病歴/身体所見
・37歳女性
・急性発症の鋭い左胸痛を自覚してER受診
◦左腋窩に放散し、睡眠から覚醒してしまうほどの強い疼痛であった
・HR110bpm, BP148/80mmHg, BT36.6℃, RR16, SpO2 98%
検査
・ECG:正常で洞調律
・CXR:気胸なし、肺野に浸潤影なし
・血液検査…troponin<0.03
・CT…肺塞栓の所見がないことを確認
脂肪織濃度上昇を伴う、卵形の被包化された縦隔脂肪組織(破線)と少量の左胸水(矢印)を認める
※以前のCTは以下
診断
縦隔脂肪壊死(Mediastinal fat necrosis)
・縦隔脂肪壊死は心外膜脂肪壊死とも呼ばれる
・縦隔脂肪壊死はself-limitingな疾患であるが、ACSや肺塞栓との鑑別を要する
(Semin Ultrasound CT MR. 2017 Dec;38(6):629-633./Case Rep Radiol. 2013;2013:323579./Chest. 2019 Jan;155(1):e17-e20.)
・既往歴がない患者に発症する急性胸膜痛が特徴
(Case Rep Radiol. 2013;2013:323579./AJR Am J Roentgenol. 2005 Nov;185(5):1234-6.)
・胸痛は左側であることが多いが、縦隔の脂肪組織が左側>右側であることによる
(Case Rep Radiol. 2013;2013:323579./AJR Am J Roentgenol. 2005 Nov;185(5):1234-6./Cardiol J. 2012;19(4):424-8.)
・正確な原因は不明だが、いくつかの機序が考えられている
◦血管茎の捻転
◦脂肪組織の解剖学的構造的異常による外傷への脆弱性
◦Valsalva法などによる胸腔内圧上昇→脂肪組織への損傷や出血
(Case Rep Radiol. 2013;2013:323579./Semin Ultrasound CT MR. 2017 Dec;38(6):629-633./AJR Am J Roentgenol. 2005 Nov;185(5):1234-6./Chest. 2019 Jan;155(1):e17-e20./Can Med Assoc J. 1962 Feb 3;86(5):237-9.)
・肥満はリスク因子である可能性がある
(AJR Am J Roentgenol. 2005 Nov;185(5):1234-6./Cardiol J. 2012;19(4):424-8.)
・西暦2000年以前は、開胸術による除去および悪性腫瘍検索目的での生検をしていた
→最近ではより保守的なアプローチでよいと考えられている
→最近ではより保守的なアプローチでよいと考えられている
‣画像所見が多部位の脂肪壊死と類似の所見をとること
‣自然経過で改善する疾患であること
‣生検結果が良性であることなどによる
・治療はNSAIDsによる対症療法でよい
(Case Rep Radiol. 2013;2013:323579./Chest. 2019 Jan;155(1):e17-e20./Cardiol J. 2012;19(4):424-8.)
・数週間~数か月後のCTフォローとする
(Semin Ultrasound CT MR. 2017 Dec;38(6):629-633./Chest. 2019 Jan;155(1):e17-e20.)
これは見たことがない、というか鑑別に挙げていませんでした。
目に焼き付けるために数症例追加で見ておきます。
Semin Ultrasound CT MR. 2017 Dec;38(6):629-633.より抜粋
・72歳男性
・40歳男性…石灰化しているパターンもある
まとめ
・縦隔脂肪壊死は突然発症の急性胸膜痛を特徴とする疾患で、ACSや肺塞栓との鑑別を要する
・肥満はリスク因子の可能性がある
・治療はNSAIDsによる対症療法でよく、数週間後に画像的にフォローする