りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

コーヒーとカフェインと健康問題(N Engl J Med. 2020;383(4):369-378.)

仕事中に摂取する水分の大半はコーヒーで満たされている今日この頃。

体液量の半分以上はコーヒー成分な気がします。

 

あんまりコーヒー飲みすぎて大丈夫なのか心配になっていましたが、

ちょうどよいタイトルの論文があったので読んでみました。

 

…うん、コーヒー!悪くないじゃん!

 

van Dam RM, Hu FB, Willett WC. Coffee, Caffeine, and Health.

N Engl J Med. 2020;383(4):369-378.

 

 

疫学

・米国では、人口の85%が毎日カフェインを摂取している
・平均カフェイン摂取量は135mg/日であり、コーヒー1.5杯に相当する
※standard cup=235mlと定義されているので、ここでいう1.5杯≒350mlです。
 
・成人ではコーヒー、青少年ではソフトドリンクや紅茶からのカフェイン摂取が多い

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よく飲んでいるカフェイン含有飲料は下のようになっていました。
※スタバのアイスコーヒーのカフェイン含有量
・ショートサイズ・・・120mg
・トールサイズ・・・165mg
・グランデサイズ・・・235mg
・ベンティサイズ・・・285mg
※モンスターのカフェイン含有量
・1缶355ml、カフェインは100mlあたり40mg

 

・コーヒーとカフェインは悪性腫瘍や心血管疾患を増やすのではないかと長年懸念されてきていたが、最近では健康へ良い影響を及ぼすことも示されてきている
 
・カフェインとコーヒーに関する研究の問題点は、コーヒーは何百種類もの生理活性植物化学物質(biologically active phytochemicals)が含まれていることを留意しなければならないこと
 ◦クロロゲン酸やリグナンなどのポリフェノールアルカロイドであるトリゴネリン、焙煎時に生成されるメラノイジン、マグネシウムカリウム、ビタミンB3など
 
・これらの化合物は酸化ストレスの軽減、腸内細菌叢の改善、糖や脂肪の代謝調整などの効能がある
 
・一方で、unfiltered coffee(鍋で煮だして飲むタイプのコーヒー)に含まれるditerpene cafestolにはコレステロール値を上昇させる効果がある
 
・カフェイン自体による影響かそれ以外の物質による影響か、コーヒーやその他のカフェイン含有物に関する研究結果の解釈には注意を要する

代謝、生理学的影響、毒性

吸収と代謝

・化学的には、カフェイン=methylxanthine (1,3,7-trimethylxanthine)
 
カフェインの吸収は摂取後45分以内にほぼ完了し、カフェインの血中濃度は15分~2時間でピークに達する
 ◦半減期は2.5-4.5時間だが個人差が大きい
  ‣カフェイン代謝酵素は遺伝的影響がある
  ‣新生児では代謝に時間がかかり、半減期80時間
  ‣生後5-6か月になると、1kgあたりのカフェイン代謝能力は成人と同等になる
  ‣喫煙により半減期が50%減少する
  ‣経口避妊薬により半減期が2倍に伸びる
  ‣妊娠によりカフェイン代謝が下がり、半減期は15時間にもなりうる
  ‣薬物(キノロン系抗菌薬、心血管薬物、気管支拡張薬、抗うつ薬など)によりクリアランス低下/半減期延長がありえる
 
・カフェインは体全体に広がり、血液脳関門(BBB)を通過する
 
・肝臓ではCYP1A2によりparaxanthine/theophylline/theobromineに代謝される
 →最終的に尿酸に代謝され、尿中に排泄される
 

認知機能や疼痛に対する効果

・カフェインの分子構造はadenosineと類似しているため、adenosine受容体と結合し、adenosineを阻害してその効果発現を阻害する
 ◦脳内adenosine蓄積することで覚醒が阻害され、眠気が増加
 
中等量のカフェイン(40-300mg)では、adenosineに拮抗し、疲労軽減/覚醒を高める/反応時間を短縮させることができる
 ◦この効果は習慣的にカフェイン摂取しない人や常習者が短期間摂取しないことにより観察される
 
・カフェイン摂取により刺激が多くない長時間の作業の際の注意を改善させることが可能
 ◦長時間の運転、組み立てラインでの作業など
 
・これらの利点は睡眠不足の状態で最も顕著に表れるが、長期間続く睡眠不足によるパフォーマンス低下を補強することはできない
 
・カフェインは鎮痛薬に追加されるとその鎮痛効果が増強される
 ◦特にカフェイン100-130mgを追加すると鎮痛効果が高まる
 

睡眠、不安、脱水症状への影響など

・カフェインは1日の後半に摂取すると睡眠の質が低下する可能性が指摘されている
高用量摂取(1回>200mg/1日>400mg)により、不安神経症双極性障害を持つ敏感な人では不安が増強する可能性がある
・睡眠や不安への影響もまた個人差が大きい
 
・高用量のカフェイン摂取により尿排泄量が増加する
 ◦中等量(1日≦400mg)を長期間摂取しても脱水への影響はないとされる
 
・習慣的に摂取していたにも関わらず摂取しなくなると離脱症状が出現しうる
 ◦頭痛、倦怠感、注意力低下、抑うつ、インフルエンザ様症状など
 ◦摂取をやめてから1-2日目に症状がピークに達し、2-9日間持続しうる
 ◦カフェイン用量を徐々に減らすことが重要
 

毒性、副作用

・高用量摂取により、不安/落ち着きのなさ/緊張/不快感/不眠/興奮/思考や会話のとりとめのなさにつながる
 
中毒症状は1.2g以上で発症し、10-14gでは致死量となる
 ◦最近のreviewでは、カフェイン中毒死では血中カフェイン濃度180mg/L、推定カフェイン摂取量8.8gと報告
 ◦コーヒーや紅茶では短時間に75-100杯ほども飲まないとならないためこれで致命的になることはまれ
 ◦基本的にはサプリメントからの中毒死が多い
 
・症例報告では、エナジードリンクと特にアルコールを組み合わせることで、心血管/精神的/神経学的な合併症と関連すると報告
 
エナジードリンクはいくつかの理由で悪影響が大きいとされる
 ◦1回摂取量が多くなる傾向
 ◦子供や青少年に好んで飲まれていること
 ◦カフェイン含有量についての知識が乏しい
 ◦エナジードリンク内に含まれる他の成分との相乗効果
 ◦アルコールや激しい運動との組み合わせ
・カフェインを320mg以上含むエナジードリンク(≦200mg程度ではなく)では、心血管への悪影響が出現しうる
 ◦血圧上昇、QT延長、頻脈など
 
カフェイン含有量を確認し、1回摂取量が200mgを超えることやアルコールとの併用はしないように指導する必要がある
 

慢性疾患リスク

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血圧、脂質、心血管疾患

・カフェインの習慣的摂取がない人では、カフェイン摂取によりエピネフリン上昇→血圧上昇が短期的には発現
 ◦効果耐性は不完全ではあるが1週間以内に発現する
 ◦純カフェイン(コーヒーや紅茶ではない)の長期摂取により血圧上昇するというmeta-analysisもある
 
カフェイン含有コーヒーの研究では血圧への影響はなかったと報告がされている
 ◦これは高血圧の病歴がある患者でも同様
 ◦おそらくコーヒーに含まれるchlorogenic acidなどがカフェインの血圧上昇効果を相殺するためだろう
 
・French press, Turkish, Scandinavian boiled coffee(Moka potで作られるエスプレッソとコーヒーの中間のような飲み物)では、コレステロールを上昇させる作用のあるcompound cafestolの濃度が高い
 ◦drip-filtered, instant, percolator coffeeではこの効果が無視できるほどになる
unfilterd coffee(上記のような鍋で煮だして飲むようなコーヒー)を頻繁に飲むと(平均1日6杯)、filterd coffeeに比較してLDLコレステロールが17.8mg/dL上昇、心血管系疾患リスクが11%上昇する
 ◦一方で、filterd coffeeでは総コレステロール値は増加させなかった
 
・カフェイン摂取とAF発症については関連がない
 
最大6杯/日のfilterd coffeeは、コーヒー摂取しない場合と比較して心血管系疾患リスクを上昇させなかった(コーヒー摂取と冠動脈疾患/脳卒中/死亡には逆相関がある)
 ◦これは高血圧、糖尿病、心血管疾患を持つ患者でも同様の結果であった
 ◦1日3-5杯のコーヒー摂取が最も心血管疾患リスクを低下させた
 

体重、インスリン抵抗性、2型糖尿病

・カフェインは食欲低下/基礎代謝増加作用によりエネルギーバランスを改善させる可能性がある
 
・カフェインを1日6回100mgずつ投与することで、24時間のエネルギー消費量を5%上昇させる
 
コホート研究では、カフェイン摂取量の増加によりわずかに体重減少効果/体脂肪率低下が認められた
 ◦ただし、糖を入れたコーヒーや紅茶、エナジードリンクでは体重増加の可能性あり
 
・カフェイン摂取は短期的にはインスリン感受性を低下させる
 ◦グルコール→グリコーゲンとして貯留させることを阻害
 ◦エピネフリン放出によりグルコース放出
 
最大6ケ月1日4-5杯のコーヒー摂取ではインスリン抵抗性に影響を与えないとされている
 ◦カフェインありでもデカフェでもインスリン抵抗性を減らし、2型糖尿病のリスクを減少させることが報告されている
 

悪性腫瘍

コーヒーやカフェイン摂取による悪性腫瘍発症率増加/悪性腫瘍による死亡率増大はないという強いエビデンスがある
 ◦メラノーマ、非メラノーマ皮膚腫瘍、乳癌、前立腺癌、胆嚢癌を減らす
 ◦子宮内膜癌や肝細胞癌ではその傾向がより大きい
 

結石

コレステロール胆石形成を減らす
 ◦胆汁吸収を阻害
 →コレシストキニン分泌増加
 →胆嚢収縮を刺激
 
・腎結石形成リスクも減少させる
 ◦この効果はデカフェでもあり
 

神経疾患

カフェイン摂取とパーキンソン病リスクには強い逆相関があることが示されている
 ◦デカフェではこの相関はない
  ‣コーヒーよりもカフェインによる効果なのかも
 ◦adenosine A2A受容体拮抗作用による黒質線条体ドーパミン作動性神経毒性/変性を阻害している可能性あり 
 
うつや自殺リスクを減らすことも報告されているが、1日8杯以上のコーヒー摂取では当てはまらない
 
認知症アルツハイマー病のリスクには影響を与えない
 

全死亡率

コーヒーを1日2-5杯飲むことで全死亡率低下することが報告されている
 ◦慢性疾患がない患者や健康状態が悪いと申告しなかった患者に限定した分析でもコーヒー摂取は死亡率低下と関連
 ◦デカフェであっても同様の関連が認められた
 
・1日5杯を超えるコーヒー摂取では、大規模コホート研究において喫煙による交絡因子を調整後の死亡リスクは、コーヒー摂取なしの場合と同等かそれよりも低かった
 

妊娠中のカフェイン摂取

・カフェイン摂取により低出生体重児/流産と関連
 ◦低出生体重児は、コーヒーと紅茶の両方で関連
  ‣明確な閾値はないが、用量反応関係を認めた
 ◦流産は、低用量であれば有意ではなく、出版バイアスの影響を受けている可能性あり
 
・カフェインは胎盤を容易に通過し、母体と胎児のカフェイン代謝遅延により循環濃度が上昇
 →子宮胎盤の血管収縮、低酸素血症を誘発する可能性あり
 
・胎児毒性については明確なエビデンスはないが、妊娠中にカフェイン摂取は200mg/日以下にすることが推奨される
 
 
上記のまとめとなる表が以下です。

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まとめ

・カフェインの吸収は摂取後45分以内にほぼ完了し、血中濃度は15分~2時間でピークに達する
・カフェインの体内での半減期は2.5-4.5時間ほどだが、個人差/年齢差/妊娠/薬剤などの影響を受けやすい
・カフェインの分子構造はadenosineと類似しており、中等量(40-300mg)ではadenosine拮抗作用により疲労軽減/覚醒を高める/反応時間短縮の効果あり
・単純作業の際の注意力改善効果あり
・睡眠不足の状態で効果が顕著だが、長期間続く睡眠不足によるパフォーマンス低下を増強することはできない
・カフェインは鎮痛薬に追加されるとその鎮痛効果が増強される
・カフェインを1日の後半に摂取することで睡眠の質が低下しうる
・高用量摂取(1回200mg以上/1日400mg以上)により、素因を持つ人では不安が増強する可能性がある
・高用量摂取(1回200mg以上/1日400mg以上)により尿排泄量が増加するが、これ以下の量であれば脱水になることはない
・カフェイン摂取をやめてから1-2日で離脱症状が出現しうり、2-9日間持続する
・中毒症状は1.2g以上で発現し、10-14gでは致死量となる。基本的にはサプリメントからの中毒死が多い。
エナジードリンクとアルコールの組み合わせは特に合併症を起こしやすい
エナジードリンクではカフェイン1回摂取量が200mgを超えないようにすることやアルコールとの併用はしないように指導すること
・カフェイン自体には血圧上昇作用があるが、コーヒー摂取による血圧への影響はない
・unfilterd coffeeではLDLコレステロール上昇作用が報告されているが、filterd coffeeでは関連がない
・unfilterd coffeeでは心血管疾患リスク上昇が報告されているが、1日3-5杯のfilterd coffee摂取は心血管疾患リスクを低下させる
・カフェイン摂取量増加により体重減少/体脂肪率低下効果がある
・カフェインの含有/非含有にかかわらず、コーヒー摂取により2型糖尿病リスク減少
・コーヒーやカフェインにより各種癌発症率を減少させる効果がある
コレステロール胆石も腎結石も減少
・カフェイン摂取によりパーキンソン病発症リスク減少
・コーヒー摂取によりうつや自殺リスクを減少させる
認知症のリスクを減少させる効果はない
・コーヒーを1日2-5杯飲むことで全死亡率低下効果あり
・妊娠中のカフェイン摂取と低出生体重児/流産には関連があり、妊娠中のカフェイン摂取は200mg/日以下にすることが推奨される
 
意外とコーヒーやカフェインについては肯定的なことが並んでいたので(妊婦は別ですけど)興奮して読めました。
救急医としてはあまり好きな物質ではないですけどね…。中毒で痛い目に何度か遭遇しています。
 
中毒については以下もご参照ください。