りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例56:運動時の右下腿痛と腫瘤形成を訴える17歳女性(Ann Emerg Med. 2020 Dec;76(6):e125-e126.)

病歴/身体所見

・17歳女性
・生来健康なアスリート
・右下腿の疼痛と腫瘤出現のため受診
 
・数か月前、ランニング後に右下腿痛を発症していたが、休息と鎮痛薬使用により疼痛は和らいでいた
・受診1カ月前、ランニングにより右下腿痛を自覚するようになり、運動制限が出現した
・受診直前、ランニング後に右下腿痛と右下腿腫瘤が出現した
 
診察時点では下腿に腫瘤は認めなかった
トレッドミルにより、右下腿外側に1cm*1cmほどのやわらかな、押し込んでも縮小しない腫瘤を認めた

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検査

・血液検査…CPK172IU/Lと軽度高値
・コンパートメント内圧測定したところ、34mmHgと高値であった

・超音波検査…筋膜欠損部位を認めた

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筋膜(矢印)と筋膜欠損部(矢頭)を示す

 

 

 

診断

慢性労作性コンパートメント症候群/筋肉ヘルニア
 
内視鏡により筋膜欠損部が確認され、筋膜切開された

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・術後2週間は免荷を行った
・術後4週間までに免荷なしでの日常生活を行えるようになり、その後は疼痛なくジョギングを再開できた
 
 
筋肉ヘルニアは、下腿の下1/3前外側面に好発する
・筋肉ヘルニアは、外傷や先天的な筋膜鞘の欠損により発症する
(Can J Plast Surg. Winter 2013;21(4):243-7.)
 
・慢性的なストレスがかかることにより、筋膜欠損部が拡大し、筋肉ヘルニアとして腫瘤を形成する
 ◦特にアスリートでは慢性労作性コンパートメント症候群を伴う
(Pol J Radiol. 2017 May 31;82:293-295.)
安静時に腫瘤が消失しうることから診断が難しいことがある
(Am J Sports Med. 2013 Sep;41(9):2174-80.)
 
・筋膜切開術が最も安全な外科的治療である
 ◦適切な診断と治療によりアスリートのパフォーマンスは保持されうる疾患
 
 
安静時には腫瘤がないのに、運動すると腫瘤が出てくるとなると見逃しやすいです。
患者の訴えに耳を傾けつつ、運動負荷試験やコンパートメント内圧測定までいけるかどうかがポイントです。
 
 
別の症例では、立位になるとヘルニアが起きていることが報告されていました。
(Pol J Radiol. 2017 May 31;82:293-295.)
 

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安静時

 

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立位時

 

まとめ

・筋肉ヘルニアは、外傷や先天的な筋肉鞘欠損により生じる
・慢性的なストレスにより、欠損部が拡大して筋肉ヘルニアに至るが、慢性労作性コンパートメント症候群を伴いうる
・安静時には腫瘤形成をしていないことがあるため見逃しに注意