急性期の脳梗塞が来たときに、tPAや血管内治療の適応がぱっと思いつかないようだと初動が遅れてしまいます。1時間対応が遅れる毎に神経学的予後が20%低下するなんて話も聞きます。そう、Time is brainなんです!
病棟で心房細動既往がある患者さんが左片麻痺を発症しました。
抗凝固薬を内服している患者さんのようです。あなたはどう動きますか?
2019年3月に改訂されたものですが、up dateされていますよね?
治療薬
・静注用の血栓溶解薬にはアルテプラーゼを用いる
・我が国においては、アルテプラーゼの投与量として0.6mg/kgを静注する
・アルテプラーゼ以外のtPA製剤の投与は我が国において十分な科学的根拠がないので勧められない。
治療開始可能時間
・静注血栓溶解療法は、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者に対して行う
・発症時間が不明なときは、最終健常確認時刻をもって発症時刻とする。ただし、次項の場合にはこの限りではない。
少し変更になったポイントがここです。
上記の根拠となったWAKE-UP trialについてまとめておきます。
(N Engl J Med. 2018 Aug 16;379(7):611-622.)
・Multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial
・欧州8か国での発症時間不明の脳卒中患者503人に対するRCT
◦アルテプラーゼ静注群 vs プラセボ群
◦inclusion
‣言語、運動、認知、追視、視野、半側空間無視のうち少なくとも1つの神経学的異常がある
‣18-80歳
◦exclusion
‣血栓回収を予定されいる
‣病前ADL…他者の介護を要する
‣severe…NIHSS>25
‣alteplaseへの過敏症
‣妊娠
‣出血性素因
‣脳出血既往
‣CTではnormalだがSAHを疑う場合
‣既知のCNS損傷(悪性腫瘍、動脈瘤、頭蓋内や脊椎手術など)
‣抗凝固薬使用
‣血小板≺10万
‣血糖値≺50、>400mg/dL
‣コントロール不良の高血圧(SBP>185/DPB>100mmHg)
‣肝不全、肝硬変、門脈圧亢進、急性肝炎
‣3か月以内の主要な手術や外傷
‣予後≦6か月
‣MRI禁忌
・(資金不足もあり)503人が対象となった
◦tPA群254人、placebo群249人
◦患者の多くがwake up stroke(89%)
◦tPAは平均3.1時間で投与された
・primary outcome…90日mRS 0-1
◦tPA群…53.3% vs placebo群…41.8%
‣aOR 1.61, 95%CI 1.09-2.36
・secondary outcomeは以下
◦平均90日mRS…1 vs 2, aOR1.62, 95%CI 1.17-2.23
◦死亡…4.1% vs 1.2%, OR 3.38, 95%CI 0.92-12.52
◦頭蓋内出血…4.0% vs 0.4%, OR 10.46, 95%CI 1.32-82.77
WAKE-UP trialはwake up strokeに対するtPA投与を行なった初めてのMulticenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trialでした。ただし、資金不足のために途中で中止されており、本来であれば各群370人ほどのnが必要なtrialであったというlimitationがあります。
治療の適応
・静注血栓溶解療法の対象は、全ての臨床カテゴリーの虚血性脳血管障害患者である
・発症後あるいは発見後4.5時間を超える場合、非外傷性頭蓋内疾患の既往がある場合、胸部大動脈解離が強く疑われる場合、CTやMRIで広汎な早期虚血性変化の存在などは静注血栓溶解療法の適応外項目である。一項目でも適応外に該当すれば本治療を行なわないように勧められる。
・慎重投与項目とは、投与を考慮してもよいが副作用その他が出現しやすく、かつ良好な転帰も必ずしも期待できない条件を指す
このような項目を有する症例では、治療担当医が治療を行なう利益が不利益よりもまさっていると判断し、患者ないし代諾者への十分な説明により同意を得た場合に限り治療実施が可能である。
・適応基準から逸脱した静注血栓溶解療法は症候性頭蓋内出血や死亡の危険性を高める
この表が全てです!病院内のどこにあるか把握しておきましょう。
抗凝固療法中の患者への治療適応
・抗凝固薬投与中の患者が抗凝固マーカーの値や最終服用後経過時間によって適応外に該当すれば本治療を行なわないように勧められる。
もう少し詳しく紐解いてみると以下のように記載があります。
・ワルファリン、ヘパリン…INR>1.7、APTT1.5倍以上の場合には適応外
◦PCCやプロタミンによる補正を行ったとしても投与は推奨されない
・DOAC…INR>1.7やAPTT>1.5倍では適応外
◦内服から4時間以内の場合には適応外
・ダビガトラン…APTT1.5倍以上(目安として約40秒)の場合には適応外
◦内服から4時間以内の場合には適応外
◦ただし、イダルシズマブを用いた後であればtPA考慮してよい
※抗血小板薬では禁忌事項はなし
ダビガトラン内服中の場合には対応の仕方が異なりますので要注意です。
血管内治療
◦発症前のmRS0-1
◦内頚動脈または中大脳動脈M1部が閉塞
◦頭部CTまたは拡散強調画像でASPECT≧6点
◦NIHSS≧6
◦18歳以上
・ウロキナーゼを用いる発症後6時間以内の局所線溶療法は、中大脳動脈閉塞症の転帰を改善させうる。
しっかり頭に叩き込んでおいて、救える患者をしっかり救えるように構えておきましょう!
血管内治療についてはものすごく進歩があった分野なので、次回まとめます。