りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例14:無痛性視力低下を来した88歳男性(Ann Emerg Med. 2017 Jul;70(1):e3-e4.)

病歴/身体所見

・88歳男性
右目の無痛性視力喪失を自覚して受診
黄斑変性症の既往あり
・中心性暗点を認めたが、そのほかの症状はなし
視力は光覚弁まで低下
・眼底検査や神経学的診察では異常を認めなかった
 

検査

・ベッドサイドで眼球超音波が実施された

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左)左目…正常所見。★:前房 短矢印:水晶体 長矢印:黄斑 *:視神経
右)右目。赤矢印:黄斑部分に低エコー域が混在した隆起を認める
 
 
 
 

診断

黄斑下血腫

 

眼科に紹介され、硝子体内aflibercept(血管内皮増殖因子阻害剤)注射が実施された
 
 
 
黄斑下出血加齢黄斑変性症の患者に発症する無痛性視力消失の原因の1つ
 
・通常は眼底試験で診断される
 
・超音波では、黄斑部に内部に薄い低エコー域が集合する隆起を認める
 ◦新生血管からの出血が原因
 ◦感度と特異度は報告されていない
 ◦鑑別診断として網膜腫瘍が含まれる
(Surv Ophthalmol. Jan-Feb 2016;61(1):18-32./Radiographics. Sep-Oct 2012;32(5):E175-200./Ann Emerg Med. 2016 May;67(5):620-4.)
 
・早期診断と眼科的治療により視力喪失を改善させられる可能性がある
 ◦また、反対側の眼球の血管新生病変を特定できる可能性がある
(Surv Ophthalmol. Jan-Feb 2016;61(1):18-32.)
 
 
 
無痛性単眼視力喪失と言えば、
①網膜中心/分枝動脈閉塞症
②網膜中心静脈閉塞症
があまりに有名です。
 
リスク因子がある患者さんの無痛性単眼視力喪失では上記をまずは疑います。
眼球エコーをあてて網膜剥離などの除外を行いつつ早期に治療に移らなくてはいけません。
 
そして、加齢黄斑変性症が基礎疾患にある場合には黄斑下血腫も鑑別なんですね。
 
 

まとめ

・単眼性無痛性視力喪失の原因として網膜中心/分枝動脈閉塞症や網膜中心静脈閉塞症がある

加齢黄斑変性症が基礎にある患者の無痛性視力喪失では黄斑下血腫を疑う

・早期診断/早期治療により患側の視力喪失を防ぐことができ、かつ、健側の血管新生病変を特定し早期介入できることにもつながる