病歴/身体所見
・63歳女性
・PAD、高血圧、脂質異常症の既往あり
・20 pack-yearの喫煙歴あり
・重度のむかつき/嘔気/嘔吐のため、午前3時から眠れないとしてER受診
・BP102/61mmHg, HR70bpm, SpO2 94%
・1カ月前にドブタミン投与下で心エコーを受けたが「特筆すべき所見」はなかった
検査
・(初回)心電図が実施された
・I誘導のQRS波形は陰性部分が大きく、T波の陰転化も認める
・I誘導とaVR誘導でQRS波形が逆転している
・前胸部誘導にhyperacute T波とST上昇を認める
・(患者から右胸心であることを聞き出すことができたこともあり)四肢誘導を反転させ、右胸部誘導に付け替えて心電図を再検
・I誘導とaVR誘導の波形が適切になっている
・I誘導の陰性成分の多さも解消されている
・レントゲンでは右胸心が指摘された
診断
右胸心に生じたSTEMI
・内臓逆位を考慮して心電図のリードを反転させたところ、急性前壁梗塞が疑われる所見が認められた
・緊急心カテが実施され、LAD近位部100%閉塞/OM1に90%狭窄/RCAの慢性完全閉塞を認めた
・LADとOM1にDESが留置された
・右胸心では、誘導の付け間違えと鑑別を要することがある
◦付け間違えがなければ、レントゲンで右胸心/内臓逆位を特定すること
→右胸心であることがわかれば、リードを反転してつけ直すこと
・右胸心は12000人に1人/内臓逆位症は10000人に1人の割合で存在
◦右胸心単独が冠動脈疾患の危険因子になるかは明確ではない
‣右胸心患者でのSTEMIの報告はほとんどない
(J Cardiol Cases. 2017 Oct 12;17(2):48-51./J La State Med Soc. Mar-Apr 2015;167(2):102-4.)
・以下の所見があれば右胸心を疑うこと
◦I誘導に巨大な陰性T波を伴うQRS陰転化
◦I/aVL誘導での陰性P波
◦aVRにおけるQRS陽転化
◦右軸偏位
※上記があって右胸心でなければリードの付け間違えであることが圧倒的に多い
(ASEAN Heart J. 2016 Dec 6;24:10./Europace. 2007 Nov;9(11):1081-90.)
患者に言われなければスルーしてしまうかも。
右胸心の人のSTEMIをもう1症例みておきます。
(J Cardiol Cases. 2017 Oct 12;17(2):48-51.)
V1誘導のみにST上昇を認める
・普段見るI誘導とaVR誘導の形が逆転しているような
・I/aVL誘導で陰性P波
誘導を反転させて付け直すと…I/aVL/V1-6でのST上昇が明らかになった
まとめ
・右胸心がわかっている患者では、心電図のリードを反転してつけること
・以下の所見があれば右胸心を疑うこと
◦I誘導に巨大な陰性T波を伴うQRS陰転化
◦I/aVL誘導での陰性P波
◦aVRにおけるQRS陽転化
◦右軸偏位
・右胸心自体が心筋梗塞のリスク因子になっているかは明確ではない