りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例48:左下腹部に腫瘤と同部の疼痛がある82歳男性(Ann Emerg Med. 2016 Oct;68(4):e75-6.)

病歴/身体所見

・82歳男性
・失神のためERへ救急搬入された
・特に既往はなかった
大酒家でheavy smokerであった
全身倦怠感、めまい、下痢、左下腹部に腫瘍および疼痛があると話す
 ◦左下腹部の腫瘍はいつからあったかわからないという

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検査

・血液検査:鉄欠乏性貧血、CRP上昇
・CT:左下腹部に9cm*7cmの膿瘍を認め、腹壁と胃大弯に瘻孔を形成していた

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巨大な膿瘍(*)が腹壁(白矢印)や胃大弯(白矢頭)まで広がっている

 

 

診断

大腸癌の腹壁/胃への穿破、膿瘍形成

大腸内視鏡にて左側結腸腫瘍を認め、生検で中分化腺癌の診断となった
・遠隔転移は認めなかった
・結腸亜全摘、胃切除術、左側肝切除術、左側横隔膜切除術を受けた
・手術自体は成功したが、術後6日で突然死亡した
・剖検でも死因は明らかにすることができなかった
 
 
・大腸がんは世界で女性では2番目/男性では3番目に多い悪性腫瘍
 
・大腸癌の最大2%で前腹壁病変を発症し、膿瘍形成に至ることがある
 ◦特に高齢者に多く、化膿性分泌物や発熱/体重減少などがみられる
(Surgery. 1950 Oct;28(4):662-71./Am J Surg. 1976 Mar;131(3):270-4.)
 
・CTによって診断が疑われ、手術所見や生検により確定診断される
 
 
たまにコレ、ER受診します。
大体、高齢独居男性で土曜日の受診が多いように思います(私見)。
遠方に住む家族に、動けなくなっているところを発見されて救急搬入…というのをこれまで何度も経験しています。いつも平日の方が体制いいのになぁ~なんて考えてしまいます。
 
 

まとめ

・大腸癌は腹壁へ穿破し、膿瘍形成することがある

・腹壁の化膿性病変を見たら、腹腔内病変との関連を疑うこと