ケタミン、日常診療で使っていますか?
今回は
・気管挿管
・処置時の鎮痛鎮静(Procedural Sedation and Analgesia: PSA)
において、どのように効果的にケタミンが使用できるのか見ていきましょう。
ケタミンを使いこなせるようになると、ER診療で戦える幅が広がりますよ!

- ケタミンの特徴は?
- ケタミンの迷信:頭蓋内圧が亢進する?
- ケタミンの実践的な使い方① 挿管に使用するRocketamineとして
- ケタミンの実践的な使い方② PSAに使用するKetofol・Ketodexとして
- まとめ
ケタミンの特徴は?
つまり、二刀流の戦い方ができる薬剤です。
鎮痛作用と鎮静作用の両方を持ち、さらに健忘作用まで備えているという使いやすい効果が付与されています。
そして、最大の魅力は、
気道・呼吸・循環への影響が最小限であるということです。
自発呼吸を残して処置をしたい、循環が不安定な場合に鎮静をかけたいというときに相性のよい薬剤です。
いいところだけを解説してきたので、悪いところも紹介しておきます。
・喉頭痙攣のリスク
特に上気道炎があるときにはリスクになるため使用を避けた方がよいです。
・慢性心疾患との相性は△かも
交感神経刺激作用があるため心筋の酸素需要が増え、循環不全に陥る可能性はあります。
・嘔吐のリスク
特に成人や筋注での使用において、嘔吐が起こりやすくなります。
・回復期の覚醒反応
回復期には声がけをしたり刺激をしたりすることで興奮を誘発しやすくなるため、完全に目覚めるまではそっとしておくのが吉。
ミダゾラムをごく少量前投薬しておくことでこの反応を軽減できる可能性があります。
・悪夢や性的な夢を見ることがある
特に女性への投薬の際には女性スタッフの同席を必ずお願いしてください。
ちなみに、ポジティブな声がけをすることで悪夢の頻度が減る可能性があるため、
「いい夢を見ることができるかもしれませんよ」と声がけをすることもあります。
実際、韓流スターに囲まれる最高の夢を見たと経験を話してくれたマダムもいらっしゃいます。
ケタミンの迷信:頭蓋内圧が亢進する?
根強い迷信として、ケタミンが頭蓋内圧を亢進させるということがあります。
よって、頭蓋内疾患には使えないとされていた時代がありました。
しかし、現代では、
頭蓋内疾患へのケタミン使用は転帰を悪化させないというエビデンスが蓄積されてきていますので、頭蓋内疾患を理由にケタミンを禁忌とする必要はありません。
また、唾液増加の副作用はおきえます。
これを予防するためにアトロピンを使うよう指示されたことがあるかもしれません。
しかし、アトロピンを投与することで有害事象の頻度は減らず、
むしろ増やしてしまう可能性が指摘されているため、
アトロピンを併用することは推奨されません。
ケタミンの実践的な使い方① 挿管に使用するRocketamineとして
ERでの緊急気管挿管では、ケタミンとロクロニウムの相性がよいです。
ケタミンは低血圧を誘発しづらく、自発呼吸を残せる可能性があります。
大量に投与したり、重度のショックがあったりするような場合には
もれなく血圧が下がりますので注意してください。
他の鎮静薬よりはましなんでしょうけど。
緊急気管挿管としてRSI(Rapid Sequence Intubation)やDSI(Delayed Sequence Intubation)があります。
RSIでは、鎮痛鎮静薬であるケタミンとロクロニウムをほぼ同時に投与する"Rocketamine"を使う頻度が多いです。
鎮静薬の候補としてプロポフォールは低血圧を誘発するため論外、
ミダゾラムも悪すぎはしませんが、循環への影響を考えるとケタミンを凌駕しません。
また、DSIは重度の低酸素血症があるけど興奮などがあるためにうまくpre-oxygenationできない場合に使われる手段です。
ケタミンを投与して適切な鎮静深度になったら、
NPPVやPEEPバルブ付きBVMなどを使用してpre-oxygenationを行い、
ロクロニウムを投与して挿管する方法です。
生理学的な困難気道としての低酸素血症に対峙したときに
覚えておきたい戦略です。
RSIでの使い方:
ケタミン1-2mg/kg IV + ロクロニウム1.2-2.0mg/kg IV
※話がずれますが、ロクロニウムは循環不全のときには最低1.2mg/kg以上入れるとよいです(添付文書には0.9mg/kgと記載がありますが)。
添付文書通りだと効果が薄く(特に循環不全があるときには効きが悪い)、
初回成功率が低下するという報告が多数あります。
※話がずれますが、RSIのときには鎮静薬→筋弛緩薬ではなく
筋弛緩薬→鎮静薬の順番が好ましいかもしれません。
ケタミンやプロポフォールは効果発現が45-60秒程度と非常に速いので、
筋弛緩薬を鎮静薬のあとにすると筋弛緩薬の効果発現が遅れてしまうことがあります。
効果発現の早い鎮静薬の薬効により「もう効いてきたうだろう」と思って挿管をしてみたら全然効いていない、初回挿管失敗なんてこともありえます。
DSIでの使い方:
ケタミン0.5mg/kg IV
ケタミンの効果発現は1分以内とされています。
そのため、適切な鎮静深度にならない場合には2-3分待ってから、
追加投与をするようにしないと過量投与になってしまうので注意してください。
ケタミンの実践的な使い方② PSAに使用するKetofol・Ketodexとして
PSAを行うときにはKetofolやKetodexを行うのがいいでしょう。
ケタミンとデクスメデトミジンを併用する手法です。
これらの薬剤を組み合わせることで、それぞれの弱点wのうまく補い合い、
合併症の発生率を大きく下げることができます。
Ketofol:
プロポフォールの呼吸抑制や血圧低下作用をケタミンの自発呼吸保持・血圧上昇作用が打ち消し、
ケタミンで起こりやすい嘔吐や動きをプロポフォールがシャットアウトすることができます。
Ketodex:
DEXで起こりやすい徐脈や高血圧をケタミンの頻脈・高血圧誘発作用が打ち消し、
ケタミンで起こりやすい流涎や精神症状をDEXが和らげることができます。
なんかよさそうですよね!
成人のPSAの第一選択はKetofolです。
この組み合わせは合併症が少ないだけでなく、
処置後の覚醒もスムーズで、患者がスッと目を覚ましてくれる点が大きなメリットです。
特に呼吸抑制への懸念が強い症例かつ鎮静が効くまでに15-30分程度待てる場合にはKetodexもGoodです。
ketofolに比べてさらに酸素飽和度の低下が起こりにくいとされています。
ただし、ketofolと比べて薬効が完全に切れるまでにやや時間がかかる点には注意が必要です。
実際の現場では、処置までに少し時間がある場合にDEXを先に開始してベースを作っておき、処置のタイミングに合わせてケタミンを追加するという使い方がよく行われています。
Ketofol:
ケタミン0.5mg/kg IV + プロポフォール0.5mg/kg IV
必要なら2-3分待ってプロポフォールを0.5mg/kgずつ追加
※ケタミン:プロポフォール=1:1~1:4くらいがいいと言われています
Ketodex:
DEX0.2-0.6μg/kg/hrでベースを作っておき(最低15分間待つ)、ケタミン1mg/kg IV
※DEXは添付文書のような初回負荷投与は基本的にしないようにしています
:高度徐脈や低血圧で苦しむことがあります。
※ケタミンは0.5mg/kgに減量してちょこちょこ打つのもいいです
(個人的にはビビりなのでコチラを推奨)
まとめ
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薬剤 |
投与量 |
効果 発現(分) |
効果 持続 (分) |
メリット |
デメリット |
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1-1.5mg IV |
<1 |
10-15 |
・循環や呼吸への影響が 少ない ・鎮痛と鎮静作用を 併せ持つ ・健忘作用 |
・嘔吐や喉頭痙攣など上気道トラブル ・高血圧や頻脈: 虚血性心疾患には注意 ・体動を完全に抑制できないことも ・覚醒時反応 ・悪夢 |
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DEX |
0.2-0.6mcg/kg/hr |
15 |
30-60 |
・呼吸抑制のリスクが非常に低い ・弱い鎮痛作用を併せ持つ ・鎮静はかかるが、 患者の協力を得やすい |
・効果発現までに時間がかかる (特に初回負荷投与を省略する場合) ・低血圧、徐脈
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Ketofol |
ケタミン0.5mg/kg IV プロポフォール0.5mg/kg IV |
1-3 |
10-15 |
・循環や呼吸への影響が少ない ・覚醒が早い ・鎮痛と鎮静作用を併せ持つ |
・小児には使えない |
|
Ketodex |
DEX0.2-0.6 mcg/kg/hr ケタミン1mg/kg IV |
5-10 |
30-60 |
・循環や呼吸への影響が特に少ない ・鎮痛と鎮静作用を併せ持つ |
・ケトフォールよりも効果持続時間が長い |
今回はここまで!
このほかにもケタミンはとある疾患の治療補助に使えたり、興奮する患者やアルコール離脱症候群患者などへの鎮静に使えたりと、
汎用性が非常に高い薬剤です。
折を見て紹介しますね~