りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

急性肝不全 

 

当院では酒がらみが多いですが、

※厳密にはアルコール性の場合にはALFの定義には含まれないことになっています

若年者の自殺企図→アセトアミノフェン中毒なども比較的多いです。

 

肝不全が来た時の動き方についてreviewしましょう。

 

(Emergency Medicine Practice April 2010)
(Am J Emerg Med. 2019 Feb;37(2):329-337.)

 

症例

・既往歴のない56歳男性。ハイキング中に発見したキノコを食べた後から腹痛、嘔吐、下痢が出現。
・ASTやALTは>11000U/L、PT-INR 6.5、pH7.1、乳酸17mmol/L。
 
さて、どう動きますか?
 

急性肝不全の定義

・最も広く受け入れられているのはAmerican Association for the Study of Liver Diseases (AASLD)による定義で以下
 ◦もともと肝疾患を持たない人
 ◦26週未満の経過で発症する黄疸の進行
 ◦肝性脳症
 ◦PT-INR≧1.5
・上記はさらに、黄疸が認められてから肝性脳症が出現するまでの期間によって分類される
 ◦hyperacuteやacuteに比較してsubacuteは薬剤治療だけでは予後不良
 
臨床所見
hyperacute
acute
subacute
黄疸から脳症発症までの期間
0-1週間
1-4週間
4-12週間
凝固機能障害
重度
中等度
軽度
黄疸
軽度
中等度
重度
頭蓋内圧亢進
中等度
中等度
軽度
肝移植なしでの生存率
良好
まずまず
不良
主な原因
A&E型肝炎
薬剤
 
●日本の診断基準はどうか…2015年に改訂されている!
・「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班の研究報告で以下が定義されている
 ◦正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝であったことが前提
 ◦肝障害が生じ、初発症状出現から8週間以内に高度の肝機能障害に進行
 ◦PT≦40%またはINR≧1.5を満たすもの
意識障害は非昏睡型と昏睡型に分類される
 ◦非昏睡型=意識清明または肝性脳症1度
 ◦昏睡型=劇症肝炎=肝性脳症2度以上
  ‣初発症状出現から肝性脳症2度以上が出現までに10日以内…急性型
  ‣初発症状出現から肝性脳症2度以上が出現までに11日-56日以内…亜急性型
※この場合の肝性脳症については犬山分類を使用する
昏睡度
精神状態
参考事項
1
・睡眠-覚醒リズムの逆転
・多幸感、ときに抑うつ状態
・だらしなく気にも留めない状態
・後からの評価としてしか判定できない場合が多い
2
見当識障害、物を取り違える(confusion)
・異常行動(金をばらまく、化粧品をゴミ箱に捨てる)
・ときに傾眠状態(普通の呼びかけで開眼し会話可能)
・無礼な言動があるが医師の指示には従える
・興奮状態なし
・羽ばたき振戦なし
・便失禁なし
・尿失禁なし
3
・しばしば興奮状態またはせん妄状態で、反抗的態度
・嗜眠状態(ほとんど眠っている)
・外的刺激で開眼しうるが、医師の指示に従わない
・興奮状態あり
・羽ばたき振戦あり
・指南力低下
4
・昏睡(完全な意識消失)
・痛み刺激に反応
・刺激を払いのけたり顔をしかめる
5
・深昏睡
・痛み刺激に全く反応しない
・反応性低下

疫学 原因として多いのはアセトアミノフェン、ウイルス

発展途上国に比較して先進国ではあまり頻度は多くない
 発展途上国…ウイルス感染症(A/B/E型肝炎)が多い
 ◦先進国…薬剤性(特にアセトアミノフェン)が多い
ALFは急激に進行し、肝移植なしには死亡する
 ◦肝性脳症 
 ◦凝固機能障害
 ◦多臓器不全
 
薬剤性肝障害
・その他の薬物による肝障害(12%)
急性ウイルス性肝炎
HAV(2.6%)
HBV(7.7%)
血管性
・急性虚血性肝炎(4.6%)
・Budd-Chiari症候群(0.9%)
・Wilson病(1.4%)
その他
・自己免疫性肝炎(5.9%)
・妊娠関連肝不全(0.8%)
・原因不明(14%)
・その他の毒物(テングタケなど)
 
小児
成人
①原因不明
②原因不明
代謝性疾患
③薬剤性肝障害(DILI)
④自己免疫性疾患
④肝虚血
⑤ウイルス性肝炎
⑤自己免疫性肝炎
⑥肝虚血
⑥Wilson病
 

ウイルス

・原因として最多、特に発展途上国では医療負担が大きい
発展途上国ではhepatitisA/Eが50%以上を占める
・hepatitis A
 ◦ALFまでに発展する症例は1%未満
 ◦小児より成人で重篤化しやすい
  ‣hyperacute or acuteな経過をとる
  ‣高齢者ではsubacute patternの肝不全となりうる
 ◦汚染された食事や水から感染する(糞口感染)
・hepatitis E
 ◦高齢者では予後不良
 ◦妊婦では特に重症化しやすいことが知られる
  ‣さらに新生児の半数以上に垂直感染を起こす
・hepatitis B
 ◦アジアや地中海地方でよくみられる
 ◦血液をはじめとした感染した体液への曝露で感染する
 ◦ALFへの発展は1%未満だが、発症した場合にはhepatitis A/Eに比較して死亡率が高い
  ‣がん治療による免疫抑制状態によるhepatitis Bの再活性化は特に予後不良
  ‣一方で、免疫抑制状態なしに自然に再活性化することもある
・hepatitis C
 ◦急性肝不全の原因としてはまれだが、症例報告はあり
ALFの原因となる主なウイルス
Hepatitis A, B(±D),E
herpes simplex virus
・Epstein-Barr virus
・cytomegalovirus
・parvoviruses

薬剤性

欧米諸国においてはALFの原因の50%を占める
 ◦その中でもアセトアミノフェンが最多
 ◦基本的には用量依存性に発症するが必ずしもそうではないこともある
 ◦薬剤性肝障害はしばしば経験されるが、肝性脳症やALFまで至ることはあまりない
 ◦ALF発症には、最低でも10g/day以上の単回摂取後に起きる
 ◦数時間~数日にわたって複数回の摂取があると死亡率が高くなる
 ◦アルコール使用障害、栄養障害、CYP450酵素誘導薬の併用は低用量の摂取でもALF発症しうる
※オメプラゾール、フェノバルビタール、リファンピシン、フェニトイン、イソニアジド、エタノールカルバマゼピンデキサメタゾンセントジョーンズワートなど
 ◦自殺企図のことが多いため診断までに時間がかかることが多い
 ◦高齢、血中アセトアミノフェン濃度高値、ビリルビン高値、凝固機能異常、肝硬変があると死亡リスク増大
 

そのほかの原因

・急性虚血性肝障害(shock liver)
 ◦循環不全、呼吸不全(敗血症など含む)に伴って発症する
・腫瘍性浸潤
・自己免疫性肝炎
・急性Budd-Chiari症候群
代謝性疾患…α-1アンチトリプシン病など
・毒キノコの摂取
感染症レプトスピラ、リケッチア、アメーバ、デング熱マラリアチフス
・妊娠関連肝疾患…母体と胎児の死亡率が非常に高い
・子癇関連…急性脂肪肝、HELLP症候群
 

 症状、所見

・倦怠感、食欲不振、疲労、吐き気、嘔吐、腹痛を含む非特異的な症状
・低血圧、敗血症、けいれん、肝性脳症、最終的に多臓器不全にまで及ぶ可能性がある
 
肝細胞機能低下→肝壊死
 ◦toxin/cytokine放出により重度の全身炎症が起きる
  ‣二次性細菌感染症が発症しうる
  ‣循環不全、膵炎、免疫不全、骨髄抑制、呼吸不全(ARDS)への発展もありえる
 ◦重度かつ急激に進行する代謝障害(糖新生アンモニア/乳酸クリアランス、合成能)
  →低血糖、乳酸アシドーシス、高アンモニア血症、凝固障害
・凝固機能障害はALFのhallmarkとなる
 ◦肝臓はvon Willebrand因子と第8因子以外の凝固因子を産生している
  ‣第2, 5, 7, 9, 10因子産生が低下
 ◦ALFでは血管内凝固と線溶が起き血小板や凝固因子が消費される
  →さらに凝固機能異常が進行する
 ◦腎不全→尿毒症に続発する血小板減少症/機能不全もALFの60%以上に発症
・急性腎障害や肝腎症候群も重要な合併症…循環動態の悪化に影響
 ◦腎障害は初期はhypovolemia由来(経口摂取不足など)
 →しだいに、腎臓への還流障害により急性尿細管壊死により急激に進行しうる
  ‣肝壊死やそれによるサイトカイン放出、全身炎症により血管拡張と心拍出量増加がみられる
  →主要臓器への還流障害が起き、多臓器不全に陥る
 ◦薬剤によってはそれが直接的に腎障害を引き起こすこともある
  ‣アセトアミノフェンテングタケ、ST合剤など
 ◦糖新生の機能低下と機能不全となった肝細胞へのインスリン取り込みの低下に起因
  ‣循環血液中のインスリンが上昇することとなり重度の低血糖を起こす
電解質異常(低Na血症、低K血症、低P血症)、酸塩基平衡の異常
 ◦低Na血症…hypervolemiaに起因することが多い
 ◦過換気による呼吸性アルカローシス→低K血症
 ◦これらの電解質異常が不整脈を引き起こすことはまれ
・脳症…眠気、反応遅延、認知機能障害、混乱、多幸感、昏睡に至るまでさまざま
 ◦肝性脳症
 ◦脳浮腫…急性肝不全+肝性脳症 Grade4の患者の75-80%に認められる 
  ‣頭蓋内圧亢進し、急性肝不全死亡原因の20-25%を占める
 

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こんな感じで多彩な症状が出現します。ALFおそるべし。。。
 

病歴聴取、身体所見

・特定の情報を入手することは鑑別のために非常に重要
・薬剤歴
・アルコールや違法薬物などの使用
・妊娠の有無
・家族歴
・最近の旅行歴
テングタケなどのキノコ類の摂取の有無
・リスクファクターについても聴取しておくべし
・年齢>40歳
・女性
・栄養状態不良
・妊娠
・慢性肝炎
・慢性疼痛に対するアセトアミノフェン使用歴
B型肝炎や自己免疫性肝炎などの慢性肝炎はときにacute-on-chronicを起こす
 ◦脾腫、メデューサの頭、女性化乳房、クモ血管腫、手掌紅斑、腹水などの所見
黄疸発症から肝性脳症発症までの時間…ALFの分類整理と予後予測に必要な情報
・肝性脳症を疑う患者には脳浮腫/頭蓋内圧亢進の所見が出ていないか所見をとること
・うつや自殺念慮などの精神的な状態についてもスクリーニングする
 

検査

・肝不全の原因検索のために幅広い抗体検査などを提出しておくべきである。

急性肝不全患者の検体検査

・血算、生化学、肝酵素、PT-INR

・動脈血ガス分析

アセトアミノフェン濃度

・ウイルス性肝炎のスクリーニング

 ◦HAVIgM-HA抗体

 ◦HBV:HBs抗原、IgM-HBc抗体

 ◦慢性HBV:HBs抗原、HBc抗体、HBe抗原/抗体、HBV-DNA

 ◦HCVHCV抗体、HCV-RNA

 ◦HEV:IgM-HE抗体

・自己免疫性肝炎などのスクリーニング

 ◦自己免疫性肝炎:抗核抗体、抗平滑筋抗体(ASMA)、抗LKM-1抗体、血清IgG、γグロブリン

 ◦原発性硬化性胆管炎:上記+IgG4抗体

 ◦原発性胆汁性肝硬変:抗ミトコンドリア抗体、抗セントロメア抗体、IgM

・Wilson病スクリーニング:セルロプラスミン

・その他のウイルス性肝炎

 ◦HSV:抗HSV1型/2型IgMHSV-DNA

 ◦VZV:抗VZV IgM、VZV-DNA

 ◦CMV:IgM-CMV抗体、CMV-DNA

 ◦EBV:IgM-VCA抗体、IgG-VCA抗体、EBNA抗体

女性では妊娠検査も考慮…HELLP症候群の鑑別

・AASLDは、ALF患者の全てにおいてアセトアミノフェン濃度測定を推奨

 ◦摂取からの時間により血中濃度は異なるため、低値であっても中毒の除外にはならない

・Wilson病の疑いがある場合…血中セルロプラスミン、銅を測定

 

特定の原因に対する治療法

アセトアミノフェン中毒

アメリカではALFの原因の多くがアセトアミノフェン
・治療薬…N-acetylcysteine(NAC)
中毒の急性期にはしばしば肝障害が現れないことがある
 ◦Rumack-Mathew nomogramを使用して肝障害リスクを予測すること
・NACはアセトアミノフェン摂取から8時間以内で最大効果となるためなるべく早期に投与
 ◦48時間までは有効とされているため治療を諦めないこと
・経口NACと静注NACではその効果はほぼ同等
 ◦慣習的には静注NACの方が投与しやすいため好んで使用される
投与経路
Loading dose
Maintenance dose
静注
150mg/kg+5%ブドウ糖液 15分以上かけて投与
50mg/kgを4時間以上かけて投与
→100mg/kgを16時間以上かけて投与
経口
140mg/kg
70mg/kg 4時間毎
全17回投与
・NACの副作用に大したものはない
 ◦嘔気や嘔吐がメイン
 ◦皮疹、蕁麻疹、気管支攣縮などはまれ
・活性炭投与も有効
 ◦摂取から4時間以内であれば考慮
 ◦用量…1g/kgを経口投与
 ◦NAC投与前に活性炭投与してしまっても特にその効果に影響はない
 →摂取から4時間以内であれば活性炭投与してからNAC投与が推奨
 

薬物性

・基本的には除外診断
・ALFの可能性として考えられる薬物は全て中止すること
・NACが効果的だという証拠はないが、NAC投与は推奨される
 ◦投与量はアセトアミノフェン中毒の際と同様におこなってよい
 

キノコ中毒

・摂取後数時間以内であれば胃洗浄と活性炭投与が有効である可能性あり
・キノコ中毒に有効とされている薬剤は以下の3種類
 ◦penicillin G
  ‣30万~100万単位/kg/日投与
 ◦silibinin
  ‣30-40mg/kg/日を数日間
 ◦NAC
  ‣アセトアミノフェン中毒の際と同じ使用量でよい

ウイルス性

HAVやHEVに対しては特異的治療はなく支持療法のみ
HBV…抗ウイルス薬(Lamivudineなど)
・herpes/ varicella zoster virus疑い…acyclovir静注
 ◦5-10mg/kg 8時間毎 最低7日間

Wilson病

・生存のためには肝移植を要する
・ALFの際にはpenicillamine投与は推奨されていない
血漿交換などは推奨

自己免疫性肝炎

・治療効果がある病態の一つであり、以下のいずれかの治療を考慮する
 ◦prednisone 60mg/日
 ◦prednisone 30mg/日+azathioprine 50mg/日
・ただし、上記治療が有効なのは少数で、多くは肝移植を要する

妊娠関連

・多くは妊娠の中断により改善がみられる
・少数で肝移植を要する

合併症に対するマネジメント

脳症

・まずは発症予防が重要なステップ
・もしくは発症してしまった脳症を悪化させないことが目標
 ◦脳浮腫と頭蓋内圧亢進を最小限にして脳ヘルニア→死亡を防ぐ
・大事なことは以下の3点
 ◦安定した脳還流を維持する
 ◦アンモニアの循環管理
 ◦脳代謝のコントロール
・L-ornithine-L-asparate…効果なし
 ◦筋肉内においてアンモニアがグルタミンに変換される過程を促進する
 ◦大規模RCTでは血中アンモニアを下げず、脳症の重症度を下げず、生存率改善もなかった
ラクツロース…有効性あり
 ◦初期投与量は45ml経口投与から開始
  ‣患者の排便があるまで1時間毎に投与する
 ◦誤嚥リスクが高い場合には2時間毎に浣腸を繰り返すことも許容される
  ‣水700mlにラクツロース300mlを混ぜて投与、1時間保持
・ALFにおいてはネオマイシンやリファキシミン投与は不適切な可能性あり
・頭蓋内圧<20-25mmHg/ CPP>50-60mmHgが目標
 ◦血行動態の安定化…fluid resuscitaion、昇圧薬使用
 ◦脳浮腫の軽減…高張食塩水またはマンニトール
  ‣高張食塩水…30%NaCl溶液20mlまたは3%NaCl溶液200ml投与して血清Na濃度144-155mmolに保つ
  ‣マンニトール…20%溶液を2ml/kg
・上記処置も一時的な効果しかないため、気管挿管/鎮静/頭部挙上>30度も推奨される
 ◦ALF患者は基本的には自発的に過換気状態になっているためこれを保持すべし
  ‣これにより脳血管収縮が起き脳圧が低下する
  ‣これも一時的で終わってしまうがそれ以降の予防的過換気は利益がない
・上記治療をおこない、それでも脳圧亢進が改善されなければ過換気管理とする
 ◦ただしあまり生存率改善効果は証明されていない
・ARDSを合併することもしばしばあるため肺保護戦略での呼吸器設定を考慮
脳圧亢進リスクを除去すること
 ◦血中アンモニア濃度>200mmol/Lまたは治療にもかかわらず>150mmol/L
 ◦年齢35歳未満
 ◦腎不全や心不全の合併
・フェニトインなどの抗けいれん薬の予防的投与は予後改善効果が認められていない

凝固機能障害

基本的に出血を認めない血小板減少症/INR延長では輸血の適応はない
 ◦ALF患者ではVitamin K不足は示唆されているため5-10mg投与は推奨
 ◦出血がなければFFPや4-PCCの出番はない
  ‣出血していたり侵襲的処置(ICP挿入など)を行う場合にはFFP投与をすべし
  ‣凝固因子の血中濃度を20-30%上昇させるのに必要なFFPは8-12ml/kgほど
 ◦臨床的に重大な出血+血小板<50000…血小板輸血を行う
 ◦血小板減少症+侵襲的処置を行う場合にも血小板輸血を考慮
  ‣low riskな処置…血小板≺30000
  ‣high riskな処置…血小板≺50000
ストレス潰瘍予防目的にPPI、H2 blockerなど投与しておくことを推奨

感染症

感染症により脳症や凝固異常なども進行して死亡率が高まることが知られる
・特に重症の場合には広域抗菌薬投与を行うこと
 ◦第3世代セフェム+バンコマイシンが良く使われる
  ‣GPCやGNBが主に狙うべき細菌群
・抗真菌薬(特にカンジダに対するフルコナゾール)については議論が残る
 ◦しばしば検出されることから重症の場合には真菌薬も投与するのがよいかもしれない
  ‣重度の脳症、腎不全、人工呼吸器装着状態など

腎機能障害

・腎機能障害の原因をまずは考えるべし
・腎前性腎不全の要素があれば輸液や昇圧薬で安定した循環を維持すること
・腎毒性のある薬剤は避けること
 ◦アミノグリコシドやNSAIDsなど
・肝腎症候群に続発する急性腎不全は肝機能の改善(肝移植含む)の後に改善する
 ◦臨床的適応があれば腎代替療法の導入を早期に考える
肝移植の対象ではない肝腎症候群に対して血液浄化法を差し控えることが推奨されている
・肝不全に対する血液浄化療法の種類と施行目的は以下が提唱されている
血漿交換(PE)
ビリルビンをはじめとする中分子量物質の除去
・肝合成能低下により不足する凝固因子やオプソニン蛋白などの補充
・蛋白スペースの確保
血液濾過透析(HDF)
持続的血液濾過透析(CHDF
高流量持続的血液濾過透析
(On-line HDF)
・肝性昏睡起因物質をはじめとする小分子量物質の除去
・厳密な水分電解質管理および酸塩基平衡の補正
・臓器不全の原因となるhumoral mediatorの除去
血漿吸着(PA
ビリルビンの除去
Plasma filtration with dialysis
(PDF)
・PEとHDFの施行目的を同時に達成できる
 

循環不全

・敗血症性ショックと同様に全身血管抵抗の低下と心拍出量減少が特徴的
 ◦動脈圧モニタリング下での輸液負荷と昇圧薬投与が必要
・ALF患者では副腎不全を高率に合併する
 ◦適切な輸液や昇圧薬によっても低血圧が持続する場合には経験的治療を始める
 ◦hydrocortisoneを1日200-300mg 4回に分割して投与を1週間継続

肝移植

・多くの患者では上記保存的加療だけでは生存は望めず、肝移植を要することが多い
 ◦肝移植が適応か否かを治療早期に判断し、肝移植専門医へのコンサルトを行うこと

予後予測

・おもに使用されるスコアリングはKing's College criteriaとMELD score
 ◦長期的予後を考慮すると肝移植が最も有効な治療である
 …スコアリングを用いてALF患者の肝移植必要性を評価してなるべく早めに肝移植可能施設へコンタクトをとることが重要
・King's College criteria
※以下のうち、1つでも満たす場合には肝移植可能施設へ転送すること
・アシドーシス(pH<7.3)
・肝性脳症(Grade 3-4)+凝固障害(PT>100秒)+AKI(Cre>3.4)
・高乳酸血症(4時間値>3.5mmol/L or 12時間値>3.0mmol/L)
・高リン血症(48-96時間値>3.7mg/dL)※アセトアミノフェン中毒のとき
 ◦ALF患者ではより広く使用されている
 ◦感度や陰性的中率は低いが特異度が高い
  ‣感度68-69%/特異度82-92%
  ‣満たさないからといって患者の生存を確定できるわけではない
 ◦成人では研究されているが小児では検証されていない
・MELD score
 ◦肝不全患者の短期予後予測についてのスコアリングであり、validationもされている
 ◦アメリカでは肝移植を待つ患者に対するスコアリングとして好まれている
 ◦最近のretrospective studiesによれば、ALF患者の短期的予後予測についてKing's College criteriaに匹敵する陽性的中率を誇るとされる
 ◦大規模なmetaanalysisによれば、ALF患者において緊急肝移植の必要性と院内死亡率予測に重要なスコアリングとされている
 ◦3か月死亡予測は以下の通り
  ‣score≦9…1.9%
  ‣score10-19…6.0%
  ‣score20-29…19.6%
  ‣score30-39…52.6%
  ‣score≧40…71.2%
 

まとめ

・ALFの定義を覚えよう。肝障害を持たない人が黄疸進行、肝性脳症、INR≧1.5。

・先進国ではアセトアミノフェン中毒が多い。原因不明の時には血中濃度測定をしておくこと。

・合併症は多臓器不全、あらゆる臓器不全が出現する

・鑑別のための検査を出して、適切なマネジメントをできるようにしよう

アセトアミノフェン、薬剤性、キノコ中毒、ウイルス性などの場合には特異的治療が存在するため、それらを想起できるようにすること

・RRTをはじめとした保存的加療方法はあるが、基本的には肝移植を意識して動く

・予後予測スコア(King's College Criteria or MELD score)をつけて予後予測をする