りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。

消化管出血 上部消化管出血を中心に

上部消化管出血は下部に比較して死亡率が3倍ほどで、結構怖い疾患です。

先日、胃静脈瘤破裂に遭遇しましたがなかなかタフな戦いでした…。

 

今回は上部消化管出血についてまとめてみます!

 
※以下を参考にしました。
(Emerg Med Clin North Am. 2016 May;34(2):309-25.)
(Emergency Medicine Reports June 15, 2019)
 

 

疫学

上部消化管出血

・10万人当たり67-150人ほどの発症率
死亡率…6-15%
 ◦発症率は減少傾向だが、その死亡率や治療後の再出血率はあまり近年変化がない
・上部消化管出血は全消化管出血のうち75%を占める
 ◦消化性潰瘍(PUD)、胃十二指腸びらん、食道胃静脈瘤、悪性腫瘍など
  ‣PUDが上部消化管出血のうち40-55%と大部分を占める
  ‣肝硬変あれば食道静脈瘤を疑うこと…死亡率は最大20%、再出血率25-30%
 ◦NSAID使用、Helicobacter pylori感染、ストレス性粘膜障害などもあり

下部消化管出血

・10万人あたり20-36人ほどの発症率
死亡率…約4%と上部消化管出血に比較して低率
・高齢者、男性でリスクが高い
・原因…憩室出血、血管異形成、大腸炎、大腸癌、炎症性腸疾患など
 ◦憩室出血…17-40%を占める
  ‣80歳以上の高齢者の2/3に憩室があると推定されている
上部消化管出血に比較してHb値が高い、ショックを呈しにくいなどの特徴あり
 ◦大腸出血は小腸出血に比較して輸血が必要になることも少ない
 ◦再出血率は10-20%と高い、手術による止血が必要になることも10-15%と多い

よくある疾患

上部消化管出血
下部消化管出血
・消化性潰瘍
・AGML
・食道胃静脈瘤
・Mallory-Weiss症候群
・異物誤飲
・Dieulafoy潰瘍
・血管異形成
・悪性腫瘍
・憩室出血
・血管異形成
・悪性腫瘍
・炎症性腸疾患

 

Workup

バイタルサインと病歴聴取

・バイタルサインと最低限必要な病歴聴取にまずは集中
 ◦出血部位はどこか?出血量はどうか?再発頻度はどうか?など
バイタルサインで重症度を判定することがマネジメントの入口
 ◦軽度~中等度の出血…安静時頻脈
 ◦15%以上の失血があると起立性低血圧を発症する
 ◦40%を超える場合には仰臥位での低血圧が出現
・腹痛はあるか?
 ◦虚血、炎症、穿孔などと関連
・以下の所見は重度の出血と関連があるとされる
 ◦頻脈…LR4.9
 ◦Hb<8g/dL…LR4.5-6.2
 ◦経鼻胃管から血液がひける…LR3.1
  ‣ただし、検出感度は42-84%であり、その有用性は疑問視
・合併症についてアセスメントする
 ◦アルコール量
 ◦薬剤使用…NSAID、抗血小板薬、抗凝固薬、SSRI(発症率2倍)
 ◦肝硬変/C型肝炎
 ◦弁置換術後
 ◦血栓塞栓症既往
 ◦心房細動などの心疾患
 ◦旅行歴や移民…H.pyloriのリスクを増加させる
・血管異形成…腎臓病、大動脈弁狭窄症、遺伝性出血性毛細血管拡張症などが関連
・PUD、悪性腫瘍…喫煙、NSAID、H.pylori既往

身体所見

・直腸診とともに慢性肝疾患の徴候がないか検索
・直腸診
 ◦患者からの申告は尿や膣からの出血/食物やビタミン摂取による便色異常と誤りうる
 →患者の話だけを聞いてやる必要がないと簡単に却下しないこと
※でも個人的にはあまりやりません。おしりの穴に指を入れときはそれによって明らかにマネジメントが変わるときだけです。
 ◦痔や裂肛などほかの疾患の評価にも使える
・慢性肝疾患の徴候について考慮
 ◦黄疸、腹水、手掌紅斑、クモ状血管腫、肝脾腫、女性化乳房など
 →これらがある場合には食道静脈瘤を想起する
手術痕…大動脈消化管瘻の可能性を考慮
 ◦特に大動脈瘤やグラフトがある場合
・機械弁特有の聴診所見
 ◦これがあれば抗凝固薬使用を示唆
・精神状態の異常…循環低下の早期所見の可能性あり
・心血管疾患/肺疾患/腎疾患
 ◦より重度の貧血、凝固機能障害、誤嚥リスク、HIVリスク、容量負荷の問題
・上部消化管出血を示唆する所見は以下
 ◦患者からの黒色便の申告…LR5.1-5.9
 ◦直腸診で黒色便を認める…LR25
※黒色便は50mlほどの出血量でみられうる
 ◦経鼻胃管からの血液または黒色物吸引…LR9.6
 ◦BUN/Cre>30…LR7.5 
・高齢者では上部消化管出血に伴うACSリスクが上昇
 ◦以下の合併症があるとその可能性はさらに上昇
  ‣糖尿病…OR1.84
  ‣バソプレシン使用…OR1.51
  ‣肝硬変…OR2.43
  ‣Hb値低値…OR2.36
  ‣ACS既往…OR1.98

血液検査

・血算、生化学(特にBUN/Cre)、凝固
 ◦肝不全がある場合にはPT>20/INR>6.5であると高い死亡率と関連
  ‣凝固系の異常が検出されなくとも肝硬変の場合には凝固障害を否定できない
  ‣より正確性を重視するのであれば thromboelastographyがある
 ◦特にBUN/Cre>36では上部消化管出血を強く示唆
 ◦BUN/Cre>30…上部消化管出血に対して特異度93%/+LR7.5だが、感度39%と低い
・血液ガス分析…乳酸が高いときには緊急内視鏡をしたほうがよい
 ◦乳酸値>4mmol/L…院内死亡率を6.4倍にする(特異度94%)
 ◦乳酸値が1mmol/L上昇するごとに死亡率が1.4倍ずつ上昇
 ◦血行動態が安定している患者において24時間以内に低血圧を来す危険性を予測可能
  ‣乳酸値>2.5mmol/L…特異度90%、陰性的中率84%
  ‣乳酸値>5.0mmol/L…特異度98%、陰性的中率87%
・肝障害があり、意識障害を呈している場合にはアンモニア測定もしておく

心電図

・虚血評価のため必須
・心筋逸脱酵素とともにチェック

造影CT

・以下の場合には内視鏡に先んじて造影CT実施が推奨される
 ◦血行動態不安定
 ◦初期蘇生に反応性不良
 ◦活動性出血を疑う場合
・下部消化管出血を疑う場合にも上部の除外が必須

核シンチグラフィー

・ほんのわずかな出血源も検出可能(0.1-0.5ml/min)
 ◦感度86%であり、腸間膜血管造影よりも感度が高い
 ◦一方で特異度は50%と低い
 ◦test中に出血がたまたま止まっていると検出できない、test中には介入不能という不利な点もある

カプセル内視鏡、小腸内視鏡

・下部消化管出血を疑うが大腸に病変がなく、小腸からの出血を疑う場合には選択肢になる
・小腸内視鏡は近位部60cmほどまでしか観察範囲がない

リスク評価

・消化管出血の短期/長期の合併症発症率や死亡率についてリスク層別化が可能

Glasgow-Blatchford score(GBS)

・上部消化管出血患者において入院が必要か外来フォロー可能かを判断
・Hb、収縮期血圧、頻脈、失神の有無、黒色便、肝疾患、心不全を評価
・合計23点中7点以上…介入が必要な可能性が50%を超える
 ◦0点であれば安全に帰宅可能とされている…緊急内視鏡不要(LR0.02)
 ◦1点でも安全に帰宅可能という最近の報告あり:感度98.6%/特異度34.6%

Rockall Score

内視鏡施行前死亡率、内視鏡施行後死亡率や再出血率を評価できる

 ◦年齢、併存症、ショックの有無、内視鏡所見を基に算出

 ◦それぞれ0-11点で構成され、合計点が高くなるほど予後不良

AIMS65 Score

 

・GBSに比較して新規で簡単なリスク評価可能
・入院における上部消化管出血による死亡率を予測可能
・Alb<3.0g/dL、INR>1.5、GCS≺14、SBP<90mmHg、年齢>65歳
・上記が増えるほど死亡率が上昇し、全て揃うと25%の死亡率

 

それぞれのスコアリングの特徴

 

・GBSはER受診時の状態で評価でき、16-25%の患者は外来フォロー可能になる
GBSは他の2つのスコアリングよりも以下の検出力が優れている
 ◦高リスクな上部消化管出血
 ◦入院の必要性
 ◦介入の必要性
 ◦輸血の必要性
 ◦手術
 ◦出血後30日以内の不良な転帰についてはGBS0点…感度99%/特異度8%と優秀
肝硬変患者の不安定な上部消化管出血における死亡率評価は3つのリスクスコアよりMELD scoreで優れていた
 ◦MELD vs GBS vs Rockall…AUCはそれぞれ0.736/0.527/0.591
・消化性潰瘍により死亡した患者の解析では、80%は出血関連死ではなく多臓器不全/心肺疾患/悪性腫瘍であったとされる
 ◦予後は既存症(特に肺疾患/心疾患/悪性腫瘍/肝疾患/アルコール依存/CKDなど)に左右されるといえる

 

一般的なマネジメント

血行動態の安定化

・16-18G針での末梢静脈確保、晶質液投与
 ◦どうしても末梢ルート確保困難であればCVC
輸液は多すぎると予後を悪くしてしまう!
 ◦凝固因子が薄まってしまう
 ◦血液製剤の早期投与を行う
 ◦出血がコントロールできるまではある程度の低血圧は許容
 …permissive hypotension
  ‣意識変容や橈骨動脈を触知しない場合(目安はSBP90mmHg)以外には大量輸液は推奨されない
・以下の場合にはRBC輸血を早めに開始すること
 ◦晶質液に反応が乏しいショック
 ◦活動性出血が疑われる場合
 ◦重度の貧血(Hb<7g/dL)

凝固機能障害はないか?

・大原則は、以下の状況がなければデータ補正は不要ということ
 ◦臨床的に重大な出血がある
 ◦外科的介入を必要としている
・あまりエビデンスのない分野であり、expert opinionに依るところが実は大きい
抗凝固薬内服中患者では以下の方法でreverseを試みよ
 ◦warfarin…PCC投与
 ◦dabigatran…idarucizumab
 ◦活性型Xa阻害薬…PCC(効果は限定的かも)

上部消化管出血のマネジメント

輸血

・急性出血患者のER受診時には、Hb値は患者のbaselineから変化がないことはよくある
 ◦赤血球サイズは正球性となっている
 ◦慢性出血の場合には小球性貧血を呈しているはず
Plt<50000、INR>2であればそれぞれ輸血を要する
 ◦PCC投与も考慮される
日本ならば8単位ごとにFFP2-3単位投与
 ◦RBC中には凝固因子は含まれていないため

止血剤

・トラネキサム酸(TXA)…血餅形成を促進させる
 ◦重度の出血に対しては考慮されてもよい
  ‣TXA vs placebo…再出血率に有意差なし、死亡率はTXA群で改善
  ‣TXA vs cimetidine/lansoprazole…死亡率に有意差なし
・もともと内服していたアスピリンをどうするか問題
 ◦エビデンスの質は低いが、基本的には心血管疾患のリスクが高い場合にはアスピリンは休薬しないことを推奨
  ‣アスピリンによる心血管イベント抑制効果が休薬の利点に勝る

PPI

・初期対応時にルーチン使用されている
 ◦上部消化管出血時の初期対応としての使用については限定的なエビデンスしかない
 ◦既知の消化性潰瘍があった患者への使用で最もbenefitが大きい
  ‣それ以外の原因による上部消化管出血での有効性は明らかではない
再出血/内視鏡再試行や手術の必要性を減少させる効果が報告されている
 ◦ただし、死亡率という観点からは使用には優位性はなさそう
・アジア人では生存率改善の効果があるかもしれない
・使用方法については新旧いろいろ
 ◦ガイドラインでの推奨レジメン
  ‣pantoprazole 80mg IV
  ‣それに続き、8mg/hrで持続静注(72時間)
 ◦高リスクな出血性潰瘍に対するPPI間欠投与は持続静注投与と比較して非劣性との研究結果もあり

ソマトスタチン

・脾/肝/内臓血流を低下させグルカゴンの血管拡張作用を間欠的に阻害する
・食道静脈瘤性上部消化管出血に対して使用されている
 ◦臨床的な利点は限定的
  ‣内視鏡処置の成功率を上昇させ、輸血必要率を下げるかもしれない
  ‣死亡率に関与するという報告はない
 ◦胃ホルモン分泌を低下させ、食道静脈瘤からの出血を減少させる
 ◦25-50mcg IV bolus投与に続き、25-50mcg/hrで持続静注

バソプレシン

・脾循環系の血管収縮を起こすため、理論的には門脈圧低下効果が見込める
・実際問題としては上部消化管出血に対して投与することはcontroveresial
 ◦全身血管収縮作用がある→心筋梗塞をはじめとした臓器虚血と関連
 ◦静脈瘤からの出血には理論的に効果があるが、消化性潰瘍にはリスクを増やすのみ
  ‣消化性潰瘍からの出血は主に動脈性であるため
 ◦出血源が不明の状態で投与することは出血リスクを増やしてしまうかも

プロプラノロール

・非選択性β-blocker
・肝静脈圧勾配を減少させる
・食道静脈瘤破裂予防や再出血予防には効果が望める
 ◦使用により死亡率20%減少効果あり

抗菌薬投与

食道静脈瘤破裂の際に抗菌薬投与することで生存率上昇に効果あり
 ◦肝硬変患者はしばしば免疫不全状態
 →腸管細菌がbacterial translocationを起こして血流感染を起こしうる
  ‣7日以内の感染率36%
 ◦細菌感染が起きると再出血率も高まる
・予防的抗菌薬により全感染症発症率、SBP/肺炎/尿路感染/菌血症発症率が低下
 ◦細菌感染…NNT4
 ◦死亡率…NNT22
・どの抗菌薬がよいかは優位性なし
 ◦現代ではceftriaxoneがよりよい選択肢になるかも

内視鏡

・重度の上部消化管出血が疑われる患者では早期に消化器内科コンサルトが推奨される
 ◦内視鏡実施のタイミングについて決定
 ◦6時間以内 vs 6-24時間以内の内視鏡ではあまり予後に有意差がないかも
  ‣死亡率
  ‣手術必要率
  ‣輸血必要率
※日本では内視鏡検査へのアクセスが比較的良いと思うので、なるはやがいいとは思います。
 

SBチューブ

・食道静脈瘤など疑い、さらに迅速な内視鏡ができない状況で有用
・特に状態が不安定な場合の一時的な止血に使いやすい
・これ以外の上部消化管出血に対しては効果なし
・長期留置による壊死や破裂には注意を要する
 
入れ方は勉強しておいた方がいいです。
 

手術やIVRなど

内視鏡治療が広く浸透し技術も向上したことから手術の役割は小さくなってきている
・現代では内視鏡が第1選択、IVRが第2選択(5-10%の症例で必要になる)、手術は第3選択
内視鏡治療によっても出血が持続する場合にはIVRの出番
 ◦手術に比較すると合併症が少ないためreasonableな選択肢

下部消化管出血のマネジメント

・不安定な場合には上部消化管出血の除外が重要
 ◦下部消化管出血と思っても15%は上部に出血源がある!

輸血

・INRや血小板を参考に輸血
 ◦INR1.5-2.5…内視鏡に加えて、その前後いずれかにreverse
 ◦INR>2.5…内視鏡前にreverse
 ◦血小板≺50000…血小板輸血実施

大腸内視鏡

・診断的手段の第1選択
 ◦下部消化管出血の74-80%の患者で出血源を同定可能
 ◦クリップやアドレナリン注射などにより治療も可能
・タイミングについてはcontroversial
 ◦8時間以内 vs 48時間以内では予後に有意差なし
 ◦ただし、以下のような場合には24時間以内に施行されるべきである
  ‣血行動態不良
  ‣高齢者
  ‣アスピリン使用、INR延長
  ‣既存症が複数ある場合

血管造影

大腸内視鏡で出血源を特定できない場合や出血の程度が重度である場合に選択される
 ◦約5ml/minほどの出血量があれば同定可能
 ◦出血源特定に加え、治療的介入もそのまま可能
  ‣選択的バソプレシン注入や塞栓物質注入など
 ◦それなりに出血していないと同定できないため感度は30-47%ほどしかない
・著明な出血を呈している場合の緊急血管造影により合併症発生率、死亡率、予後を改善する効果あり

手術

・出血源特定ができなかった場合で、血行動態不安定であれば選択肢になる

 

まとめ

・標準的な初期蘇生を行うこと
 ◦晶質液投与、でもpermissive hypotension戦略
 ◦改善しないショックや活動性出血、Hb<7g/dLには輸血
・活動性出血に対しては抗凝固薬の拮抗を考慮すること
・帰宅可能な患者をGlasgow-Blatchford scoreを使用してあぶりだせ
・消化性潰瘍を疑う患者にはPPIを投与せよ
・食道静脈瘤を疑う患者に対してはオクトレオチドと抗菌薬を投与せよ
・重度の出血では消化器内科へコンサルトし内視鏡について検討せよ 

 

 

下部消化管出血マネジメントについてはこちら

下部消化管出血 ガイドライン - りんごの街の救急医