病歴/身体所見
・17歳女性
・生来健康なアスリート
・右下腿の疼痛と腫瘤出現のため受診
・数か月前、ランニング後に右下腿痛を発症していたが、休息と鎮痛薬使用により疼痛は和らいでいた
・受診1カ月前、ランニングにより右下腿痛を自覚するようになり、運動制限が出現した
・受診直前、ランニング後に右下腿痛と右下腿腫瘤が出現した
・診察時点では下腿に腫瘤は認めなかった
・トレッドミルにより、右下腿外側に1cm*1cmほどのやわらかな、押し込んでも縮小しない腫瘤を認めた
検査
・血液検査…CPK172IU/Lと軽度高値
・コンパートメント内圧測定したところ、34mmHgと高値であった
・超音波検査…筋膜欠損部位を認めた
筋膜(矢印)と筋膜欠損部(矢頭)を示す
診断
慢性労作性コンパートメント症候群/筋肉ヘルニア
・内視鏡により筋膜欠損部が確認され、筋膜切開された
・術後2週間は免荷を行った
・術後4週間までに免荷なしでの日常生活を行えるようになり、その後は疼痛なくジョギングを再開できた
・筋肉ヘルニアは、下腿の下1/3前外側面に好発する
・筋肉ヘルニアは、外傷や先天的な筋膜鞘の欠損により発症する
(Can J Plast Surg. Winter 2013;21(4):243-7.)
・慢性的なストレスがかかることにより、筋膜欠損部が拡大し、筋肉ヘルニアとして腫瘤を形成する
◦特にアスリートでは慢性労作性コンパートメント症候群を伴う
(Pol J Radiol. 2017 May 31;82:293-295.)
・安静時に腫瘤が消失しうることから診断が難しいことがある
(Am J Sports Med. 2013 Sep;41(9):2174-80.)
・筋膜切開術が最も安全な外科的治療である
◦適切な診断と治療によりアスリートのパフォーマンスは保持されうる疾患
安静時には腫瘤がないのに、運動すると腫瘤が出てくるとなると見逃しやすいです。
患者の訴えに耳を傾けつつ、運動負荷試験やコンパートメント内圧測定までいけるかどうかがポイントです。
別の症例では、立位になるとヘルニアが起きていることが報告されていました。
(Pol J Radiol. 2017 May 31;82:293-295.)
安静時
立位時
まとめ
・筋肉ヘルニアは、外傷や先天的な筋肉鞘欠損により生じる
・慢性的なストレスにより、欠損部が拡大して筋肉ヘルニアに至るが、慢性労作性コンパートメント症候群を伴いうる
・安静時には腫瘤形成をしていないことがあるため見逃しに注意