心停止患者にスパッと挿管ができたら、
あとは人工呼吸器に換気をお任せするのもいいかもしれません!
BVMでずーっと換気を続けてもいいですが、
そこに1人とられてしまうので、蘇生処置に割けるパワーが減ってしまうことがデメリットです。
それなら、換気は人工呼吸器に任せることも検討してみよう!
そうすれば、気道以外の蘇生処置にかかわれるスタッフが1人増えますよ!
※2025/10/24リライトしました!ERCガイドライン2025が出ましたので、その内容も記載しています。
蘇生中の人工呼吸器ってどうなん?
実際のところ、
心肺蘇生中に人工呼吸器を導入することが本当に有効かどうか、
適切な設定はどのあたりなのか、
などについてはまだはっきりしていません( ;∀;)
現時点では、状況に応じて選択肢の1つとして考えてもよい、くらいの位置づけでしょうか。
たとえば、
CPR中の動脈血酸素濃度(PaO2)が高いほど蘇生率が上がることが示唆されていますが、
CPR中の人工呼吸器とBVM換気を比較した研究では、両者のPaO2は同等でした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37709163/
こういったことからおそらく人工呼吸器の使用は、
実行可能かつそこそこ安全な方法と考えてよさそうではあります。
実際の人工呼吸器の設定はどうするん?
たぶん諸説あるのでしょうが、
現時点での自分のよくやる設定は以下のような具合です。
✅ FiO2:100%
✅ PEEP:0-5cmH2O
✅ 1回換気量:胸郭が上がること、または500-600ml/回
✅ 換気回数:8-10回/分
✅ トリガー:オフにできる人工呼吸器ならオフにしておく
オフにできない場合は、圧トリガーを20cmH₂Oに設定する
✅ 気道内圧上限アラーム:60cmH2O
ちなみに、ERCガイドライン2025もおおむね同様の設定を支持していました。
以下に推奨をまとめておきます。
✅ FiO2:100%
✅ PEEP:0-5cmH2O
✅ 1回換気量:予測体重あたり6-8ml/kgまたは胸郭の明らかな挙上が得られる程度
✅ 換気回数:10回/分
✅ 吸気時間:1-1.5秒
✅ トリガー:オフにする
✅ 気道内圧上限アラーム:60-70cmH2O

呼吸器設定、その心は?
PEEP
CPR中のPEEPが、ガス交換や死亡率にどのような影響を与えるかは臨床研究で評価されていません。
PEEPを上げると…
・肺胞過膨張や静脈還流障害により、右心からの拍出量が減るかもしれない
・低酸素性肺血管攣縮の改善や左室後負荷の軽減により、肺血管抵抗が下がる
→上記デメリットを相殺できる可能性がある
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24381094/
手動換気とPEEPをかけた人工呼吸器換気を比較した研究では、
PEEPを5cmH2Oに設定した人工呼吸器換気の方が換気状態が良好だったと報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37709164/
これらのことから、PEEPは5cmH2Oでかけておくのも妥当かもしれません。
1回換気量
CPR中の換気量は、これから増やしていく時代に突入するんじゃないかもとも感じています。
動物実験ですが、
1回換気量を7ml/kg → 10ml/kgに増やすことでROSCが増えるという報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31183772/
手動換気で小児用BVM(平均365ml/回)を使った場合、
成人用BVM(平均779ml/回)を使った場合と比較してROSC率が26%低下したという予想外の結果も出ています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10636314/
これまでは「入れすぎること=過換気」が注意されていましたが、
これからは「入っていないこと=低換気」を避ける方向性になるんでしょうかね。
換気回数
ここも今後は変わっていくところかもしれません。
ガイドラインでは、気管挿管後の非同期での換気を8-10回/分にするように推奨があるので、現状はそれを踏襲しています。
ただし、最近では、
換気回数を増やしても蘇生率に悪影響を及ぼさないのではないか
適切な換気量の増加は心拍出量を損なわないのではないか
という意見も出てきています。
ここも1回換気量と同様に、
低換気を避けるような方向性になるかも!?
トリガー
一般的に使用されている賢い人工呼吸器は、
患者側のトリガーをオフにすることができないかもしれません。
でも、救急外来とかで使われている粗末な(失礼!)移動用の呼吸器なら、
トリガーをオフにできることがあります。
それができない一般的な賢い人工呼吸器の場合には、
圧トリガーを20cmH2Oに設定しておくとよいでしょう。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28187154/
これにより胸骨圧迫の刺激による不適切な換気が入ることが少なくなります。
気道内圧上限アラーム
胸骨圧迫中に非同期での換気を行うと、
タイミングによっては気道内圧が上昇することがあります。
これにより降圧アラームが作動して一回換気量が不足する可能性が出てきます。
低換気を防ぐためにアラームが換気の妨げにならないように調整しておきます。
ちょっとした小ワザではありますが、
スタッフが足りないときなんかには重宝するので、
覚えておいて損はない手段かなと思っています。
なお、人工呼吸器を使用した換気が不十分であると判断した場合には手動換気に切り替えてください。
また、電気ショックを行う際には呼吸器を外さないで気管チューブに接続したままにしておき、酸素排気が胸郭側に向かないように配慮してください。