目まぐるしく変わる脳梗塞治療ですが、NEJMにreviewがありました!
非専門医にとって、治療法をまとめてくれるのはとてもありがたいです。
特に、Figure 2はエッセンスが凝縮されているため必見です!
Powers WJ. Acute Ischemic Stroke.
N Engl J Med. 2020;383(3):252-260.
症例
さて、以下の患者をどうしましょうか?
・右利きでADL自立の62歳男性
・1時間前に突然発症した発話困難と右上下肢脱力/感覚鈍麻のため受診
・中等度の失語症、右側顔面脱力/右上下肢の脱力および感覚鈍麻を呈している
・血圧160/95mmHg、血糖値79mg/dL、体温37.2°C
・特記すべき既往歴なく、内服はしていない
・頭部単純CTで左島皮質にわずかなLDAあり
初期評価
・初期治療方針は発症からの時間、重症度、画像所見(頭部CT)から導き出される
◦発症時刻…患者が最後に正常であった(well)時刻
‣起床時に脳梗塞を発症していた場合には眠りにつく前の時刻となる
◦重症度…NIHSSで判定(0-42)
‣特に、「6」が治療方針決定の大きな分岐点となる
◦低血糖は必ず除外しておくこと!
・画像検査については、MRIも使用可能ではある
◦典型的な臨床所見の場合には、初期評価としては単純CTでよい
・DWI MRIやperfusion CTは、虚血部位(core)の特定に有用
・perfusion CT/MRIは救済可能領域(penumbra)の特定に有用
・CTA/MRAは動脈閉塞部位特定に有用
◦腎不全患者ではtime-of-flight MRAで代用できる
まとめ
・脳梗塞を疑った場合には、発症からの時間/重症度/頭部CTを迅速にチェック
・alpteplase投与の意思決定には頭部単純CT以外は不要
治療効果判定の指標
これからいろいろな研究が紹介されていきますが、ほぼすべての研究でそのprimary outcomeは、modified Rankin scale(mRS)です。
まずはこれを理解しましょう。
・臨床的な予後評価にmodified Rankin scale(mRS)が使用される
・脳梗塞の研究では、おおよそ0-2が良好、4-6は不良な予後とされている。
score
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詳細
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0
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全く症状なし
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1
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症状はあっても明らかな障害なし:日常生活には支障がない
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2
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軽度の障害:発症以前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える
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3
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中等度の障害:何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える
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4
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中等度~重度の障害:歩行や身体的要求には介助が必要
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5
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重度の障害:寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを要する
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6
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死亡
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治療選択肢
この表が全てです(Figure 2)。
これを見て理解可能であればすでに十分知識がアップデートされていると思いますし、あまり根拠がわからなければ以下を読んでもらうと概ね理解できると思います。
発症から4.5時間以内のalteplase投与
・発症から4.5時間以内のalteplase投与が予後改善することがRCTで示されている
◦NIHSSに関わらず神経学的予後改善効果あり
◦大きな障害を残さない程度の軽症脳梗塞(NIHSS0-5)/出血リスクが高い/広範囲の不可逆的な梗塞症例では適応がない
・投与の意思決定に頭部単純CT以外の画像検査は要さない
・既知の凝固障害がない場合にはその有病率は低いため、特別異常を疑う場合以外には血液検査の結果を待たずにalteplase投与を開始してしまうべし
・血圧管理…投与前:185/110mmHg、投与後24時間:185/105mmHg以下にコントロール(NINDS trial protocol)
・alteplase投与はtime-dependent
◦発症3時間以内のalteplase投与により3か月後の神経学的予後(mRS 0-1)が改善
‣9つのRCTを含むmeta-analysis…alteplase群:32.9%、control群:23.1%(adjusted odds ratio, 1.75; 95% CI, 1.35-2.27)
◦発症3-4.5時間でのalteplase投与ではalteplase群:35.3%、control群:30.1%(adjusted odds ratio, 1.26; 95% CI, 1.05-1.51)
◦頭蓋内出血発症率はalteplase群:6.8%、control群:1.3%
まとめ
・発症から4.5時間以内のalteplase投与は有効、投与は早ければ早いほど良い
・投与の意思決定に頭部単純CT以外の画像検査は要さない
・凝固検査を待たずにalteplase投与は始めてよい
・血圧は180/110mmHg以下に降圧しておく
発症から4.5時間以上経過した場合のalteplase投与
・WAKE-UP trialの登場によりこの領域の対応に変化が出た
◦発症時刻不明瞭だが4.5時間以上経過している503人の脳梗塞患者
‣94%は起床時脳梗塞に気づいた症例
◦ランダムにalteplase群とcontrol群に割り付け
◦primary outcome…53% vs. 42%; adjusted odds ratio, 1.61; 95% CI, 1.09 to 2.36
◦画像により適応基準を決めることにより、発症4.5-9.0時間経過しているような症例に対するalteplase投与も利益がある可能性が示された
・penumbra to core ratio>1.2+core volume<70ml(perfusion CTやDWI/perfusion MRI)によるpooled analysisでは、alteplase投与により90日
mRSが改善
◦36% vs. 29%; adjusted odds ratio, 1.86; 95% CI, 1.15 to 2.99
まとめ
・WAKE-UP trial:MRIの結果や重症度によっては4.5時間を超えてもalteplase投与の適応がある可能性あり
発症から6時間以内の機械的血栓除去術
◦発症から6時間以内、病前mRS 0-1の18歳以上/ICまたはMCA M1閉塞/NIHSS≧6/ASPECTS≧6
◦血管閉塞を証明するにはMRAやCTAを要する
・その他の研究では、研究の対象となる患者の選定にDWI MRIやperfusion MRI、perfusion CTが用いられたが、これらの検査は必須ではなく、治療の恩恵を受ける可能性のある患者を除外することにつながる可能性が指摘が指摘
・5つのRCTのpooled analysisでは、stent-retriever mechanical thrombectomyを行った群ではcontrol群と比較して90日時点のmRS 0-2の患者が増加
◦46.0% vs. 26.5%; adjusted odds ratio, 2.49; 95% CI, 1.76 to 3.53
◦両群で85%の患者がalteplase投与を受けていた
※これらの研究では、ICまたはM1閉塞以外の血管閉塞/病前mRS>1/ASPECTS<6/NIHSS<6はほとんど含まれていなかった
◦adjusted odds ratio 1.07 (95% CI, 0.81 to 1.40)
◦altepase投与から鼠径穿刺までの遅延は30分未満
まとめ
・alteplaseと同様になるべく早く!はkey word。MRAやCTAだけでよい!
発症から6時間を超えてしまった場合の機械的血栓除去術
・DAWN trial
◦発症6-24時間
◦NIHSS≧10/perfusion CTまたはDWI+perfusion MRIでの所見で対象を選択
‣49% vs. 13%; adjusted difference, 33%; 95% CI, 21 to 44
・DEFUSE-3 trial
◦発症6-16時間
◦perfusion CTやDWI+perfusion MRIでのcore-penumbra容量のmismatch/NIHSS≧6
‣45% vs. 17%; relative risk, 2.67; 95% CI, 1.60 to 4.48
まとめ
・ここからはperfusion CTやperfusion MRIなどが必要になってくる
抗血栓薬
・alteplase投与を受けた患者では、出血リスクを下げるために、抗血小板薬投与を24時間遅らせることが一般的である
・2つのRCTのpooled analysisでは、脳梗塞再発または院内死亡はaspirin投与(発症から48時間以内に160-300mg)により減少
◦8.2% vs. 9.1%, P = 0.001
・抗凝固薬治療の適応がないNIHSS≦3の患者では、24時間以内のdual antiplatelet treatmentはaspirin単独療法に比較して90日脳卒中発症を減少させた
◦初回clopidogrel300 mg→75mg/日+初回aspirin75-300mg→75mg/日を合計21日間
◦8.2% vs. 11.7%; hazard ratio, 0.69; 95% CI, 0.56 to 0.84
◦さらに、この差は1年間維持される
‣10.6% vs. 14.0%; hazard ratio, 0.78; 95% CI, 0.65 to 0.93
・48時間以内の抗凝固療法には、aspirinやplaceboを上回る有用性はない
◦AF患者のsubgroup解析では、heparin皮下注により治療期間中の脳梗塞再発リスクが、heparin非投与群よりも低下した(2.3% vs. 4.9%)
‣しかし、症候性頭蓋内出血が増加(2.8% vs 0.4%)
‣さらに6か月後の死亡または神経学的予後不良のリスクはheparin非投与群よりも低下せず
まとめ
・alteplase投与を受けた場合には抗血小板薬投与は24時間遅らせる
・発症から48時間以内にaspirin投与をせよ
・NIHSS≦3の場合には24時間以内にDAPTを考慮せよ
・超急性期の抗凝固薬投与はあまり有用性がない
症例の対応方法
・左MCA領域の脳梗塞であることが判明
・発症から4.5時間以内であったため即座にalpteplase投与を開始
・CTAまたはMRAを撮影すべし
◦患者は発症から6時間以内であるためCTAまたはMRA以外の画像検査不要
・血圧を180/105mmHg以下にコントロールする
まとめ
・脳梗塞を疑った場合には、発症からの時間/重症度/頭部CTを迅速にチェック
・発症から4.5時間以内のalteplase投与は有効、投与は早ければ早いほど良い
・alpteplase投与の意思決定に頭部単純CT以外の画像検査は要さない
・凝固検査を待たずにalteplase投与は始めてよい
・血圧は180/110mmHg以下に降圧しておく
・WAKE-UP trial:MRIの結果や重症度によっては4.5時間を超えてもalteplase投与の適応がある可能性あり
・発症6時間を超えた症例においては、治療の意思決定にperfusion CTやperfusion MRIなどが必要になる
・alteplase投与を受けた場合には抗血小板薬投与は24時間遅らせる
・発症から48時間以内にaspirin投与をせよ
・NIHSS≦3の場合には24時間以内にDAPTを考慮せよ
・超急性期の抗凝固薬投与はあまり有用性がない