病歴/身体所見
・40歳女性
・経腟分娩の翌日から8日間にわたり周期的に出現する頭痛のためER受診
・頭痛は局在なし、突然発症ではなく髄膜刺激徴候なし、ibuprofenで改善していた
・発熱やそのほかの神経学的異常は訴えなし
・妊娠期間に特記すべき異常は指摘されておらず、子癇前症の合併もなかった
・分娩自体は問題なく進行し、硬膜外麻酔による鎮痛が行われていた
・自宅では母乳育児をしていた
・ER受診時点で症状は改善していた
・HR59bpm, BP107/74mmHg, RR18, SpO2 97%, 36.8℃
・身体所見は特記すべき異常を指摘できず、項部硬直なし
検査
・患者を子癇前症疑いとしてスクリーニングすることとした
・血液検査…低Na血症(Na 119mEq/L)
・頭部CTとCXRは異常なし
・低Na血症のため内科へ入院となった
診断
リンパ球性下垂体炎
・内分泌検査と頭部MRIにて診断確定された
◦内分泌検査…TSH/T3/T4正常、cortisol低値、低血清浸透圧、尿中Na<10
◦頭部MRI…トルコ鞍の腫脹とそれによる視交叉圧迫を認めた
・hydrocortisone 100mg1日2回投与がされた
・血清Na値は正常化し、4日後に退院となった
・prednisoneを継続投与された
(Ann Emerg Med. 2017 Jan;69(1):145-148.)
・リンパ球性下垂体炎(自己免疫性下垂体炎)は、下垂体に炎症が出るまれな病態
(Autoimmun Rev. Apr-May 2014;13(4-5):412-6.)
・推定有病率は100万人あたり5人程度だが、過小評価されている可能性はある
(Clin Endocrinol (Oxf). 2010 Jul;73(1):18-21./J Clin Endocrinol Metab. 2007 Jun;92(6):2038-40.)
・リンパ球性下垂体炎では主に下垂体前葉が影響を受け、特に妊娠後期~分娩後の女性に多く発症する(症例の半数以上)
(Autoimmun Rev. Apr-May 2014;13(4-5):412-6.)
・他の自己免疫性疾患と関連があり(25-50%)、特に橋本甲状腺炎が多い(7-8%)
(Autoimmun Rev. Apr-May 2014;13(4-5):412-6.)
・突然死の報告もあり
(Obstet Gynecol Surv. 1986 Oct;41(10):619-21.)
・視力変化を起こす下垂体腫瘍とは異なり、初発症状として頭痛を呈することが多い(>50%)
(Clin Endocrinol (Oxf). 2010 Jul;73(1):18-21.)
・炎症が周囲構造へ波及することがある
◦海綿静脈洞への炎症波及で頭痛や第3/4/6脳神経麻痺による複視
(Autoimmun Rev. Apr-May 2014;13(4-5):412-6.)
・最も初期に発症するホルモン異常はACTH欠乏症であり、病期の進行により糖質コルチコイド欠乏症による低Na血症などが出現する
・リンパ球性下垂体炎は、ホルモン補充により保存的に管理される
◦高用量corticosteroidが第一選択で、これにより75%の症例で下垂体径が縮小し、内分泌異常が改善する
⇒この反応があれば診断の補助となる
・難治性の場合には経蝶形骨洞手術が行われることもある
(Pituitary. 2017 Apr;20(2):241-250.)
・無治療で治癒が望めるのは3%ほどしかないので、早期診断と治療が重要になる
(J Obstet Gynaecol Res. 2016 Apr;42(4):467-70.)
・分娩後の頭痛の鑑別にリンパ球性下垂体炎をあげ、電解質スクリーニングはしておくとよい
・さらに、Sheehan症候群は低血圧や分娩後出血の病歴がある患者では考慮される
・分娩後に低Na血症を呈する疾患としてSheehan症候群が鑑別にあがる
◦Sheehan症候群であれば分娩時の大量出血や低血圧を伴う
(Indian J Endocrinol Metab. 2013 Nov;17(6):996-1004.)
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リンパ球性下垂体炎
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Sheehan症候群
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地理的
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先進国 | |
他の自己免疫性疾患の合併
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よくある
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あまりない
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分娩後出血
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なくてもよい
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よくある
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症状発現
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妊娠第3期~分娩後すぐ
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分娩後数か月~数年
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よくある症状
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頭痛
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乳汁分泌不全
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ホルモン:異常あり
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糖質コルチコイド 甲状腺 |
プロラクチン
ソマトスタチン
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ホルモン:異常なし
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ソマトスタチン
ゴナドトロピン
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ゴナドトロピン
糖質コルチコイド
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下垂体MRI
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下垂体腫瘍
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empty sella
(トルコ鞍空洞症候群)
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分娩後の頭痛でまれだけど考えておかないといけない疾患でした。
Sheehan症候群と鑑別を要しますが、上記のような特徴があります。
今回の症例報告では画像が載ってなかったので、他から転載しときます。
※以下、 (Endocrinol Metab Clin North Am. 2019 Sep;48(3):583-603.)より
リンパ球性下垂体炎。
27歳女性、妊娠5か月。眼窩後部痛で受診。
T1Wにて三角形で対称的な下垂体腫瘤を認め、注入後の造影効果あり、視交叉を圧迫している。
※A/C:T1W, B/D:造影T1W
リンパ球性下垂体炎。