更新が滞っていました(-_-;)
今回はERでしばしば遭遇するけどなかなか難しい手技、
気管挿管についてreviewしたいと思います。
これを読めば、現時点で最新の気管挿管についての知識的な部分は全部わかるはず!
Acute Med Surg 2019 "Advancing emergency airway management practice and research"を基にこれまで読んだ論文をまとめています。
Airway managementのアルゴリズム
・
アルゴリズム化により迅速なdecision-making、エラー減少、airway managementの質改善が目標
・difficult airwayかどうかの判断が最も重要な分岐点
◦ER settingでは実は定義がない
◦2-27%がdifficult airwayとされているが定義がばらばら
・difficult airwayはいくつかの型に分類される
◦喉頭展開困難(difficult laryngoscopy)
◦BMV困難(difficult bag-mask ventilation)
◦声門上デバイス(EGD)挿入困難(difficult extraglottic devices)
◦輪状甲状靭帯切開困難(difficult cricothyroidotomy)
・difficult laryngoscopyがいわゆるdifficult airway
◦声門が見えるかどうかが挿管成功率に寄与する
◦分類はCormack and Lehane (C-L) gradeが有名
‣grade 3-4では挿管失敗と関連
◦ただ、ERでは他の方法で
気管挿管困難かどうかを見積もっておく必要がある
これの大事なところは、difficult airwayかどうかを判断して、そうでなければRSIを選択するというところだと思います。
・手術室におけるdifficult laryngoscopy予測のmeta-analysisによると…
◦upper lip bite testは有用
‣下顎切歯で上口唇を噛めない場合にはdifficult laryngoscopyである可能性が高い
‣+LR 14, 特異度0.96
◦Mallampati score…class 3-4であれば+LR 4, 特異度0.87
→ERでは実施できないことが多い
‣ERでは挿管実施患者の約30%しか実施できていない
・LEMON criteriaはresuscitatoin roomでの使用のためNational Emergency Airway Management Courseにより考案された
◦original versionではMallampati scoreを含んでいた
◦modified versionではMallampati scoreを除外
‣いずれの項目も当てはまらなければdifficult laryngoscopy除外において感度85.7%/特異度98.2%
L-Look externally
|
患者の外観を観察して 喉頭展開/ 気管挿管/換気困難の特徴がないかどうか見る
|
E-Evaluate the 3-3-2 rule
|
・オトガイ舌骨間距離…口腔底に下を納めるスペース
・舌骨 喉頭隆起… 喉頭が適切な高さ、声帯が直視型 喉頭鏡で確認できる可能性が高い
|
M-Mallampati
|
座位の状態で患者に開口してもらう
・Ⅳ度…硬口蓋のみが視認可能
|
O-Obstruction
|
・腫瘍
・膿瘍
・外傷
|
N-Neck mobility
|
頸椎カラーでの固定や関節リウマチ患者など
|
LEMONはよく聞くけどMallampatiなんてできることの方が少ないですよね。
んで、やらなくてもそれなりにdifficult airwayを予測できることが報告されています
(modified LEMON)
upper lip bite testも有効だと思いますので、患者さんに余裕があればしてみてもいいかもしれません。
準備
S Suction 吸引
T Tools for intubation 挿管に必要な資器材準備
O Oxygen 酸素
P Positioning 体位
M Monitors モニター(EtCO2含む)
A Assistant, Assessment
BVM/挿管チューブなどの準備、difficult airwayの評価
D Drugs 薬剤
実際のところはなかなか思い出せないと思うので、
各施設の救急カートにあんちょこをおいておくとよいです。
preoxygenation
・
気管挿管に先立ってpreoxygenationを行うことで、挿管実施中のapnic phaseの低酸素血症を避けることができ、安全域が広がる
unsupported ventilation
・pressure supportなしの酸素投与ルート(unsupported ventilation)は以下
◦リザーバー付き酸素マスク
‣ERにおいて最も頻用される
‣O2 15L/min投与でFiO2 60-70%しか投与できない
◦bag valve mask(BVM)
‣十分な自発呼吸が残っていれば必ずしもバッグをもむ必要はない
‣しっかりとmask sealすること
‣PEEP Valveをつけると5–15cmH20のPEEPをかけられる
‣自発呼吸がしっかりしていない場合にはゆるやかな陽圧をかけること
…換気を受けると鎮静中の低酸素血症を避けることができる(
ICU settingでのtrialだが)
◦(補助的)nasal cannula
‣上記方法に追加することもできる
apnic oxygenation
・挿管の際、自発呼吸が消失し(多くは筋弛緩によって)無呼吸になった患者に対して行う経鼻的酸素投与
◦通常は鼻
カニュラ高流量10-15L/min投与のことを指す
・挿管中の低酸素血症発症率を下げ、初回成功率を上昇させる
※HFNCの項目で改めて説明したいと思います
ここは結構大事な「ひと手間」だと思います。
positioning
・通常仰臥位でされることが多いが…
・20-45度半坐位(ramped position)であると以下の効果が望めて好ましいよう
◦preoxygenationの改善
◦初回挿管成功率上昇
◦挿管関連合併症発症率の低下
(Am J Emerg Med. 2017 Jul;35(7):986-992./Anesth Analg. 2016
Apr;122(4):1101-7./J Anesth. 2011
Apr;25(2):189-94./Anaesthesia. 2005 Nov;60(11):1064-7.)
・Back Up Head Elevated (BUHE) Intubation
(Anesth Analg. 2016
Apr;122(4):1101-7.)
・耳孔と胸骨切痕を同じ高さにする
・挿管合併症(3回以上の失敗、10分以上かかる、SpO2<90%、食道挿管)について、
◦通常の方法…22.6%
◦BUHE intubation…9.3%
・でも、ramped positionはあまり挿管成功率を上げないんではないかとの報告も…
(
Chest. 2017 Oct;152(4):712-722.)
・初回成功率
:Sniffing 85.4% vs Ramped 76.2% (p=0.02)
・3回以上施行:
Sniffing 2.3% vs Ramped 7.7% (p=0.02)
・酸素化については有意差なし
NIV(non-invasive ventilation)
・unsupported ventilationでは十分な酸素化が得られないときにNIV考慮
・陽圧換気により肺胞recruitmentが得られ、preoxygenationが良好になることがある
・急性呼吸不全に対してNIV vs BVM換気で比較すると低酸素血症発症率がNIV群で低下
HFNC(high-flow nasal cannula)
・標準的な酸素投与方法に比較してより高いFiO2を得られる
→挿管中のapnic phaseでも酸素化が保てる可能性あり
◦ただし、まだデータ不足でpreoxygenationに本当に有効かはcontroversial
・挿管前には、HFNC15L/minをbaseにしてリザーバーマスクやBMVで十分な酸素化を行う
◦これでSpO2≧95%を保てない場合には肺シャント(肺炎や肺水腫など)の存在を疑わせる
‣この場合にはPEEPをかける必要が出てくる
DSI(delayed sequence intubation)
・
以下のような場合にはRSIの代わりにDSIを考慮することができる
◦低酸素により興奮してintubationができない
◦精神的興奮などにより十分なpreoxygenationができない
・preoxygenationに先立ってProcedural sedationを行う
◦筋弛緩薬(NMBs)投与を一時的に保留して鎮静薬投与を行う
‣
ケタミン1mg/kg iV → Preoxygenation → 筋弛緩 → 無呼吸化でのApneic Oxygenation →挿管
・
DSIにより従来の方法でpreoxygenationが
不能な患者へのpreoxygenationが可能
RSI(rapid sequence intubation)
・difficult airwayが予想されない患者に対する標準的な緊急挿管方法
・prehospitalでは、
NMB投与に関わらずより包括的にdrug-assisted intubationと呼ばれている
・鎮静薬単独に比較してRSI施行で挿管成功率上昇
◦ERでもprehospitalでも報告あり
◦それにもかかわらず日本では53%しかERでRSIされていない
‣さらに施設によって異なり、0-79%まで使用率はまばら
・difficult airwayが予想される場合にはRSIよりnon-RSIが選択されたほうがよい
awake intubation
・CVCIのリスクが高い症例の場合には筋弛緩薬を使用せず、自発呼吸を残したままのawake intubationを検討
→挿管チューブを進める
surgical intubation
・
喉頭鏡やそれ以外のデバイスを用いても気道確保困難である場合に選択される
・輪状甲状靭帯切開/穿刺が手段としてある
supportive tecchnique
・ultrasonographyを使用することでチューブ留置の正確性と迅速性が上昇する
・輪状軟骨圧迫は
誤嚥予防のためにされていたが、RSIの際には不要かも
・BURP法についても声門確認率が上昇するわけではない
薬剤投与
前投薬
・
気管挿管に先立ち、最低3分以上前に投与するのが一般的
・状態が非常に悪い場合には3分以内や省略も可能
・Lidocaine…気管支攣縮を予防するために使用
・Fentanyl…交感神経刺激による心血管系イベントリスクを減少
◦低血圧リスクがあるため注意
・atropine…基本的には使用しないが、徐脈が起きた時のrescueとして用意しておくのはよい
薬剤
|
Dose
|
Onset
|
作用時間
|
特徴
|
副作用
|
主な適応
|
リドカイン |
1.5mg/kg
|
NA
|
NA
|
・挿管に伴う頭蓋内疾患/気管支攣縮を防ぐ
|
・AV block患者では心停止のリスクになる
|
・頭蓋内圧亢進
・頭部外傷
|
|
1-3mcg/kg
30秒以上
|
NA
|
NA
|
・交感神経反応を減らす
|
・呼吸抑制
・低血圧
|
・心血管疾患
・頭蓋内圧亢進
|
鎮静薬
・鎮静/鎮痛/記憶へ作用する薬剤投与が必要になる
・北米ではetomidateが頻用されるが日本では使用されない
・そのような場合にはketamineが良い代替薬となる
・midazolamなどのBZDは日本では広く使用されており、持続鎮静目的にもよく使われる
・propofolも使用可能だが低血圧リスクのため注意を要する
薬剤
|
Dose
|
Onset
|
作用時間
|
特徴
|
副作用
|
主な適応
|
Etomidate
|
0.3mg/kg
|
15-45s
|
3-12min
|
・onsetが速い
・作用時間も短い
・血行動態に影響が出にくい
|
・副腎皮質抑制の可能性がある
・ミオクローヌス
|
・RSIで最もよく使用される
・挿管後の管理には使用されない
|
ケタミン |
1-2mg/kg
|
45-60s
|
10-20min
|
・呼吸抵抗を減らす
・カテコラミンリリース(昇圧作用)
|
・血圧上昇
・頻脈
|
・重度の気管支攣縮がある血管動態安定した患者
・difficult airwayが予想されるseptic shockのnon-RSI
|
|
0.1-0.3mg/kg
|
30-60s
|
15-30min
|
・健忘作用
・抗けいれん作用
|
・低血圧
・呼吸抑制
|
・挿管後の管理にも使用できる
|
|
1.5-3mg/kg
|
15-45s
|
5-10min
|
・onsetが速い
・作用時間が短い
・呼吸抵抗を減らす
|
・低血圧
|
・気道閉塞
・痙攣重積
・挿管後管理
|
|
3mg/kg
|
<30s
|
5-10min
|
・脳保護作用
・抗けいれん作用
|
・低血圧
・呼吸抑制
|
・あまり使用されない
|
筋弛緩薬
・succinylcholineは効果発現が速いがいくつかの禁忌事項あり
◦熱傷、筋挫滅、脊髄損傷、腎不全など
・rocuronium…効果発現が速く、副作用が少なく、禁忌も少ない
◦さらに、sugammadexといった拮抗薬も存在
・ERにおいては挿管初回成功率と合併症発症率は2剤で変わりがない
薬剤
|
Dose
|
Onset
|
作用時間
|
特徴
|
副作用
|
主な適応
|
サクシニルコリン
|
1.5mg/kg
|
45s
|
5-9min
|
・onsetが速い
・作用時間が短い
|
・横紋筋融解
|
・禁忌以外の全ての患者
|
ロクロニウム
|
1mg/kg
※添付文書では6mg/kg
|
45-60s
|
45min
|
・onsetが速い
・作用時間が長い
・スガマデクスでリバース可能
|
・difficult airwayの際には注意を要する
|
・サクシニルコリンが禁忌の場合
|
直接喉頭鏡(DL) vs ビデオ喉頭鏡(VL)
・現代ではビデオ
喉頭鏡使用がairway management分野で台頭してきている
・ER/外傷/difficult airway/心停止患者においてビデオ
喉頭鏡の優位性が提唱されている
◦声門可視率上昇
◦初回成功率上昇
◦短時間での挿管可能
◦挿管合併症(食道挿管など)発症率低下
・術者の経験によらず、VLは口腔内構造物への負担減少効果あり
・日本では2016時点で初回挿管時にVL使用する施設が40%に達している
・laryngeal maskやlaryngeal tubeなど
→完全な気道確保までのつなぎとして使える
・
喉頭展開が不十分な患者に対する
気管挿管の際に使用できる補助手段
・原則的にはRSIされた患者に対する手段であり、DL/VLいずれでも使用可能
・
緊急気管挿管時、通常の喉頭鏡使用に比較してブジー使用群では初回挿管成功率が有意に高かった
Rescue method
・
最大の目標は初回気管挿管成功ではあるが、ERにおける失敗率は17-32%と高い
→失敗した時の代替手段を常に考慮しておくべし
RSI、輪状甲状靭帯切開
・初回挿管失敗のbackup planとしても使える
・ある報告によると、rescue methodの第一選択として20%で選択され、次回
気管挿管成功率を上昇させたという
・airwayが確保できず、酸素化が保てない場合にはcricothyrotomy適応となる
◦ERでの気道確保において0.2-0.5%ほどの頻度
・VLは患者の口から声門までを一直線にするような手技はせず適切な視野が確保できる
・ただし、VLのDLに対する優位性は依然として議論が残る
・
声門上デバイス(EGDs)はいつでも用意しておくべき
◦確実な気道確保ができるまでのつなぎといて酸素化と換気に有用
挿管実施者交代
・挿管失敗した場合にはより経験のある医師に交代することが推奨
◦2回目の挿管において同一者がやるより手を代わった方が挿管成功率が高い
特殊環境下における気管挿管
外傷
・ERにおける
気管挿管のうち、10-30%が外傷に関連する気道の異常とされる
◦初回挿管成功率は64-86%
◦緊急性が高い
◦解剖学的な異常(損傷)
‣頸椎損傷の可能性を考慮すると適切なpositioningがとりづらい
◦口腔内分泌物や血液
◦嘔吐のリスク
◦血行動態不安定
・difficult airwayでなさそうであればRSIが推奨されている
◦北米では外傷に対して85%がRSI実施
‣日本では35%程度にとどまる
・Ketmineは循環呼吸状態に影響を与えないため好まれる
◦以前は頭蓋内圧を亢進させるとの報告もあったが…
◦現代のエビデンスではketamine使用を否定する根拠に乏しい
‣酸素消費量を増大させない
→カテコラミンによる脳還流増加によって生じる頭蓋内損傷を抑える
・propofolやBZDは血行動態が安定している場合には使用可能
・RSIの際に使用される筋弛緩薬としてはsuccinylcholineがそのonsetの速さと
半減期の短さから好まれる
・外傷の場合には口腔内の血液や嘔吐物などによりVLでは視野が確保しにくいかも
心停止
◦でも意外とCPR中の挿管については完全に確立された戦略はない
・初回挿管成功率は36-94%、合併症発症率は9-27%
‣ROSC率低下
‣ROSCまでの時間延長
‣蘇生開始15分でのROSC率低下
・VLはDLよりも良いかもしれない
◦初回挿管成功率上昇
◦胸骨圧迫中断時間減少
・初回挿管成功率は経験値ともろに関連する
◦熟練者 vs 初心者では初回成功率は82% vs 36%
◦240回以上の挿管経験があれば90%の確率で胸骨圧迫中断10秒未満で挿管可能と報告
小児
・18歳未満の患者に対する初回挿管成功率は60%と低い
◦2歳未満では50%に落ちる
◦患者全体では74%の成功率
・小児分野では経験がより大きな意味を持つ
◦上級医では89%、後期研修医では43%、研修医では35%
・小児に対する気道確保の原則は成人とほぼ同じ
◦年齢や体格により使う薬剤量やデ
バイスが異なるためlength-based resuscitation tapeを使うとよい
・
小児は機能的残気量が少なく、酸素代謝が成人よりも高い
→低酸素血症をより早期に発症しうる
・小児に対してもRSIを行うことで挿管成功率を改善するとされている
・ERにおいてapneic oxygenationは挿管中の低酸素血症リスクを低下させる
・小児症例では9%がdifficult airwayと報告あり
◦舌/
扁桃腺/アデノイドや後頭部が大きく、上気道閉塞につながりやすい
◦大きく軟な
喉頭蓋や
喉頭が比較的近くにあることから声門を観察しづらい
まとめ
・difficult airwayが予測されない場合にはRSIを選択せよ、挿管成功率が上昇する
・difficult airway予測にはupper lip bite testやmodified LEMON scoreが使える
・気管挿管前には準備が必要、「STOP-MAID」でもれをなくせ
・挿管中の低酸素血症は合併症や不良な予後に関連するためpreoxygenationはしっかりと行うこと
・apnic oxygenationは積極的に行うこと、HFNCとリザーバーマスクを組み合わせる
・低酸素血症が強い場合や興奮してpreoxygenationがうまくいかないときにはDSIを選択せよ。筋弛緩薬の投与はいったん見送って鎮静薬で酸素化を補助する
・前投薬、鎮静薬、筋弛緩薬についてそれぞれの使用薬剤の利点と弱点を知っておく
・ビデオ喉頭鏡を使用することで初回挿管成功率が上がるかも。でも唾液や吐物があると使いづらい。
・挿管が難しいときにはその他のデバイス(声門上デバイス、ブジー)、輪状甲状靭帯切開を選択。
・「ケタミン使用で頭蓋内圧上昇」は明確な根拠なし!外傷で必要な際には積極的に使用してよい
・小児は低酸素血症をより早期に発症する。積極的なapnic oxygenationをせよ