りんごの街の救急医

青森県弘前市の救急科専門医による日々の学習のまとめブログです!間違いなどありましたら是非ご指摘下さい。Twitterでも医療系のつぶやきをしています@MasayukiToc

review:"造影剤腎症"はあまり考えなくてよい

興味深くて、しかもopen accessのまとめを見つけたので再度読んでみます。

 

非常によくまとめられていて造影剤と腎障害の関係性、予防方法(腎代替療法含む)、動脈内投与はどうなのかなどが俯瞰できました。もうしばらくこの分野の総説は読まなくてよさそうだ~。

 

Lakhal K, Ehrmann S, Robert-Edan V. Iodinated contrast medium: Is there a re(n)al problem? A clinical vignette-based review.
Crit Care. 2020 Nov 10;24(1):641.
PMID: 33168006; PMCID: PMC7653744.
 

造影剤が腎障害を起こす機序

・造影剤は以下の機序で腎毒性を示す可能性がある
 ◦造影剤により誘発される血管収縮により腎血流が低下して腎虚血を発症する
 ◦活性酸素の放出
 ◦直接的な尿細管毒性
  ‣浸透圧性腎症/アポトーシスの誘導/細胞エネルギー障害
 
上記のような機序が想定されています。
では、これは臨床的にどうなのでしょうか。以下、見ていきましょう。
 

これまでの"造影剤腎症"研究の欠点と見えてきた真実

・造影剤曝露における腎障害リスクを評価する研究の大部分には、対象群(造影剤に暴露されていないが曝露された患者と同様のAKIリスクを持つ患者)は含まれていなかった
 ◦重症患者への画像検査後のAKI発症率を報告しているに過ぎない(造影剤の腎毒性を報告したものではない)
 ◦画像を行う時点で患者はAKIのいくつかのリスク因子を持っていた
  ‣糖尿病
  ‣慢性腎臓病
  ‣敗血症
  ‣低血圧
  ‣心拍出量の低下
  ‣造影剤以外の腎毒性薬使用
・造影剤曝露後数日以内に発症したAKIでは、造影剤が原因かその他のリスク因子によるものかが不明瞭、そしてどのくらい造影剤がAKIに寄与するかも不明
 ◦この不確実性があるため、造影剤曝露によるAKIかその他のリスク因子によるAKIかを判断するために対照群を設定した研究が重要となる

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どうしても重症になればなるほど、造影剤以外のリスク因子を併発しているものです。
歴史的には造影剤が過度に悪者にされてきましたが、時代が進むにつれて研究方法が洗練されてきてその考え方に疑問符(というよりもはや否定的だが)が付くようになりました。

 

対照群を設定した入院患者へのmeta-analysisでは、造影剤投与群と非投与群ではAKIリスクは同等であったと報告された
 ◦この結論は、特にAKIリスクがある患者(糖尿病やCKD)のサブグルーブでも一致していた
 ◦この所見は米国の600万人を超えるレジストリの研究でも確認された
 
選択バイアスがあるのでは?(造影剤投与はAKIリスクがある患者には差し控えられたのではないか?)と疑問を呈されることがあるが…
 ⇒これらの問題を克服することは容易ではなく、患者に造影剤検査を受けるかどうかをランダムに割り当てる介入研究デザインは非常に多くの集団を要し、さらに倫理的問題も絡む
造影剤投与をしない場合には患者の状態が悪化し、AKIを含む多臓器不全へと至る可能性がある
 
・したがって、造影剤曝露を受けた患者と受けていない患者のAKI発症率を比較しても造影剤の毒性と造影剤使用を差し控えることの有害性を区別することができない
 
・造影剤投与を受けるか否かの無作為化を模したpropensity score approachを用いて、造影剤曝露を受けた患者とベースラインリスクが同じ非曝露患者をマッチングさせる方法がある
 ◦このデザインを採用した観察研究では、画像診断後のAKI発症率が同程度であることが確認されている
 
・同様にICUでは同一患者に腎疾患のリスク因子が重なることが多いためAKIが大きな問題となるが、propensity score-match分析を用いた対象研究でも造影剤がAKI発症を誘発することは示せなかった
 
数千人ものマッチした患者を含むretrospective studyでは、造影剤の静脈内投与とAKI/腎代替療法/死亡率との因果関係は証明されなかった
 
・同様の結果はICU患者を対象としたmeta-analysisや前向き研究からなるmeta-analysisでも確認されている
 
・さらにERでの研究でも同様の結果であることが報告されている

 

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・数時間~数日以内に発症する複数の原因による腎障害のうち、造影剤が特定の原因になっているかどうかを評価するには血清Creのような"遅延"バイオマーカーは適さないかもしれない
 ◦AKIの早期発見のためのより特異的で高感度なバイオマーカーとしてTIMP-2とIGFBP-7の組み合わせは提案されている
 
・それでも、造影剤を静脈内投与してもICU患者の尿中TIMP-2やIGFBP-7に有意な変化は見られなかった
 
・上記所見は造影剤は臨床的に重要な腎毒性を持つとはいえないという説を支持するものであろう
 
投与量に加えて、造影剤の浸透圧も重要である
 
・歴史的にCA-AKIが最初に記載された研究では高浸透圧性造影剤を使用しており、現代の低~等浸透圧性造影剤よりも腎毒性が高いため、今では議論の的とならなくなっている
 
・造影剤曝露を受けた患者と受けていない患者のAKI発症率が同程度であることを報告した上述の観察対照研究は、現代の造影剤が腎機能に与える臨床的影響が小さいことを示唆している
 
・別の解釈として、造影剤のよる腎症への懸念があったからこそ造影剤に関連した腎障害リスクを軽減することを目的とした徹底した処置前管理(腎保護対策/造影剤の合理的な投与方法(種類/量/投与時期))が促された可能性もある
造影剤の腎毒性に関する懸念が軽減されたとしても造影剤の腎障害リスクや腎障害以外のリスク(アナフィラキシーや追加の放射線被ばくなど)に対する注意は常に必要になる

 

造影剤曝露で腎障害を発症するなんてことは実はなさそうだ…ということが近代になって様々な研究からわかってきました。研究手法の問題であったり、そもそもの併存疾患/重症度からAKIリスクが高かったり、むかーしむかし使っていた造影剤の浸透圧が現代と異なっていたり…などなどの要素が絡んでいたようです。

それにしても造影剤ってずっと悪者で、いつまでもその認識がなくなりませんよね…。

とはいえど、手放しで全く影響がないかというとそうとも言えません。以下に記載するようにちゃんと血管内容量を保つとか、他の腎毒性薬剤を併用しないとか、複数回不用意に使用しないとかそのあたりの注意は必要です。

よって、造影剤腎症という呼称は、造影剤による腎障害リスクを誇張してしまう印象があるため推奨されなくなりました。

このあたりの歴史的なところは以下を参照してください。

appleqq.hatenablog.com

 

CA-AKIのリスク因子

・高浸透圧性造影剤/イオン化造影剤や高粘度造影剤は現代ではめったに用いられなくなった
 
・造影剤注入量は可能な限り少なくする必要がある
 
・短期間に造影剤に繰り返し曝露された場合の腎臓への影響はより適切に評価されなくてはならない
 
CA-AKIのリスク因子は非特異的であり、AKIのリスク因子と共通している
 ◦糖尿病
 ◦慢性高血圧
 ◦高齢
 ◦悪性腫瘍
 ◦代謝障害
 ◦貧血
 ◦心不全
 ◦循環血液量減少
 ◦低血圧
 ◦炎症/敗血症
 ◦腎毒性薬剤…ACE-I/ARB, 利尿薬, 抗菌薬, メトホルミンなど
 ※メトホルミンはCA-AKIのリスク因子ではありませんでした。腎機能が悪いにもかかわらず投薬がされている場合に造影剤曝露があると乳酸アシドーシスを発症する可能性が出てきます。

CA-AKIの予防

・約200件のRCTで、CA-AKIの薬理学的予防が検証された
 ◦これらのRCTには42000人以上の患者が登録された
  ‣N-acetylcysteine…>6000人
  ‣輸液…>5000人
  ‣炭酸水素ナトリウム…>3000人
  ‣スタチン…>3000人
 ◦それぞれの予防法については研究毎に/meta-analysis毎に矛盾した結論となっている
 
大規模RCT(約5000人のCA-AKIリスクのある患者…既存の腎機能障害がある)では、予定されている血管造影検査(冠動脈など)に対するN-acetylcysteinのプラセボに対する優位性も、炭酸水素ナトリウムの生食に対する優位性も示されなかった
 
ICU患者ではN-acetylcysteinや炭酸水素ナトリウムで同様の結果が示されており、推奨されていない
 
適切な体液量を維持することがAKI予防の柱である
 ◦過剰になると有害になることを忘れてはならない
  ‣腎機能低下(eGFR<60mL/min/1.73m2)+造影剤曝露を受けた場合、生食予防的投与はCA-AKI発症率は低下せず、4%でうっ血性心不全を呈したという報告もある
 
予防的戦略の有効性を示せなかったのは、そもそも現代使用されている造影剤の毒性自体の臨床的影響がほとんどないことと関係があったのかもしれない(そもそもの研究の仮説が誤っていた)
 
結局、これぞ予防法!と呼べるものもありません。
適切な体液量を維持することが重要という以外には有効性があるものはなさそうです。
不用意に炭酸水素ナトリウムを使っても体液量過剰になることもありますし、有害性が勝ちそうです。
 

造影剤曝露後の予防的RRT

予防的RRTはすべきではない
 
・CKD+主に冠動脈造影を受けた1010人の患者を対象とした11の単施設研究のmeta-analysisによれば、RRTは造影剤除去については効果的であるにもかかわらず、CA-AKIの発症率を低下させないことが示された
 
・慢性透析を受けている患者への造影剤投与をした場合、いつRRTを行うか?
 ◦即座にRRTを行う利点を示す証拠はないため、従来のスケジュール変更をする必要はない
 
緊急透析も不要みたいです。
これって上述されていますが、造影剤の腎毒性自体が臨床的にほとんど影響を及ぼすものではないかもしれないということとも関連しますね。
 

造影剤の動脈内投与

造影剤の動脈内投与は静脈内投与に比較して腎毒性が高いと考えられがちではあるが、実は議論がある
 
・造影剤の腎毒性は否定できないケド…
 ◦冠動脈造影を受けた患者のサブグループ解析で、低浸透圧 vs 等浸透圧性造影剤を比較したRCTのmeta-analyssiでは低浸透圧性造影剤でCA-AKIの発症率が高かった
 ◦これは静脈内投与の場合には当てはまらなかった
 
・同一の患者における造影剤の静脈内投与と動脈内投与を比較すると、(retrospective studyのためバイアスの可能性はあるにしても)投与経路によるAKI発症率に影響がないことが報告されている
 
 
・投与経路以外にも、AKIを発症するかどうかは患者の状態に大きく依存する
 
待機的PCIは、STEMIに対するPCIよりもAKI発症率が著しく低い
 ◦待機的…1-2% vs STEMI…10-20%
 
 
・さらに複雑にしているのは、動脈内治療後のAKIは造影剤の毒性ではなく、カテーテルに関連した腎臓への障害に関連する可能性があることである
 ◦PCIの50%以上でguiding catheter留置により大動脈のプラークが破綻し、腎臓はアテローム性塞栓に関連した虚血にさらされる
 ◦他にも、hypovolemia/不整脈/心筋梗塞自体により腎灌流障害が起こることもまれではない
 
PCIによる造影剤曝露を受けたSTEMI患者は、propensity-matched control群(血栓溶解療法または再灌流療法を行わない治療を受けた患者)と比較して、AKI発症率は同等であった
 
・NSTEMI患者に対して入院後2日以内にPCIを行うことでAKIリスクがわずかに増加したが、透析や末期腎不全への長期進行リスクは増加しなかった
 
・腎障害リスクが高い患者に冠動脈造影検査を行った後、3か月の追跡調査で重篤な有害転帰を伴うCA-AKIの発症率は非常に低かった
 
PCIにより造影剤曝露を受けたACS患者が、曝露を受けていない患者よりもAKI発症率が低かったという予想外の研究もあることから、造影剤の腎毒性を考えるよりは早期治療を受けなかったことの方が有害と考えることもできる
 
・動脈内造影剤投与による腎臓への到達経路には以下の2つの経路がある
 ◦造影剤が希釈された状態で腎臓に到達…second-pass exposure
  ‣右室、肺動脈、腎より上の動脈(頸動脈/鎖骨下動脈/上腕動脈/冠動脈/腸間膜動脈)への選択的投与、腎臓より下の動脈
 ◦比較的希釈されていない造影剤が腎臓に到達…first-pass exposure
  ‣左室、腎臓より上の大動脈、腎動脈への選択的投与
 ⇒second-pass exposureによる動脈内造影剤投与は静脈内造影剤投与に比較して腎毒性は高くないとされている
 
・上述のようにfirst+second passの両方の腎曝露がある冠動脈造影やPCIでは造影剤毒性が高くなるという確証はないが、CA-AKIの予防策+カテーテル関連合併症の予防策を行うことは推奨される
 
 
投与経路による影響もさることながら、緊急治療が必要な病態が前提として存在していたことやカテーテルによる塞栓症などの合併症なども絡んでくるため、この分野の議論はより複雑だと思います。ここについては直接的に手を下す専門科ではないこともあり勉強不十分なのでもう少し勉強を進めて(あと研究が進んで)きたら改めて考えてみます。
 
 

まとめ

・造影剤の腎毒性に関してはおそらく誇張されている可能性が高く、腎への影響は最小限なのではないかと考えられる
・CA-AKIのリスク因子の大部分は重症患者ではAKIのリスク因子と共通している
・CA-AKIの予防には他のAKIの原因と同様に腎毒性のある薬剤の使用を控え、体液量を正常に保つなどの手段を講じるとよい。その他の手段についてはその有用性は明らかではないため、上記を行う方が効果的である
・造影剤曝露後の予防的RRTは正当化されない
・末期腎不全のために慢性透析を受けている患者であっても、RRTのスケジュールや画像診断手順を変更する必要はない
・造影剤をsecond-passで動脈内投与した場合に、静脈内投与よりも腎毒性が強いということは考えにくい。first-passについては不確実性が残る
・動脈内投与は造影剤の腎毒性とは無関係に腎合併症(塞栓症/循環不全など)を引き起こしうる
・造影剤の腎毒性に関する懸念が軽減されたとしても造影剤の腎障害リスクや腎障害以外のリスク(アナフィラキシーや追加の放射線被ばくなど)に対する注意は注意は常に必要になることは忘れずに