りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例28:"穢れた"腕に水酸化ナトリウムをかけた38歳女性(Emerg Med J. 2020 Jun;37(6):331-344.)

今日は4択問題です。

 

症例が示す診断はどれでしょうか?

A)パーソナリティー障害(borderline type)
D)作為症(Factitious disorders)
 
 
 

症例

・38歳女性
・疼痛に苦しんでいる様子があり、警察に連れてこられた
 ◦過去8カ月間でERに39回連れてこられており、ICUへの入室を要するようなoverdoseの既往がある
腕と体幹に著明な汚染があり、これが周囲の人や動物に広がり殺してしまうのではないかと恐れている
・死にたくはないが、汚染が広がることにより周囲の人や動物を殺してしまうのであれば、自分が死んだ方が良いのではないかとも感じている
・彼女はこの汚染を中和するために水酸化ナトリウムをかけていた
 

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答え

C)強迫性障害による自傷性化学熱傷

 
・これまでの受診の際に精神的な治療を行わずにいたところ、除染強迫は石鹸から漂白剤、ついには腐食性物質へとエスカレートしてしまい、永続的な障害を引き起こしてしまった
・診察と高用量のsertraline+aripiprazoleによる治療が行われ、強迫的な除染はしないようになった
・その後、1年間ERを受診することはなかった
 
 

Learning point

 

自傷行為をした場合には、適切な技術を持った精神科医による評価を必ず受けなくてはならない
 
強迫性障害…危険や個人的な責任についての強い恐怖心と、危険やストレスを予防する目的とした強迫観念が特徴
 
強迫性障害により生命を脅かしうるまたは四肢が壊死するような損傷の原因になることがある
 
・ERを頻繁に受診する患者では、適切な評価を受けそれが彼らのニーズに合えば、治療可能であることがしばしばある
 
強迫性障害は、行動療法や薬物治療により治療可能な病態である
 
・重度の強迫観念のことを「声」と誤認してしまうことがあるが、強迫的な除染は統合失調症の特徴ではない
 
パーソナリティー障害や作為症の診断は、専門科によってなされるべきであり、ERでの評価単独では適切ではない
 ◦今回の症例では意図的な偽装はなかった
 
 

まとめ

強迫性障害により生命を脅かしうるまたは四肢が壊死するような損傷の原因になることがある

強迫性障害は行動療法や薬物療法により治療可能な病態である

自傷行為をした患者は、必ず精神科につないで診察をしてもらうこと