りんごの街の救急医

救急科専門医によるERで学んだことのまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

CPRの現場で使ってみたくなるワザとTips~ここ数年の使える知識のまとめ~

CPRなんて型通りにやれば、簡単カンタン♪

 

なんて思っていませんか!?

 

まずはガイドラインに沿って、型どおりにやれるようになることは大切です。

 

でも、それだけじゃつまらない!

救命率向上のために、もっといい方法がないのか常に模索しなくてはなりません。

 

 

久しぶりのブログ更新になりましたが、

ここ数年くらいでアップデートされたCPRについて、

現場で使ってみたくなるワザやTipsをまとめたいと思います。

 

 

聖隷浜松病院救急科内で行った抄読会の内容の一部です。

私たちの抄読会は論文の紹介に限定せず、ゆる~くやったりもしています。

https://www.facebook.com/seihamaqq/

 

アドレナリンを使うタイミング

院内心停止でコールがありました。

すでに胸骨圧迫はされており、ルート確保はされています。

接触してパルスチェックを行ったところ、VFであることが判明しました。

看護師からは「アドレナリン準備できています!」と呼びかけがありました。

 

さて、アドレナリンを投与するタイミングはいつでしょうか?

 

 

正解は…

「2回目の除細動のあと」です。

 

 

 

 

VFやpulselessVTに対しては、なんとしても迅速な除細動が重要です。

 

アドレナリン投与を先行させると、生存率や良好な神経学的転帰が低下します。

 

それは、以下のような要因が原因だとされています。

・shockable rhythmではより心原性の原因が多い
 →アドレナリンにより心筋酸素需要増加、損傷につながる
・アドレナリンにより腎/肺/脳への血流量が減少する
・早期投与群でアドレナリンの累積投与量が増えた
 →累積投与量が多いほど転帰不良であることがわかっている
・心停止初期に行うべき他の介入の質を低下させた
BMJ . 2016 Apr 6;353:i1577.)

 

アドレナリンが用意されていても、誘惑に負けず除細動を2回!行うことが重要です。

 

でも、やっぱりそれは難しいみたいです。

いろいろな研究でガイドラインに沿わないアドレナリン投与がされていることが報告されています。

 

 

 

 

 

 

POCUS-CAC(point-of-care ultrasound-carotid artery compression)

パルスチェックのときに頸動脈を触知してROSCしているか否かを判断します。

 

でも、よくわからないことも多いのが事実。

そんなときには首に超音波を当ててみましょう!

 

指で触知するよりもパルスチェックにかかる時間が削減でき、

さらには胸骨圧迫中にROSCを予測することも可能だったりします。

 

 

 

 

実際には動画をみていただいた方がよくわかると思います。

Resuscitation . 2022 Oct;179:206-213.には動画へのリンクもあります)

 

 

 

 

パルスチェックのときに頸動静脈が見えるように超音波を当てます。

少し圧迫したときに、動脈がつぶれなかったり拍動が見えればROSCです。

 

 

 

 

胸骨圧迫中にもこの手技は行うことができます。

胸骨圧迫をしながら同様に頸動静脈が見えるように超音波を当て、

動脈がつぶれなければROSCを予測できます。

 

これを極めることができれば(有効性の検討はさらに必要ですが)、

胸骨圧迫をやめることなくROSC判定ができる時代が来るかもしれませんね!

 

 

 

 

パルスチェック前のひと手間:pre-charging

 

通常のVFへの対応を振り返りましょう。

➀胸骨圧迫中

②パルスチェックでVF判明

③胸骨圧迫再開とともに、除細動器を充電

④充電できたタイミングで周囲への安全を確認して除細動

 

よくよく見てみると、無駄行動が多い気がします。

 

そこで、胸骨圧迫の最中に充電ボタンを押してしまうこと=pre-chargingにより

無駄行動を最小限にできます。

 

つまり、

➀胸骨圧迫中に充電しておく

②VFならそのまま除細動、そうでなければ内部放電

③胸骨圧迫再開

 

 

 

 

pre-chargingをすることで除細動手技毎の胸骨圧迫中断時間を削減でき、

ROSC率も上昇したと報告があります。

※救急隊での報告

 

 

 

 

たったひと手間でこれだけの効果が望めるなら、ER診療にも外挿してやるっきゃない!

 

でも蘇生チームで確認をしておかないと、

変なタイミングで充電ボタンを押す変なヤツ認定されてしまうのでご用心。

 

 

 

 

なんか効くおくすりってないんすか?

アドレナリン以外に蘇生の際に効果的な薬剤はないんでしょうか?

 

むかしむかしは、蘇生中のABCとして、

A:アドレナリン

B:炭酸水素ナトリウム

C:カルシウム、コルチコステロイド

がルーチンで投与されるような時代があったそうです。

 

でも、今はあまり使われていませんよね?

それぞれの薬剤について、ROSC率や長期的予後の観点を検討した研究がありますので一部紹介しておきたいと思います。

 

 

 

OHCAへのカルシウム投与

アドレナリン投与に引き続いてカルシウム(Ca200mg, カルチコール25ml相当)を投与しても、あまり効果はなさそうです。

むしろ有害事象ばっかり目立つ結果になったのでルーチン投与は推奨されません。

 

以下の場合には検討されてもいいかもしれません。

・高カリウム血症

・低カルシウム血症

・カルシウム拮抗薬中毒

 

 

 

IHCAへのバソプレシン+ステロイド投与

 

 

IHCAに対してバソプレシン20U+メチルプレドニゾロン40mg(これもアドレナリン投与直後に引き続いて行う)を投与することで、ROSC率を増加させました。

 

UpToDate先生も、「IHCAに対するVP+mPSL投与は妥当」とおっしゃっています。

でも病棟呼ばれて行ってすぐにそんな薬剤が入手できることなんてないので、現実的にはあまりないかと思いますが、覚えておいても損はないかも⁉

 

 

 

OHCAへの炭酸水素ナトリウム投与

 

 

これもあんま効果ありませんでした。

 

三環系抗うつ薬中毒や高カリウム血症がなければ積極的に使うシーンはありません。

 

 

 

 

難治性VFへの奥の手:DSEDって知ってる?

DSEDは各施設で使えるようにしておいて損はないように思います!

double sequential external defibrillationの略です。

 

2台の除細動器を用意して、パットを合計4枚装着します。

そして、バシバシと1秒以内に連続して除細動器のボタンを押すだけです!

 

 

 

 

 

 

ただ貼り付けるだけでできるカンタンな対応ですが、

効果は目を見張るものがあります。

 

普通に2枚のパットを右前胸部と左側胸部貼った標準治療と比較して、

有意に生存退院率が増加しました。

 

DSED、、、すごいじゃん!

これも救急隊ベースの研究ではありますが、ER診療に外挿してもいいんじゃないかな~

 

難治性VF/pulseless VTには是非DSEDをやってみましょう。

 

実際のやり方はyoutubeにたくさん落ちてますのでご参照ください。

 

 

 

まとめ

・VF/pVTへのアドレナリン投与のタイミングは「2回の除細動のあと」

・パルスチェックに頸部エコーを使ってみよう!ROSCの予測もできるかも⁉

・パルスチェック前に除細動器の充電ボタンを押しておこう(pre-charging)

・IHCAにはVP20単位+mPSL40mg静注を組み合わせて投与してもいいかも

・OHCAへのカルシウムや炭酸水素ナトリウム投与は特殊な場合以外には不要

・難治性VF/pVTにはDSEDを試してみよう!