病歴/身体所見
・6か月男児
・2日前からの鼻閉、咳嗽、安静時のstridorのためER受診
・家族は同様の呼吸音を生後まもなくから間欠的に聴取はしていた
・well appearance, RR44, SpO2 94%, 発熱なし
・聴診ではstridorを聴取、陥没呼吸を呈していた
・epinephrine吸入とdexamethasone投与によりわずかに改善
検査
・CXR
胸部入口部付近の気管が狭窄している
・臨床所見とCXR所見から緊急気管支鏡が実施された
軽度の炎症と喀痰を伴う気管:通常は"C型"だが、"O型"になっている
・精査目的で入院となり、CTAが実施された
A)気管狭窄:遠位気管の口径(矢印)が左右主気管支よりも細い
B)主肺動脈(MPA)から右肺動脈(RPA)、RPAから左肺動脈(LPA)が出ている。左肺動脈は気管の周囲を走行し(点線)、この部分の期間は2.5mmしかない
3DCT:重度の気管狭窄を示す
診断
肺動脈スリング/complete tracheal ringによる気管狭窄
・小児のstridorは上気道疾患を示唆する
・低酸素血症は、下気道感染が併発していない限り、または閉塞が重度で低換気になるような場合を除いてはあまり発症しない
・胸部単純レントゲンは、以下の場合のstridorに対して有効
◦原因がわからない
◦重症度が高いと考えられる
◦症状が非典型的
・Complete tracheal ringはまれな先天性解剖学的異常で気道狭窄の原因となる
◦先天的な気管軟骨の欠損が起きる:通常の気管は”C型”だが、complete tracheal ringでは”O型になる”
◦患者の75%以上がその他の解剖学的異常を合併する
(Clin Perinatol. 2018 Dec;45(4):597-607./J Thorac Dis. 2016 Nov;8(11):3369-3378.)
・本症例では肺動脈スリングを認めた
◦左肺動脈が右肺動脈より起始している
◦肺動脈が気管を横切るように進行し圧迫している
・stridorを呈することが多いが、呼吸困難や嚥下困難などを呈することもある
(Pediatr Pulmonol. 2015 May;50(5):511-24.)
・マネジメント…外科的対応
◦肺動脈スリングの修復や気管形成術など
(Otolaryngol Head Neck Surg. 2018 Apr;158(4):729-735./Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2009 Feb;57(2):108-10./Adv Otorhinolaryngol. 2012;73:58-62.)
小児の喘鳴/stridorでは危険な鑑別がたくさん挙がりますが、
それぞれの所見が非典型であったり治療に反応が悪い場合には、今回のように気管自体の問題や血管異常も考えなくてはなりません。
まとめ
・繰り返す、初期治療に反応が悪い喘鳴では、complete tracheal ringや肺動脈スリングなどをはじめとした器質的疾患を疑うこと