りんごの街の救急医

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症例7:顔面と四肢の麻痺および筋攣縮を訴える33歳男性(Ann Emerg Med. 2016 Oct;68(4):e71-2.)

 

病歴/身体所見

 
・33歳男性
12時間で進行する顔面と四肢の麻痺、3時間持続する筋痙攣のため受診
・意識は清明、四肢は自力で動かせるが上肢に筋痙攣が出現する
 
頸部には新しい手術痕を認める
血圧が測定されたが、その際に上肢の筋痙攣は増悪した

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顔面(右外耳道前部)をタップしたところ、顔面筋が収縮した
 
 
 

診断

甲状腺切除後の低カルシウム血症

 

血液検査ではCa 5.9mg/dL(8.9-10.2), イオン化Ca3.1mg/dL(4.8-5.7)と著明な低下
受診の3日前に難治性Graves病のため甲状腺摘出術を受けていたが、術後標本には副甲状腺組織は認めなかったことから、副甲状腺への血流が術後に低下したことが原因と考えられた。
calcium gluconate投与を受けて症状は改善した。
 
 
低Ca血症甲状腺術後の合併症として最も一般的
 ◦血清Caが術後最低値に達するのは48-72時間後
(Am J Surg. 2015 Dec;210(6):1162-8; discussion 1168-9.)
 
・症候性低Ca血症は、Ca<8mg/dLとならないと出現することは少ない
(Oncologist. 2013;18(5):533-42.)
 
・低Ca血症の症状は軽度の麻痺~重度の筋攣縮までさまざま
(Oncologist. 2013;18(5):533-42./Surgery. 2015 Dec;158(6):1492-9. )
 
・典型的な所見としてChvostek's signTrousseau's signがある
 ◦Chvostek's sign…外耳孔前部(顔面神経)をタップすることで顔面筋が収縮する
 ◦Trousseau's sign…血圧測定用のマンシェットで圧をかけると肢位が助産師位になる
 
youtubeのわかりやすい動画があったので貼っておきます。
 
治療はCa投与ですが、Mgも同時に検査/治療が必要になることがあります。
 
甲状腺術後の合併症として低Ca血症はcommonです。
術後だいぶ時間が経過した段階でCa製剤やVit.D製剤を怠薬した患者に発症するイメージでしたが、こんな早くに発症するんですね。しかも、副甲状腺は切除されたわけではないと…。へぇ~。
 
 

まとめ

 ・甲状腺手術歴がある患者に発症した脱力や筋攣縮では、低Ca血症を想起すること

・低Ca血症に特徴的な所見はChvostek's signとTrousseau's sign

・治療はCa補充だが、Mgも同時に検索/補充を考慮すること