りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

case 150:低酸素血症、低血圧を呈する80歳男性(J Emerg Med. 2017 May;52(5):741-743.)

病歴/身体所見

80歳男性
慢性腎臓病/COPD/慢性骨髄性白血病の既往あり
息切れ/脱力/呼吸困難を訴えて前医受診
 →肺塞栓症の初期診断のためERへ紹介受診
・ここ数日で便秘が強くなり、近医からマグネシウム含有の緩下剤を処方されていた
BP89/52mmHg, HR50bpm, RR12, SpO2 96%(FiO2 100%:人工呼吸器装着)
 

検査

・血液検査
 ◦Cre 2.77mg/dL
 ◦BUN 85mg/dL
 ◦Na 136mEq/L, K 5.5mEq/L, Ca 8.3mg/dL
・血液ガス PaCO2 67mmHg, PaO2 75mmHg(FiO2 100%)
・ECGは以下のように徐脈と新規に発症した脚ブロックを呈していた

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診断

 
・追加の血液検査でMg 13.8mg/dL(基準値1.8-2.4mg/dL)が判明
・急性腎不全と高マグネシウム血症として腎臓内科コンサルト
血液透析を開始、4時間でMg 4.8mg/dLまで低下
・集中治療を行ったが心肺停止状態に陥った
 
 
 
・高マグネシウム血症は、マグネシウムを含む整腸剤や下剤を過剰摂取した結果としてしばしば発症する
 
・特に腎機能障害がある場合にはその影響が強くなる
 
・慢性便秘では、マグネシウムを多量に含有する腸溶製剤が継続的に吸収され、"rebound hypermagnesemia"のリスクが高まる
 

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(J Emerg Med . 2013 Jan;44(1):e57-60.)

慢性便秘のため、マグネシウムを含有した薬剤が腸内に残存することで持続的に吸収されてしまうことがあるよう。

本症例も血液透析血中濃度が低下したにもかかわらず救命できなかったのは、もしかしたらこれが原因だったのかもしれません。

 
・高マグネシウム血症の臨床症状は血中濃度に依存する
 

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(Clin Exp Gastroenterol . 2015 Jul 28;8:215-24.)
 
・軽度の嘔気/嘔吐や腱反射の消失から随意筋の麻痺までさまざまな症状を呈しうる
 
横隔膜の筋肉に影響を与え、呼吸器系の障害を引き起こす可能性がある
 
・さらに高濃度になると心筋伝導障害や低血圧が出現する
 
 
 
ERでは軽視されがちなマグネシウム
ルーチンで測る項目になっていない医療機関もあるかもしれません。
 
高齢者、慢性便秘、下剤などのキーワードが揃えば、
患者の症状徴候は高マグネシウム血症によるものかもしれません。
 
 

まとめ

・慢性便秘の高齢者では、低酸素血症の鑑別診断に高マグネシウム血症を含めること
・脱力感や低酸素血症を呈する患者の初期評価において、すべての電解質異常を検索することが賢明
・高マグネシウム血症の患者を早期に発見し、カルシウム投与や血液透析を適切に始めることで転帰を改善させられる可能性がある