りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

気管支喘息の急性増悪に出会ったら…ケタミンを使えるようになろう!

喘息急性増悪(発作というほうがしっくりきますケド)が増えているような気がします。

 

季節がそうさせているのか、他になにか原因があるのかはわかりません。

 

まずは型どおりのマネジメントができることが重要です。

急性増悪患者の8割くらいは、簡単な初期対応だけでなんとかなります。

 

以下にまとめてありますので、ご覧ください。

遭遇頻度が減ってきている疾患なので、久しぶりだと忘れていることも多いかもしれません( ゚Д゚)

 

appleqq.hatenablog.com

 

とりあえずβ刺激薬吸入を複数回やって、ステロイド投与したけどあまり改善なし…。

 

全然治療がうまくいかなくて、

「挿管しちまうか⁉」な瀬戸際に立たされる患者さんもそれなりにいます。

 

そんな中等症~重症の喘息急性増悪に使える強い味方がケタミンです。

 

気管挿管を避けたい!

 

喘息に気管挿管をするか否かはとてもナイーブな問題です。

 

気管挿管をすることで、合併症発生率や死亡率が上昇することが知られます。

気管挿管されてICUに入室した患者の死亡率は20%にも及ぶという報告があります。

 

人工呼吸器管理が難しいですもんね。

 

 

気管挿管のコツ

 

それに気管挿管自体にも少しコツが必要になります。

 

コツ➀ 太いチューブを使用する

 

チューブは気道抵抗を減らすために、なるべく太径のものを使用します。

(目標は8.0mm以上)

 

あんまり細いチューブを使ってしまうと、粘液栓による内径狭窄や時定数が高くなることなども相まって、不利な管理を強いられることになります。

 

研究によっては、チューブサイズを1mm太くすることで死亡のoddsが2倍低くなると報告しているものもあります。

 

コツ② 挿管時の鎮静にはケタミンプロポフォールを使う
 
ケタミンプロポフォールには気管支拡張作用があるため、
これらの薬剤を使用することがリーズナブルと思われます。
 
 

ケタミンの使い方

 
なんやかんやで、挿管にコツがいるし、人工呼吸器管理は難しいし、合併症発生率や死亡率が上昇するしで、なるべく挿管を避けたいのが救急医の頭の中です。
(比較的挿管したがりな救急医だとしても)
 
 
そのときに役立つ薬剤がケタミンです。
 
ケタミンには以下の薬効があると考えられています。
・肺実質のNMDA受容体活性を抑制する
 →気道攣縮と肺浮腫を抑制する
・気管支攣縮に働くNO産生を抑制する
・マクロファージの遊走をブロック
 →サイトカイン産生を抑制
・β-agonist再取り込み阻害を抑制
 
 
薬理学的に見て、喘息への有益性は明らかだと思います。
 
 
さて、systematic reviewでは、
「難治性喘息急性増悪に対してケタミンを投与することにより、肺機能改善/酸素投与量減少/気管挿管回避に有効性がある」と報告されました。
 
 
でも、ケタミンの理想的な投与量は定まっていないのが現実です。
 
 
 
調べると、多様なケタミンの投与量の報告がバンバン出てくると思います。
 
 
例えば、以下のような報告があります。

・難治性喘息に対して1.5mg/kg-2mg/kg静注または4.8mg/kg筋注
 
・重症小児喘息増悪に対して、ERで1mg/kg吸入で投与
 ‣ケタミン投与後すぐに呼吸状態が改善したと報告


ケタミン1mg/kg静注後、2.4mg/kg/hrで8時間持続静注

 ‣重症度の改善と呼吸数の改善が得られたというcase series

 

・0.4-0.5mg/kg bolus後、30分の短時間点滴を行う方法とプラセボを比較

 ‣ケタミン使用群でピークフローが有意に改善
 ‣ただし、0.3mg/kgのbolusではプラセボと有意な差はなかった


・小児および成人の重症喘息で非挿管患者を対象としたRCT
 ‣0.2mg/kg静注後に0.5mg/kg/hrでの持続静注

 ‣改善の度合いには有意差なし

 

 

 
一般的には、投与方法は目的に応じて2種類あります。
(個人的によく使う使用量を記載しておきます)
 
 
➀subdissociative dosed ketamine
 
気管支拡張作用を主に狙った投与量です。
 
重度の呼吸不全患者を覚醒状態かつある程度快適な状態に保ちつつ、肺機能を改善することが目的になります。
 
個人的には、挿管を避ける目的ならこのくらいを狙うのがいいと思っています。
 
 
投与方法例:
 0.1-0.5mg/kg静注 → 0.5mg/kg/hrで2時間持続静注
 
 
効果に応じて、静注は何度か繰り返すことで薬効が出てくることもあります。
 
すでに挿管されている患者に対して上記を使うことでも
(他の薬剤との相互作用もあり)呼吸状態の改善が望めることがあります。
 
 
②dissociative dosed ketamine
 
こちらは主に、RSIへのつなぎを目的とした使用方法です。
 
気管挿管は避けたいけど、
最高酸素投与量でもSpO2<90%とかhypercapniaで徐呼吸になってきたとか
意識障害が出てきたとか、そんなときには挿管です。
 
 
投与方法例:
 1-2mg/kg静注
 ※合併症を避けるために5-10分かけて投与
 
 
ケタミン(+プロポフォール=ケトフォール)を上記使用量で用いて、
患者の自発呼吸をある程度残しつつ、最適な酸素化が出来たら
筋弛緩薬をバシッと使って挿管のパターンが多いです。
 
RSIというよりはDSIという手法になるんでしょうか。
 
喘息急性増悪の患者では、完全に自発呼吸を奪ってしまうのには勇気が要ります。
BMVが全くできなくなるほど硬くなります。
 
どんなにマスクフィッティングしても、力を入れてもびくともしない、、、
あの状況を経験したことがある方なら、患者の自発呼吸を奪うことがどれほど怖いことがわかりますよね…(-_-;)
 
 
 
今回は意外と忘れられがちなケタミンにスポットライトを当ててみました!
 
他にも様々な使用方法がある、なんとなく"魔法"のような薬なんですよ。
 
 

まとめ

気管支喘息急性増悪のマネジメントを確認しておこう

重症喘息発作への対応(Am J Emerg Med. 2020;S0735-6757(20)30171-6.) - りんごの街の救急医

・喘息への気管挿管はなるべく避けたい!

気管挿管をするなら太いチューブ、ケタミンを使おう

気管挿管を避ける目的でケタミンを使用することもできる

 ‣0.1-0.5mg静注 → 0.5mg/kg/hrで2時間程度点滴静注