病歴/身体所見
・36歳男性
・複視のためER受診
・4週間前に顔面を殴られ、下顎骨骨折の固定術を受けた
・視力は正常だが、右動眼神経麻痺(内方視や上方視の喪失/眼瞼下垂/瞳孔不同)が認められた
◦左方向視での右内転障害と右眼瞼下垂を認める
・右眼上で血管雑音が聴取された
検査
・CTでは拡張した右眼静脈および海綿静脈洞内に動脈相で造影される血管影を認めた
右眼静脈拡張を認め、眼球を圧迫している
動脈相にて海綿静脈洞が著明に造影されている
診断
外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻
・IVRが行われ、右内頚動脈から発生した海綿静脈洞瘻であることが判明
→コイル塞栓術が行われた
・6週間のフォローアップで動眼神経麻痺は完全に解消された
・頸動脈海綿静脈洞瘻は顔面外傷のまれな合併症
◦発症率は0.3%未満とされている
◦患者の多くは頭蓋底骨折を伴っている
(Int J Oral Maxillofac Surg. 2008 Jan;37(1):86-9./Neurosurg Focus. 2013 Jul;35(1):E9.)
・頸動脈海綿静脈洞瘻の75%以上は外傷の結果として起きる
(Neurosurg Focus. 2013 Jul;35(1):E9.)
・無治療により失明や重度の出血に発展する可能性がある
◦まれではあるが頭蓋内出血や大量鼻出血などの生命を脅かすような合併症になることがある
(Orbit. 2003 Jun;22(2):121-42.)
もう1症例みておきます。
画像所見は眼静脈の拡張と海綿静脈洞の拡大が肝です。
( Imaging in Neurology より)
外傷性右頸動脈海綿静脈洞瘻
眼瞼下垂を含む、第3/4/6脳神経麻痺を伴う拍動性眼球突出を認めた
右海綿静脈洞の拡大(太矢印)、右眼静脈は左眼静脈に比較して4倍ほどの太さに拡張している(細矢印)
単独脳神経麻痺ではなくて、海綿静脈洞瘻のように複数の脳神経麻痺があるような場合には診断が難しくなると思います。
複視の診断は"6つのステップ"が大切です!
まとめ
・頸動脈海綿静脈洞瘻は顔面外傷、特に頭蓋底骨折と関連したのまれな合併症
・無治療により頭蓋内出血や大量鼻出血などの生命を脅かす出血イベントに発展する可能性があるため迅速な介入を要する