院外心停止患者の蘇生後、まず最初になにをやりますか?
AHAガイドラインではSTEMIの場合には緊急CAGを行うことが推奨されています。
これにより、生存退院率や神経学的予後の改善につながるとされています。
では、STEMIを認めなかった場合には緊急CAGはやらなくてよいのでしょうか?
ん~、やっぱり心臓は見ておきたいなぁというのが現時点の自分の意見ですが、この疑問に応えてくれそうなtrialが発表されました。
※なお、この分野に関しては現在DISO/ACCESS trialも進行中です。
COACT trialです。
(N Engl J Med. 2019 Apr 11;380(15):1397-1407.)
COACT trial
「不整脈に起因すると考えられるが明らかなSTEMIを認めない院外心停止蘇生後患者において、即座に血管造影検査を行うと90日生存率を改善させることができるか?」という重要なテーマについて調べたtrial。
STEMIに対してPCI施行することは死亡率を低下させるということは周知の事実です。
しかしながら、現時点ではSTEMI以外の患者に対する早期CAGの有効性は不明確です。
本研究は院外心停止後患者でSTEMIではなかった場合の早期CAGについての有効性を調べた最初のRCTです。
・医師主導型、ランダム化、非盲検、多施設試験
◦患者はWebベースのランダム化システムでimmediate群とdelayed群に1:1に割付
◦90日生存率について両群間で40%の相対差を検出するために85%の検出力で設定
◦90日生存率に40%以上の差異が認められない場合にはサンプル数を増やせるように設計
・Inclusion
◦初期波形がshockable rhythmであった院外心停止+ROSC後も意識障害あり
・Exclusion
◦ERでの心電図波形がSTEMI
◦30分以上にわたり収縮期血圧≺90mmHg
◦冠動脈疾患以外の疾患が明らかか、その疑いがある症例
◦既知の腎障害(GFR<30)
◦妊婦
◦頭蓋内出血、脳梗塞が疑われる症例
◦DNR指示
◦病前のPS3-4
◦ROSCから4時間以上経過
◦90日間のフォローアップ不能と考えられる患者
・538人がランダム化
◦患者のベースライン特性は同等だったが、immediate群では目標体温達成までの時間が長かった(5.4時間 vs 4.7時間)
・Immediate群ではランダム化から2時間以内にCAG実施
・Control群では神経学的回復が見られた後(通常はICU退室後)にCAG実施
・両群に対して以下が施行された
◦心原性ショック、致死的不整脈再発、虚血徴候再発の場合にはCAG実施
◦抗凝固薬の選択や血行再建方法については各担当医師の裁量に任せられた
◦冠動脈狭窄>70%、プラーク破裂の徴候がある場合には治療対象として推奨
◦多枝病変の場合にはlocal protocolやSYNTAX scoreにより血行再建方法が検討された
◦蘇生後の治療はガイドラインに順守
◦TTMはlocal protocolに従ってできる限り早く開始された
・primary outcome…90日生存率
◦64.5%(176/273) vs 67.2%(178/265)、統計学的有意差なし
…OR 0.89; 95%CI 0.62-1.72
◦死亡に関しては心臓由来よりも脳神経由来が3倍多かった
◦冠動脈造影までの時間…2.3時間 vs 121.9時間
◦血栓閉塞…3.4% vs 7.6%
◦PCI…33.0% vs 24.2%
◦immediate群ではglycoprotein IIb/IIIa inhibitorでより治療されていた
・secondary outcome…良好な神経学的予後
◦62.9% vs 64.4%、統計学的有意差なし
‣OR 0.94; 95%CI 0.66-1.31
◦以下の項目にも有意差はなかった
‣ICUからの生存退院率
‣主要な出血率
‣不整脈再発率
‣昇圧薬使用時間
‣人工呼吸期間
‣腎代替療法必要率
◦目標体温までの時間はimmediate群で有意に長かった
‣5.4hr vs 4.7hr; OR 1/19; 95%CI 1.04-1.36
結果はどうでしょう。あんまり早くCAGに行っても(それでも2時間近くかかっていますが…)生存は増やさないかもしれません。
心停止後マネジメントの重要な分野の研究ではありますが、以下のLimitationがあります。
・オランダ国内だけでのtrial
・盲検化は介入の性質上困難である
・目標体温までの時間がことなることは交絡因子になりうる
・不安定な冠動脈病変を有していた患者は20%未満と少なく、冠動脈への介入がされたのは40%に満たなかった
ということは、より狭いinclusion criteriaを設定すればhigh risk患者を同定できたかもしれません。Supplementary Appendixでは、70歳以上や冠動脈疾患既往がある患者にしぼればより良い結果が出たかもしれないことが示唆されていました。
今後の研究材料になりそうです。まだまだ結論は早いですが現時点でのまとめは以下です。
「初回shockable rhythmでSTEMIの徴候がなく、心原性ショックや再発する致死的不整脈が見られないような院外心停止からのROSC患者に対するCAG検査は即座に行なっても状態が安定してから行っても90日生存率に有意差はない」
まとめ
・初回shockable rhythmでSTEMIの徴候がなく、心原性ショックや再発する致死的不整脈が見られないような院外心停止からのROSC患者に対するCAG検査は即座に行なっても状態が安定してから行っても90日生存率に有意差はない
・もしかしたら、70歳以上や冠動脈疾患患者に絞ってやれば効果的かも⁉
・現在、DISCO trial, ACCESS trialが進行中