QT延長はしばしば問題になります。
特にうちの病院は精神科単科病院が系列にあるので、
某所からの患者さんはほとんど(!?)QT延長しているような気さえします。
何が怖いって、、、致命的な不整脈がでちゃうところです。
QT延長といえばTdP
というようにほとんど1対1対応のように覚えていると思います。
このこわ~い不整脈ですが、個人的には病院に入院している患者さん以外では見たことがありません(ER内では幸いにしてまだ一度もお目にかかったことがありません:入院後に失神の原因がTdPだったことはありますが)。RRSとして、当直医として呼ばれて「ゲッ」ということしかないです。
しかも、いつもあまり頭が働いていない夜中ばっかりです。シャキッとしてるときにエンカウントしてみたい…。呪われているのでしょう。
QT時間は下手したらあまり注目されていない心電図のパラメータかもしれませんが、
これを機会にしっかりQTcにも注目していきたいですね。
自分の処方薬が患者さんに不利益を与えることがあるのでチェックを怠らないようにしたいところです。
Khatib R, Sabir FRN, Omari C, Pepper C, Tayebjee MH. Managing drug-induced QT prolongation in clinical practice.
Postgrad Med J. 2021 Jul;97(1149):452-458.
PMID: 33122341; PMCID: PMC8237186.
QT延長は何が悪いのか?
・原因の如何に関わらず、QT延長は臨床的に重要な意味を持つ
◦失神/心停止/突然死はQTが延長するのに伴って増加する
◦
Torsades de Pointes(TdP)を誘発しうる
下図のような波形です。
(Polymorphic VT and Torsades de Pointes (TdP) • LITFL)
治療はマグネシウム投与が第一選択です。
Mg 1-2g(硫酸マグネシウム1Aには2.46gのMg含有)を30-60秒で静注します。
ちなみに、これは血清Mg値が基準値内だったとしても有効な方法とされています。
Mgの値はあまりあてにならないんですね。
高Mg血症の徴候である腱反射低下/低血圧はマークしておきます。
引き続き、オーバードライブペーシングが必要になることがあります。
cardioversionも選択肢ですが最終手段です。自然に止まることもありますが、VFへの移行があるため除細動器を装着しておくことは必須でしょう。
QT延長が増悪するにつれてこの不整脈の発生率も増加するため要注意です。
自分の出した薬のせいで患者さんに不利益があってはいけません…。
どの程度QT延長があれば危ない?
・QTc間隔の正常値は、男性:450msec以下/女性:460msec以下とされる
◦ただし、女性におけるQT間隔延長の素因は加齢とともに減少することに注意
‣心臓の
イオンチャネル活性が性ホルモンによって変化し、それがQT間隔に影響を与えることが示唆
‣高齢者では男女のcutoffの違いは意味がなくなるということ
・一般的には、QTcが正常
閾値~500msecの間にある場合にはQT延長と捉えられる
・
QTc>500msecとなるとTdP発症リスクが大幅に上昇する
◦
QTcが10msec延長するごとにTdP発症リスクは5-7%増加する
当院ERにおいてある心電図計は自動解析が出ないタイプです。
なのでとりあえずRR間隔の半分をQT間隔が超えていればQT延長だろうとスクリーニングしています。また、時間があればアプリを使ってQTc計算をしています。
毎回必ず気に留めておかないと足をすくわれます。
この時期の研修医は「ST上昇はなさそうで…」とプレゼンが始まることが多いですが、QTも含めて系統的に見ておくと見逃しが減ります。
特にQTc>500msecは徹底マークします。
TdPハイリスクです。
即座にモニター監視開始!
以下に提示する補正可能な因子を補正します。
QT延長のリスク因子は?
個々の患者のリスク因子
・主な患者関連リスク因子は以下の通り
薬剤誘発性QT延長によるTdP発症の患者リスク因子
|
修正不可能
|
・先天性QT延長症候群(QT延長薬剤は使用してはいけない)
・肝障害や腎障害
・女性
・年齢>65歳
|
修正可能
|
・徐脈
・未補正の 電解質異常…低K血症/低Mg血症/低Ca血症
・QT延長薬剤による最近のcardioversion
|
・女性/65歳以上など一般的なものもあれば、先天性QT延長症候群などまれな因子も存在する
・薬剤によるQT延長を発症する症例のほとんどはこれらのリスク因子が少なくとも1つある場合に発生し、2つ以上のリスク因子を持つ症例は70%以上にのぼる
なるべくリスク因子を増やさないような対応が必要になります。
修正不可能な因子についてはどうしようもできないので、修正可能な因子や以下の薬剤がらみの因子を削れるだけ削りつつ、新規処方薬にも注意を払います。
・
TdP発症リスクが高い患者については、QT延長薬剤を開始するかどうかを患者と共同で決定し、その
潜在的な影響を明確に伝えるべきである
・修正不可能な因子も多いが、そのなかでも
特定の薬物療法についてはQT延長/TdPリスクを軽減するための修正可能な因子である
◦rapid delayed rectifiers (IKr)と呼ばれる特定のKチャネルへの影響が関与していると考えられている
‣
抗精神病薬のhaloperidolはIKrチャネルの特異的遮断薬であり、
用量依存的にQTを延長させ、
TdPを引き起こす
◦quinidineやdisopyramideなどの抗
不整脈薬はNaチャネルとKチャネルの両方を遮断することでQT延長を引き起こす
‣抗
不整脈薬による
TdPは
低K血症/低Mg血症がある場合に誘発されやすい
ハロペリドールはせん妄や興奮状態に対してそれなりの頻度で使われることが多い薬剤だと思います。
せん妄に対してルーチンで投与していたからという理由で、QT延長を考慮せずにぶっぱなしてしまうと(適当に必要時指示みたいな感じで入ってしまうと)地獄の
TdPが待っているかもしれません。
三環系
抗うつ薬はだいぶ見なくなりましたが、処方されている人はいますので注意します。
・
TdP発症リスクを軽減するために
QT延長を来す薬剤を知っておくべし
こんなにあります。。。
理想は処方薬については全て添付文書に目を通してQT延長の副作用があるかチェックを入れなければいけませんが…。
ERでは特に以下の薬剤に注意しておきます。
・リスクあり…chlorpromazine, gatifloxacin, moxifloxacin, tricyclicsed
・分類不能…ciprofloxacin, clarithromycin, erythromycin, levofloxacin, lithium, olanzapine, quetiapine, sulpiride, tizanidine, trazodone
薬剤によるQT延長とその程度
・UK Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (MHRA)はcitalopram, domperidone, ondansetron, quinineなどの一般的によく使用される薬剤について薬剤性QT延長に関する警告を発している
・実践的な観点からは、QTc間隔を20msec未満しか延長しない薬剤の
不整脈リスクに関するデータでは決定的なものはないが、
QTc間隔≧20sec変化させる薬剤は注意すべきである
・例えば以下のように報告されている
◦haloperidol…15-30msec
◦moxifloxacin…7.5-12.5msec
◦clarithromycin…<5msec
・QT延長薬剤を併用した場合のQT延長の程度およびそれに伴うリスクは不明であるが、そのような併用は必ずしも相乗的な影響を持つわけではない
・
QTの変化とTdP発症との関連性は非常に多様性がある
◦amiodaroneは著しくQT延長させるが
TdPを発症することはほとんどない
◦対照的にsotalolは特に高用量使用で
TdP発症率が高い(最大5%)
‣sotalolのQT延長効果は160-640mg/dayで10-40msecほど
・QT延長の程度は同じ薬剤を服用しているヒトの間でも異なることがある
◦多くの場合には用量依存性にQTが延長する
リスキーな薬剤はある程度同定されてはいますが、それがどのくらいリスクになるかは個体差があるみたいです。
薬剤でもアミオダロンのように著明にQT延長を引き起こす割にはそれほど
TdPリスクが高くないものもあるんですね。逆に、それほどQT延長自体はさせないけど
TdPはそれなりに発症してしまったりさせる薬剤もあります。
QT延長リスクを増大させる薬物相互作用
・異なる薬物間の相互作用によりQT延長リスクが高まることがある
➀薬力学的相互作用
‣QT延長薬剤を2種類以上処方された場合に相加的な作用が生じうる
※例えば表2に示された2種類以上の薬剤を組み合わせた場合
②薬物動態学的相互作用
‣QTを延長しない薬剤自体がク
リアランスを減少させるか、同じ肝
酵素によって
代謝され、その結果としてQT延長作用を有する薬物濃度が上昇
※ritonavir(CYP3A4阻害)はquinidine
代謝を減少させることで濃度を増加させる
‣低K血症/低Mg血症を引き起こすループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬など
薬力学的相互作用については上述しましたが、必ずしも起きるわけではないようですがあまり併用はしたくないですね。
レジオネラ肺炎に対してLVFXを投与されていたもともと抗精神病薬を複数内服しているような患者さんが頑固な
TdPを起こしたことを見たことがあります。
低K血症や低Mg血症はそれ自体が
TdPをはじめとした致命的
不整脈のリスクなので、薬剤によりこれが助長されることは避けつつすぐに補正します。
QT延長をどのように管理するか?
薬剤処方前の検討事項
・QT延長薬剤を処方する前に、
個々の患者のリスク因子の程度/特定の薬剤によりもたらされるリスク/すでに投与されている他の薬剤の潜在的な影響を検討すべし
・安全性と有効性を損なうことなく、QT延長のリスクを低減できる代替案がないかどうか検討すること
修正不可能なリスク因子に加え、新たに修正可能なリスク因子が被っていないか?
被っていれば補正/除去、もし薬剤を追加せざるを得ないならなるべくQT延長させないものを選択します。
QT延長の管理方法
・QT延長薬の処方が適切であると考えられる場合、処方者は管理
アルゴリズムの使用を検討してよい
・まずは、修正可能なリスク因子を可能な限り修正せよ
◦特に低K血症や低Mg血症は積極的に補正して正常上限を目指すべし
◦現在の処方で不要なものがあれば中止または変更を検討する
・
処方する薬剤のQT延長リスクが低い場合(潜在的な副作用としての記載程度)
◦他のQT延長薬剤が併用されておらず、患者にも他の関連するリスク因子がない…治療を進めてよい。モニタリングは不要
◦既知のリスク因子をもつ場合(あるいはQT延長薬剤が処方されていた場合など)…ベースの心電図を検査しておき、薬剤が定常状態になった時点で再検
QT延長の副作用については添付文書でもいいですし、
以下のサイトでも逐一調べることができます。登録すればリストが見られます。
・処方する薬剤のQT延長リスクが高い場合
◦baselineの心電図は検査しておき、定常状態に達した時点で心電図を再検する
‣他のQT延長薬剤が併用されておらず、患者にも他の関連するリスク因子がない…無症状ならば定期的な心電図検査は不要かも
‣既知のリスク因子をもつ場合(あるいはQT延長薬剤が処方されていた場合など)…必要に応じて心電図再検を行う
※ほとんどの患者はQT延長しても症状はないが…動悸/ふらつき/めまいなどは注意
※薬剤の定常状態は一般的には
半減期の4-5倍の期間で達成される
・既存のQT延長がある場合や先天性QT延長症候群がある場合には、QT延長のリスクが低い薬剤であっても別の治療法を探すべきである
修正可能なリスク因子を補正/除去することはこれまで述べてきたとおりです。
心電図は入院前のルーチン検査として実施されていることが多いと思うので、ベースラインを見ておき、それに応じて処方計画やフォローアップ計画を立てます。
まぁ、言っていることは思ったより至極当然でした。
でも、うっかり忘れちゃいますよね。
本筋の治療の方が優先されてしまい、ときにQT延長なんて忘れ去られてしまう存在と思いましたので自戒を込めて紹介しました。
まとめ
・多くの薬物はQT延長との関連があり、TdPをはじめといた致死的不整脈発症のリスクを高める可能性がある
・QTを延長させる薬剤を処方する際には以下の3つの要素を考慮すべし
◦患者に関するリスク因子
◦新規処方する薬剤に関連するQT延長の潜在的なリスクと程度
◦QT延長のリスクを増強させる可能性のある他の処方薬
・QT延長薬剤が処方される場合には修正可能なリスク因子を可能な限り補正すべし
・心電図検査はベースラインと薬剤が定常状態に達した後に行うこと