肺の超音波検査について、とても読みやすく概要が捉えやすいreviewがありました!
まずは論文を基に説明するので、肺エコーをマスターしましょう!
豊富な画像と動画があります!
そして、ついでにBLUE protocolを紹介するので、
呼吸困難への対応も完璧にしてしまいましょう!
Hendin A, Koenig S, Millington SJ. Better With Ultrasound: Thoracic Ultrasound.
Chest. 2020 Nov;158(5):2082-2089. doi: 10.1016/j.chest.2020.04.052.
PMID: 32422131
肺超音波検査の特徴と利点
・救急/集中治療分野における肺超音波検査の使用はここ数年で増えてきている
◦ベッドサイドで迅速に実施可能
◦胸部単純レントゲンや身体所見に比較して、呼吸不全の診断への正確性が高い
◦そして、意外と簡単
・成人/小児において、肺超音波検査は診断に有効な手段となっている
◦肺炎診断…聴診や単純レントゲンに比較して高い感度と特異度が報告されている
‣感度90-97%/特異度94-99%
◦肺炎診断…CTと比較して同等の診断精度
‣感度94%/特異度99%
◦
肺水腫/気胸に関しても、レントゲンと比較して感度/特異度ともに優れている
◦胸水…肺超音波では最低5-20mlあれば診断可能だが、レントゲンでは150mほど必要
◦呼吸や循環動態のモニタリングとしても使用可能
※最後にBLUE protocolを紹介します!
・胸膜(lung slidingなど)を観察し、A line/B lineを評価、PLAPS pointでconsolidationや胸水を探せ
必要なテクニックとその概要
・肺超音波検査には複数のプローベを要する
◦高周波プローブ(8-12MHz:リニア linear)
‣前胸膜の詳細を観察するのに向いているが、深い場所の観察には向かない
‣特に体格が良い人の、深部の観察に向いている
◦中間周波 (2.5-5 MHz:セクタ phased array probe)
‣上記プローベの中間であり、肺超音波検査の大部分で使用可能ではある
‣胸膜ラインを詳細に評価することには向かない
・どのプローベが最適なのかについては議論がある分野
◦phased array probeを使用する場合には心臓用にデフォルト設定されているため、胸部の検索には最適ではない
→lung presetかabdominal presetに変更して使用すること
・重症患者は仰臥位での検査になるが、可能であれば30-45度ほど挙上させる
・さまざまな手法があるが、BLUE protocolで紹介されている6カ所での検索を紹介
・検索すべき場所は片側胸部につき3カ所であり、それぞれupper/lower BLUE point, PLAPS pointと呼ばれる
◦
upper BLUE pointは
第2肋間前胸部/
lower BLUE pointは
第6肋間前腋窩線付近に相当
◦
PLAPS point…lower BLUE pointから
後腋窩線へプローブをずらした場所
A:肺超音波検査でプローベを当てる場所
B:upper BLUE point
C:lower BLUE point
D:PLAPS point
lung slidingをはじめとした胸膜の評価
・linear or phased array transducerが使用可能
◦可能であればlinearの方が胸膜の観察に向いているため推奨
・まずupper BLUE pointにプローブを当てる
◦プローブのオリエンテーションマーカーが頭側を向くようにする
◦出したい画像は、肋骨による低エコー(bat sign)に囲まれた胸膜(高エコー)
・upper BLUE pointでの検索が終われば、lower BLUE lineの検索に移り、同様の所見をとっていく
A:upper BLUE pointの場所
B:phased array transducerによる胸膜の描出…両側を低エコーな肋骨(bat
sign)に囲まれた胸膜
C:Mモードでのseashore
sign(正常の所見)
D:Mモードでのstratosphere
sign(異常所見)
E:linear transducerによる胸膜の描出
F:不均一な胸膜(胸膜の炎症を示す)
lung sliding
・Bモードでは、患者の呼吸に合わせて臓側/壁側胸膜が互いにスライドして動き、lung slidingと呼ばれる
・胸膜疾患のない患者では臓側胸膜と壁側胸膜の区別はできない
・気胸により空気がこれらの2つの膜を分離させるとlung slidingが観察できなくなる
◦lung slidingがあれば気胸は除外可能!
◦lung slidingがないからといって気胸を除外することはできない
‣感度は高いが非特異的な所見
・それ以外でlung slidingがなくなる病態は無気肺/重度consolidation/低換気/胸膜癒着など
seashore signとstratosphere(barcode) sign
・Mモードにすることで、さらに胸膜の動きを補助的に捉えることが可能
◦気胸がない正常の肺では、seashore signを呈する
◦気胸があれば、barcode/stratosphere signを呈する
lung pulse/ B line/ lung point
・気胸を除外できるsignとして、lung pulseとB lineがある
・lung pulse…心臓の拍動が胸膜に伝わり振動しているようにみえ、それが心臓と同期した周期で認める
‣胸膜間に空気がある(=気胸)とこの所見が見られなくなる
・B lineがある場合には気胸を除外可能
・lung pointは気胸をrule inできるほどの特異度を持ち、非常に有用性が高い
◦壁側胸膜と臓側胸膜が接している部分と離れている部分との境界で、呼吸性にlung pointが移動するのがわかる
胸膜の不均一性や肥厚
・胸膜検査の主な目的は気胸を除外することだが、胸膜の不均一性や肥厚なども重要な情報となる
◦これはlinear transducerにより行われる
◦完全に滑らかな胸膜が見える(smooth pleural line)…胸膜に炎症がない
◦不規則で肥厚した胸膜(ragged and thickened pleural line)…胸膜に炎症あり
・これらにより心原性/非心原性肺水腫を区別することが可能
◦心原性…smooth pleural line
◦非心原性…ragged pleural line(特に肺炎とか)
A lineとB line
A:A line(phased array transducerを使用)
B:B line(phased array transducerを使用)
C:多発したB line
D:A lineとB lineとの混在
※ここから先の検査はphased array transducerを使用する
・lung slidingを検索したあとは、胸膜より深部の構造について注意深くみていく
・A line…水平方向に繰り返し出現する高エコーなline
◦呼吸とともに動くことはなく、胸膜とプローベの距離と同じ間隔で並ぶ
・A lineの存在は、プローブの接地面より下に正常な肺胞構造があることを示す
・A lineとともにB lineを検索すべし
・B line…胸膜から画面いっぱいに(画面の下まで!)垂直方向に延びる高エコーなline
◦隣接した空気と液体が満たされた組織によりB lineが形成される
◦B lineはlung slidingとともに動き、A lineを覆い隠す
・B lineとZ lineを混同しないよう注意
◦Z line…健康成人に見られる所見で、胸膜から発生するが画面の遠位までは届かないような垂直のline
・2つの肋骨に囲まれた領域にある胸膜から引くB lineが2本以上になるとlung rocketsと呼ばれ、interstitial syndromeを定義する所見
◦B lineの密度が高くなるにつれて重度のinterstitial syndromeがあることを示唆する
・
interstitial syndromeの原因は
心原性/非心原性肺水腫、肺線維症、間質性肺炎など
◦多数のB lineがある場合には、PLAPS pointでの検索と併せて考えるとよい
PLAPS pointでの評価(consolidationと胸水)
・PLAPS pointはconslidationや胸水を同定するのに最適な部位
◦PLAPS pointはlower BLUE pointから後
腋窩線へ水平にスライドした場所
A:正常所見(phased array transducer使用)。横隔膜と肝臓が見える
B:胸水
C:consolidation(*)+胸水(#)
D:consolidation(*)、ときにhepatizationと称される。矢印は横隔膜
・phased array transducerを使用する
・
横隔膜、脾臓(左側)/肝臓(右側)、肺組織(横隔膜の頭側)を同定する
◦ここで
curtain signが見える…横隔膜の吸気運動と同調して肺によるブラインド画像がカ―テンのように動く
・PLAPS pointで胸水の有無を確認する
◦横隔膜上にある低エコー域
◦胸水内をピロピロと動く肺組織などが見えると胸水の可能性がより高くなる
◦横隔膜より頭側で椎骨が可視化される場合も診断に有用(
spine sign)
‣肝臓と同じ高さでは正常でも見えるためこれと混同しないよう注意
・PLAPS pointではconsolidationの可視化も可能
◦肺組織の密度が高くなり、含気が少なくなると出現する、高エコーかつ不均一な陰影
◦さらに高密度になると肺組織が肝臓のようにみえることがありhepatizationと呼ばれる
・consolidationが見えたら…鑑別は肺炎だけではない
◦無気肺、腫瘍、肺胞出血でも同様のパターンを示しうる
・呼吸に合わせて高エコーの物質がconsolidationの内部でうごく様子が観察できることがある(
dynamic air bronchogram)
◦これがあれば肺炎として診断可能
上記を説明した動画も掲載されていました!
これについては以下のサイトで直接ご覧ください。
呼吸困難への実践的な対応法(BLUE protocolをもとに)
個人的には呼吸困難の患者が来ると、以下のように対応しています。
おおむねBLUE protocolというものに沿った対応です。
これで危険な疾患はすぐに診断可能です(早いときには30秒以内!)
是非マスターすることをお勧めします!
慣れると簡単にできますので、当院の研修医にも紹介しています。
まとめ
・肺超音波検査は肺炎/肺水腫/胸水/気胸などの診断に有用である
・胸膜の観察はリニア型プローベが推奨、なければセクタ型でも可
・呼吸困難の患者ではBLUE protocolに従って、胸壁の6カ所を検索する
・lung slidingがあれば気胸は除外可能、ない場合には無気肺/重度consolidation/低換気/胸膜癒着後などとの鑑別を要する
・Mモードで観察すると、気胸の場合にはbarcode signを呈する
・lung sliding/lung pulse/B lineの存在は気胸を除外するのに有用であり、upper BLUE pointでこれらがないことは、ショックの際に緊張性気胸がないことを示唆する強力なツールである
・呼吸困難の患者でlung slidingがありA lineがある場合には、肺塞栓や気管支攣縮の可能性が高くなる
・胸膜の性状により心原性/非心原性肺水腫の鑑別ができる
◦心原性…完全に滑らかな胸膜
◦非心原性… 不規則で肥厚した胸膜
・A lineは正常な肺胞構造があることを示す
・B lineは胸膜から垂直方向へ画面いっぱいに引く高エコーなlineで、正常なZ lineとの鑑別を要する
・B lineの増加はinterstitial syndromeがあることを示し、これは心原性/非心原性肺水腫、肺線維症、間質性肺炎などが当てはまる
・PLAPS pointでconsolidationや胸水を探せ
・consolidationは無気肺や腫瘍、肺胞出血などでも認めるが、内部にdynamic airbronchogramを認めれば肺炎に特異的な所見である