血栓回収療法は、前方循環系のlarge-vessel occlusion(LVO)による脳梗塞の標準治療となっています。
AHA/ASAによるガイドライン2019年度版における血栓回収療法の推奨(抜粋)は以下です。
※これは以前にガイドラインを和訳したものを紹介しているのでご参照ください。
基本的には、血栓回収療法とalteplase静注は併用することになっています。
しかし、実際のところは血栓回収療法との併用における有用性は不明です。
alteplaseは虚血部位の早期再灌流を増やし、血栓回収療法後の遠位塞栓を溶解する可能性があります。その一方で、近位血栓に対するalteplaseの効果は限定的とされていて、部分的に溶解した結果としてより遠位に血栓を飛ばし血栓回収を難しくすることもあることが指摘されています。さらに、脳出血のリスクを増加させる可能性があります。
観察研究のmeta-analysisでは、血栓回収療法単独とalteplaseとの併用は同等の効果であることが示唆されていましたが、ランダム化比較したデータはほとんどありませんでした。
そこで、血栓回収療法単独はalteplase併用療法と比較して非劣性か判定するための研究がNEJMより発表されました。
Pengfei Yang et al. Endovascular Thrombectomy With or Without Intravenous Alteplase in Acute Stroke
N Engl J Med. 2020 May 21;382(21):1981-1993.
この研究は、Direct Intraarterial Thrombectomy in Order to Revascularize Acute Ischemic Stroke Patients with Large Vessel Occlusion Efficiently in Chinese Tertiary Hospitals: a Multicenter Randomized Clinical Trialより、DIRECT-MTと称されています。
いつもながらカッコいいけどこじつけすぎなような…。
中国で行われた多施設非劣性RCTで、血栓回収療法±alteplase静注の効果と安全性を検討しています。
以下に要旨をまとめていきます。
・中国の41施設で実施された多施設非劣性RCT
・2018年2月23日~2019年7月2日に実施
・患者は血栓回収療法(EVT)施行前に、EVT単独群とalteplase併用群にランダム化され1:1に割り付けられた。盲検化はされていない。
・EVT群:血栓回収療法のみ
・alteplase併用群:血栓回収療法+alteplase0.9mg/kg全身投与
・対象:18歳以上の成人で以下を満たす
◦発症から4.5時間以内+CTAで内頚動脈/中大脳動脈(M1-M2)+NIHSS≧2
※AHAガイドラインでの投与禁忌は以下です。
・3時間以内だが軽症(NIHSS0-5)(COR 3, LOE B-R)
・3-4.5時間以内だが軽症(NIHSS0-5)(COR 3, LOE C-LD)
・CTで明らかなLDA(COR 3, LOE A)
・CTで頭蓋内出血あり(COR 3, LOE C-EO)
・3カ月以内のAIS(COR 3, LOE B-NR)
・3か月以内の重症頭部外傷(COR 3, LOE B-NR)
・急性頭部外傷による入院加療中に生じた梗塞(COR 3, LOE C-EO)
・3か月以内の頭蓋内/脊髄手術(COR 3, LOE C-EO)
・頭蓋内出血の既往(COR 3, LOE C-EO)
・21日以内の消化管出血や消化管腫瘍(COR 3, LOE C-EO)
・24時間以内のLMWH投与(COR 3, LOE B-NR)
・DOAC使用(COR 3, LOE C-EO)
※腎機能正常で48時間以上の休薬があり、各種血液検査が異常なしならIV alteplase可能
・感染性心内膜炎の合併(COR 3, LOE C-LD)
・急性大動脈解離に関連したAIS(COR 3, LOE C-EO)
・脳実質内悪性腫瘍(COR 3, LOE C-EO)
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・1586人をスクリーニング、654人が対象となり、327人がET群、329人がalteplase併用群に割り付けられた
・年齢中央値:69歳、男性がわずかに多かった
・NIHSS中央値17
・発症からランダム化までの時間…EVT群:167分、altepllase群:177分
・ランダム化から鼠径部穿刺までの時間は31分 vs 36分
・639人が動脈穿刺された。そのうち、591人が血栓回収療法を実施された・
◦25人がプロトコル違反
◦alteplase併用群の10人がalteplase投与を受けなかった
◦14人(両群7人ずつ)が緊急治療として動脈内血栓溶解を受けた
・primary outcome:90日後のmRS(※非劣性マージンはodds ratio 0.80に設定)
◦aOR 1.07 (95% CI 0.81-1.40)であり、非劣性が証明された
◦per-protocol分析でも同様の結果であった
※直接面談または電話でoutcome情報を収集
※各群1名ずつ合計2名欠落
・safety outcome…群間で有意な差は認めなかった
◦90日死亡率…17.7% vs 18.8% RR0.94 (95% CI 0.68-1.30)
◦無症候性頭蓋内出血…33.3% vs 36.2% RR0.92 (95% CI 0.75-1.14)
◦症候性頭蓋内出血…4.3% vs 6.1% RR0.70 (95% CI 0.36-1.37)
◦5-7日時点の新規発症脳梗塞…3.4% vs 2.7% RR1.23 (95% CI 0.52-2.93)
結論として、血栓溶解療法にalteplaseを併用しない群は、併用しない群と比較して非劣性でした。
中国だけ研究で外的妥当性はまだ不明、選択バイアスの可能性(患者が連続的に集積されたか不明、参加辞退者が15%もいる)、盲検化されていなかったことなどのlimitationはあります。
更なる研究は必須だと思いますが、tPAのコストや出血リスクなどを考えるとこれからも慎重に検討されるべき問題だと思います。個人的にはalteplaseを併用しない方向になっていくのかと思いました。
以下の記事も参考にしてください。