りんごの街の救急医

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症例12:右頸部に徐々に増大する腫瘤と嚥下障害を認めた11か月男児(Ann Emerg Med. 2020 Nov;76(5):e117-e118.)

病歴/身体所見

 
・11か月男児
・特に基礎疾患は指摘されていない
・3週間前から右頸部腫脹が出現し、増悪傾向となっている
 ◦これに対して多数の抗菌薬が処方されていたが効果は出ていなかった
 ◦軽度発赤があるが、熱感/圧痛はなく、石のような硬さはなかった

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・1週間前から嚥下障害が出現した
 
 

検査

 
・胸部CTと頸部MRIが実施された
 

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  縦隔/肺門部リンパ節腫脹があり、一部に石灰化を伴う

 

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前縦隔に腫瘤を認め、この内部にも一部石灰化を伴っている

 

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厚く造影効果のある壁に囲まれた液体貯留あり
 
 

診断

肺病変を伴う結核性頸部縦隔リンパ節炎

 

穿刺による生検の結果、壊死性肉芽腫性リンパ節炎の診断となり、抗酸菌検出→PCR検査にて結核菌であることが判明した

髄液検査は陰性であった

rifampin, isoniazid, pyrazinamide, ethambutolによる4剤併用療法が実施されて退院となった

 
 
・2017年の米国では、乳児で53例の結核性リンパ節炎が報告された
 ◦そのうちの半数で基礎疾患の存在が報告
 ◦24%で肺外病変を認め、髄膜炎についてリンパ節炎が多かった
 
結核性リンパ節炎の特徴は以下
 ◦頸部に最も発症しやすい
 ◦非硬性で緩徐進行する片側性腫脹
 ◦古典的には"scrofula"と言われた
 ◦小児の気管軟骨は軟らかいため、縦隔リンパ節が原因で気道狭窄など起こしうる
 →早期診断/早期治療を要する
Clin Infect Dis. 2011 Sep;53(6):555-62./Eur J Cardiothorac Surg. 2005 Mar;27(3):401-4.
 
 
リンパ節炎で気管偏位まで起きてしまうのは非常に怖いですね。
 

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Eur J Cardiothorac Surg. 2005 Mar;27(3):401-4.より
 
この合併症は必ず頭に入れておかなければなりません。
 
 
また、paradoxical upgrading reactionにより、治療していても症状が増悪する可能性があるため、治療失敗や薬剤耐性と勘違いしないことも重要でしょうか。
 
↓ 成人例ですが症例報告がありました。
 
結核性抗酸菌(Mycobacterium avium complex, Mycobacterium bovis)やBCG接種でもリンパ節炎を起こすことがあるみたいです。
(J Emerg Med. 2018 Jun;54(6):e141-e142.)
 

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確かに片側性にぼこっと腫瘤が見えます。

(J Emerg Med. 2018 Jun;54(6):e141-e142.)

 

まとめ

結核性リンパ節炎の半数では基礎疾患あり、半数は基礎疾患なくとも発症しうる

結核性リンパ節炎は頸部に最も多く発症し、非硬性で緩徐進行する片側性腫瘤が特徴

結核性リンパ節炎により(特に小児では)気道閉塞の原因となりうる

・予後は良好であるが、paradoxical upgrading reactionにより治療していても臨床的に悪化する可能性がある

・非結核性抗酸菌やBCG接種でもリンパ節炎を起こすことがある