りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

症例7:顔面と四肢の麻痺および筋攣縮を訴える33歳男性(Ann Emerg Med. 2016 Oct;68(4):e71-2.)

 

病歴/身体所見

 
・33歳男性
12時間で進行する顔面と四肢の麻痺、3時間持続する筋痙攣のため受診
・意識は清明、四肢は自力で動かせるが上肢に筋痙攣が出現する
 
頸部には新しい手術痕を認める
血圧が測定されたが、その際に上肢の筋痙攣は増悪した

f:id:AppleQQ:20201116084410p:plain

顔面(右外耳道前部)をタップしたところ、顔面筋が収縮した
 
 
 

診断

甲状腺切除後の低カルシウム血症

 

血液検査ではCa 5.9mg/dL(8.9-10.2), イオン化Ca3.1mg/dL(4.8-5.7)と著明な低下
受診の3日前に難治性Graves病のため甲状腺摘出術を受けていたが、術後標本には副甲状腺組織は認めなかったことから、副甲状腺への血流が術後に低下したことが原因と考えられた。
calcium gluconate投与を受けて症状は改善した。
 
 
低Ca血症甲状腺術後の合併症として最も一般的
 ◦血清Caが術後最低値に達するのは48-72時間後
(Am J Surg. 2015 Dec;210(6):1162-8; discussion 1168-9.)
 
・症候性低Ca血症は、Ca<8mg/dLとならないと出現することは少ない
(Oncologist. 2013;18(5):533-42.)
 
・低Ca血症の症状は軽度の麻痺~重度の筋攣縮までさまざま
(Oncologist. 2013;18(5):533-42./Surgery. 2015 Dec;158(6):1492-9. )
 
・典型的な所見としてChvostek's signTrousseau's signがある
 ◦Chvostek's sign…外耳孔前部(顔面神経)をタップすることで顔面筋が収縮する
 ◦Trousseau's sign…血圧測定用のマンシェットで圧をかけると肢位が助産師位になる
 
youtubeのわかりやすい動画があったので貼っておきます。
 
治療はCa投与ですが、Mgも同時に検査/治療が必要になることがあります。
 
甲状腺術後の合併症として低Ca血症はcommonです。
術後だいぶ時間が経過した段階でCa製剤やVit.D製剤を怠薬した患者に発症するイメージでしたが、こんな早くに発症するんですね。しかも、副甲状腺は切除されたわけではないと…。へぇ~。
 
 

まとめ

 ・甲状腺手術歴がある患者に発症した脱力や筋攣縮では、低Ca血症を想起すること

・低Ca血症に特徴的な所見はChvostek's signとTrousseau's sign

・治療はCa補充だが、Mgも同時に検索/補充を考慮すること