病歴/身体所見
・47歳男性
・既往歴なし
・ランニング中に生じた動悸のため救急搬送
・救急隊接触時、血行動態は安定していた
・救急車内でのECGではHR175bpmのmonomorphic VTを呈していた
・ER搬入時、BP85/50mmHg
・同期下cardioversion 150Jが実施され、以下の心電図所見が得られた
検査
cardioversion後のECG
洞性徐脈(HR45bpm), 1度AVB, 陰性T波(III/aVF/V1-4), epsilon波(I/II/aVF/V1-6), QT延長(534msec)
診断
不整脈原性心筋症(arrhythmogenic cardiomyopathy:AC)
※ 以前はARVC(不整脈原性右室心筋症)と呼ばれていましたが、最近はこう呼ぶみたいです。
ベッドサイド心エコーにて右室拡張/壁運動低下、左室心尖部の壁運動低下あり
心臓MRIにてACとして特徴的な所見が認められた
dual-chamber pacemakerdefibrillatorが埋め込まれた
遺伝子検査が実施され、家族へのスクリーニングも行われた
・epsilon波…QRS終末とT波の始まりとの間に観察される脱分極波形
◦ACに非常に特異的だが15-30%ほどの症例にしか認められない
◦多くは右室に発症するため、epsilon波はV1-3に認められやすい
‣実は右室のみならず、左室にもACが発症しうることが報告されている
‣左室に発症したACでは、V4-6/I/II/III/aVF/aVLにもepsiln波が出現
◦aVRにepsilon波を認める場合には予後不良とされている
(Europace. 2017 Jul 1;19(7):1084-1090./Heart Rhythm. 2016 Jan;13(1):208-16./J Cardiovasc Med (Hagerstown). 2016 Jun;17(6):418-24.)
・青点線:QRSの始まりと終わりを示している
・QRS終末部にepsilon波を認める(矢印)
・14歳以上に発症した、CRBBBなし+右前胸部誘導における陰性T波や右前胸部誘導のepsilon波はACに特徴的な所見である
・epsilon波を認めた場合には以下の疾患の除外も要する
◦Fallot’s tetralogy治療後
◦Uhl病
◦サルコイドーシス
◦Brugada症候群
◦athlete's heart
※Uhl病…右室心筋の部分的あるいは完全な欠如によって、羊皮紙様の菲薄化を伴う著明に拡張した右室を特徴とする原因不明の疾患
・T波陰転化もACの可能性を考慮すべき所見…AC患者の最大87%に認められる
◦側壁誘導や下壁誘導におけるT波陰転化は左室型ACの可能性を示唆
(Am J Cardiol. 2005 May 1;95(9):1070-1.)
・右前胸部誘導におけるT波陰転化は健常者には見られにくい(若年者を除く)
◦虚血性心疾患、肺塞栓、RBBBなどが鑑別になる
◦wide QRS tachycardia後のcardiac memoryの可能性もある
・ARVCに特異的な診断手段はない
◦ECG/心エコー/心臓MRI/心筋生検/遺伝子検査など
・診断確定がされれば、植え込み型除細動器埋め込みの適応になる
(N Engl J Med. 2017 Jan 5;376(1):61-72.)
以前はARVDやARVCの名称で呼ばれていたものは不整脈原性心筋症と呼ばれるようになりました。知らなかった~。
右室だけではなく、左室でも病変が見られることに由来するようです。
ACは数回しか見たことありませんが、みんな若年者でした。
若年者で、運動中/臥位での失神や前駆症状のない失神では心原性失神を考えて、このACも鑑別に挙げなければなりません。
まとめ
・不整脈原性心筋症(AC)では、右室のみならず左室にも病変が認められうる
・epsilon波はQRS終末~T波始まりにある脱分極波形であり、ACに特異的な所見である
・右前胸部誘導のT波陰転化はACの最大87%に認められる所見である
・ACと診断されれば植え込み型除細動器の適応となる