし、3時間経過しても臨床所見が変わらなければより積極的な検査をしてもいいかも。

 

・輸液してみたんですけどあまりよくなりません

→輸液してもアルコール血中濃度が下がったり、早く帰せるってわけではないみたい。

でも絶対輸液が要らないかというと、頻脈や低血圧があったりして血管内脱水が疑われる場合にはしないといけないし(コレを判断するのが難しい!)、個人的には重度の意識障害があればしておいてもいいと思います。less is moreの姿勢は大事だけど、研修医のうちは守りの姿勢でもいいんでないかな、変な不整脈が起きたり痙攣することもあるかもしれないし…。暴れて抜かれたらそれまでかもしれないけどね。